∫ 9-3.世界の理屈に飲み込まれる希望 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
ドローンのAIがミサイル発射処理を下した、まさにその瞬間だった。
ミライの運転スキルを学習し、唯一車のトランクに照準を合わせてミサイルを発射しようとしたドローンが突然爆発した。
発射されかけたミサイルもそのドローンと一緒に爆発した。
ミライは他ドローンの想定を越えた速度でコーナーを回っていく。
何台かのドローンからはミサイルが発射されるが、そのミサイルはミライの車ではなく、アスファルトを射抜いた。
ミサイルを発射した数台のドローンもミサイル発射後、すぐに爆発した。
急旋回する車体のGに耐えながら、小林が車外を見ていた。
ある一機のドローンが別のドローンに向けて次々にミサイルを放っていた。
「仲間割れ!?ドローンの一機が他のドローンを攻撃しています。」
車がコーナーリングから直線に移行した。
「レイ君がやってんの?」
ミライが尋ねる。
「はあーー、なんとか間に合った。ありがと。ミライさん!耐えてくれて!」
「やっぱり何かやってると思った。」
浜辺がそれを見て軽く頷いていた。
「なるほど〜。その手がありますね。」
金形は車で四人を追いかけていた。
途中、金形が二子山の曽我兄弟の墓手前にさしかかった時、木々の隙間から上の方で四人の乗っていると思われる車がドローンに攻撃されている様子が見えた。
慌てて、金形は再び毛利に電話をかけた。
「毛利さん、やっぱりS-1装備ですよ。彼らを殺す気ですか!?」
「ああ、今確認中だ。
ソニステでドローンからミサイルが発射されている映像が放送されてる。
ソニステってことはフェイクじゃない。
だが、こっちの表示には間違いなくC装備と出ているんだ。
何か操作されてるな。
お前はまず警察署に行け。そこからアバターで現場に行ってくれ。」
「そんなことしている余裕ないですよ。直接向かいます。
ところでプログラムは?」
「相手国に出した。それも確認中だ。
現場直行、了解した。だが、絶対無理はするなよ。」
「りょーかいーーー!」
金形も車を急旋回させ、二子山を登る道に入った。
グレイは上空からのカメラで状況を見ていた。
ドローン隊全滅のまさかの事態に驚きを隠せなかった。
「嘘だろ!?装備まで変えたのに。。。」
その時、後ろで局長が電子ペーパーで何かを見ながら、誰かと話をしていた。
「どういうことだ?それは。」
しばらく、ある男と話をした後、その電子ペーパーを持って、グレイに詰め寄った。
「これはどういうことだ!」
バサッとグレイの前に置かれた電子ペーパーにはグレイのプログラムが映し出されていた。
そのプログラムに書かれているパラメータの前の(gfr)にマークが付けられていた。
それを見たグレイは慌てて答えた。
「そっ、そっ、それは、あの、そう、私の作ったワクチンプログラムです。
誰です?そんなプログラム示したのは?」
「これはワクチンプログラムではなく、ウイルスのだと聞いているが!?」
「いっ、いえ。けっ、決して、そっ、そんなことは。。。」
そういうグレイを局長はBCDのセンサ越しに見ていた。
(Lie(嘘))
心拍数上昇、発汗などあからさまに嘘を付くときの症状が現れていた。
局長はBCDの結果を見るまでもなかった。
局長は怒りに任せてグレイを殴った。
「こんなことがバレでもしたら、この国の信頼が失墜する!!」
局長は倒れ込んだグレイを蔑むような目で見ながら言った。
「おまえの言葉を信用しよう。
我々はワクチンで世界を救ったのだ。
ウイルスを作った犯罪者を早く抹殺しろ!!」
「はい。必ずや。」
それを聞くか聞かずかで局長は再び電話をかけ始めた。
90度近い四つ目のコーナーを曲がると150メートルほどの直線にさしかかった。
車が直線を少し進んだ時、直線の向こう側からドローンの第二陣が飛んできていた。
「まだいるなんて聞いてない!」
慌てて、ミライが叫びながらジャックナイフターンを行った。
「つかまって!」
車が旋回しながら、タイヤからは煙が上がった。
どんどんドローンが迫ってくる。車体がようやく逆方向に加速し始めた時、ドローンはミサイルを撃つ射程に入ってきた。
レイは必死にドローンを操った。
BCDの画面に映るドローンのカメラ画像で、一番手前にいるドローンを捉えていた。
レイは一番手前にいるドローン目掛けてミサイルを撃った。
手前のドローンには命中したが、奥のドローンからレイの操るドローンに向けてミサイルが発射された。
「えっ?なんで?」
レイの操るドローンの画面には一瞬で飛んでくるミサイルの先端が拡大された。
次の瞬間、ドローンのカメラからの映像が消え、(No Signal)と表示された。
その表示と同時に加速する車の横にいた一機のドローンが爆発した。
相手のドローンには、すでに第一陣の結果からレイの操るドローンが敵対していることが情報として送られていたのだった。
加速する車を追ってくるドローン。
あっという間に追い付かれ、再びミサイルの標準を合わせられた。
ミライは何かブツブツと呪文のようなものを唱えていた。
そして、迷いなくミライは連続的に、だが不規則に蛇行運転を行いだした。
小林が心配して声をかける。
「やばい、やばい。また来た。。。って、夏目先生。。。大丈夫っですか?」
「小林さん、黙っててくださいっ!」
浜辺がそう言うと、何かをコーディングし始めた。
レイも再びドローンを乗っ取ろうとしていた。
すると、なぜかドローンがミサイルを打ってこなくなった。
「あれ?打ってこないです。。か。。。」
小林が不思議がった。
ドローンはそれぞれが微妙に左右に震えていた。
「ダメだ。さっきの侵入口、塞がれてしまってる。」
ネットワーク管理AIは先ほどレイが使った方法、弱点に対して、プログラムを変更していた。
脆弱性がカバーされてしまい、レイは乗っ取りができなくなっていた。
しばらく車が不思議な蛇行をしながら走り、ドローンがミサイルを打たず震えながら追いかけてくる。
ただその状況が続いたが、ターニングポイントが訪れる。
「ヤッバ!直線が終わる!」
「あー、もうちょっとだけ!あと3秒耐えてーーー。」
浜辺が叫びながらコマンドを打ち続けていた。
小林が数える。
「さぁーんー!」「にーーーいぃぃーー」「いーーつぃーーー!」
「ゼロ!!」
ミライはゼロの前に叫んだ。
「ごめん!カーブの準備に入るよ!!」
ミライの不思議な蛇行が終わった瞬間、ドローンの姿勢が安定した。
一斉にミサイル発射の準備をした。
その時、浜辺が叫ぶ。
「けいしちょーー!もらったーーー!!」
浜辺が実行ボタンを即座に押した。
浜辺の実行と同時にドローンから2発のミサイルが発射されたが、それ以降のドローンのミサイル発射命令は止まった。
そして、ドローンの電源が落ち、数秒後には全機墜落した。
ただ、発射されたミサイルは、ミライの運転する車の方に飛んできた。
一発はミライの運転する車に、もう一発は少し車の後方に飛んできた。
「きたーーー!」
小林が叫んだ。
地響きのような爆発音が鳴り響き、爆風で周囲の木々が揺れ動いた。
飛び散るガードレールや車の破片。
ゴムの焦げる匂い。
車めがけて飛んできたミサイルはほんのわずかだけ方向がずれ、左後輪に直撃していた。
もう一発は車の斜め後ろのガードレールを破壊していた。
左後輪に直撃したため、少し車体が浮き、車体後方がスライドする。
唯一接地していた右前輪のみを頼りにミライは右前輪の角度を進行方向に合わせ、アクセルを踏み、車体が地面に引き付けられるモーメントが発生するようにした。
そして、何とか制御を取り戻した後、ガードレールに対して車体の側面全面でぶつかるように右前輪の角度を調整した。
それはまるであの遊園地で見せたカート後方を滑らせ、相手のカートにそっとぶつける、あの技そのものであった。
ガードレールと車体の間で火花が散った。
車がガードレールを軽く外側に押し出した。
だが、完全に外側に折れ曲がることはなかった。
何とかその回避方法でミライはガードレールを突き破ることなく、車を止めることに成功した。
停車した車は左後輪側がなくなったため傾き、わずかに煙が上がっていた。
そこに、金形の車がやってきた。
金形は車を降り、ドローンの方に銃を構えた。
金形は地面に落ちているドローンを見て、不思議に思ったが、怖々ながらも小林の車にかけよった。
運転手側(右側)はガードレールに接触しているため、助手席側からまずは浜辺が、後方からはレイが出てきた。
その次にミライが出てきて、最後に小林が出てきた。
「君たち、大丈夫か?」
駆け寄ってくる金形。
「あいてててて。。。」
右腰の後ろを押さえながら出てくる小林。
浜辺は腰を押さえる小林を介抱しつつ、金形の方を見て言った。
「あっ、金形さん。さっきのはどういうことですか。
こっちは死ぬところだったんですよ。」
「すまない。なぜか分からないが、装備が捕捉用から撃退用になっていた。
今、あのプログラムを相手国に送って、調査してもらっている。
もうしばらくすれば、真実が明らかになるはずだ。
というか、あのドローンはなぜ落ちてる?」
「私が乗っ取って、動力カットしました。」
額にうっすら汗をにじませながらも小林が気になって聞いた。
「ところで、さっき直線でドローンはなぜ撃ってこなかったんです?
柊先生、浜辺さん、何かやりました?」
「いえ、ぼくは何もできませんでした。」
「私もそこはなにも。。。」
その答えをミライが言う。
「カオス性ローレンツ方程式の軌道よ。」
レイはピンと来た。
「あー、なるほど!さすがミライさん!!」
だが、他の人には全く理解できてなかった。
ミライはその様子を感じ取って、説明を付け加えた。
「要はカオス性の振る舞いをして、それを数値解析で求めようとした時に、無限精度が必要になるでしょ?
あいつらの精度が上がっていく様子が感じ取れたから、きっと力学の予測計算で射出位置決定をしているんじゃないかなと思ったの。
だから、解を出せなくすれば、たぶん照準決定が出来なくなるんじゃないかなって、一種の賭けね。」
「このカップル、やっぱりハンパないですね。。」
その話を聞いて浜辺は感嘆の声を上げた。
と、その時、小林が押さえる腰を浜辺も押さえていたが、その手に暖かさを感じて小林の腰を見た。
「えっ?小林さん、これ、血じゃ。。。」
「えっ?」
小林が腰に当てていた自分の手を見ると、血がベットリついていた。
ミライが、車内の小林が座っていたところを見ると、一部血で赤黒くなっている鋭利な物体がドアに突き刺さっているのが見えた。
「なんかの破片が飛んできたんだ。。。」
「小林さん、大丈夫です?」
「うん。意外と平気だよ。それほど痛くない。アドレナリン出てるからかな。」
金形は若干汗ばんでいる小林を見て、心配にはなったが、4人に提案した。
「怪我してるところ、悪いが、それでも、もっと遠くに逃げないと。
アンドロイド隊が追いかけてきているはずだ。
真実が分かるまで時間稼ぎを。」
浜辺が答える。
「それには及びません。アンドロイド隊もドロイド犬もこちらが掌握しています。
動力カットしました。」
「アバター部隊は?」
「えっ?そんなものもいるんです?」
「もちろんだ。今や人が現場に直接行くのはほぼ皆無だ。」
「それは、できてないですね。」
「そっか。お前たち、変電所に行くんだろ?
それなら、ここからはたぶん道路よりも山道の方が見つかりにくいと思う。
怪我人には大変だろうが、その方がきっと安全だ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
レイは小林に肩を貸し、4人はガードレールを越えて、山道に入っていった。
グレイは衛星カメラで4人が山道に入っていったのを見ていた。
「ふふふ。1人負傷したんですかね?というか、あの刑事は敵か。」
グレイが何かを打ち込んだ。
顔認証により、ある人物の情報が表示された。
(名前:金形幸一、日本警視庁捜査二課 警部補)
グレイはさらに何かを打ち込んだ。
「敵認識と。。。」
二つのジェットエンジンの付いた歩兵輸送機が二機、現場に向かって飛行していた。
その中の歩兵のバイザーに表示が出る。
(容疑者追加:金形幸一、日本警視庁捜査二課 警部補)
とある立派な建物の窓際に少し白髪交じりの老人が立っていた。
そして、誰かと話をしていた。
「あなたもご存じのはずだ。
彼らはこの国の新しい希望なんです。
それにあの証拠文書は、そちらの捜査部員が犯人であることを意味している可能性が高い。
我々もバカではないですよ。」
「月の第二工場。。。」
対話相手の言葉に老人が聞き耳を立てた。
「さらには火星の第一工場とその居住設備計画。
あなたの国の企業への開発委託。というのではいかがかな?」
「。。。」
老人は考えていた。
というよりは、もっと良い条件を引き出せるかもしれないと言う打算から、言葉を発しなかった。
だが、それ以上、相手は何も言わなかった。
「フォンブラウンですな。分かりました。
拘束という形であれば、そちらの介入を許可しましょう。
ことが終われば、こちらに引き渡すということで。
それであなたの国の信頼は確保できる。」
「一つ借りができましたな。」
「覚えていてくださいね。先ほどの話。もっとも記録は残ってますがね。」
「もちろんだとも。」
通話を切り、白髪の老人が窓の外を見た。
「本当に借りだと思ってんのかね。。。」
<次回予告>
ドローンの追手から何とか逃げ延びた4人。
山道に入るが、ドローンに続いて、アンドロイド部隊が4人を襲う。
世界の思惑に4人の持つ真実が書き消されようとしている。
攻撃の手は止むことなく、4人は次第に追い詰められていくのだった。
次話サブタイトル「差し迫る危機」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
実際に事件の水面下でこんな交渉がされているのかどうかは知りませんが、まあ結構ありそうですよね。月の第2工場の名前はあの有名なスペースノイド独立戦争のロボットアニメが元ネタです。
さて、本編ですが、主人公たちは山道に入り、二子山変電所を目指し、徒歩での移動を始めました。警察アバターロボットが、そして、ジェットエンジン付き歩兵輸送機が迫ってきています。この先、どうなるのでしょうか。
次回、「差し迫る危機」。乞うご期待!!




