プロローグ「転職先は異世界!?サボり営業マン、雷で転生」
プロローグ:東京都内。蒸し暑い夏の日。
「ったくよぉ……いいご身分だよな黒田さん。あれで俺らと同じ給料だぜ」
「窓際社員のくせに、毎日のこのこ会社来て。恥ずかしくないのかなw」
「あの人、元営業課でトップだったらしいよw」
「いつ辞めんだろ、あの人」
社内に飛び交う陰口。
報告書の誤字脱字を鬼の首を取ったかのように指摘する上司の“指導”。
業績グラフの棒グラフだけが、俺を睨んでくる。
黒田真司、32歳、営業職。
いわゆる、社内ニートってやつだ。
「黒田くん、今日も“重要任務”かい? 空気の監視とかか?w」
上司の課長が皮肉混じりに笑う。周囲の社員も、軽く失笑を浮かべる。
「やってらんねぇ……」
重い気分を抱えて、黒田は会社を抜け出す。近所の公園に足を運び、
いつものベンチに寝そべるのがルーティン。視界には青空と鳩。
「なーんでこうなちまったかなぁ…」
-俺はガキの頃から、コミュニケーション能力が高かった。そのおかげか自分で言うのもなんだが、
いわゆる“世渡り上手”だった。友達も恋人も、夜の遊び相手は…ほどほどに…。
なんやかんやで、のらりくらりと今の会社に入った。
——思えばここが地獄の入り口だった
「いっそ雷でも落ちねぇかな……会社ごと爆はt……」
——ゴロゴロゴロ……
「……あっ、冗談だって、いや、マジで、やめ、やめr…!!」
ドガァアアアアアアアン!!
—————眩い光とともに、黒田の意識は暗転した。
目が覚めると、そこは草の匂いがする見知らぬ草原。
「ここ…どこだ? っていうか、俺……死んだ?」
(いやいやいやいや、どこだここ!? ってか、生きてる!?)
慌てて体を確認するも、無傷。
思考が追いつかぬまま、突然目の前にステータスウィンドウのようなものが表示される。
≪名前:クロダ・シンジ≫
≪種族:ヒューマン≫
≪スキル:セールス≫
「セールス!? は!? 剣とか、魔法とかじゃなくて!? なんで転生先でも営業なんだよッ!!」
現実味のない状況にあっけにとられていると…
ーグゥルルルル…!!
黒田の背後には、かつて黒田が上司にさえ感じたことのないほどの殺気を帯びた、
「巨大な牙を持つモンスター」がいた…。
“ヒュッ…”という情けなすぎる喉の音を鳴らし、
「うわあああああああああああッ!? 助けて誰かああああああ!!」
死に物狂いで逃げ、崖から転がり落ち、川に流され——
ー奇跡的にたどり着いたのは、小さな農村だった。
農村の村長が黒田を保護してくれた。
そこは「アースト村」という小さな集落。近年は天候不良や市場の不振で苦しいらしい。
「で、あんた……いったいどこから来たんだ…?」
(見慣れない黒田の服装をジロジロ見ながら)
「え、いや……雷に撃たれて気づいたらっていうか……」
村長は、ハッとした表情で
「もしや…異世界からの“転生者”様か…!?」
「へ?あ、まぁ…恐らく…」
黒田は驚きながらも答える
「そうか…やはりな。転生前はなにをしておったのだ?」
「セールス…つっても分かんねぇか…売り込み…みたいなのを少し…(窓際社員だったけどな)」
村長は表情を変え
「……じゃあ、ちょうどいい。助けてくれんか。うちの村で採れた野菜、売れ残って腐っちまうんじゃ。どうにかしてくれんかのぅ」
「いやぁ…無茶っすよそんなの…大体俺、異世界に来たばっかりだし…」
村長はすかさず
「寝床と飯は付ける」
「やります。早く行きましょう」
——黒田はちょろかった。