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31話 好きになったきっかけ


夕方の海は、静かに、穏やかに揺れていた。

陽のが波間に細い銀の道を描き、

潮風が肌を撫でるたび、焚き火の火の粉がぱちぱちと赤く舞う。


仲間たちがキャンピングカーに戻っていく中。

シェルは一人波打ち際に立っていた。

そのすぐ後ろからフローナが歩いてくる。

いつもと違う様子にフローナは気付いていた。


シェル「俺さ、殺したんだよね、両親を」


あの時、

シェルとチェル、それぞれの仲間たちは二人の再会に気を遣い、離れた場所で待機していたのだ。


フローナ「え?・・・」


シェル「俺のこと、嫌いになったか?怖くなったか?」


捨てられた子犬のような寂しそうな笑顔。

波音だけが聞こえてくる。


拒絶される覚悟はできていた。

それでも、心のどこかで恐れていた。


しかし、フローナは迷いなく首を振った。


フローナ「全然」


あまりにも軽く、

あまりにも当然のように。


シェル「え?」


思わず、間の抜けた声が出る。


フローナ「そうしなきゃいけない理由があったんでしょう?」


砂浜にしゃがみ、桜貝殻を手に取りながら穏やかに笑った。


フローナ「シェルのことだから殺されかけたとか・・・

もしくは、弟君を守るためとか」


その言葉に、シェルは心が解けた気がした。


シェル「はは、ほんとフローナは、

俺を否定しない女だよな」


ちょうどその時、落ちていく太陽が雲から顔を出し、

海面が一気に明るくなる。


フローナは、桜貝を持ったまま波打ち際まで歩み寄る。


フローナ「ねぇ、シェル」


シェル「ん?」


フローナ「後悔してるの?」


シェルは、しばらく黙ってから答えた。


シェル「いや。してないよ。

それに俺の手は、元々汚れてるからいいんだ」


その言葉には、強がりと、諦めと、

そして長年抱えてきた自己否定が滲んでいた。


次の瞬間、フローナがシェルにそっと一歩近づいた。


そして、シェルの右手を両手に取る。


フローナ「シェルの手は汚くなんかないよ」


まっすぐな瞳で、はっきりと言い切る。


フローナ「私たちを守ってくれる、

あったかくて、優しい手だもん」


優しい笑顔に

胸の奥にあった何かが壊れる音がした。


シェル「フローナありがとな」


それ以上、言葉が出なかった。


フローナは、ふわっと微笑むと、

何事もなかったかのようにキャンピングカーへと戻っていく。


その背中が見えなくなるのを確認してから火を消すと

シェルは、照れ隠しのように人差し指で頬を掻いた。




♦︎

シェル「フローナって不思議な奴だよな」


戻って来た後、メリサに話しかけた。


メリサ「どしたのさ」


シェル「誰より頼りなく見えるのにさ・・・

誰より頼りになるっていうか・・・」


メリサ「さっき、フローナちゃんに過去のこと話したのかい?」


シェル「ああ。

迷いなく受け入れてくれたよ」


メリサ「フローナちゃんは、

僕らの絶対的な味方でいてくれるからねぇ」


シェル「ああ」


シェルが肩をすくめ、困ったように微笑んだ。


メリサが、にやりと意味深に笑った。


メリサ「ふふ」


シェル「な、何だよ急に・・・」


メリサ「隊長、

顔に“ほーれた”って書いてあるよ」


シェル「なぬ!?!?///」


一気に顔が赤くなる。


メリサはケラケラと笑って廊下を歩き、医療部屋へ向かった。



♦︎夜

シェルがキャンピングカーの上で寝転がっていると

レンが登ってきた。


シェル「おーレン、珍しいな」

 

レン「たまにはと思いまして・・・どうぞ」


お茶をシェルに渡す。


シェル「さんきゅー」


シェルが起き上がり、お茶を飲む。


レン「さっきの聞こえてました」


シェル「ぶはっ、ゲホゲホ・・・」


レン「珍しく気配に気付いてなかったんですね。」


シェル「ま、まぁな・・・」

 

レン「隊長、最もらしい理由をつけてましたけど・・・」

 

シェル「な、なに・・・」


レン「本当はフローナさんのこと、

一目惚れだったんじゃないですか?」


シェル「ゴホッ、ゴホッ!!」


更にシェルがむせ返る。


レン「やはり」


シェル「一目惚れじゃない・・・」


レン「じゃあ、何です」


シェル「笑った顔が可愛いかったから」


レン「臭いセリフですね」


シェル「君が聞いたんでしょ・・・」


キャンピングカーの近くから波音だけが何事もなかったかのように静かに夜を包んでいた。

 

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