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44話 レンの嫉妬


夜の帳が下りた静かな場所。

焚き火の小さな炎が、揺らめきながら二人の顔を照らしていた。


レンはしばらく黙り込んだまま、炎を見つめていたが

やがて、意を決したように、ぽつりと口を開いた。


レン「ライバル、か・・・」


フローナ「ライバルがどうかしたんですか?」


背後からフローナの声が聞こえた。


レン「!フローナさん、いたんですね」


フローナ「あ、すみません、一人時間を邪魔してしまって・・・。私、部屋に・・・」


レン「いいえ、邪魔なんてとんでもない。

あの、フローナさん。」


フローナ「はい、何でしょうか?」


レン「少し、話を聞いてもらえますか?」


フローナ「はい!」


数秒思案した後、レンが切り出した。


レン「隊長がキリュウさんはライバルだと言っていました。キリュウさんも。」


フローナ「あぁ・・・確かに言ってましたね。」


レン「・・・本当は、俺がライバルになりたかったのかもしれません。」


フローナは一瞬、言葉の意味を飲み込めず、瞬きをする。

レンが弱音を吐くと思っていなかったのだ。


フローナ「そうなんですか?」


レン「はい」


レンは苦笑するように視線を落とした。


レン「ですが、半妖と人間では力の差は歴然です。

分かっているんです。仕方のないことだと、頭では理解しているはずなのに・・・。」


拳を、ぎゅっと握り締める。


レン「悔しくて、仕方がないんです」


フローナ「レンさん・・・」


レン「すみません。こんな話、するつもりじゃなかったんですが・・・」


フローナは静かに首を振った。


フローナ「いいんです。私で力になれることがあるのなら言ってください」


レンは少しだけ目を見開き、そして――小さく息を吐いた。


レン「不思議ですね。フローナさんと一緒にいると・・・弱さを打ち明けたくなる」


フローナは焚き火を見つめながら、静かに言った。


フローナ「私、いつも助けてもらってばかりで・・・全然、役に立ててないなって思ってました。

でも、レンさんが心の内を聞かせてくれたから・・・

自惚れかもしれないけど、ほんの少しだけ力になれた気がしています」


レンは、ゆっくりと顔を上げ、優しく微笑んだ。


レン「力になっていますよ。今も、今以外も。」


フローナ「良かったぁ!」


にぱっとフローナが笑う。


焚き火の音だけが、二人の間に静かに流れていた。





♦︎ 戦いの場


それからすぐだった。

レンの心に漬け込む敵が現れたのは・・・

敵の声は、甘く、静かに、レンの心に入り込んだ。


「欲しいだろう?」

レン「うるさい!」

「シェルのような力が」

レン「黙れ!!」

「彼と並ぶための、力が欲しいのだろう?」

レン「くそっ・・・」


レンの胸の奥で、押さえ込んでいた感情が爆発する。

抵抗の意思が弱まり、口調も段々と弱くなっていく。


レン(俺は・・・ライバルになりたい・・・)


その想いに付け込まれ、

レンの体は、敵の魔力によって乗っ取られた。


仲間の声が遠ざかっていく。


フローナ「レンさん!!」

メリサ「レン君!!」

コキア「レンさん・・・」


もう、誰の声も届かない場所へ・・・。


そんなレンの前に、大きな影が立ちはだかった。


レン「来たな"シェル"」

シェル「名前で呼ばれんのは久しぶりだな。」


出会った頃に呼んでいた名前。

今は悲痛な音で発せられていた。



♦︎

剣が交差する。

力が衝突する。

空気が揺れた。


しかし、乗っ取られていてなお、シェルの方が強かった。


最後の一撃。

シェルは剣を逆手に持つと柄の部分でみぞおちを突いた。

レンが意識を手放すと敵の支配が途切れた。

その隙にシェルが敵を倒したのだった。



♦︎ 戦いの後


崩れ落ちたレンの身体をシェルは抱き止めた。


呼吸は荒く、全身には無数の傷。

だが、シェルが致命傷を避けながら戦っていた為、

レンは生きていた。


シェル「レン」


耳元で、低く、はっきりと告げた。


シェル「お前は、俺のライバルだ」


レンは、かすかに身じろぎした。


シェル「レンがそれを認めなくても、

他の誰が何と言おうと・・・」


一瞬、言葉を切り、そして。


シェル「俺が。俺自身が、そう思ってる」


その言葉が、

深く、深く、

薄れゆくレンの意識の中に響き、胸の奥に届いた。


張り詰めていたものが、静かに解けていた。


そして、暴れた疲れと安堵に包まれ・・・。

レンは、そのまま静かに眠りについた。


シェルは、眠るレンを見下ろしながら、そっと呟いた。


シェル「暴れるだけ暴れて寝ちまうなんて世話が焼けるな。

ま、俺にいつも振り回されてる、その仕返しだと思っておくか。」

 

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