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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
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∫ 1-6.日本物理界の権威 && 衝突実験 = 違和感 dt

前書きは割愛させていただきます。

 

 レイが糸魚川教授の部屋を訪ねた。


 黒い半袖の襟付きTシャツで胸にさそり座の星々が瞬いていた。


 袖には小さく『唯一の』という文字と『服』という文字が描かれていて、その二つが衝突し、赤い四角いロゴが表示されていた。


 レイはドアの横に赤いラインで区切られた掌サイズの四角い枠にタッチした。


 うっすらと光っている赤いラインが強く発光した。


 そして、ドアの表面に『SOUND ONLY』と表示され、どこからともなく女性の声がした。


「どちら様でしょうか。」


「柊レイです。今日、訪問することになっているかと思います。」


 そう答えると、扉の赤いラインが緑色に変化し、ドアが音もなくスッと横にスライドした。


 レイの目の前に一人の女性が立っていた。


 受け付けが人であることにレイは少し戸惑った。


 女性のメガネがキラッと光った。


(網膜血管認証確認:柊レイ)


 彼女はBCDのアプリを通し、彼が『柊レイ』であることを認識した。


「柊レイ様ですね。うかがっております。どうぞ中へお入りください。」


「あっ、はい。」


 案内されるがまま部屋の中に入った。


 奥には磨りガラス状の壁があり、一角に古くさい手動のドアが設置されていた。


 女性がBCDを通して中にいるだろう教授と話している。


「柊レイ様が来られました。」


「ああ、中に通してくれ。」


 女性がレイをドアの方に案内し、中に入るように促した。


 レイは女性に頭を下げ、ドアをぎこちなくノックした。


「柊レイです。失礼します。」


 ドアを開け、中に入る。


「ああ、ようこそ。よく来てくれた。」


 机の前に糸魚川教授が歩いてきた。


 スマートな体型、パリッとしたYシャツを着てその上にジャケットを着ていた。


 鼻の下に整えられた髭を蓄えていて、白髪混じりの髪。


 どことなく科学者というよりは政治家に見える風貌であった。


「まあ、かけて。」


 糸魚川教授はレイを机の前にあるソファーに座るように促した。


 レイがソファーに腰かけた。


 ソファーが柔らかく、レイの腰が深く沈んで、レイは少し驚いた。


 レイが姿勢を戻した時、糸魚川教授がレイの向かい側に腰掛け、すぐに話を切り出した。


「ああ、何度かオンラインでは会ってるけど、実際に会うのは初めてだね。


 改めて、私は糸魚川泰明だ。よろしく。


 前も言ったかもしれんが、実は君をこの大学にスカウトしたのは私なんだよ。」


 そう言うと、糸魚川教授は立ち上がり、窓の方に歩いて、再びレイの方に向いて続けた。


「どうだい?この学校は。悪くないだろう?


 世界でも十指に入る大学だ。そして工科大学としてはMITについで二位。すぐにそれもひっくり返るだろう。


 一応、私はここの名誉教授をしている。


 そして、次にこの箱根外輪山に建設される高エネルギー粒子加速装置のプロジェクトリーダーも務めている。」


 糸魚川はソファーの方に歩いてきて再び座った。


「私が提案しているこの装置こそが、君の『レイ理論』から推測される繰り込まれた6次元の謎を解明できる唯一の可能性を持っている。


 君も提唱している4方向から粒子を衝突させる世界唯一の実験装置だよ。


 もちろん君にもこのプロジェクトに参加してもらえると思っているが、どうかな?」


 教授は少し前のめりになりながら若い才能に興味津々という感じであった。


 実はこの4方向から粒子を衝突させる方法は、柊レイの論文に記述している内容であった。


「これがぼくの研究テーマになるのでしょうか。」


「もちろんだとも。これは私の教授生命をかけたテーマでもある。ともに研究しようじゃないか。」


 しばらく沈黙が続いた。


「入ってくれるよね?」


 レイは少し考えた。もちろん興味はあった。しかし、何かひっかかる感覚が気になった。


 この理論の根幹となる数式を考えていた時は全てを忘れられるくらい夢中になった。その時だけは嫌な気持ちを忘れられることができた。


 だが、その時の夢中になる感覚とは少し違っていた。


 レイの心がこれでいいのかと言っていた。


 ただ、レイには他に何かやりたいことが見えているわけでもなかったため、何気なく承諾した。


「分かりました。参加します。」


 すると、即座に糸魚川教授が反応した。


「そうか。そうか。良かった。良かった。では、早速だが、ちょっとこれを見てほしいのだが。。。」


 糸魚川教授は掌を自分に向け、中に浮かぶアイコンの一つを指でつまみテーブルに置いた。


 テーブル一面に数式が表示される。


「なにか間違いがないかな?」


「あっ、この式。。。」


「君の理論から弦の状態を計算しているところなのだが。。。」


 レイはもしかして自分を試しているのかと勘ぐった。


 それもこの式はレイの書いた論文の詳細部分にすでに書いている内容であったからだ。


「この計算ですね。ぼくの論文の127ページ目の式86番に書いていると思います。


 少し式展開に間違いがあるようですが。。。」


 糸魚川教授の眉が一瞬ピクッと動いた。さらにレイが一言。


「もしかしてこれはテストかなにかでしょうか?」


 ふっと糸魚川教授が再び話し始める。


「あっ、そうなんだ。すまんな。試すようなことをして。


 やはり流石だな。心強いよ。」


 少し安心した表情をして糸魚川教授が続ける。


「実は来月、ジュネーブで新しい粒子加速実験に関する会議があってね。


 その時にこれらの式の説明と四粒子の必要性などを説く必要がある。


 これは君のテーマでもある。


 そこでこの式の展開内容を再認識するため、一度是非、君にこの式の展開をやってほしい。


 君の存在をみなに知らしめる良い機会だと思うのだがな。」


 レイは教授の言葉に何か拒んでしまうような感覚を覚えた。


 それでもレイは真摯に答えた。


「その会議での説明をぼくがやれば良いんですね。」


「いや、説明は私がしよう。君は横に座っていてくれれば、それで良い。


 だが、それまでに一度式展開を確認しておきたくてね。」


「なるほどです。来月、ジュネーブですか。。。」


「ああ、軌道旅客機に乗れば、3時間もかからない。その気になれば日帰りもできる。難しく考えないでくれ。一緒に行ってくれるね?」


 レイは先ほど感じた抵抗感をより強く感じた。


 が、レイをこの大学に編入させてくれた恩も感じていて、断る理由もなかったため、同意した。


「分かりました。」


「そうか、そうか。良かった。良かった。


 では、明日から日に一度私の研究室に来てくれ。時間はいつでも良いのでな。


 そうだ、そうだ。早速旅客機の予約を取らせよう。


 いやー、実に良かった。良かった。」


 レイの胸にはベテルギウスのないオリオン座が光っていた。


<次回予告>

粒子衝突実験のプロジェクトに加入した柊レイ。

だが、彼は心につっかえる何かを感じていた。

そんな状況のなか、彼は本格的に大学生活をスタートさせる。

それは彼にとって楽しくもあり、辛くもある現実だった。

次話サブタイトル「友達なら。。。」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

大学にはどうか分かりませんが、会社にもこういう功を横取りしようとする輩がいますよね。糸魚川教授はまさにそんな感じです。

容姿は実は私の恩師を想像して書きました。私の恩師は全くそんな感じではなく、とても良い方でした。それなのに使うなんて、知られたらめちゃくちゃ怒られそうです。(笑)

最後にベテルギウスがないって書いてますが、実際にはまだまだあと30万年くらいは爆発しないみたいですね。長生きしてベテルギウスの超新星爆発、見てみたいものです。

さて、本編ですが、教授との面談が終わり、再び授業に戻ります。そこで波多野との関係に進展が。。。

次回、「友達なら。。。」。乞うご期待!!


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