国立国会図書館・地下書庫
2024年3月21日 14:30
司書の田村は、震える手で古い資料箱を開けた。
「特別管理地域関連資料」のラベル。普通なら閲覧許可は下りない。だが、上司が奇妙な指示を出した。
「この資料を、必要とする者が現れたら渡せ。ただし、コピーは取るな。そして、渡したことは記録に残すな」
資料の中身は、想像を超えていた。
『根朽町事案最終報告書』(極秘)
昭和35年12月25日
概要: 昭和32年4月、根朽町(現在の地名は抹消)において実施された「Project Mind Bridge」は、当初の想定を大きく逸脱する結果となった。
実験内容:
電磁波を用いた意識転移技術の実証実験
被験体として野良猫30匹、志願者12名を使用
転移後の意識の安定性を観察
結果:
4月15日:最初の転移成功
4月16日:被験体に異常行動
4月17日:制御不能、実験中止
4月18日:隔離措置失敗、被験体が脱走
4月20日:町全体を封鎖
被害状況:
町民1,847名中、1,523名が行方不明
残り324名は記憶喪失
回収された猫:0匹
考察: 意識の転移は成功したが、「器」の問題を考慮していなかった。人間の意識を猫の脳に入れた場合、情報量の差により意識が断片化。逆に、猫の意識を人間に入れた場合、本能が理性を上書きする。
さらに深刻なのは、転移した意識が「感染性」を持つことだった。視線を合わせる、名前を呼ぶ、これだけで意識の一部が転写される。
対策: 焼却、薬殺、すべて無効。意識は肉体を超えて存在し続ける。唯一の対策は、「忘却」。記憶から消し去ること。
ゆえに、根朽町は地図から消された。
追記: ただし、完全な忘却は不可能と判明。関係者の子孫には、遺伝子レベルで「記憶」が刻まれている。彼らはいずれ「呼ばれる」。
その時が来たら、新たな収束作戦が必要となろう。
関係者リスト(一部):
研究主任:████博士(死亡)
観測員:篠田栄子(生存、記憶処理済み)
観測員:█████(行方不明) [以下、黒塗り]
田村は資料を箱に戻した。
誰が取りに来るのだろう。そして、なぜ上司は...
「田村さん」
振り返ると、若い女性が立っていた。目が、少し変だった。
「その資料、いただけますか?私の家族に関することなんです」
名札には「篠田」とあった。
【篠田栄子の日記】(祢古町資料館所蔵)
昭和32年4月20日
今日で観測任務は終了。
あの子たちの目が忘れられない。猫の体に閉じ込められた人間の意識。助けを求める視線。でも、どうすることもできなかった。
博士は言った。「これは必要な犠牲だ」と。
でも、あれは犠牲なんかじゃない。私たちが作り出した、地獄だ。
町は封鎖される。住民は「処理」される。記憶を消されるのだ。
私も、きっと忘れさせられる。この罪を、この光景を。
でも、忘れたくない。だから、書き残す。いつか、誰かが読むことを信じて。
もし、私の子孫がこれを読んでいるなら、伝えたい。
「呼ばれても、行ってはいけない」
「名前を教えてはいけない」
「猫の目を見てはいけない」
そして何より...
[ページが破られている]
【Discord】都市伝説研究サーバー #緊急連絡
2024年3月21日 20:45
管理人: @everyone 緊急事態です
YouTubeのアーカイブ研究会、音信不通 国会図書館の司書も消息不明 NHKの記者も
これ以上の調査は危険です サーバー、一時的に閉鎖します
研究員A: 待って、最後に共有したい情報が
管理人: 手短に
研究員A: 祢古町の場所、特定できました でも、座標を書こうとすると
研究員A: にゃにゃにゃにゃにゃ
管理人: 研究員A?
研究員B: 俺もだ 場所わかった瞬間、頭の中で声が
研究員B: 「おかえり」って
管理人: ログアウトしろ!今すぐ!
研究員A がサーバーから退出しました
研究員B がサーバーから退出しました
管理人: くそ...
このサーバーは削除されました