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21話 コキアと雪


フローナ「うわぁ!雪だ雪だー!!」


タイヤにチェーンが付けられたキャンピングカーの上に雪が降り積もる。

シェルが雪搔きをすると降りてきた。

普段は家事を一切しないシェルだが、

まき割りや重いものを運ぶ作業など・・・力仕事はシェル専門だ。


メリサ「お疲れ様」

レン「隊長、ありがとうございます」

シェル「いえいえー」


白い結晶が、ひらひらと空から降り始めた瞬間。

フローナは弾かれたように外へ飛び出した。

ぴょんぴょんと雪の上で跳ねている。


メリサ「フローナちゃーん、足元気を付けなよー」


メリサが傘を差しながら外へ出て声を掛ける。


フローナ「はーい!!」


レン「雪ってそんなに嬉しいものでしたっけ?」


シェル「あー、フローナの住んでた南の地は雪がほとんど降らねぇからな。珍しいんだろ。」


レン「そう言えばそうでしたね」


フローナは背を向けてしゃがむと何やら雪で作り始めた。

 

メリサ「フローナちゃん、何してんのさ?」


フローナ「え?何って、雪うさぎ作るんです✨」


レン「めちゃくちゃ目輝いてますね」


シェル「よっしゃ!じゃあ俺はデッカい雪だるまだな!」


レン「あれだけ雪触ってまだやる気ですか・・・」


シェル「準備運動、準備運動〜!」


レン「はー・・・相変わらず元気ですねぇ」

 

メリサ「二人ともー作るのはいいけど、ちゃんと手袋しとくれよー!」


フローナ「私はしてますよ!ほら!」


そう言って、手袋をはめた両手をパタパタと振る。


メリサ「ならいいけどさ」


シェル「え、俺もすんの?」


メリサ「隊長のことだから、指から血が出ても作り続けそうだからだよ」


レン「はい、あなたの手袋」


レンはシェルにポンっと手袋を渡した。


シェル「さんきゅー。へへ、じゃあ作ってくるわ!」


 

♦︎

メリサ「全く、あの二人が揃うと子どもみたいにはしゃぐんだから」


レン「ですが、ああやって無邪気に遊べるのは少し羨ましい気もしますね。」


メリサ「あはは。レン君も作ってきたら?」


レン「手袋がぐしゃぐしゃになるので遠慮します」


メリサ「それ分かるー!あれ、コキア君。起きてきたのかい?」


その時、静かに運転席のドアが開いた。

中にいたコキアが、外へと足を踏み出す。

サクッと心地いい音がする。


辺り一面銀世界だ。色素の薄いコキアは雪の世界に溶け込んでしまいそうなほど儚く見える。

 

コキア「雪」


メリサ「そう、降り始めたんだよ。

あ、ちなみに隊長とフローナちゃんは雪で遊んでる」


コキア「そうですか」


コキアは傘も差さずに二人の横をすり抜け、

一歩外へ出た。


空を見上げる。


白い雪が、音もなく、次々とコキアの髪に、肩に、静かに積もっていく。


メリサ「コキア君、じっとしてたら頭に雪積もっちゃうよ?せめて傘を・・・」


そう言って、傘を差し出そうとした、その瞬間。


コキア「スラ」


次の瞬間。


バタッ!!!


メリサ「え、ちょっと、コキア君!?」

レン「大丈夫ですか!?」


フローナ「コキア君どうしたの!?」

シェル「コキア!!」


皆が一斉に駆け寄る。

コキアは、静かに意識を失っていた。


 

♦︎和室


メリサ「一体、どうしちゃったんだろうね」


シェル「倒れる直前、何か変わった様子はなかったか?」


レン「ずっと空を見つめていました。

それと、倒れる直前に“スラ”という名前を口にしていました」


メリサ「それ、僕も聞いた」


シェル「スラ・・・コキアの軍隊時代の仲間だったな」


レン「ええ。戦いの中で命を落としたと・・・

確か、吹雪の中だったと言っていました」


シェル「なるほどな」


少し間を置いて、シェルが腕を組みながら静かに言う。


シェル「最近、コキアは感情が芽生え始めてる。

過去のトラウマが、フラッシュバックしたのかもしれないな。」


メリサ「それは、十分あり得るね。

今までは感情が無かったから、過去を思い出して苦しむこともなかった。

でも今、一気に“今まで感じなかった分”が押し寄せてきたとしたら・・・相当ツラいはずだよ」


シェル「念の為に、この冬の間はしば一人で雪に近づかせない方がいいな」


レン「そうですね。

本人に自覚がない以上、我々が止めなければ危険です」


メリサ「また倒れるかもしれないしね」


フローナ「コキア君、大丈夫かな・・・」


シェル「大丈夫だ。俺らが、付いてる」


フローナ「うん」


 


♦︎布団の上。


医務室のベッド。

コキアが目を覚まし、事情を説明する。


コキア「そうですか。僕、倒れたんですね」


メリサ「コキア君、痛いとことか、具合悪いところはないかい?」


コキア「特には」

 

フローナ「良かったー!コキア君、目が覚めて・・・」


コキア「心配をかけてすみませんでした」


フローナ「コキア君は何も悪くないよ!」


メリサ「そうそう。心配するのが仲間の役目だからさ」


コキア「ありがとうございます」


シェル「なぁ、コキア。

しばらくの間、雪を見るのは避けよう。

見るにしても、必ず俺たちの誰かが近くにいる時だけにしてくれるか?」


コキア「分かりました」


シェル「ありがとな」


そう言って、シェルはコキアの頭にそっと手を乗せた。


コキアは、僅かに驚いたように目を瞬かせ

そして、ほんの少しだけ嬉しそうに頬を緩めた。



 


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