∫ 6-9.宇宙のカタチ:人のカタチ=重力:孤独 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
次の日、レイは昼からずっと秘密基地にいた。
解析プログラムのバグ取りをしていた。
珍しく小林と浜辺はまだ来ていなかった。
そこにミライがやってきた。
四人分のジュースとお菓子を持ってきていた。
周囲を見回して、二人だということを認識した。
テーブルにお菓子とジュースを置いた。
「おはよう」
ミライがレイに話しかけた。
だが、レイはバグ取りに必死で聞こえていなかった。
「おはよう」
もう一度ミライがあいさつをするもレイは気が付かなかった。
ミライはやれやれというジェスチャーをして、冷たいジュースをレイの頬に当ててみた。
「ひゃっぱちゅー!」
わけの分からない言葉とともにレイは椅子ごとひっくり返ってしまった。
ミライがあまりのレイの慌てぶりと転びぶりに逆に驚いた。
「ごめん。そこまでビックリすると思わなかった。ごめん。」
椅子を起こしながらレイはあいさつする。
「おはよう。ごめん。来てたんだね。気が付かなかった。」
「あいさつしても全然反応がなかったから。」
「あっ、ごめん。ちょっとバグの原因を。。。」
そう言いかけた時、レイはふと気がついて目を少し大きく見開いた。
「あっ、分かった。あそこだ。」
「えっ?なんのこと?」
「あっ、バグの原因が分かった気がしたから。」
そう言いながら、レイはプログラムを修正した。そして、コンパイルを実施した。
コンパイルが終わり、レイは再びプログラムを実行した。
様々な関数の中から階層別、目的別、処理内容別に区分され、処理のシーケンスに沿って連結され、ビジュアライズされていった。
その様子を見てレイはミライに感謝の言葉を伝えた。
「成功したみたいだ。ありがとう!」
「えっ?あたし、何もしてないけど。」
「いや。さっきのジュースの衝撃で。」
「ええ、そんなこと?」
「いや、刺激って大事なことだよ。」
「そっか。お役に立てたなら幸いです。」
お互い、ふふっと笑った。
レイとミライが何気ない会話をしている間に関数群は形を見せ始めていた。
ミライがその関数群の形を見ながら何かに気がついた。
「あれ?これ、どっかで見たような。。。」
そこに小林と浜辺が言い合いをしながら、入ってきた。
「やっぱりまだ信用してないじゃないですかぁ!」
「そんなことないよ。ちょっと心配なだけで。」
「心配よりも信頼してくださいよ、全くぅ。」
浜辺がレイに近づいてきて言った。
「柊先生、ちょっと聞いてくださいよ。
昨日、私のアルゴリズムについて説明したのに、全然それでも信用しようとしないんですよ。
って何です?これ?」
浜辺がレイの解析結果に興味を示した。
「あー、これは先日浜辺さんからいただいたSETIをやってた人のプログラムを解析してるところなんです。」
「これって。。。あっ、ちょっと良いですか?」
浜辺がいつも使っている端末でログインした。
そして世界を動かすプログラムの関数群を可視化したものを映し出した。
ミライが思わず声をあげた。
「そうよ。これってあたし達の宇宙の形!」
宇宙を計算するための関数群の構造は、横に映し出しているレイの解析結果に酷似していた。
「強い力で引き付けようとしながらも、弱い力で分裂しようとする。
想いを伝えることで力を励起させることもあれば、その想いから反発する力を生むこともある。
そして、どこかで一人であることを認識しつつ、一つになりたいと願う心も持ち合わせている。」
人の心は、まさに宇宙を形成する形と似ていた。
とりわけ孤独と不安を感じる心の形は『重力』そのものであった。
「孤独が重力と同じ構造。。。そうだとするならぼくたちは孤独、この物淋しさを打ち消すことはできないのか。」
その時、レイは父と星を見た時の記憶を思い出した。
レイの父親が宇宙からの信号をキャッチした後、レイの父親は休む間もないほど忙しくなってしまった。
だが、それから二日後、レイの父親が少しだけ早く家に帰ってきて、レイに言った。
「レイ、ちょっと星を見に行かないか。」
レイは嬉しくて満面の笑みを浮かべながら答えた。
「うん。行く!」
レイと父親は車に乗り、自宅近くの神社まで走った。
レイの父親が車に命令した。
「この辺りで停めてくれ。」
車が道の横に止まった。
父親とレイは古びた社と数本の木を過ぎたところにある小さい石垣まで歩いていき、二人でそこに腰掛けた。
空には一面の星が輝いていた。
父親が話した。
「レイ、最近学校とかどうだ。楽しいか。」
「うん。父さんが大発見したって。みんなにすごいすごいって言われて。鼻が高いよ。」
「そうか、そうか。父さん、そう言ってもらえて嬉しいよ。
でも、あんまり家にも帰れなくて、辛い想いをさせてないか、ちょっと心配なんだ。」
「まあ、しようがないよね。大発見なんだし。」
「すまんな、レイ。もう少しだけ父さんのわがままを許してくれ。」
「わがままだなんて思ってないよ。」
その時、社の方から突然デジタル音がした。
誰かいるのかとレイと父親は社の方を見た。だが、そこには誰もいなかった。
レイの父親はメガネのレンズに映った映像を指で操作して、さきほど止めた自動車の状態を見た。
別段おかしなところは見当たらなかった。
レイの父親は自動車の管理画面を消して話を続けた。
「父さんな。この信号を発見した時、初めて『孤独』の糸が、ほんの僅かだけど、ほどけたような気がしたんだ。
どこか、遠いどこかで、同じようなことを考えて生きている何かがいるんだって。
もしかして、この信号を解読すれば、これを送った人と分かりあえるのかもしれないって。
『孤独』の糸がほどけるのかもしれないってね。
もっとすごい内容なら、もしかしたら存在している意味を知ることができるかもしれない。」
レイには少し難しかった。
きょとんとした顔をしたレイを見て、父親が笑った。
「まだレイには難しかったかな。
でも、大きくなれば、きっと分かる日が来る。
レイは賢いからな。父さんよりも、もっと深くで感じてしまうかもしれないな。
だけど、きっとレイなら、きっと。」
話している父親をレイはじっと見ていた。
ふと父親が何かを思い出してレイを見て言った。
「そうだ。約束。それを感じた時、また二人で、星を見にこような。」
「うん。必ずだよ。」
そう言って、再び二人で星空を見上げた。
レイが横目で父親を見た。
遠くを見ている父親の目がとても輝いて見えた。
レイの目から涙が溢れていた。そして、口から想いがこぼれた。
「孤独の糸はほどけるのかな。。。父さん。」
三人はレイの様子を見て驚いた。
小林は昨日の夜からずっと決心が着かずにいた。
本当に世界中でこの処理を走らせて良いのだろうか。
このプロジェクトは自分の想像を越えたものであることは確かだった。
そして、浜辺の技術にも疑いの余地はない。
今までだって問題は何も起こってなかった。
だが、小林は嫌な予感を感じていた。
説明できるものではないが、不安という範疇ではなく、何かが起こってしまうのではないかという予知能力にも似た感覚が、それをやってはダメだと言っていた。
だが、レイの姿を見て、その思いを言い出すことができなくなった。
小林にも思春期の頃に当然のように考えたことがあった。
(生きてる意味って何なんだろうか?)
化学少年だった小林には不思議でしようがなかった。
(この反応式って何でこんなことになるんだ?何で陽子や中性子、電子が増えるだけでこんなに性質が異なるものが生まれるんだ?)
(誰かが決めてて、それに振り回されているだけなのか?)
しかし、時間が経つにつれ、人々から受ける称賛や生活の慌ただしさによって、そんな思考は脳の片隅に追いやられていった。
小林はレイを見て思った。
(彼は抗っているのだ。答えを見いだすことなどできないかもしれないこの問いにずっとずっと真正面からぶつかっている。)
そう思った時、小林の目には流れ落ちるほどではないが、涙が浮かんでいた。
そして、小林の口から言葉が漏れ出た。
「やりましょう。全世界で計算を。」
その言葉に浜辺が驚いた。
「あれ?小林さん、反対するんじゃ。。。」
「いや、まあ。浜辺さんの技術を信用してですね。」
「あれ?何か目に。。。」
小林が顔を背けながら、手で目を拭った。
「なんでもないですよ。」
「あれ?あれ?」
浜辺が茶化しながら小林の回りを、小林が隠した顔を追いかけるように、ぐるっと一周回って端末の席に座った。
「そうと決まれば、やりますか!?良いですか?柊先生、夏目先生?」
レイも涙をぬぐい答えた。
「もちろんです。」
そのレイの言葉にミライは笑みを浮かべた。
「うん。やりましょ!」
浜辺は詳細計算範囲を設定しながら言った。
「ただですね。この世界の計算量をもってしても、柊先生の言う通り、たぶんこの銀河分くらいにしかならないと思いますけど、それでも良いですか?」
「まあ、それは仕方ないですね。そうしましょう。」
浜辺が設定を終え、処理をスタートすることを知らせるウインドウが表示された。
「まずは範囲をこの銀河にしますね。じゃあ、スタートゥ!」
先日、時間の進みを自分達の世界と同じにしていたため、速度は何も変わらなかった。
「あっ、そうでした。速度遅くしてました。じゃあ、時間の経過速度を最速にしますね。ポチっとな。」
そういうと浜辺が時間の速度設定を変えた。
「どのくらいになった?」
ミライの問いに浜辺が答えた。
「えーと、約ですけど、えーと、えーーと、一秒あたり40日くらいですね。おっそ。。」
「えっ?世界中で計算してもそれっぽっち?」
「いえ、それはこれからです。」
そう言いながらハッキング範囲を世界中に設定した。
画面に変更通知のウインドウが表示された。
浜辺がレイの方を向き、問いかけた。
「最終確認です。柊先生、良いですね?」
レイはみんなを見回し、答えた。
「はい。いきましょう。」
浜辺がくるっと端末の方に向き直り、いつものように、人差し指を伸ばし、上に向けた。
「おっねがいしまーーーす!!」
浜辺は振り下ろした人差し指で(Yes)をクリックした。
次の瞬間、首都圏だけだった浜辺プログラムは瞬く間にありとあらゆるデバイスに入り込み、ネットワークを介して全世界に広がっていった。
その広がりに合わせて、絶対時間の速度がどんどん勢いを増していった。
しばらくして浜辺が言った。
「一秒一年突破!」
その後、さらに「10年突破!」「100年突破!」そして、一分後には「1000年突破!!」
ミライが頭の中で計算した。
「これで一日8640万年ね。」
「まだ上がってますし、どうやら一日1億年は何とかなりそうです。」
レイがふと思い出した。
「あっ?そういえば、あの惑星の人たちは?」
とっさにミライがウインドウで様子を見た。
「あっ。。。」
みんなも見た。
何が起こったのかは分からなかったが、すでにその種は消えてしまっていた。
荒廃した街並みだけが残っていた。
ミライが寂しそうに言った。
「自分達を滅ぼせるだけの力を持った後、数1000年生き長らえることも叶わないのかな。」
小林がレイに向かって言った。
「改めて感じますね。生命は何のために。それを知るためにこれをやっているのかもって、柊先生を見て、思いました。
その答えを持つ思想が生まれて欲しいものです。」
<次回予告>
宇宙を計算するためのハッキング範囲を全世界に広げた4人。
生命が生まれる場所が1つの恒星系から銀河全体に広がった。
世界に数多の生命が生まれようとしている。
それと同時に、アンドロイドは深い瞑想を始める。
人々はそれをどう捉えるのか?
次回より 〜第7章 目指すべき場所〜 突入。
次話サブタイトル「憂いの拡散」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
人の心の形が宇宙の形に似ている。
このフレーズは谷川俊太郎先生の「二十億光年の孤独」の一節。
『万有引力は引き合う孤独の力である』
から来ています。
本当に素晴らしい詩なので、まだ読んだことがない方は是非読んでみてください。
さて、本編ですが、次回、ついに7章に突入します。
この先、宇宙は生命たちはどこに向かうのでしょうか。
次回より 〜第7章 目指すべき場所〜 突入。
次話サブタイトル「憂いの拡散」。乞うご期待!!




