第4話『王都博覧祭、営業でぶち抜け!!』(中編)
前回のあらすじ
ギルド(商会)設立の認定をもらうため、黒田一行は
“”王都の商業ギルド主催「王都博覧祭」”へと参加する。
この博覧祭で名声をあげれば、晴れて黒田商会はギルド(会社)となる!
しかし彼らに課された商品は、なんと…
≪未討伐S級魔獣“破滅龍のかぎ爪”≫
しかも、討伐からという無理難題だった!
バトル要員ゼロの黒田パーティ、前代未聞の難題にどう挑むのか!?
その夜――。
黒田たちは王都郊外の山道を進んでいた。空にはうっすらと満月が浮かび、鬱蒼とした森に不気味な影を落としていた。
破滅龍の巣は、王都郊外の断崖にあった。
空すら濁す黒煙。岩を砕いた巨大な爪痕。
「ねぇ…本当に行くの…?…非戦闘職の私たちが……」
クレアがぼやくように呟いた。
やがて、一行は断崖の先にぽっかりと口を開けた巨大な洞窟に辿り着いた。
「ここか……“破滅龍”の巣」
洞窟の中からは、ゴゴゴゴ……と地鳴りのような音と共に、禍々しい瘴気が漂っていた。
「黒田よ、やはり無茶だ。これは正気の沙汰じゃ――」
だが、サムの言葉は最後まで続かない。
目の前に、巨大な影が――ぬう、と現れたのだ。
「でっっっっっっっっっっっっっっっっっか!!!」
ルミナが叫んだ。
その姿は、ビル三階分はあろうかという巨躯。
黒曜石のように光る鱗、片翼を失った背中、そして……見るからに凶悪な目。
「……あれが、破滅龍…ッ!」
クレアがごくりと唾を飲む。
「ガキの頃にやってたパ〇ドラにも似たようなやつ居たなぁ」
と抜かす黒田
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
巣が揺れる。
破滅龍の眼光が鋭くこちらを射抜く。
「……誰だ貴様。喰うぞ」
「ちょっと待ってくださいッ!!」
黒田が一歩前へと出る。
「……初めまして。黒田と申します。御尊顔を拝見できて光栄です」
涼しい顔で自己紹介をし手を差し出す黒田———
だが破滅龍は、興味も失せたように荒々しい冷酷な目を細めた。
「所詮人間如きが、腑抜けた真似を…ッ!!」
空気が震えた。次の瞬間、破滅龍の腕が唸りを上げて振り下ろされる――!
「黒田さんッ!!」
「黒田ッ!!!」
————ルミナとクレアの叫びが響いた。
衝撃音とともに、凄まじい勢いの土埃と煙が辺り一面に。誰もが息を呑んだ。すると、黒田の声が静かに聞こえた。
「……いやー、肋骨いったかも。けど、軽傷で済んだのは運がいい」
埃が晴れると、黒田は血を滲ませたスーツのまま、膝をつきつつも、笑っていた。
「こんなもんじゃ、折れませんよ。だって、営業マンですから」
破滅龍の双眸が細められる。しばしの沈黙のあと、その巨体が地響きとともに黒田に近づき、巨顔を近づける。
「…なぜ、そこまでして余と話をしようとする?」
黒田は深く息を吐き、笑みを消した。
黒田のスキル《セールス》が静かに発動する————
《……飽きたのだ。争いに。人間どもに裏切られるのも》
――戦いに飽いている。
――覇者ゆえに、誰にも理解されなかった。
「……あなたの“力”を、人の役に立てたいと思ったからです。戦うためではなく、“繋ぐため”に」
「繋ぐ…だと…?」
「そう。“あなたの歴戦のかぎ爪”を。
あなたの誇りを、王都で最も価値のある“最高級のシンボル”にしたいんです。あなたの“生き様”を知り、理解する者に“繋ぐ”どうでしょう。かっこいいじゃないですか!」
一瞬、破滅龍の瞳がわずかに揺れた。
———静寂が流れた。
やがて、龍の口角がかすかに上がる。
破滅龍は、ゴッ……と地面に顎をつけ、こう呟いた。
「……面白い。くれてやる。だが、最後に———」
*
こうして――“破滅龍のかぎ爪”は黒田商会の手に渡った。
だが、物語はまだ終わらない。
王都の商材博覧祭、開幕の鐘が鳴り響く……!