あざを持った少年
街の人々の目は皆白かった。
そこで気づいた。僕は帽子を持ってくるのを忘れたことに。
全員白い目をしていた。白目とも少し違う、言い表しにくいとにかく白い目でほぼ全員が僕の方を見てくる。自分の作業に集中している人はこっちを見ていないが、いづれ僕に気づくとみんなと同じようにこっちを見てくるようになるだろう。
気味も悪いが、何より心底気分が悪かった。
僕は知っている。なぜ、みんなが白い目をしているのか。なぜ、こっちを見るのか。
それは帽子をかぶることで防ぐことができる。考え方を変えると、帽子がスイッチになっているようなものだ。帽子をかぶっていると、みんな普通に白目の中に黒目のある状態になり、みんなこっちを見ずに各々のことを手を止める事はないが、ひとたび帽子を脱ぐと、みんな手を止めてこっちを見る。そしてそのみんなの目はいつも白かった。
母だけは違った。家の中では帽子をかぶらなくても生活ができる。だから僕は外に出るのが嫌いだった。そして、外に出ることはほとんどなかった。母はそれを許した。
今僕は外に来ている。久しぶりの外だ。目的は腕時計を買うためだ。母のために。
僕は母のためにこっそり家を抜け出して近くの時計屋に行った。
僕の生活は引きこもり同然だが母に寄生しているとかそんな感じではないと印象付けたいからそう決断した。僕はただの引きこもりではない。母に感謝を伝えたいと思っている。
僕はちゃんと仕事をしている。もちろん家でだが。それも面接も家でできて顔も見せなくてもいいインターネット関係の仕事だ。
中間くらいの値段で、見た目もそこそこ良い腕時計を購入した。もちろん白い目の店員からだ。白い目の人間たちはうまく会話が成り立たないが何とか少ない会話で乗り切った。他人と話すのも久しぶりだった。インターネットの中以外で友人はいない。話すのは母とだけだ。
僕は小学校の入学の日、ちゃんと帽子をかぶって学校に行った。
みんな正常だった。みんな僕の存在にも気づいていないようなほどだった。しかしその日、隣の席の子が初めて話しかけてくれたのだ。
とてもいい子だった。とてもうれしかった。
しばらく話しているとほかの子も集まってきて数人で輪を描いて喋っていた。
何の話をしていたかは覚えていないが、さっきの隣の席の子が突然何の気なしに僕に話を向けてきた。
帽子をとってみてよ、と。僕は嫌だといったが、別の子にパッと取られてしまった。
とたんに、そこにいた子らの目はみんな白くなった。
なんの気持ちも籠っていない、深さもわからない冷酷な白い目だ。
先生や他の子たちも続けて白くなっていった。そして、こっちをじっと真顔で見つめていた。
楽しかった空気は一気に吹き飛び。全員の感情は消滅し、僕は絶望した。
隣の席の子は白い目のまま、何その模様、と聞いてきた。そしてまた別の子は何その髪、と聞いてきた。
僕は耐えられなくなって走って学校を抜け出した。帰ってきた僕を見て、母は初めて僕の前で泣いた。
僕はいたって普通な顔をしている。声やしゃべり方も変ではない。
しかし、そう、僕の髪は赤かった。おまけに額には模様のようなあざかしみがあった。
それは、この国では知らない人は絶対にいないある作品に登場する主人公と、あざの形も、髪の色も、完璧に一致していた。つまり、額から上はその主人公と全く一緒なのだ。
しかし、その主人公のようにかっこよくもなく、強くもなく、なんの能力も持っていない。
そんな自分が最悪だ。
みんなが僕を白い目で見るんだ、と母に話した。すると、母はそんなことは気にしなくてもいいのよと、言ってくれた。僕は目が恐ろしい程に真っ白になった人たちが気にならないわけがないと思っていたが、少しこの言葉に元気付られている。
僕が今日外に出れて、帽子なしで帰ってこれたのもこのおかげだ、もはや帽子なんかに甘えずに生きていく方がいいんじゃないかとも思った。
僕は何の能力も持っていない。
それでも母に腕時計をプレゼントすることができた。




