43話 シェルvsキリュウ
それは、突然来た。
シェルが力の制御を完全に失った時のことだった。
大地が震え、風が渦を巻く。
半妖の力が暴走し、理性の色を完全に失ったシェルは、獣のような唸り声を上げていた。
シェル「グルルル……!」
レン「隊長!!!」
フローナ「シェル!!戻って!!」
しかし、その声は届かない。
理性はすでに、暴走する力の奥底に沈められていた。
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キリュウ「ったく、何やってんだよバカ」
キリュウはゆっくりと一歩、前に出た。
その瞬間、
シェルが地を蹴り、キリュウへと一直線に飛びかかる。
キイィン!!!
鋭い金属音。
剣と剣がぶつかり、衝撃波が上空へ。灰色の雲を真っ二つに裂いた。
キリュウ「ぐぅ・・・」
(なんつー馬鹿力だ。)
吹き飛ばされながらも、すぐに着地。
キリュウ「おもしれぇ。いいぜ、俺も全力で行く!!」
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キリュウ(あの時、俺は確かに不調だった。
負けた言い訳にしたくなかったが・・・)
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二人の攻防は、完全に拮抗していた。
風と炎がぶつかり合い、大地が抉れ、木々がなぎ倒される。
理性を失ったシェルは、ただ破壊の衝動のまま剣を振るい続ける。
それをキリュウが全て受け止めている。
やがてシェルは一瞬だけ動きを止め、荒い息のまま、低く唸った。
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シェル「キリュウ。あの時全力じゃなかったろ?」
キリュウ「・・・」
シェル「俺たちが、本気でやり合ったらたぶん、互角だもん」
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フローナ「お願い」
震える声が、戦場に響いた。
フローナ「お願いキリュウ君!!
シェルを助けて!!」
必死に叫ぶフローナの瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
フローナ「正気に戻った時に仲間を自分が殺したなんて・・・そんなの、悲しすぎるよ!!」
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キリュウ「・・・」
一瞬だけ、キリュウの視線が揺れる。
キリュウ「ったく、自分が殺されそうになってんのに、
あいつの心配かよ・・・」
小さく、舌打ちをする。
キリュウ「全く、どいつもこいつも」
その時。
シェルが、再びキリュウへと飛びかかった。
キリュウ「・・・シェル」
低く、冷たい声が響く。
キリュウ「俺は、今機嫌が悪い。死んでも・・・恨むなよ」
シェル「グルルルッ!!」
完全に、半妖の力に支配された獣の目。
次の瞬間、
キリュウの体から落雷のような力が発せられる。
周辺の岩が砕け、閃光が走り、キリュウの髪が黄色くなった。
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そして。
荒れ狂っていた風が止み、
地に伏したシェルの体から、暴走した黒い力が静かに消えていく。
キリュウが暴走したシェルに勝ったのだ。
シェル「う・・・」
ゆっくりと、シェルの瞳に理性の色が戻った。
シェル「キリュウ・・・?」
完全に正気に戻ったシェルは、しばらく状況を理解できずにいたが
やがて、全てを思い出し、青ざめる。
その場に膝をつき、深く頭を下げた。
シェル「キリュウ、お前のおかげで仲間を死なせずに済んだ、ありがとう・・・」
キリュウ「頭なんか、下げなくていい。俺も、途中から私情挟んだしな」
シェル「え?」
キリュウは無言でフローナの前まで歩く。
そして、フローナの頭を、ペシ、ペシと軽く叩いた。
フローナ「え?
ちょ、ちょっとキリュウ君?なに・・・」
キリュウ「今度、泣かせたら許さねぇからな。」
フローナ「・・・っ!?///」
フローナの顔が一気に赤くなる。
シェルは一瞬目を見開き、全てを悟ると力を込めて返事をした。
シェル「ああ」




