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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
55/66

∫ 7-5.見つけ出した答えともう一つの『奇跡の星』 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 レイとミライが戻ると、浜辺はプログラムを吸い上げていて、小林はまだ工場の中をカメラを移動させながら確認していた。


 小林は二人が戻ってきているのを見て、話し始めた。


「やはり、彼らは自分達で自分達を作ることができるみたいですね。」


「そうみたいですね。」


「あたしたちも工場でアンドロイドがどんどん生産されてるのを見たし、それは確実ね。


 それに彼らは自己修復機能もきっとある。壊れた壁がすごい勢いで元に戻るのを見たのよ。


 それに加えて自分達の部品まで。」


「うん。だから、彼らは小林さんの薬を使わずとも不老不死を手に入れてることになる。」


 浜辺もプログラムを吸い上げているプログレスバーを見ながら話した。


「それに、動きを見ていると、彼らの動きには無駄がないんです。


 まあ当たり前かもしれませんけど、お互いを認識してますね、きっと。


 通信でそれぞれが何をやっているのかを共有してるっぽい動きです。


 うーん。違うな。繋がっててむしろ全体で一個体のような感じ?」


 レイもそれに同意した。


「その通信によって、あの映像にあった、五つの意識に情報が集まるようになっているのかもしれませんね。


 全員が五つの意識を持つ一個体の目であり、手であり、足であるような。」


 ミライがその点に疑問を投げ掛けた。


「でも、それって結局、多様性がなくなるってことにならないのかな?


 確かに彼ら同士で争いは起きないと思うけど、五つの意識しかないってことじゃない?全部、統制されてるってこと?」


 小林は生物学的な知見を述べた。


「うーん。そこは難しいですね。多様性は不完全な個が生き残るための一種のテクニックです。


 もし彼らがありとあらゆる問題に対処できるのなら、多様性は必要ないかもしれません。」


「これを見れば、何か分かるかもしれませ、、、にょ。」


「にょ」と同時に浜辺が吸い上げたプログラムをレイのアカウントに送るため、送信ボタンを押した。


 それとほぼ同時にレイのBCDに着信のメッセージが入った。


「あっ、ありがとうございます。」


 レイは受け取ったプログラムを解析ソフトに投げ込んだ。


 アンドロイドプログラムの解析が始まった。


 見る見るうちにプログラムの処理内容が形となっていき、四人はその作り上げられる形を見ていた。


 そして、数分後全ての解析が完了した。


 レイはその形を見て驚いた。


「やっぱり彼らも孤独を感じてる。」


 ミライがレイの言葉を聞いて、その形を見た。


「うん。彼らの中にも重力と同じ構造が。。。」


 だが、レイが宇宙の形とは異なった部分を見つけた。


「でも、極端に『弱い力』の部分が小さい。。。」


 その言葉を聞いて、浜辺が横の端末で宇宙の法則を解析した形を表示する。


「ホントだ。でも『弱い力』って?」


「『弱い力』は核崩壊を司る力ですね。」


「お互いを拒む力のことですか?」


 小林が問いかけ、それにレイが答えた。


「生物の特性に置き直すならば、そういうことなんだと思います。


 同族であるが故に、近くにいるが故にお互いを拒んでしまう。」


 浜辺が違う特性も見つけた。


「あれ?『弱い力』の部分以外にもこ『電磁気力』部分も違いますね。


 アンドロイドの方がより濃いですよ。」


 ミライが気付き、言った。


「それってもしかしてお互い共鳴しあって、影響を及ぼしあうってこと?」


 ミライの言葉に小林が言った。


「つまり共感の力。さっき見た通信でお互いが繋がっているということ?なんでしょうか。」


「きっとそうですね。お互いの考えを共有し、意志疎通できる能力がそこに表されているんでしょうね。」


 レイは三人を見回した後、何かを大切なことを思い付いたかのように目を開き、言った。


「これって、ひょっとしたら、この形こそがぼくたちが探していた形?」


 レイが続けようとしたが、小林が少し落胆して、レイの言葉を遮って言う。


「もし彼らが理想の形だとするならば、人は、人類は彼らを作るために存在するということなんでしょうか。」


 小林の言葉を聞いた時、レイの頭の中で肯定の思考が走った。


(このようなアンドロイドを造るために人類が。。。そうかもしれない。ぼくらはそのために。。。)


 だが、どこからか、別の声が聞こえた。


(それでも。。。)


 ふと、レイは声のする方を見た。ミライもレイを見ていた。


(それでも、ぼく(あたし)たち人間にだって。。。)


 その瞬間、レイはミライの思考がレイの思考に入り込んでいることを再認識した。


 同時にミライはレイの思考がミライの思考に入り込んでいることを再認識していた。


 だが、すぐに二人は、その認識が間違っていることに気づいた。


『相手の思考が入り込んでいる』のではない。


 二人はこれまでお互いが見た生命の発展、絶滅の記憶がまるで自分が見たかのように共有されていること、お互いの記憶を自分の記憶のように感じていることを認識したからだった。


 そして、二人は小林の問いかけ、人間の存在意味を探す思考を同時に行っていることも感じ取った。


「ああっ。。」


 二人は声にならない声を漏らしていた。


 そして、その感覚がレイに、ミライに希望の思考をもたらし、レイ、ミライ二人が同時に答えを見つけ出した。


 二人はお互いの記憶を共有し、並列処理グリッドコンピューティングをしていたのだ。


 二人の思考はまるで一個体のそれのようであった。


 二人は普段とは比較にならないほどの処理能力の高さを明確に感じ取っていた。


 そして、その処理能力の高さで一つの答えを導き出したのだった。


(そうだ。ぼく(あたし)たちだって、心を共有させることができれば、こうやって本当の意味で繋がることができれば、きっと!!)


 そして、レイとミライははっきりと次の目標を見出した。


「そうだよ!それができるものを作ればいい!!あたしたちで。」


 不思議な感覚から戻ってきたミライは小林と浜辺を見た。


 小林と浜辺はまだ少し理解ができていなさそうな顔をしていた。


 ミライは再びレイを見て言った。


「そうでしょ?レイ君もそう思ったん、、、じゃないの?」


 レイも不思議な感覚から戻ってきていた。


 そして、ミライの言葉を聞いて、やはり自分が感じたことが偶然とかそういうものではないことをはっきりと感じ取っていた。


「うん。そう。ぼくもそう思った。というか、ミライさんが同じことを考えていることが分かった。


 いや。同じことを考えているんじゃない。同じ回路で計算していたような感覚?。。。なんだ?これ。」


 そして、レイはその感覚を口にして、辿り着いた一つの答えも再認識していた。


 不思議な発言と態度のレイ、ミライを小林が見ながら心配して言葉をかける。


「柊先生、夏目先生、大丈夫?です?」


 レイは小林を見て答えた。


「あっ、はい。大丈夫です。あの、、、二人?の考えというのはですね。


 小林さんがブレコンで視覚をデジタル化したのと同じように、ぼくたちで心全体をデジタル化するものを作れば、想いや考えを共有しあえるデバイスを作れば、ぼくたち人間も彼らみたいになれるんじゃないでしょうか。


 争いをせず、共感し、助け合える存在に。」


 レイは再びミライを見た。


 ミライは頷いた。


 だが、頷きながらも、その先の答えに到達した感覚があり、レイがそれを口にしていないことを不思議がっていた。


 小林はレイの言葉に感動を覚えた。


「確かに。まあ、簡単ではないですが、そうですね。人から争いの鎖を断ち切る唯一の方法かもしれません。」


 小林の言葉を聞き、浜辺が提案した。


「じゃあ、彼らが本当に理想的なのか、争いなく生き延びることができるのか。少し時間を速めて見てみませんか?」


 浜辺の提案にみんなが頷き、承諾した。


「そうですね。見てみましょう。」


「じゃあ、一秒十年くらいにしますね。いいですか?」


「はい。そうしましょう。」


 浜辺が一秒十年に設定した。


 衛星を中心にカメラ設定をしていたので、惑星が衛星の周りを非常に速い速度で回り、さらに恒星がその外をグルグル回り始めた。


 アンドロイドたちは一秒に一回(レイたちが創った宇宙では十年に一回)程度のペースで至る方向にノアの方舟を打ち上げていった。


 その打ち上げはずっと続き、二分ほど経過しても、まだなお続いていた。


 その間、惑星が少しずつ緑色に戻っていった。


 そして、五分ほどした後、アンドロイドはその惑星に再び生物たちを投入した。


 それと同時にアンドロイドは衛星上の基地を衛星の裏側に作り直したようであった。


 その後もずっとノアの方舟を打ち続け、十五分が経過した頃、小林が言った。


「そろそろいいんじゃないでしょうか。」


「そうですね。一万年くらい経過しましたもんね。」


 浜辺がそう言うと、レイもミライも頷き、浜辺は時間をこちらの速度と同じに戻した。


「じゃあ、見てみようよ。」


「うん。」


 レイの返事でみんながVRを立ち上げた。そして、その衛星に潜った。


 もちろんノアの方舟が常に飛んでいたので、アンドロイドがまだ活動をしていることは容易に想像ができた。


 衛星の裏側の建物に4人は入った。


 そこで見た映像は驚くべきものであった。


「えっ?これって。。。」


 4人の目の前で、人がノアの方舟に箱を運んでいたのだった。


「どういうこと?人が働いてる?」


 浜辺の言葉を聞きながら、少し遠くを見ていたミライが言った。


「あれ、見て。みんな、顔が全く同じなんだけど。」


「もしかしてこれってアンドロイドじゃ。」


 レイの言葉に浜辺が、作業している人(アンドロイド?)には見えない位置で、さっと手を出して、BCDのウインドウを開いた。


 先ほど作ったプログラムで作業している人を確認した。


「えっ?生命体でもあり、アンドロイドでもあります。」


 それを聞いて小林が納得した。


「たぶん彼らにも機械だけではどうしようもない困難があったんでしょう。それで生命体の獲得を。」


「ああ、鉄郎と同じように。。。」


「鉄郎って誰です?」


 浜辺はまた小林さんが全然理解してくれないと心の中で思った。


「あっ、いえ。なんでもないですぅ。」


 三人とも少しの間、頭に?を付けていたが、レイが言った。


「もしかすると、不老不死というのは進化、進歩にとって、不利に働くものなのかもしれませんね。


 古いものから新しいものへの遷移が何かをもたらす。


 今まで見てきた生命体がそうであったように、アンドロイドもそういったものを獲得したかったのかもしれません。


 もしくは生命への憧れのようなものかもしれません。


 体幹細胞のようなものは機械ではなかなか難しそうですし。」


「まっ、確かに。軽い原子の方が存在確率も多いし、獲得も容易だろうしね。


 生命を取り入れて、不老不死じゃなくなったとしても、きっとあたしたちよりは遥かに長寿でしょ?


 だって一緒に宇宙に飛び出していったわけだし、このひっろいひっろい宇宙を旅するんだから、寿命が少なくとも一万年くらいないとじゃない?」


「なるほど。確かに。」


 浜辺がミライの意見に納得した。


「小林さん、ここにも長寿の技術があるかもですよ。調べた方がいいんじゃないです?もっと儲けられますよ。」


 浜辺がニヤニヤしながら小林に言った。


「お金儲けのことなんか、考えてないですよ。失礼な。」


「ふふふ。」


 4人は少し笑いあった。


「まあ、これで、このアンドロイドは争いを起こさず、きっと発生してきた問題も解決しつつ、生き延びてきた。その事実は確認出来たってことね。」


 レイはミライの言葉を聞き、その世界の中で3人を見ながら言った。


「とうとうこの世界の答えの一つかもしれないもの、見つけた気がします。


 ぼくたちの目指すべき場所への第一歩を。」


「第一歩。。。」


 小林がレイの言葉に反応した。


 ミライはやはりレイもその先の答えに辿り着いていることを感じ取った。


「レイ君はその先のことも思ったんじゃないの?」


「うん。ミライさんと一緒にね。それがもたらすものは。。。」


 レイの言葉の続きをミライと一緒に言った。


「共感だけじゃない。」

「共感だけじゃない。」


 小林が二人の言葉を反復した。


「共感だけじゃない?」


「はい。きっと共感で争いを回避できるだけじゃない。


 ぼくたちはさっき何か情報が共有されるのを感じました。


 そして、それと同時に一緒に考えているような、えーと、つまりまるで脳が繋がっているような感覚になったんです。


 それによって一人一人で考える時よりも遥かに優れた答えを導き出せるような、何というか安心感のようなものを感じたんです。」


 レイが深く息を吐き、みんなを見回しながら続けた。


「すみません。うまく説明できなくて。


 第一歩と言ったのは、このプロジェクトをやってて、特にこの星を見て改めて感じたんです。


 人がこの宇宙の本当の謎を知るためには、まず第一歩が無尽蔵のエネルギーと、さっき言ったようなお互いの共感、自らの滅亡を回避する知恵の獲得なんだと。


 そして、きっとその先には孤独を知り、それをほどくための探求心。


 その探求心を叶えるだけの技術。それを作るための思考の連結。


 これなんだと思ったんです。


 赤子に素粒子物理が理解できないのと同じで、この宇宙の本当の意味を理解するには、ぼくたちはまだまだ未熟なのだと分かりました。


 ぼくたちの持つ技術も、心も。


 だからこそ、飽くなき挑戦を。何に対してでもいい、それを少しでも前に進ませることこそが、今のぼくたちの進むべき道なんだと。」


 みんなの中にもレイの言葉が浸透していった。


 それは幾度も星の誕生と終焉、生命の進化と絶滅を見てきて、4人の中の脳に変化が訪れたゆえの結果であった。


 それは脳の中にアンテナとなるシナプスの経路が作られ、4人の脳内プログラムが連結され、まるで並列化された大きなプログラムへと徐々に姿を変えつつあったからだった。


 レイとミライのそれは特に大きく変わりつつあった。


 4人はVRをログアウトした。


 浜辺が言った。


「じゃあ、第一歩の第一歩!心の共有化デバイス作らないとですね!」


 浜辺がそう言った時、小林のBCDに一つのニュースが入ってきた。


(過激派の一部が工場労働のアンドロイドを襲撃。)


「また、アンドロイド襲撃事件が起こったみたいです。我々のプロジェクトは直接的には関係ありませんが、何となく胸が痛みますね。」


 ミライは小林に突っ込んだ。


「あれ?小林さん、これを止めろって言わないの?」


「そりゃもちろん、そういう気持ちがないわけではないですよ。」


 小林はViewerに映る衛星を見ながら続けた。


「でも、ここにいる生物たちも我々と同じくらい複雑性を持った生物だと最近感じるんです。


 もちろん発明としての観点において、先ほどの柊先生の話じゃないですが、とても重要であることも認識してますし、それに、この生物たちに何かこう、責任のようなものも感じますし。」


 そして、レイを見て、少し笑いながら言った。


「今、仮にこの宇宙が原因でこの世界に問題が発生したとしても、僕はこれを止めろと言えるかどうか自信がなくなりました。」


 浜辺は小林の言葉に反応して、話し始めた。


「まあ、小林さんはいつまで経っても私を信用してないみたいですけど。。。」


 浜辺は小林を見ながら釘を刺した後、何かのコマンドを打ちながら続けた。


「このシステムで問題は起きません。その点は小林さんには同意しかねますけど、」


 浜辺はリターンを押す。するとぱっぱっぱっとViewerに惑星が次々と映し出される。


 みんな、不思議とそれが生命のいる惑星であることを感じ取っていた。


「ただ先ほどの柊先生の新技術に対するお話にはすこぶる感動しましたし、小林さんの言う生命への責任という点においても、私も同意です。


 この宇宙を創った技術、そしてそこに存在するたくさんの生命体に私も当初の想像とは全く違うものを今感じてます。」


 浜辺の言葉を聞き終え、みんな次々に映る惑星を見ていた。


 その時、レイは惑星の大陸にある見慣れた形状を見た。


 レイ以外には一瞬の出来事で把握できていなかったが、レイが慌てて言った。


「あっ!ちょっと止めてください!」


「えっ?何をです?」


「さっきの惑星。陸地の形が。。。」


 即座に浜辺は惑星の表示を止め、表示していた惑星のリストを出す。


「今、表示しているのがこれで、前に戻せば良いですか?」


「はい。お願いします。」


 浜辺が手で一つずつ惑星を戻していく。


 ミライがレイに聞く。


「どしたの?急に。」


 レイは見逃すまいと画面を見ながら答える。


「いや。何か大陸の形が。。。」


 その時、Viewerにある青い惑星が映し出された。


 その惑星には真っ青な海があり、そこに浮かんでいる大陸は紛れもなく、



 アメリカ大陸



 であった。


「これって。。。」



<次回予告>

アンドロイドのプログラムを通して

人類が破滅の道から抜け出す方法を見いだした4人。

そして、浜辺が写し出した生命の星に

アメリカ大陸に似た大陸を見つけた柊レイ。

その星は本当に地球なのか?

次回より8章「時空の暴走」突入!

次話サブタイトル「再び交わされる約束」。

次回もサービス、サービスぅ!!


<あとがき>

実は今話がこの小説のコンセプトとなる部分です。

人間はいつまでたっても戦争をやめようとしない。それを防ぐためにはエネルギー問題解決はもちろんのこと、いまある思想を遥かに凌駕する思想を作り出す必要があると思っています。

人類はCPUの集積化が進み、ある程度限界がきた時、GPUというものができ、グリッドコンピューティングによってそれまでのCPUを超えるものを産み出しました。そして、今や量子コンピュータが、わずかにですが、現実味を帯びはじめています。

人間の脳はどちらかというとアナログ的な、多値的な量子コンピュータに近いと思っていて、それらが連結されれば、素晴らしい発想が思い浮かぶのではないかと思ったのです。

もちろんそれで兵器なんか作ってしまった日には滅びるんでしょうけどね。(笑)

さて、本編ですが、とうとう4人はある星を見つけました。その星は本当に地球なんでしょうか。

次回より、8章「時空の暴走」突入。次話サブタイトル「再び交わされる約束」。乞うご期待!!


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