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46話 最後の会話


キリュウ「ここは・・・」


キリュウが薄く目を開くと、そこは

白い霧が一面に立ち込め、目の前にはどこまでも続く黒く静かな川、三途の川が流れている。

水面には波ひとつなく、まるで命そのものを映し取る鏡のようだった。


キリュウ「ああ、そうか」


キリュウは自分の胸に手を当てようとして、力が入らないことに気づく。

血の気はなく、身体の感覚が少しずつ薄れていく。


そのときだった。


川の向こう側に、一人の老婆の姿があった。

小さな背中、曲がった腰、白く長い髪。

懐かしく、温かく、そして忘れるはずのない人。


キリュウ「ミネ!? ・・・そうか、俺もう死ぬんだな」


掠れた声でそう呟いた瞬間、老婆はふっと優しく微笑んだ。


ミネ「何言ってんだい、キリュウ。

あんたには帰るべき場所があるだろう?」


そう言って、ミネはキリュウを真っ直ぐに見つめる。

その瞳には、叱るような厳しさと、包み込むような優しさが混ざっていた。


ミネ「あんたは、まだこっちに来るんじゃないよ」


キリュウ「俺の、帰る場所?」


キリュウはゆっくりと振り返る。

すると、霧の向こうに

シェル、レン、フローナ、メリサ、コキアの姿があった。


その光景を見た瞬間、キリュウの胸の奥に、熱いものが込み上げた。


キリュウ「ああ、そうだな。

俺、こんな半端なとこで死ねねーよな」


その声には、もう迷いはなかった。

死を受け入れかけた心に、生きる理由が戻っている。

そんなキリュウを見てミネが言う。


ミネ「キリュウ、大きくなったね。

私はもう行くけど今のあんたならもう大丈夫だね」


キリュウの肩が小さく震える。


キリュウ「ありがとう・・・母さん」


その一言に、ミネの目が見開かれ、次の瞬間、深い喜びで細められた。


ミネ「こんな年老いた私を“母さん”と呼んでくれるんだね。嬉しいねぇ。」


震える声を必死に抑えながら、ミネは微笑む。


ミネ「キリュウは、本当に優しくて、いい子だよ。

ありがとうね。」


ミネは、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


ミネ「キリュウ。振り返らずに行きな」


キリュウは一瞬ミネを見る。


キリュウ「ああ」


彼はもう一度前を向く。


キリュウ(また、ミネに助けられちまったな)


その想いを胸に刻みながら、キリュウの意識は再び現世へと引き戻されていった。



♦︎

目を覚ますと医務室の布団の中にいた。


キリュウ「ん・・・」

 

フローナ「あ!!」

シェル「キリュウ君が起きた!!」


キリュウ「どこだここは・・・」


言いかけて二人が突然泣き出した。


フローナ「うわぁん!良かったぁ・・・キリュウ君生きてたぁ!!」

シェル「いきなりぶっ倒れたからびっくりしたんだぞ!死んだかと思って心配しただろー!!」


ぼろぼろと二人の目から涙が溢れる。


キリュウ「朝からうるせぇ奴らだな・・・」


フローナ「だってだってー!!メリサさんに聞いたら酷い貧血だって言うし!矢だっていっぱい当たってたし!!」


シェル「キリュウ〜!!」


シェルが布団越しにキリュウにしがみつく。

シェル「良かった!本当に良かったぁ・・・」


キリュウ「はぁ・・・おい、あんたら、これ、どうにかならないのか?病み上がりで頭キンキンすんだけど」


廊下の向こうから歩いてきたメリサとレン、コキアに話しかける。

 

メリサ「って言われてもねぇ・・・」

レン「しばらくはそのままでしょう」

コキアがうんうん、と頷く。


キリュウ「ったく、ガキじゃあるまいし・・・起きた途端、騒がしいな。」


苦笑しつつも、別段、嫌ではないキリュウであった。



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