47話 綿あめとたこ焼きとキリュウ
東の街K地点。
普段は静かな通りが、今日は別世界のように賑わっていた。
色とりどりの提灯がずらりと並び、太鼓の音と客引きの声、焼き物の香ばしい匂いが空気に溶け込んでいる。
シェル「すげぇな。人が多すぎて目が回りそうだ」
フローナ「お祭りだもん!この街で一番大きなお祭りなんだって!」
シェルがふと、道の端にふわふわと揺れる白い塊を見つけて足を止めた。
シェル「ん?なあ、フローナ。あの空に浮かんでるやつ、何だ?」
街灯の光を浴びて、雲みたいに輝くそれを指差す。
フローナ「あー、あれ綿あめだよ」
シェル「わたあめ??」
フローナ「空に浮かぶ雲みたいなお菓子。砂糖を機械でふわふわにして作るの」
シェル「砂糖ってことは・・・食べ物だよな?」
フローナ「そーだよ」
その瞬間、シェルの表情がぱぁっと明るくなった。
子どものようにソワソワしている。
シェル「なーなー!俺、わたあめ食べてみたい!」
フローナ「私も食べたーい!」
二人はほぼ同時に声を上げて、揃ってレンの方を見る。
キラキラした目に見つめられて、レンは小さく肩をすくめた。
レン「はいはい、じゃあ綿あめを買ってから車に戻りましょうか」
シェル「やったー!!」
フローナ「レンさんありがとう!」
レン「やれやれ・・・」
そう言いながらも、はしゃぐ二人の背中を見て、レンの口元には小さな笑みが浮かんでいた。
♦︎数分後。
5人はそれぞれ大きな綿あめを手にしていた。
ふわふわとした白い綿あめは夜の灯りに照らされて、
まるで小さな雲を持ち歩いているようだった。
シェル「で、これ、どうやって食べんの?」
シェルは棒を持ったまま、綿あめと真剣ににらめっこしている。
そんなシェルにふふっと微笑むと・・・。
フローナ「直接口で食べてもいいけど、
私は口にベタベタ付くのやだから、指で少しずつ摘んで食べてるよ」
そう言って、フローナは人差し指と親指でふわっと綿あめを摘んで、口に運んだ。
フローナ「ん〜甘くて美味しいー!」
シェル「なるほどな・・・じゃあ俺は・・・パクッ」
シェルは何の迷いもなく、綿あめに直接かぶりついた。
一瞬で口の周りが砂糖まみれになる。
フローナ「ちょ、シェル!顔、すっごいことになってるよ!」
シェル「え、マジで?」
フローナは笑いながら自分の口元を指差した。
フローナ「ここ、ここ」
シェル「あ、ほんとだ、ベタベタになっちゃった」
フローナ「味はどう?」
シェル「ほんとに砂糖の味する」
フローナ「原料、砂糖だからねー」
♦︎
提灯の明かりを見上げながら、メリサは懐かしそうに微笑む。
メリサ「それにしても綿あめなんて久しぶりに食べたよ。昔、ローズと家を抜け出して食べたっけ」
フローナ「私もです。お祭りは何度も来たことはあったけど、綿あめ食べるのは子どもの頃以来だなぁ・・・懐かしい」
レン「俺も母と食べて以来なので、これで二度目ですね」
コキアは綿あめをペロりと舐めた。
コキア「甘い」
♦︎
皆がそれぞれ綿あめを味わっている中、シェルはふと周囲を見渡した。
提灯の光、屋台の湯気、笑い声。
そして、隣にいる仲間たち。
シェルが微笑む。
メリサ「隊長?どしたのさ?」
シェル「いや、俺さ・・・祭りに来たことなかったから」
皆の方を見て、照れくさそうに頬を掻く。
シェル「お前らとこうやって綿あめ一緒に食べられて、なんか、こういうのすげーいいなって思った。」
フローナ「シェル・・・」
フローナは一拍置いて、にっこり笑った。
フローナ「これからも祭りがあったら一緒に行こうね!」
シェル「ああ、いつか弟も連れて一緒に行きたいなぁ」
フローナ「きっと行けるよ!」
シェル「うん!」
フローナ(ああ、やっぱり私、シェルの笑顔好きだなぁ・・・。
シェルが笑うと、世界までキラキラするよ。)
レン「あれ、メリサさん、ひょっとして泣いてます?」
メリサ「何言ってんだい。目にゴミが入っただけさ」
そう言って、メリサは指で少し熱くなった目頭を押さえる。
コキア「メリサさん、ハンカチどーぞ」
メリサ「ありがと」
♦︎
そんな仲間たちを見て、レンが言った。
レン「この際、今日のお昼ご飯は屋台の料理にしましょうか」
メリサ「レン君、君も何気にお祭り楽しんでるね?」
レン「今日は楽をしようと思っただけですよ」
メリサ「またまたぁ♪」
フローナ「せっかくだし、屋台のご飯食べてこうよ!」
シェル「いいな!じゃあ焼きそばとお好み焼きと、たこ焼きと・・・」
ふと、シェルは屋台の人だかりの向こうに見覚えのある姿を見つけた。
シェル「あれ?あそこにいるのは・・・」
♦︎
キリュウ「たこ焼き、十人前頼む」
店主「あ、あいよ!」
シェル「おーい!!キリュウー!!!」
シェルは全力で腕をブンブン振りながら叫んだ。
勢いよく走ってきてキリュウの前で止まる。
キリュウ「ん?なんだ、お前か」
シェル「おお、俺だ!なーんだ、キリュウも祭りに来てたのか!」
キリュウ「俺は、たこ焼きを買いに来ただけだ」
メリサ「とか言って、キリュウ君もなんだかんだ祭り楽しんでるみたいじゃないかい」
メリサがたこ焼きの山を見て言う。
キリュウ「俺は別に」
シェル「なぁなぁ!キリュウも一緒に食べよーぜ!」
キリュウ「俺はいい」
フローナ「えー!キリュウ君も一緒に食べようよ!」
二人して両の手をぎゅっと握りながら言われ、キリュウの時が一瞬止まる。
キリュウ「・・・分かった」
即答。
メリサ「あれ、やけに素直じゃないか」
レン「フローナさんに言われると逆らえないんですよ、きっと」
メリサ「なるほど」
キリュウ「おい、勝手に納得するな」
シェル「まーまー!いいじゃん♪ てかキリュウ、ほんとたこ焼き好きなんだな。こんなに屋台あるのに全部たこ焼きとお好み焼きって・・・」
キリュウ「使える金は限られてる。だったら好きなもんの為に使った方がいいだろ」
シェル「キリュウ、いっつも金ないもんな」(悪気なし)
キリュウ「大きなお世話だ」
♦︎
メリサ「ねーねー、フローナちゃん」(ヒソヒソ)
フローナ「?何ですか?」(ヒソヒソ)
メリサ「キリュウ君って、一途そうだよね」(ヒソヒソ)
フローナ「それは、なんか分かるかもです」(ヒソヒソ)
たこ焼きの鉄板の前で、キリュウが少しだけ照れたようにそっぽを向いた。




