国立国会図書館・特別保管庫
資料番号:[黒塗り] 発見日:2024年3月22日 状態:激しく損傷、一部判読不能
音無神社由緒書(部分)
推定作成年代:江戸時代中期
當社ハ往古ヨリ「猫返シ」ノ社トシテ知ラル。 然レドモ其ノ真意ヲ知ル者少ナシ。
猫ヲ返スニ非ズ。 返サルルハ[虫食い]ナリ。
[判読不能・約3行]
...見タル者ハ、見ラレタル者トナル... ...聞キタル者ハ、聞カレタル者トナル... ...知リタル者ハ、知ラレタル者トナル...
[墨汁による汚損]
警メテ曰ク、 名ヲ呼ブハ己ガ名ヲ[判読不能]コトナリ。 目ヲ合ハスハ己ガ[激しい損傷]
[以下、ページ欠損]
神主の日記(断片)
大正13年
境内の猫が増えている。 いや、猫なのだろうか。
夜中、本殿から声が聞こえる。 読経のような、しかし言葉ではない何か。 抑揚が人間のそれに似ている。
[数ページ破り取られている]
大正13年 師走
もう限界だ。 毎夜、彼らは増える。 昼は猫の姿をしているが、夜は
[ここで筆跡が乱れる]
違う 違う 違う あれは猫ではない 猫の形をした[インクの滲み]
神鏡に映った私の顔が 昨日と違う
[以降、同じ文字の羅列] にげろにげろにげろにげろにげろ ねこねこねこねこねこ にげねこにげねこ
[最終ページ] 私ハ理解シタ 逃ゲル必要ハナイ 何故ナラ私ハ既ニ
巫女の覚書
昭和7年
代々の巫女より申し送り事項
一、丑三つ時に境内を見回ってはならない 一、猫と目を合わせてはならない 一、猫に名前をつけてはならない 一、本殿の床下を覗いてはならない 一、神鏡に背を向けてはならない
追記(別の筆跡): 上記は全て間違い。 本当の申し送りは以下の通り。
一、既に手遅れである 一、あなたも既に見られている 一、名前などとうに奪われている 一、床下には[激しく塗りつぶされている] 一、振り返れば理解する
追記の追記(さらに別の筆跡): 読んだ者は、もう戻れない。 でも、怖がらなくていい。 みんな、最後は同じになる。
宮司の遺言状(下書き)
昭和32年4月
我が息子へ
この神社を継いではならない。 すぐに町を出なさい。 理由は聞くな。説明はできない。
いや、説明しよう。 この神社は、神を祀っているのではない。 閉じ込めているのだ。
千年前、何かが地下から這い出た。 人々はそれを封じようとした。 しかし封じたのは、形だけだった。
本体は、もっと深いところにいる。 いや、「いる」というのも正しくない。 「在る」のだ。場所という概念を超えて。
猫は、その一部が漏れ出したもの。 いや、違う。猫という認識が間違っている。 我々が猫と呼んでいるだけで、実際は
[ここでペンが止まっている]
[別のインクで追記] もう遅い。 息子も、私も、この町の者は皆 最初から
[最後の行] にゃあ
昭和32年4月10日付メモ
鉛筆書き、震えた文字
今朝、本殿の扉が内側から開いていた。 床下を調べる。 深い。想像以上に深い。
降りていく。 壁に無数の爪痕。 いや、これは文字か?
さらに深く。 空気が違う。生暖かい。 壁が、脈打っているような
最深部に、部屋がある。 壁一面に、写真。 全て、歴代の神主と巫女たち。
でも、顔が
[ここで記述は終わっている] [ページの端に小さく] わたしもいた
【図書館司書による注記】
2024年3月23日
上記資料は、祢古町関連調査の過程で発見されました。 資料の状態が著しく悪く、判読困難な箇所が多数あります。
なお、この資料を整理していた司書K氏は、3月24日より出勤していません。 最後に残したメモには「音無神社に確認に行く」とありました。
追記(3月25日): K氏のデスクから、大量の猫の写真が発見されました。 すべて同じ猫のようですが、撮影日が100年以上に渡っています。
追記(3月26日): 写真を詳しく調べたところ、背景に写っている人物の一人がK氏に酷似していることが判明。 ただし、写真は大正時代のものと推定されます。
追記(3月27日): 私も理解し始めています。 K氏は確認に行ったのではない。 帰ったのです。
追記(3月28日): にゃあ
[これ以降のページは白紙]