第16話『“龍鱗と涙”』
・第4話『王都博覧祭、営業でぶち抜け!!』
・番外編
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王都の中央に位置する、白い石造りの噴水広場。
春の陽射しが水面に反射して、きらきらと輝いている。人通りはまばらで、商人や旅人たちは広場の縁を通り抜けていくだけだった。
その中で、一人だけ、時間の流れから切り離されたように座り込んでいる者がいた。
長い白髪に、エルフ特有の尖った耳。商業ギルド職員の少女。
かつて『王都博覧祭』で黒田商会を案内した可愛らしいエルフの少女である。
以前と同じように、柔らかなローブを纏い、肩からギルドの紋章入りのカバンを下げてはいるが、彼女の顔からは生気が感じられなかった。瞳は虚ろで、まるで水底に沈んだ宝石のように曇っていた…。
黒田「…。」
* * *
「ふむ、心を病む…か…小さき者どもは実に脆いのう」
重厚な声が岩壁に反響する。
黒田の前で悠然と構えるのは、破滅龍。その鱗は闇のように鈍く、瞳は星のように煌めいていた。
だが最近は見る影もないほど邪悪な気配を消し、マスコットのような立ち振る舞いである—————
「“温泉旅行の土産”感謝するぞ黒田。中でもこの
『ギガントエミューの卵を使った温泉蒸しパン』……実に美味だ。」
お土産の蒸しパンを美味しそうに口に運ぶ中、思い出したかのように
「ところで———先刻の話にあったエルフの小娘、心に翳りがあるというのか?」
「———はい。風の噂で…最近は仕事も減らされ、噴水のそばでじっとしていることが多いらしいっすね…」
数拍の後、低く唸るように言った。
「して…黒田はなぜその話を余に。」
「…なんか見過ごせないっていうか。救えるうちに救いたいって…。思ったんすよ。なにかできることはないかと。」
黒田はエルフの少女に自分の過去を重ねていた————
「俺がまだ現世にいた頃。仕事で大きな失敗をしまして。それからは地獄の日々でした。会社の友人は、俺との関わりを断絶し、会社は俺を見捨てた。
誰も救いの手を差し伸べてくれなかった…。死にたいとさえ思ったんです…。あれは、“孤独”でした」
破滅龍は少し考えた後、顔を上げる
「――余の鱗、邪悪な力を纏い、時として生ある者の心を蝕む」
「————しかし時に、欠けて落ちる。中には、邪気を吸い込み澄んでいくものがある。幾星霜を経て透明に澄んだ鱗片。……これは逆に、心の毒を吸い上げる“清鱗石”と成り果てる。まさに治癒の力を持つ宝石のようなものだ」
「そんな奇跡が……!それなら…!」
「黒田の頼みとあらば、“特別に”渡してやってもいいが、条件がある————」
破滅龍が動き出す、すると———
ゴトゴトゴト…!
と洞窟が揺れ、物凄い音と共に岩壁が抉れ、崩れた
「破滅龍さん…ここもうやばくねぇか…!?もうあそこなんて崩れちゃってるじゃんか…!」
「むぅ…そうは言っても、余の巨体が寝転がる程の大きさの洞窟など…まぁ多少苦労をするが山肌を余の一撃で抉り取ればいいのだが…失敗すれば、山1つ消え失せ、地形が変わってしまうからな」
「ヒェッ…えぐいなおい…」
———すると、少し寂しげな表情を浮かべ洞窟から見える景色に目を移す
「しかし、余は……」
「?」
「————余はここが気に入っておるのだ。ここからは王都の灯りもよく
見える。それに、民が平和を謳歌している賑やかな喧騒が聴こえる…なかなか心地がいいものなのだ。」
いにしえの厄災を終わらせ、平和のため、人々のために戦った破滅龍
しかし“破滅の覇者”として人々から恐れられ、虐げられ、いつしか憎まれるように…
————そんな中、黒田という男に出会い少しずつ
人間への興味と、理解を深めていき
いつしか“孤独”をも躊躇うほどに…
「そう、ですか…あ、それで条件っていうのは?」
————
後編に続く…




