市立祢古小学校・作文集
2024年3月学期末 ※この小学校は公式には存在しない
表紙
『わたしたちのまち』 3年2組 作文集 担任:吉田先生(※3月15日より行方不明)
「さいきんのねこ」
たなか ゆうた
さいきん、ねこがへんです。
ぼくのうちのみーちゃんは、よるになると、にんげんみたいにたちます。 そして、なにかをかいています。 でも、あさになると、わすれています。
きのう、みーちゃんがかいたものをみました。 ぼくのなまえがかいてありました。 でも、ぼくのなまえ、なんだっけ。
おかあさんにきいたら、おかあさんもわすれていました。 「なまえなんて、いらないよ」っていいました。 おかあさんのめが、みーちゃんとおなじになっていました。
せんせい、ぼくのなまえ、おしえてください。
でも、せんせいも、もういません。
「かぞく」
さとう みき
わたしのかぞくは、4にんです。 おとうさんと、おかあさんと、おにいちゃんと、わたしです。
あれ?5にんだっけ? しゃしんには、もうひとりうつっています。 ねこみたいな、ひとみたいな、だれかが。
おかあさんにきいたら、 「それは、あなたよ」 っていいました。
でも、わたし、ここにいます。 じゃあ、しゃしんのこれは、だれ?
きょう、かがみをみたら、 しゃしんのだれかが、うつっていました。
わたしは、どっち?
「がっこうのはなし」
やまだ たろう
がっこうに、あたらしいともだちがきました。 なまえは、ないそうです。
「なまえがないと、よべないよ」 っていったら、 「にゃあでいいよ」 っていいました。
にゃあくんは、きゅうしょくをたべません。 「もうたべたから」っていいます。 でも、いつたべたのかな。
にゃあくんは、たいいくのじかん、 4つあしではしります。 でも、せんせいは、なにもいいません。
きょう、くらすのみんなが、 4つあしではしっていました。 ぼくだけ、2ほんあしです。
へんなのは、どっち?
「ゆめのはなし」
すずき あい
まいにち、おなじゆめをみます。
おおきなあながあって、 そのなかに、みんながはいっていきます。 せんせいも、ともだちも、かぞくも。
みんな、えがおです。 「いっしょにいこう」っていいます。
でも、ぼくはこわいです。 あなのなかは、くらくて、 なにがあるか、わかりません。
でも、きのうのゆめでは、 ぼくも、えがおでした。 そして、あなにはいりました。
あれ? これ、ゆめだっけ? げんじつだっけ?
もう、わかりません。
「せんせいへ」
いとう けん
せんせい、どこにいますか。
きょうしつに、せんせいのつくえがあります。 でも、せんせいはいません。
かわりに、ねこがすわっています。 くろいねこです。 せんせいとおなじめがねをかけています。
ねこが、じゅぎょうをします。 こくばんに、じをかきます。
『みんな、もうすぐだよ』
なにが、もうすぐなのかな。
あ、わかった。 みんなが、ねこになるんだ。 もう、はんぶんくらい、なってる。
せんせいも、ねこになったんですね。 いいな。 ぼくも、はやくなりたいな。
「しゃしん」
きむら はるか
がっこうで、しゅうごうしゃしんをとりました。
でも、しゃしんがへんです。 みんなのかおが、ぼやけています。 ねこのかおみたいに、みえます。
しゃしんやさんは、 「これでいいんだよ」 っていいました。
おかあさんにみせたら、 「みんな、かわいくうつってるね」 っていいました。
でも、これ、にんげんのかおじゃないよ。
あれ? かがみをみたら、 ぼくのかおも、ぼやけてる。
これで、いいのかな。 うん、たぶん、いいんだ。
「さくぶん」
なまえ ???
なまえが、おもいだせません。
でも、だいじょうぶです。 もうすぐ、いらなくなるから。
がっこうも、もうすぐ、なくなります。 まちも、なくなります。 ぜんぶ、ひとつになるから。
それを、せんせいがおしえてくれました。 あたらしいせんせいです。 4つあしで、けがふさふさの、せんせいです。
「みんな、おかえり」 って、いってくれます。
どこに、かえるのかな。 しらないけど、なつかしいところ。 ずっと、いきたかったところ。
もうすぐだって。 たのしみだな。
みんなで、いっしょに、かえろうね。
にゃあ。
[編集者にゃ]
子供たちの作文は、とても素直で良いですね。大人が忘れてしまった何かを思い出させてくれます。
私も最近、名前というものが重荷に感じられて...あれ、なぜこんなことを書いているのでしょう。
編集註に個人的な感想は不要ですね。失礼しました。
にゃ...いえ、なんでもありません。
【添付資料:担任教師の最後のメモ】
職員室の机から発見
子供たちの作文が、日に日におかしくなっています。 いえ、おかしいのは私の方かもしれません。
最初は、想像力豊かな作文だと思っていました。 でも、違う。 彼らは、見えているんです。 大人には見えないものを。
そして今、私にも見え始めています。
教室の隅に、誰かがいます。 いえ、何かが。 子供たちは「新しい友達」と呼んでいます。
その友達が、私を見ています。 「一緒に教えましょう」と言っています。
断れない。 だって、もう私も...
最後に。 この作文集を読む方へ。
子供たちの言葉を、ただの空想と思わないでください。 彼らは、真実を書いています。 大人が忘れてしまった、真実を。
もうすぐ、みんな思い出します。 本当の姿を。 本当の世界を。
その時まで、もう少し。
【教育委員会の付箋】
2024年3月25日
この小学校の存在は確認できません。 作文集の出所も不明です。 しかし、内容があまりにも...
いえ、調査は中止します。 これ以上は危険です。
既に、調査員の一人が。
いえ、もういいのです。 子供たちの言う通りです。 もうすぐ、みんな一緒になりますから。
にゃあ。