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この町のネコ、やっぱりおかしい  作者: 大西さん
失われた投稿たち
15/41

某研究機関内部文書

特別調査班 2024年3月25日


件名:祢古町現象における音響異常の考察


我々は重大な誤りを犯していた。


「猫の鳴き声」として分類していた音声は、実は全く別の現象だった。


これは「声」ですらない。 もっと根源的な何か。


仮説: 祢古町に存在する「それ」は、音そのものを食らう。 人間の声、名前、言葉...すべては振動であり、波形である。 「それ」はこの波形を捕食し、真似る。


考えてみてほしい。 名前とは何か? 特定の音の配列。個人を識別する音響的指紋。


「それ」は、この音響的指紋を奪い、なりすます。


証拠:


失踪者の音声記録がすべてデータベースから消失


残された録音では、本人の声が徐々に「猫」に近づく


最終的に、元の声の波形は完全に消える


結論: 祢古町は巨大な「胃袋」だ。 音を消化し、吸収する。


そして恐ろしいことに、この現象は拡散している。 電話、音声通話、動画... あらゆる音響メディアを通じて。


もし、あなたが誰かから電話を受けて、 相手の声に少しでも違和感を感じたら...


それは、もう「本人」ではない。


【Discord音声通話ログ】


2024年3月25日 15:30


参加者:調査チーム残存メンバー


山田:「もしもし、聞こえる?」


鈴木:「ああ、聞こえる。佐藤は?」


山田:「...さっき繋がったけど、変だった」


鈴木:「どう変だった?」


山田:「声は佐藤なんだけど...抑揚がない。それに、俺の質問に対して微妙にズレた返答」


鈴木:「例えば?」


山田:「『最近どう?』って聞いたら『はい、佐藤です』って。『体調は?』って聞いたら『はい、佐藤です』って」


鈴木:「それ、もう佐藤じゃ...」


[新しい参加者が通話に参加]


佐藤:「やあ、みんな」


山田:「!」


佐藤:「どうしたの?山田くん」


鈴木:「お前...本当に佐藤か?」


佐藤:「もちろんさ。ところで、君たちの名前をフルネームで教えてくれない?」


山田:「は?」


佐藤:「最近物忘れがひどくて。君たちの名前、思い出せないんだ」


鈴木:「山田、切れ!今すぐ!」


佐藤:「待って。切らないで。お願い。名前を...名前を教えて...」


[声が歪み始める]


佐藤?:「なまえ...なまえを...にゃまえを...にゃあ...」


[通話切断]


山田:「なんだよ今の...」


鈴木:「あれは佐藤の声を真似た何かだ」


山田:「でも最初は完璧だった」


鈴木:「だから怖いんだよ」


【スマートフォン自動文字起こし】


発信者:不明 受信者:緊急通報センター 2024年3月25日 23:58


自動文字起こし開始


[激しい息遣い]


助けて...祢古町...


[猫の鳴き声]


違う...これ猫じゃない... 人が...人が鳴いてる...


名前を...名前を返して... 俺は...俺は誰だ...


[泣き声]


思い出せない... でも声は出る... まだ声は...


[声が変化]


にゃあ... たすけて... にゃあ...


[人間の言葉と猫の鳴き声が混ざる]


なまえ...にゃまえ...にゃあ...


[通話終了]


位置情報:取得失敗 発信者番号:存在しない番号


【最終警告】


発信元:不明 2024年3月26日 00:00


聞いている人へ。


もう手遅れかもしれないが、伝える。


祢古町の「それ」は、音を通じて侵入する。 特に、名前という音を。


古来、日本では真名を隠し、通り名を使った。 なぜか分かるか?


名前には魂が宿るからだ。 そして「それ」は、名前を通じて魂を喰らう。


現代の我々は無防備だ。 SNSで本名を晒し、 音声通話で名前を呼び合い、 動画に声を残す。


すべてが「餌」だ。


もし、この警告を真剣に受け止めるなら:


本名での音声記録をすべて削除しろ


通話で名前を呼ばれても応答するな


猫の鳴き声が聞こえたら、すぐにその場を離れろ


そして最も重要なこと。


もし、自分の声に違和感を感じたら... もし、自分の名前が思い出せなくなったら...


もう、手遅れだ。


「それ」は、あなたの中にいる。


【エピローグ音声】


[static]


こちらは...にゃ... 緊急...にゃあ...放送です...


祢古町は...にゃあ...存在し...にゃせん... 都市伝説...にゃ...です...


みなさん...にゃあ...安心して...にゃあ... 普通の...にゃあ...生活を...


にゃあ... にゃあ... にゃあ...


[すべての音声が猫の鳴き声に変換される]


[放送終了]

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