来訪者
アタシが産まれたこの世界には様々な神やそれに準ずる生物が居る。彼、又は彼女らはアタシ達一般人が知らないだけで遥か昔からこの世に居て、ごく一部の人たちはその神達を信仰したり接触したりしていたそうだ。そんな極一部にしか知られていなかった神達が何故、今になって一般人の私達にも知られているのか…。
それは今から約10年程前の話だった＿＿＿。
彼ら、彼女ら神の間にもグレードやカーストの様な物が有るらしく、その中でも上位に位置するらしいアウターゴッド、外なる神と呼ばれる、とある神が気まぐれを起こし堂々とこの地球にやって来たのが始まりだった。…本当に堂々と、それはもうちょっと散歩に出る感じでふらっと現れて宣言したのだ。
「宇宙に居るの何となく飽きちゃったし、暫くこの星で過ごすからよろしく！」
と、要約するとこんな感じに軽く言ってのけたのだ。軽く言ってはいるが、その神は見るも恐ろしい…、いや、おぞましい…。邪神の権化と呼べるような姿かたちであった。一応姿を変える事も出来るらしいが、そんな気遣いをこんな気まぐれを起こした神がしてくれる筈も無い。しかもその神がやって来た事をきっかけに、他の神やそれに準ずる神話生物と呼ばれる者達が次々と表の世界に姿を現したのだ。彼ら、彼女らにとってTPOとは「自分が居る時」「自分が居る場所」「自分が居る場合」と言う様に、飽くまで自分基準でしかない。そんな自分基準な神々が纏まって姿を現してしまえば、当然各国で大パニックが起こり、人々は発狂。最悪の場合可笑しくなり、狂い果てた末に死亡…。なんて事が続出した。10年たち、だいぶ慣れてきた今でも彼ら、彼女らの本性を目撃してしまったがために発狂してしまう者が後を絶たず、日々のニュースではどこそこで発狂者が、なんて話も続いている。軍事力に自信が有った大国なんかはエイリアンの撃退だといろいろな対策や武力行使を試みたようだが、ただの人間が神に対抗できる筈も無く、今ではほとんどの国が波風立てずに神が良い気まぐれを起こし宇宙に帰ってくれるのを願うようになっていた。
ただ、そんな中で…。
良くも悪くも順応性が高く、あらゆるモノを受け入れ自己流に解釈し、怖い物は祭っとけ精神で事なかれ主義な日本人は早々に彼ら、彼女らに馴染み、新たな日常を送っていた。勿論、ソレを受け入れるメンタルは個人差が有るので発狂する者や死者だって当然の様に居るのだが、世界規模で見ればその数値の低さは歴然だった。
中でも、今回真っ先に唐突な気まぐれを起こして地球にやって来たこの神。行動理由が「なんか面白そうだったから」と言う思考が大半を占めるニャルラトホテプと言う神が日本人のその愉快な気質を気に入り、日本に居ついて生活するようになったのも日本人が早々に慣れた理由の一つだろう…。ある意味で彼…、彼女にも成れるらしいが一応ここでは彼とするが、そのニャルラトホテプは暇神故に他の神よりフットワークが軽く、更に飛び抜けて気まぐれであるため、何が琴線に触れるかわかったものでは無い。そんな彼の前にサブカルチャーにおいて王道、邪道、横道、時には落とし穴迄用意して待ち構えるビックリ文化を突っ走る日本が出てしまえば気に入られるのは必然だったのだろう。しかもそのサブカル面に関して日本は更新が早く、飽きが来る前に味変が用意され、少しすればまた王道に手が伸び、また味変…。と言う様に、彼を飽きさせる暇が無かったため、それはもう大喜びで仮の住居に決めたそうだ。
更に、人の形になった方が何かと便利で楽しそうだとして普段の彼は人間の姿になり、人間に紛れて暮らしている。しかし、彼らの間でのカーストでニャルラトホテプがほぼほぼラスボス級な事も有り、他国を仮の住み家に選んだ神や眷属達がそこそこ頻繁に日本に訪れる様になったので彼の家の周辺は飛び切り図太い精神力を持った人間か、彼らの狂信者などの何処かネジの外れた人間位しか住むことが出来ない特殊な地域に成ってしまい、周囲の土地は軒並み地価や家賃が極端に安くなってしまっていた。
＿＿＿＿ちなみに…。
アタシが今住んでいるそこそこ大きなマンションは件のニャルラトホテプがお隣さんである。何でこんな所に住んでいるのか？風呂トイレ別にエアコン付き３ＬＤＫの家賃が水道だガスなんかの光熱費含めて一万五千円の格安だったから以外に何が有ると思ってんだ。
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