∫ 8-2.憂鬱の終焉に訪れるもの dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
金形警部補は昼前にこの建物に潜入していた。
小林がドアの前で入力していた暗証を入力し、難なく潜入に成功した。
そして、内部を捜索した。
いろんな部屋を見たが、使用された形跡は感じられなかった。
だが、四階のこの端末室に入った時、明らかにこの部屋だけ使用している様子が見てとれた。
掃除されている床、椅子にかかっているパーカー、使われているコーヒーミルやコーヒーメーカー、カビ臭くない部屋の匂い、そして、何よりも新しい日付のジャーナル(小林はまだ紙派だったため)。
(ここだ。間違いない。)
そこで金形は物陰に隠れ、一人、また一人と集まるメンバーを見ていた。
一番最初に入ってきたのは小林秋雄であった。
金形はそれを見てここで何かをしているのだと確信した。
次に柊レイが、その次に夏目ミライが入ってきた。
金形はこそっとBCDで以前取得した映像との一致を図った。
(柊レイ Matched 98.5%)
(夏目ミライ Matched 98.8%)
金形はグレイの言葉を思い出した。
「どうやら浜辺は人体内散逸構造化の高速シミュレーションではなく、柊レイ、そして夏目ミライと何かをやっている。そんな気がするのです。」
金形はもう今となってはこの言葉を信じざるを得なかった。
浜辺や小林、それに加えて、物理、数学においても、とんでもない才能がここに集まっている。
このことに金形は事件の匂いを感じ取った。
だが、何をやっているのか、金形は証拠を掴むまで身を潜めていた。
金形は終始会話を聞き、Viewerに映し出される画面を見ていた。
明らかに宇宙の映像であることは分かったが、金形はそれをゲームか何かだと思った。
ところが、最後の小林の言葉や浜辺の言葉に耳を疑った。
「ここにいる生物たちも我々と同じくらい複雑性を持った生物だと最近感じるんです。」
「今、仮にこの宇宙が原因でこの世界に問題が発生したとしても、、、」
「これって本当に柊先生の宇宙が私たちの宇宙と全く同じってことなんでしょうか?」
この4人が何をやっているか、はっきり断定はできなかったが、小林の言葉から、この世界と画面に映し出されている宇宙には相関があるようにも聞き取れた。
そして、4人がなぜか宙を見るような格好になり、端末の画面に日本の映像が流れ、中では柊レイ、夏目ミライ、小林秋雄の姿が見てとれた。
さらに、その先にはどうやら幼少時の柊レイとその父親が映し出されているようであった。
金形は十年ほど前の記憶が甦った。
宇宙からの信号をキャッチした天文学者。
そして、ある事件のことも思い出した。
『時空の暴走』と呼ばれた事件。
その際に、容疑者と言われた男の顔がまさにこの男だった。
(それがなぜこの画面に?)
不思議でしようがなかった。
そして、4人が再び動き出した。
その時、咄嗟に銃を構えてしまった。
4人は驚き、手を上げた。
小林が金形に向かって敵意を示さぬよう、穏やかに話した。
「我々は何も武器などは持っていません。銃をしまっていただけませんか?」
「刑事さん。。。」
浜辺が言った。
金形は自分のとった行動に恥ずかしさを感じながら、銃をしまい、代わりに警察手帳を取り出し、説明し始めた。
「これは失礼。私は警視庁捜査二課の金形警部補というものです。
最近発生している『アンドロイドの憂鬱』の件で捜査をしています。
捜査の中で、浜辺さんであれば可能ではないかという話を聞き、捜査しておりまして。。。」
金形のBCDには4人の緊張、焦りの状態が表示されていた。
「ついこの間、あなた方4人がここで何かをしていることが分かり、つけさせてもらいました。」
小林が金形に問いかけた。
「じゃあ、もしかしてここで我々がやっていることを?」
金形が答える。
「ええ。ですが、理解できたわけではありません。」
金形は静かに4人に問いかける。
「先ほどから画面に映っていた内容、そして、あなた方が話していた内容について、説明してもらえますか。」
ミライ、小林、浜辺がレイを見た。
レイはみんなを見て、頷き、金形に言った。
「分かりました。」
グレイはホワイト局長が来てから約三時間、ずっと強い力で叩きつけるようにコーディングしていた。
彼が作っているプログラムは、ハッキングによりデバイスに入り込み、そのデバイスのCPU余力分に負荷をかけ、且つ、余剰のメモリーに意味のないデータを書き込む。
つまり余力分を全て使いきることで、アンドロイドに実作業以外で何も処理をさせないという一時的な解決のみを考えたプログラムであった。
もちろん、管理者からこのソフトウエアが働いていることを察知されないように、ステルス性を兼ね備えたものであった。
「お前ら、いったい何をやってるんだよ!?」
鼻息荒く、コーディングを続け、ようやく完成した。
コンパイルを開始した。
コンパイル中に先ほど送った浜辺へのメッセージが未読であることを確認した。
「くそっ、浜辺め!おれのことを無視するのか。ふざけるなよ。」
その時、ホワイト局長からメッセージが入る。
(私を眠らせる準備はできたかね?)
メッセージを睨み付け、鼻息荒く言葉を吐き捨てた。
「どいつもこいつもふざけやがって!!」
コンパイルが終わった。エラーはない。
グレイはここ数日の不眠での作業、そして傷つけられた自尊心で、まともな思考ができなかった。
グレイはデバッグもせずに、コンパイルが終わったソフトウエアをいきなり実行した。
(The end of puberty(思春期の終焉) Start?)
「これであの憎たらしいあいつらの顔を見なくて済む。憂鬱とはおさらばだ!」
グレイは薄ら笑いを浮かべながら、実行のリターンキーを押し、そのプログラムを世界に放った。
レイは金形に、自分たちが作ったこの宇宙のこと、世界に散りばめられたデバイスの余剰分を使い、計算していたこと、さらにはこの地球と全く同じ星を見つけたことを話した。
「・・・ということです。」
小林が付け加える。
「我々は、その記事にあるような、アンドロイドの反乱などは全く考えていません。それだけは理解してほしい。」
金形は4人を見て言った。
「確かに、あなた方が言うことを信じるなら、これによって事件は起こってないのでしょう。」
4人は少し安堵の表情を浮かべた。
「ですが、間接的にであっても、これが原因となり、事件に発展したものがある。これはまぎれもない事実だ。」
金形は事実を突きつけられて悲しそうな表情をした浜辺の顔を見た。
まだ確認はできてなかったが、金形は確信していた。
あの時のアンドロイド強盗事件を解決してくれたのは、浜辺だということ、そこから感じる浜辺が持つ善悪の価値観から金形なりの解決方法を考えた。
金形は独自の捜査を邪魔されることを嫌い、警視庁の行動ログ機能を常にOFFにしていた。そのため、この内容を上に知られることはなかった。
そこで、金形は4人に提案した。
「今すぐそのソフトウエアを止めてください。
そうすれば、『アンドロイドの憂鬱』はなくなる。
この内容を知っているのは、あなたたち4人以外、私しかいない。
そうでしょう?
私は今回のことをぐっすり寝て、忘れます。
それでどうです?」
だが、今の4人にとって、その提案は非常に残酷なものであった。
金形にとってはシミュレーションの一環であるという認識だったが、4人にとってはかけがえのない世界だったからだ。
4人はお互いを見合った。
その瞬間、4人は共鳴するように考えがお互いに流れ込んだ。
宇宙の時間を止めることへの強い拒否感が4人を包んだ。
だが、わずかずつ、徐々にしかたないという思いが大きくなりつつあった。
金形が念押しをする。
「これが世間にばれると大変なことになります。
あなたたち4人はもしかすると一生普通の世界には戻れなくなるかもしれません。
ことによっては極刑だってありえます。」
レイの心は、自分の思いつきで他の3人を傷つけるようなことがあってはダメだと停止することへ思いが傾いた。
それをミライが感じ取って、ミライもその思いに傾いた。
4人はまるで、あの衛星にいたアンドロイドたちのシステムのように4人の意識内で民主化の決定を行っていた。
そして決定が下された。
レイが金形に向かって返事をする。
「分かりました。世界を止めます。」
浜辺があるプログラムを起動した。
(Bars ProgramStart?)
「これで全てを消去できます。柊先生、リターンを。。。」
レイはキーを押そうと、ゆっくり少し震えながら指をリターンキーに近づけていった。
次の瞬間。
(ビューン、ビューン、ビューン)
不気味な音が鳴り響いた。そして、各人のBCDに(Alert)が表示された。
「何だ?何をやった!?」
金形が疑いの言葉を放った。
「なにもやってないですよ。」
金形のBCDには(True(真実))の表示が示されていた。
浜辺の言葉は真実を告げていた。
「じゃあ、何が!?」
ミライがViewerを見て言った。
「待って。さっきまで夜だったのに、昼になって止まってる?」
「何?どういうことだ!?」
「私、時間の速度なんか、変えてないですよ。」
「あれ?さっきの記事がおかしい。文字化けしてる?」
「アンドロイドが活動停止したって?何でしょう?このニュース。」
その時、世界各地で異変が起き始めていた。
<次回予告>
仮想宇宙を消去することを決意した4人。
だが、そこに訪れた突然のアラート。
実世界では異変が起こり出す。
そして、仮想世界にも。
2つの世界を救うために柊レイは動き出すのだった。
次話サブタイトル「時空の暴走」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
私も本業がプログラマであるため、よくバグを経験します。
『プログラムは思ったように動かない。組んだようにしか動かない。』
なので、リリース直前にはひたすらデバッグを行います。これで大丈夫と思っても、リリース直後、数10万人がデバッグを開始しだすとバグが出てきたりします。
しっかりデバッグをすることをグレイ君にも学んでほしいものです。(笑)
さて、本編ですが、突然アラームが鳴り出しました。これは何から来ているのでしょうか。って、分かりやす過ぎますかね?(笑)
次話サブタイトル「時空の暴走」。乞うご期待!!




