34話 隊長のピンチ
ケシアの実の煙が渦を巻き、
シェルは片膝をついて荒く息をしていた。
普段なら誰よりも強靭な彼の身体が、見る間に弱っていく。
♦︎レンの決意
敵の足音が近づく。
レンは震える手で刀を構え、シェルの前に立った。
レン(くっ・・・死なせて・・・
死なせてなるものか・・・!」
その背中は細い。
だが、揺るがない。
敵「なぜそこまでしてその男を庇う?
己の命が惜しくはないのか?」
レン「隊長は・・・いつも俺たちを守ってくれました。
隊長のピンチに仲間が駆けつけるのは当然でしょう。」
敵「その男でも勝てなかった相手に、貴様ごときが勝てるはずがない・・・それでも俺に歯向かうか」
レン「勝てるかどうかじゃないんですよ。
・・・仮に隊長を見捨てて逃げ切れても俺たちはもう旅を続けられない。
笑って生きていけない。だから、逃げない」
その迷いのない言葉に、敵が眉をひそめた。
敵「なら望み通り・・・死ね!!」
敵の刃がレンに迫った、その瞬間。
♦︎息を吹き返すシェル
キィン!!
甲高い金属音が響く。
敵の刃は、シェルの刀で受け止められていた。
レン「た、隊長・・・!ダメです、早く逃げてください!」
シェルは苦しそうに肩を上下させながらも、笑った。
シェル「バカ野郎・・・。
お前ら置いて帰る場所なんかあるかよ。
お前らが・・・俺の帰る場所なんだ。」
レンの目が潤む。
♦︎フローナの庇い
敵「どうしたシェル、動きが鈍いなあ?」
シェル「ぐっ・・・」
敵「はは、もらった!!」
と敵がシェルに向かって刃を振り降ろした瞬間・・・。
フローナ「シェル!!」
彼に覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめた。
シェル「ば!!やめ・・・!!」
フローナは目をぎゅっとつむった。
ガキィィィィン!!!
あまりの衝撃に敵もフローナも固まった。
そこに立っていたのは・・・。
敵「なっ・・・!?」
バカな・・・この俺が殺気を感じなかった、だと?」
キリュウはチラッとフローナの足を見る。
血がたらりと垂れている。
(ちびすけは足怪我してんのか、場所を変えて戦うか。)
キリュウはフローナに短く言う。
キリュウ「ちびすけ、下がれ」
フローナ「ダ、ダメ! だってケシアの毒が!!」
キリュウ「俺にはケシアは効かねえ」
シェル「キリュウ、無理すんな・・・
お前だって完全に効かないわけじゃ・・・」
キリュウ「うるせえ!!仲間死なせたくねぇなら黙ってろ。
あとで解毒薬ぶっ込んどけば死なねぇよ」
シェル「・・・キリュウ、悪い」
フローナ「キリュウ君、戻ってきてね!」
キリュウ「おー」
ヒラッと軽く手を振り、敵へ向かった。
♦︎戦いの後
敵を倒し、地面に降り立った瞬間。
キリュウ「っ・・・く・・・
血が薄いとはいえケシアは効くな・・・」
足がふらつく。
仲間たちは急いで駆け寄った。
♦︎キャンピングカー
小さな医療室にキリュウを連れて来たメリサ。
メリサ「キリュウ君、こっち座りな」
キリュウ「?なんでだよ」
メリサ「いいから!」
ガシッ!!
肩を掴んで座らせる。
キリュウ「おい、いきなりなにす・・・」
その時、ブスッ!っと注射を刺される。
キリュウ「っ・・・てめぇ!!何しやが・・・」
メリサ「解毒薬だよ」
キリュウ「・・・」
フローナ「キリュウ君、痛くない?」
キリュウ「こんなん痛いうちに入んねェよ」
メリサ「それにしてもケシアの毒って半妖でも差があるんだねぇ」
キリュウ「あー・・・俺の祖父が半妖で血が薄いからな。」
メリサ「なるほど、そういうことかい」
フローナ「キリュウ君も無事で良かった。
助けてくれてありがとう。」
キリュウ「別に」
キリュウは照れたように顔をそらした。
その様子をメリサは見落とさなかった。
メリサ(ははーん、なるほどね)
♦︎夜
シェルとキリュウ
シェルは布団で横になっていた。
隣ではレンも静かに眠っている。
シェル「なぁキリュウ、なんで俺がピンチだって分かったんだ?」
キリュウは暗闇で少し黙ってから、ぼそりと呟く。
キリュウ「・・・お前のことならだいたい分かる」
シェル「?そっか。ありがとな」
にこっとキリュウに向けて笑うシェル。
寝たふりをしていたメリサとコキア、そしてレンは・・・。
『それもうほぼ告白では??』
と心の中で総ツッコミした。




