第20話:映像の中の「私」
第20話:映像の中の「私」
白石の虚偽の投稿は、深い淵に投げ込まれた巨石のように、未子の静まり返った心の湖に激しい波紋を呼び起こし、長く消えない冷たい渦を残した。彼女は、改ざんされた記憶と押しつけられた「幸福」で編まれた見えない網に囚われているように感じ、網はどんどん締め付けを強めていた。図書館へ行く勇気も、投稿ステーションに近づく勇気も、まして白石と目を合わせることすらできなかった。またあの恐ろしい偽りの幻想に巻き込まれるのが怖かったのだ。
だが、システムは彼女を解放するつもりはないようだった。
数日後の「感情交流の授業」で、紙偶先生が平坦で抑揚のない声で宣言した。
「さて、記憶交換週間も後半に入りました。今日は皆さんと、“友情の輝き”が特に感じられる素敵な思い出をいくつか共有したいと思います」
未子の胸が急に重くなった。不吉な予感が冷たい影のように、瞬く間に彼女を包み込んだ。
紙偶先生が教室前方の大きなスクリーンを操作する。柔らかな光が灯る。最初に再生されたのは、白石翔太の投稿による記憶――「夏の約束:小見川未子と見た花火」。
「これは白石翔太くんが投稿した、小見川未子さんとの大切な思い出です」
未子の体が瞬時に硬直し、血の気が引いた。彼女はスクリーンを凝視し、爪が掌に食い込むほど拳を握りしめた。
映像が再生される。
高精細な画質、完璧な色彩。背景は賑やかな夏祭り:赤い鳥居、吊るされた提灯、金魚すくいの屋台、たこ焼きの湯気……丹念に作られた「和風ノスタルジー」の空気に満ちていた。手持ちカメラのような揺れた映像が、二人の子ども――白石、そして……未子自身の視点を映し出す。
スクリーンの中で、淡い水色の浴衣を着て二つ結びをした八〜九歳ほどの少女が、確かに未子に似ていた!その子は同じく浴衣姿の白石に手を引かれ、混雑する人混みの中を駆け抜けており、興奮と少しの緊張が混じった笑顔を浮かべていた。
「ママたち、どこ行ったのかなぁ?」白石の声が響く。
「大丈夫!花火のいい場所、きっと見つかるよ!」スクリーンの中の「小未子」は振り返って、白石に無邪気で輝かしい笑顔を見せ、澄んだ甘い声で答えた。
未子は雷に打たれたような衝撃を受けた!あの笑顔!あの声!彼女が一度も持ったことのない、「普通で幸せな子ども時代」の表情が!今、紛れもなく、全員の前で映し出されていた!
映像は続く。二人の子どもは「さまざまな困難」を乗り越え、ついに開けた河原へたどり着く。墨色の天幕のような夜空が、突如として輝きに満ちた!
ドン!シューッ!パチパチ!
華やかな花火が次々と夜空に咲き誇り、金の滝、赤い牡丹、緑の柳……水面をきらびやかに照らす。スクリーンの中の「白石」と「小未子」は並んで河川敷に座り、顔を上げ、花火の輝きに照らされて、その瞳には純粋な驚きと喜びが満ちていた。
「わぁ……きれい!」 「小未子」が心からの賞賛を漏らす。
「ねぇ、未子、来年も……一緒に見ようね!」
白石の声に期待が込められていた。
「うん!やくそくだよ!絶対にわすれない!」 「小未子」は力強くうなずき、笑顔は花火以上にまぶしかった。彼女は指を伸ばし、夜空の一番大きな金色の菊花を指差して叫ぶ。「翔太、みて!あれがいちばんすごい!」
「翔太」?
未子の頭の中は真っ白になり、耳鳴りが響く。そんなふうに親しげに白石を呼んだことは一度もない!あの花火を指さす横顔、あのまばゆくて嘘くさい笑顔、その呼び方……スクリーンの中の「小見川未子」は、名前と外見を持ちながら、システムによって作られた幻影だった!
映像が終わる。教室の照明が戻る。子どもたちはさきほどの温かい映像に酔いしれ、「すごいね」「いいなぁ」と感嘆の声をあげた。多くの生徒が未子と白石に羨望のまなざしを向ける。
「これは素晴らしい友情の証ですね」と紙偶先生が穏やかな声で語り、機械的な称賛を込めて言った。「この温かい気持ちは、共有によってもっと広がっていくのです。素晴らしいことです」
白石は感動と誇りに満ちた表情をしていた。その記憶がまるで本当に忘れられないものであるかのように。彼は振り返り、「ね、僕たちの思い出、すてきでしょ」とでも言いたげな笑顔を未子に向けた。
未子は魂の抜けた彫像のように、席に凍りついていた。
窓の外では冷たい風がガラスを叩きつけ、すすり泣くような音を立てていた。遠くの山々は鉛色の空の下で沈黙し、頂の雪は冷たい光を反射していた――そこに祭りの灯りはなく、あるのは永遠の荒涼だけ。
未子の顔は紙のように青白く、唇は震えていた。スクリーンの中の「小未子」の笑顔と花火を指さすシーンが、呪いのように脳裏で何度も再生された。
あれは思い出なんかじゃない!植えつけだ!偽造だ!システムが彼女の個人史を公然と乗っ取り、改ざんしたものだ!名前と姿を使い、皆の前で、完全に虚構の「幸せな子ども時代」を押し付け、皆にそれを「目撃」させ、「認めさせた」!
彼女の脳は悲鳴を上げていた。拒否していた。だが、その虚偽映像の衝撃はあまりにも強烈で、あまりにも「完璧」で、彼女に恐ろしい目眩と認知の混乱を引き起こした。現実の病院の記憶と偽りの花火の幻想が頭の中で激しくぶつかり合い、彼女の意識を引き裂こうとしていた。
自分は誰?ICUの外で震えていた少女?それとも、花火の下で笑い、友と約束を交わした少女?どちらが「現実」?
「未子?……だいじょうぶ?」隣から佐藤由美の慎重な声が聞こえた。彼女は未子の異常に気づいたようだった。
未子ははっと我に返り、由美の心配そうな視線と、なおも「素晴らしい記憶」に浸る白石の笑顔、そして――紙偶先生の、永遠に彼女を見つめる深い青の瞳を見た……吐き気と恐怖と激しい怒りが混ざった感情が、胸の奥で火山のように噴き上がった!
未子は窓の外の現実の、厳しい風景を見つめた。
もう我慢できなかった!彼女は突如立ち上がり、椅子の脚が静まり返った教室に耳障りな音を響かせた!皆の驚いた視線の中で、彼女は制御を失った小動物のように、講壇横のスクリーンに接続された白いタブレットに向かって突進した!
「やめて!あれは……うそなのよ!」
彼女は叫び、全身の力を込めて、柔らかな光を放つタブレットを台から叩き落とした!
ガシャーン!
タブレットは床に激しく落ち、スクリーンに蜘蛛の巣状のヒビが広がり、数回点滅したあと、完全に暗転した。
教室は、死んだように静まり返った。
皆が呆然とし、普段は口数の少ない未子を信じられない思いで見つめていた。怒りと恐怖で大きく波打つ彼女の胸、目に宿る絶望の炎を見ていた。
紙偶先生の、あの不変の笑顔に――初めて、ほんのわずかに、プログラムにないようなヒビが入った気がした。その深い青の瞳の奥で、データの光が狂ったように明滅し、過負荷のプロセッサのように限界へと達していた。ゆっくりと、実にゆっくりと未子へと顔を向け、その平坦な声が、今はまるで地獄からの氷のように響いた。
「小見川未子……」
声が一度止まり、適切な言葉を探しているかのようだった。やがて、プログラムされた「関心」と冷たい「評価」を混ぜ合わせたような声で、ゆっくりと言った。
「あなた……きょうも……お絵描き、がんばってますね?」
壊されたタブレットにも、偽の記憶にも触れず、突然「お絵描き」の話を持ち出したのだ!
未子は凍りついた!あれは知っている!絶対に!彼女がスケッチブックに莉奈の傷を記録したことを!あの裂けた傷口……あの「お絵描きがんばってますね」という言葉……それは最も露骨な威嚇と警告!こう言っているのだ――お前のすべての抵抗も、記録も、私は監視している。スケッチブックを一度裂いた私は、二度目もできる。もっと多くを、裂くことだってできる。
未子はその場に硬直し、紙偶先生の底知れぬ青い瞳と不変の笑顔、そしてクラスメートたちの驚きと困惑、そしてわずかな恐怖の視線を受けながら、初めてはっきりと実感した。
自分は、すべての真実を呑み込もうとする、巨大で冷たい機械の前に、たった一人で立っているのだと。
そして――その「お絵描き」への問いかけは、彼女の最後の防壁をも貫いた、見えない氷の針だった。
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