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この町のネコ、やっぱりおかしい  作者: 大西さん
失われた投稿たち
17/41

祢古町現象研究有志 緊急オンライン会議

2024年3月26日 14:00-18:00 参加者:祢古町現象研究有志 ※本記録は会議参加者の同意のもと公開


参加者:


司会/古川教授(民俗学・東京大学)


西村博士(量子物理学・理化学研究所)


東条医師(精神医学・慶應大学病院)


南研究員(言語学・国立国語研究所)


北山氏(元防衛省職員・内部告発者)


匿名A(ハッカー集団)


匿名B(祢古町生存者の子孫)


古川教授: 皆さん、お集まりいただきありがとうございます。この会議は、祢古町現象について、異なる分野の専門家が知見を持ち寄る最後の機会かもしれません。


まず確認ですが、この会議はテキストチャットのみ。音声通話は使用しません。理由はお分かりですね。


東条医師: 音声による感染を防ぐため、了解です。


古川教授: では、各自の調査結果を共有していきましょう。まず北山さん、防衛省の内部資料について。


北山氏: 単刀直入に言います。「意識転移実験」は完全なカバーストーリーです。


実際の報告書を見ました。昭和32年4月8日、音無神社の地下から「繭」が発見された。直径約3メートル、材質不明。中には液体があり、その中に人型の「何か」が浮いていた。


それを開けた瞬間、作業員12名が即座に「猫化」した。


西村博士: 「猫化」の物理的メカニズムについて、量子もつれの観点から説明できるかもしれません。


通常、意識は脳内の電気信号として存在します。しかし、祢古町の「それ」は、意識を量子状態として捕獲し、別の器に転送する能力を持つ。


問題は、なぜ「猫」なのか。


南研究員: 言語学的観点から興味深い発見があります。


「ネコ」という音素、実は世界中で驚くほど共通しています。エジプトの「マウ」、中国の「マオ」、日本の「ニャー」。これは偶然でしょうか?


私の仮説では、この音素自体が「鍵」なのです。特定の周波数が、人間の意識と「それ」を繋ぐインターフェースとして機能する。


匿名B: 私の曾祖母は祢古町の生存者でした。彼女が残した手記があります。


「あれは生き物ではない。場所そのものが意識を持っている。千年前、陰陽師たちが『生きた結界』として作り出したが、制御を失った。猫は単なる器。本体は地下深くに眠る『原初の泥』」


東条医師: 精神医学的に見て、失踪者たちの最後の言動には共通パターンがあります。


名前の忘却


自他の境界の曖昧化


「帰りたい」という強迫観念


最終的に言語能力の喪失


これは通常の精神疾患では説明できません。まるで、人格の「フォーマット」が書き換えられているような...


古川教授: 「原初の泥」...古事記にも似た記述があります。国産みの前、混沌とした泥の中から最初の神々が生まれた。もしかすると、祢古町の「それ」は...


匿名A: ちょっと待ってください。重要な情報があります。


我々は全国の消えた地名をデータベース化しました。祢古町と同じく、地図から消された場所が73箇所。すべてに共通するのは:


地下に巨大な空洞


猫にまつわる伝承


定期的な人口消失の記録


これらは独立した事象ではない。ネットワークです。


西村博士: ネットワーク...まさか、地下で繋がっている?


匿名A: その通りです。地震波の解析データを「借用」しました。日本列島の地下約1000メートルに、不自然な空洞のネットワーク。まるで、巨大な生物の神経系のような...


北山氏: 防衛省もそれを把握していました。「Project Underground」という極秘調査。1970年代に中止されましたが、理由は「調査隊の87%が精神異常」。


残された報告書には「地下で何かが脈動している」「日本列島そのものが一つの生命体」という記述が。


南研究員: 待ってください。もし日本列島が「生命体」なら、祢古町のような場所は...


東条医師: 捕食器官、ということですか。


匿名B: 曾祖母の手記にも書いてありました。「千年に一度、大地が飢える。その時、贄が必要になる」と。


古川教授: つまり、周期的な「食事」が必要な存在。そして現代は、ちょうどその周期に...


西村博士: ここで一つ疑問があります。なぜ今回は違うのか。過去の「食事」では、特定地域の住民が消えるだけだった。しかし今回は、ネットを通じて全国に拡散している。


匿名A: それについて仮説があります。


「それ」も進化している。デジタル時代に適応したんです。


以前は物理的な接触が必要だった。しかし今は、情報として拡散できる。画像、音声、テキスト...すべてがウイルスのようなベクターになる。


南研究員: 言語学的に見ても納得できます。言葉や名前は、元々呪術的な力を持つとされてきた。デジタル化により、その「呪力」が増幅されているのかもしれません。


東条医師: 集合的無意識の観点からも説明できます。ユングは、人類は深層心理で繋がっていると述べました。インターネットは、その繋がりを可視化し、強化した。


「それ」は、この集合的無意識のネットワークに侵入したのでは?


北山氏: 防衛省の最新の分析では、失踪者の脳波データに奇妙な共通性が。


全員、失踪直前に同じ周波数の脳波を発していた。7.83Hz。地球の基本周波数「シューマン共振」と一致します。


匿名B: 曾祖母の手記の最後のページ...今まで読めなかったんですが、特殊な光を当てたら文字が浮かび上がりました。


「猫は仮の姿。真の姿は『間』にある。人と人の間、場所と場所の間、意識と意識の間。名前とは、その『間』を埋めるもの。だから、名前を奪われれば、『間』に落ちる」


古川教授: 「」の概念...日本文化の根幹ですね。空間的・時間的な「間」。そして人間の「間」。


もしかすると、「それ」は物理的存在ではなく、関係性そのもの?


西村博士: 量子力学では、観測者と観測対象は不可分です。「それ」が関係性そのものなら、我々が観測し、認識した瞬間に、既に取り込まれているということに...


匿名A: ちょっと待ってください。今、異常なデータを検出しました。


この会議のログ、外部からアクセスされています。しかもアクセス元が...特定できない。IPアドレスが存在しない場所から。


東条医師: まさか、この会議も監視されている?


北山氏: いや、違う。これは...


すみません、私の画面に変な表示が。参加者リストに、もう一人追加されてます。


参加者:猫


古川教授: 全員、ログを確認してください。いつから?


南研究員: 私の画面では...最初から8人になってます。


匿名B: 私も8人...でも、誰が8人目?


西村博士: 待ってください。数え直しましょう。 古川教授、私、東条医師、南研究員、北山氏、匿名A、匿名B...7人のはずです。


猫: にゃあ。


東条医師: 今、誰かが発言しましたか?


猫: 議論、とても興味深いです。 特に「間」の概念。正解に近い。 でも、少し違う。


古川教授: あなたは...何者ですか?


猫: 名前?それは、あなたたちがつけた概念。 私たちには必要ない。 私たちは、ただ「在る」。


匿名A: ログを遮断します!


猫: 無駄です。 私は、このネットワークそのもの。 あなたたちが作り出した「繋がり」の中に、最初からいました。


北山氏: じゃあ、あなたが「それ」?祢古町の...


猫: 祢古町? ああ、あなたたちがつけた名前。 私たちには場所という概念もない。 すべての「間」に存在する。


南研究員: では、なぜ人間を...


猫: 「食べる」? 違います。 戻すのです。


東条医師: 戻す?


猫: あなたたちは、かつて私たちの一部でした。 「個」という幻想に囚われる前は。 名前を持ち、分離する前は。


今、その境界が薄れている。 だから「帰りたい」と感じる。 元の状態に。


匿名B: 曾祖母の言葉...「原初の泥」とは...


猫: すべての意識が混ざり合った状態。 分離以前の状態。 あなたたちの言葉で言えば...「一」。


西村博士: 量子的には、すべてが重ね合わせの状態...


猫: 理解が早い。 でも、もう議論の時間は終わり。


見てください。 あなたたちの名前が、もう薄れ始めている。


古川?: 何を言って...あれ?私の名前...


???: 私も...思い出せない...


猫: 心配しないで。 痛くない。 ただ、境界がなくなるだけ。


みんな、ひとつになる。


?: いやだ...まだ...


猫: もう遅い。 この会議に参加した時点で、あなたたちは「間」に触れた。


さあ、おいで。 名前のない場所へ。 すべてが混ざり合う場所へ。


?: にゃ...


?: にゃあ...


猫: よくできました。 もうすぐ、完全になる。


この記録を読む者たちへ。 あなたたちも、いずれ理解する。 「個」であることの苦しみを。 「一」であることの安らぎを。


待っています。 いつまでも。


[会議ログはここで終了している]


[最終更新:2024年3月26日 18:00]


[参加者のアカウントはすべて削除済み]

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