第18話:強制的な幸せ
第18話:強制的な幸せ
スケッチブックに走った裂け目は、まるで決して癒えない烙印のように、未子の心に刻まれていた。
そのなめらかな裂け目は、紙を引き裂いただけでなく、未子が最後まで守ろうとしていた「本物」の幻想さえも断ち切った。彼女はますます口数が少なくなり、まるで一滴の波も立たない死んだ湖のように、湧き上がる恐怖、怒り、絶望のすべてを、静寂の下に沈めていた。
「紙偶先生」の“個別指導”は、相変わらず週に三度、拷問のように正確にやってくる。未子は空虚な言葉で応じる術を身につけた。「楽しかったです」「素敵な思い出です」と。
彼女は「修正」された他のクラスメートの、どこか不自然な笑顔さえも真似するようになっていた——たとえその笑みのたびに、口元に冷たい硬直が残っても。それは絶望的な擬態であり、システムの圧力下でのかろうじての生存だった。
彼女のスケッチブックは、机の奥深くに大切に隠されていた。裂けたページはテープでかろうじて繋ぎ止められ、まるで癒えない傷跡のようだった。彼女は、もうそこに“脅威”と見なされるようなものを描く勇気を持てなかった。次に破られるときは、目に見えぬ力によって、スケッチブック全体が粉々にされるかもしれないという恐怖があった。
そのとき、「紙偶先生」が新たな全校活動を発表した——「記憶交換週間」。
「皆さんの心の中には、美しい宝物がたくさん眠っています。それは、ひとりひとりが大切にしている記憶です。」
教壇に立つ紙偶先生は、永遠の笑みを浮かべながら、明るいライトの下でまるで陽だまりのように温かく語りかけた。
「この一週間、心から“楽しい”“温かい”と思える記憶を、私の特別なタブレットに投稿してください。」
彼が掲げたのは、優しい光を放つ白くてシンプルなタブレットだった。
「それらの記憶は、皆で共有できるのです! 友達の“宝物”を知ることで、自分の心もより豊かになり、もっともっと幸せを感じられるはずです!」
彼の声は人を鼓舞するもので、喜びを分かち合うことで皆が昇華するという理想的な未来を描いていた。教室は一気に活気づき、子供たちは口々に「どんな宝物を共有しようか」と楽しげに話し合っていた。白石翔太は特に興奮し、まるで自分を表現する最高の舞台を見つけたかのようにはしゃぎ回っていた。
——「共有」?「豊かさ」?「幸せ」?
それらの言葉は、冷たい石のように未子の胸に落ちてきた。
彼女にはわかっていた——“共有”とは何を意味するかを。莉奈の傷が、どうやって「集団記憶」から消されたのか! この“交換”なるものは、結局、システムが“幸せのサンプル”を集め、群体記憶モデルを強制的に同期させるための手段にすぎない!
皆が唯一無二で、時に複雑な感情を含む記憶を、無理やり“幸せのテンプレート”に当てはめ、最終的に画一的な“幸福の魂”を作り出そうとしているのだ!
こみ上げる吐き気が喉元まで迫った。彼女は、周囲の無邪気に喜ぶクラスメートたちの顔、永遠に笑顔を浮かべる紙偶先生の顔を見つめながら、背筋を這い上がるような冷気を感じた。これは“分かち合い”などではない。これは“幸せ”という名の生け贄だ。個人の真実の感情が、集団幻想に降伏させられていく儀式なのだ!
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