第11話『焼け野原のセールスマン』(後編)
新しく仮設された黒田商会の事務所は、木製の骨組みに布をかけただけの簡素な造りだが、灯りはある。ロウソクの火が揺れ、書類と手帳、地図と資料が並ぶ。
新たに『黒田商会・法務部』として加入したロンドは、
真剣な顔でその一つひとつを確認していた。
「まず、これが証拠資料。僕がグレーカンパニーにいたとき、内部でやり取りされていた書類の写しです。賄賂リスト、在庫の水増し、貴族との便宜契約──これを元に、違法取引を証明できます」
サムが目を細めて資料を見つめる。
「……この取引は、例の幹部連中か?」
「はい。特に“ロゼル”という男がキーマンです。彼は元々、貴族の中でも裏社会や金にまみれた悪徳貴族との繋がりが深く、今回の襲撃に関しても……」
「……は?」
黒田が身を乗り出した。
「まさか、あの襲撃にグレーカンパニーが関係してるってのか?」
ロンドはうなずいた。
「僕の知る限り、ファーガス卿との協業取引。黒田商会が勝ち取ったことで、ロゼルは会社からの信頼を大きく損ねた。そこで今回、
『黒田商会の広報部“ゴロ”君』の存在を利用し、襲撃計画を企てた…と」
サムが無言でペンを置いた。
「……外道め」
黒田は机をぐるりと回り、手を腰に当てて言った。
「それが本当なら、ただの商売じゃねえ。犯罪だ。街を焼いた連中と、俺たちは戦ってたってことかよ」
「……でも、法的に責めるには証拠が足りないんです。だから僕を使ってください。僕が、彼らの契約の抜け道を突き、証言を集め、法律の網を張ります。僕が組み立てる論理を、黒田さんが“伝えて”くれれば──きっと、勝てる」
静寂が落ちた。
外では鳥のさえずりが聞こえ始めていた。もうすぐ朝が来る。
その沈黙を破ったのは、クスリと笑った黒田の声だった。
「おいロンド、お前……意外とアツいな」
「え?」
「いや、いいね。ガキっぽくて、なのに賢くて、そんで一番“悔しがってる”。……それが、俺にはよく効く」
ロンドは顔を少し赤らめた。どこか子どもらしい、素朴な照れの表情だった。
「ふふ……こう見えて、僕、正義感は強いんです」
サムがふんと笑って立ち上がる。
「正義も悪も、数字の上では紙一重じゃが……この資料を見る限り、やつらは“極悪”じゃな。ええぞ、やってやろうじゃないか」
ロンドは真剣な表情で
「奴らは2週間後、王都の宮廷審問官から今回の襲撃事件に関しての公開聴取を受ける———つまり、そこが僕たちの—————」
“決戦の日だ”
————3人は強い決心を固め、拳を合わせた。
そして黒田は————
「その前に…」
サムとロンドはポカン?とする。
黒田「黒田商会みんなで“ロンドの歓迎会”をしよう!!」
サム・ロンド「えっ」
夜が明けた。
黒田商会に、新たな“参謀”が加わった朝だった。




