36話 渦巻き注意報
森の中。
背の高い木々が空を覆い、風はほとんどなく妙にしんと静まり返った空気の中を五人は慎重に歩いていた。
メリサ「ねぇ、なんかおかしくないかい?」
先頭を歩いていたメリサが、足を止めて振り返る。
フローナはきょとんと首を傾げた。
フローナ「え??」
シェル「ああ。さっきから同じ景色を見てるな」
レンも周囲を見回し、手元の地図と照らし合わせて小さくため息をついた。
レン「ええ。どうやら俺達は迷子になってしまったようですね。この森に。」
メリサ「でも、変だね。ずっと地図通りに進んで来たのに。」
フローナ「迷子・・・」
不安そうに呟いたフローナに、シェルは軽く笑って言った。
シェル「ちょっと待っててくれ。俺、上から見てくるわ」
そう言うや否や、シェルは迷うことなく近くの大木に駆け寄り、幹の凸凹を踏み台にして・・・。
タッ、タッ、タッ!
と、一気にてっぺん近くまで駆け上がっていった。
レン「相変わらず、身軽ですねぇ」
メリサ「あのおっきな身体で、よくあんな動きできるよね」
フローナ「いいなぁ、私も登ってみたい・・・」
その頃、木の上では・・・。
シェルが枝に片足を掛け、片手で幹にしがみついたまま、ぐるりと森全体を見渡していた。
シェル「ん?」
その視界に、ありえない光景が映る。
木の上側のあちこちに、空間そのものが渦を巻いているような歪みが見える。
いくつもの半透明の渦巻きがくるくると回転し、
次の瞬間、パッと消える。
消えたと思った場所とは少しずれた位置に、また別の渦が現れる。そしてまたパッと消える。
それを繰り返していた。
レン「隊長ー、どうですかー?」
下からレンの声が響く。
シェル「うーん、なんて言えばいいかな」
少し考えたあと、シェルは大声で叫んだ。
シェル「なんかこう!クルクルっとして!パッ!って感じだ!!」
レン「隊長、ふざけてるんですか?」
シェル「いやいやいや!一ミリもふざけてないって!
マジでそのまんまなんだって!レンも登って見てみろよ!」
レン「猿じゃあるまいし、そんな簡単に登れるはずないでしょう」
シェルが片眉毛をひくつかなせがら言う。
シェル「それ、遠回しに俺のこと猿って言ってる?」
結局、レンはシェルに抱え上げられる形で木の上へ連れて行かれ、数十秒後、無言のまま太い枝の部分に降ろされた。
しばらくしてレンとシェルが木から降りてきた。
メリサ「レン君、どうだった?」
レン「・・・有り得ません。物理的に考えて、あんな現象が自然発生するはずが・・・」(ぶつぶつ)
シェル「な?クルクルっとして、パッ!ってしてただろ?」
レン「・・・ええ」
フローナ「レンさんまで・・・!」
シェル「とりあえずさ。みんなで一人ずつ見てみてくれよ」
メリサ「分かったよ」
数分後。
メリサ「うん。本当にクルクルしてパッとしてたね」
フローナ「確かにあれは他に表現のしようがないですね」
コキア「くるくる、ぱっ」
コキアは人差し指で、空中にくるくると渦巻きを描きながら、小さく呟いている。
シェル「だから言っただろ?クルクルっとして、パッだって」
レン「見てしまった以上、認めざるを得ませんね。」
フローナ「この世界にはまだまだ不思議なことが沢山あるんだなぁ・・・」




