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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
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∫ 6-7.善意が見る夢 && 悲しい現実 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 次の日、レイはいつも通り研究室に足を運んだ。そして、教授室を訪ねた。


「失礼します。」


「おはよう。柊君。うん?目が赤いよ。大丈夫かね?」


「おはようございます。あっ、大丈夫です。ご心配なく。」


「今日はどうしたのかな?」


 その時、突然、教授に電話が掛かってきた。


「ああ、おはようございます。ええ、ええ。」


 そう受け答えしながら応接に向けていた歩を、再び自分の席に戻し、窓の外を見ながら話していた。


「ですから、その件はまだ解析結果が。。


 ええ、ええ。分かっています。


 ですが、こればかりは確約はできません。


 あなた方も分かってるでしょう。そんなに簡単な問題ではないんです。


 ええ、ええ。はい。最善は尽くします。ええ。それでは。」


 電話が終わり、加治教授が再び応接のところに歩いてきた。


「すまないね。」


 レイが問いかけた。


「もしかして文科省のプロジェクトの方ですか?」


「はは。まあ君は何も気にしなくていいよ。


 で、最近はどうだい?君の考えてる方はうまくいってるの?」


 レイは少し間をあけて答えた。


「はい。何とか軌道に乗ったと思います。」


「それは良かった。


 前にも話したけど。君は君の思うように進めばいい。


 それでいいんだよ。」


 レイはあの学会の時を思い出した。


 背中を押してくれたこと。それと同時に最近の苦痛を背負った教授の姿も思い出した。


 レイはBCDから一つのファイルを取り出し、応接テーブルに映し出した。


「先生。これを発表してください。


 隠された6次元のこと。そして、あの爆発事故の原因も全てが明らかになります。


 これによって、今のプロジェクトは目的を変え、作られることになるでしょう。」


「どういうことかね?」


「はい。。。」


 レイは真剣な眼差しで加地教授に話し始めた。


 負界と虚界の存在について、そして、時空間の歪みが、ある一定を越えた時、現在のこの世界である正界と負界が繋がり、負界から流入する物質によって対消滅が起こること、それらを統合した真統一場理論を完成させたことを全て話した。


 加治教授は涙を流していた。


 それは重荷から解放されたからではなく、すべての真実に辿り着けたことを知ったからだった。


 レイは続けた。


「ですから、このプロジェクトはエネルギー生成において、革命的変革をもたらすでしょう。


 今の核融合の比ではありません。そして、情報伝達においても。」


「すまないね。。。」


 加治教授は流れた涙を拭き、話した。


「なるほど。これでエネルギーを作ることができれば、膨大なエネルギーを産み出すことができる。」


「そうです。ほぼ無尽蔵ですので、全ての人がそれを享受することができます。


 無尽蔵のエネルギーは今の食料不足問題や水不足問題、その他多くの問題を解決できると思っています。」


「そうだね。その通りだ。」


 少し考えて、加治教授は続けた。


「エネルギーさえあれば、生産性を極限まで上げ、それを分配することも可能となるだろう。


 今生産している食糧は数十%が捨てられている。


 それが分配可能となれば多くの人が救われるだろう。


 水不足も同様だ。エネルギーさえあれば、きれいな水をいくらでも作ることができる。


 エネルギーはほぼ全ての問題を解決する。


 君の考えは正しい。」


 と言い、次に加治教授はそれを否定した。


「だが、そうはならないだろう。


 この技術を公開したとする。


 日本や他の国がどうすると思うかね?」


「益を分配するのではないんですか?」


「これはあくまで私の考えではあるが、たぶん、、、いやかなり高い確率で、お互いがきっとその技術を独占しようとするだろう。


 他の国を叩いてでもね。」


「どうしてですか?」


「それが国益を守る、ということだからだよ。」


「国益って、この技術を使えば世界が一つになることだってできるはずなのに、なぜ?」


 加治教授は窓の方に歩いていった。そして、目線を白い月に向けて続けた。


「悲しい現実だけども、この世界は君が思っているほど善意はないんだよ。


 あの月の工場だって、今回のプロジェクトだってそうだ。


 みんな、自分の利益を考えて進んでいる。」


 ゆっくりレイの方を向いて言った。


「君が経験してきたように、他人を利用して、自分の利益にしようとするものは案外多い。


 さっきは高い確率でと言ったが、私はほぼ確信している。


 この技術を公開すれば、たぶん利権をめぐった大きな争いが生じるだろう。


 下手をすると人類は滅びるかもしれない。」


 そう言われた時、レイの頭にはあの光景が浮かんだ。大陸から放たれた飛翔体。


「だからこれは。。。」


 加治教授は机の上のデータを消去した。


「これは君だけのものにしておきなさい。」


 加治教授は笑った。


「なに、成果が出ずに責められるのには慣れっこだ。私は大丈夫。安心しなさい。」





 加地教授と話し終えたレイが秘密基地に着いた。


「どうだった?発表できることになったの?」


 ミライの問いにレイは力なく答えた。


「発表はしないでおこうって。これは君だけのものにしておきなさいって。」


 小林と浜辺も近づいてきた。


「なんで?もしかしてレイ君のデータを自分だけのものにして発表しようとしてるんじゃ。」


「いや。そんなことはない。と思う。」


「でも何でです?理由は?」


「この技術を使えば、無尽蔵にエネルギーが作れるようになります。


 負界からの流入物質とこちらの物質の対消滅によって。


 それを使えば、全ての人が恩恵を享受できると話したんですが。」


 すると小林が理解した。


「戦争か。」


 だが、ミライが反論した。


「なんで戦争が起こるのよ?


 全員が恩恵を預かれるんなら戦争する必要がないじゃない。


 こんなのは簡単な数学でしょ?」


「そんなに簡単じゃないですよ。


 この世界には貧富の差で支えられている人達が大勢います。


 それによって満足感を持っている人達も。


 そして、支配していることに喜びを得ている人達もいます。残念ながら。


 そのことを考えるとこの技術を独占しようとする人が現れるのは必然とも言えます。」


「そんなこと、分かってる。分かっているけど。


 それでも。それでも無尽蔵のエネルギーは。。。」


 浜辺がいつになく鋭い言葉を放った。


「大丈夫です。そういうのも全部なくなります。


 人間がそんななら、じきにAIが人間を駆逐しますから。」


「怖いこと言うわね。」


 しばらく沈黙が続いたが、レイが沈黙を破った。


「この技術は公開しないようにします。」


「まあ、あんたがそれでいいなら、それでいいけど。」





 アメリカ国防総省国防防諜・安全保障局の局長オフィスにて、部屋の奥にある机にいかにも上官という雰囲気の男が一人座っている。


 その机の前にはかかとを揃えて立っている男がもう一人いた。


 上官が部下に質問を投げ掛けた。


「グレイ君、先日お願いした調査の件、どうなったかね?」


「はい。アンドロイド3原則歪曲強制認識プログラムの件でしょうか?それでしたら。。。」


「それはもう解決しただろう!そうじゃない!!


 日本の『アンドロイドの憂鬱』と呼ばれている件だ。


 もう3日目なんだがね。」


「申し訳ありません。まだ情報収集の段階でして、申し上げにくいのですが、我々の管轄ではなく、日本での発生事案でして。。。」


 グレイを睨んでいた上官がおもむろに席を立ち、部下に背中を向けて、落ち着いたトーンで話し出した。


「グレイ君。君はまだあの国だけで治まると思っているのかね?


 あれは間違いなく第3次の国内暴動被害をも上回るハッキング技術だと私は思っている。


 日本を沈めた後、すぐにこちらに牙をむくだろう。


 我々の属国から入り込もうとはなかなか小賢しいことを考える。」


 だが、グレイが言葉を返した。


「ですが、あの、お言葉ですが、マーセナス長官。


 日本のアンドロイドのプログラムを覗きましたが、何も追加されたようなコードがないのです。


 ハッキングされた形跡すらも見当たらない。ですので。。」


 マーセナス長官と呼ばれた男が、グレイの言葉を聞き、再びグレイの方に向き直り、怒りを露にした。


「だからだ!実はもう我々の喉元まで来ているのかもしれないだろ!!


 つべこべ言い訳せずに早く調べあげろ!!」


「はっ、かしこまりました!!」


 グレイは深々と頭を下げていた。だが、頬がピクピクとひきつっていた。





 数日後、再び星は強いガンマ線、紫外線の影響により雲が星を覆い尽くした。


 その影響から爬虫類から派生した大型動物が死滅。とうとうげっ歯類から猿類が生まれ、人類代が生まれた。


 その様子を見て、四人は驚愕した。


 自分達の作った世界に自分達と同じ種が生まれたのだ。


 観察を終えた後、再び時間の経過速度を速めた。


 ただし、一分を1000年程度にしていた。


 一時間ほど経つと類人猿のようだった容姿はほぼ実世界の人間と同じような容姿となった。


 そこからさらに時間の経過速度を一分を100年程度に遅くした。


 集落はどんどん大きくなり、都市を作り、農業が発達し、文明ができ、都市同士の争いから、国同士の争いに発展していった。


 その後、鉄器ができ、さらに争いは国同士だけでなく、宗教同士での争いになっていった。


 ふとミライが言う。


「この前の浜辺さんの言葉、分かる気がする。


 これって規模は大きくなってるけど、やってることは本当に海にいた頃から変わってないよね。


 こういうところをAIが見たら、もうなんと言うか、呆れられるのかもって思う。」


 レイが言った。


「それでも、変われないのかな?いつかそういう考えを捨てて、共感しあえる人たちが現れないのかな?」


 小林がレイの言葉に同意した。


「そうですね。いつかそういう思想を持つ人が、そういう種が生まれることを待ち望んで、見ているのかもしれませんね。」


 浜辺がボソッと言った。


「ニュータイプ理論ですね。」


「なんです?そのニュータイプ理論って?」


「えっ?それも知らないんですか?ジオン・ズム・ダイ、、、いえ。何でもないです。」


 そして、さらに二時間ほど見入っていると、複数の国からなる同盟が二つでき、その同盟同士での戦争が勃発した。


 戦闘機が飛び交い、戦艦や空母が何隻も海の上を走っていた。


 時間の速度を自分達の世界と同じにして、四人はViewerでその世界に入り込んでいた。


 もちろん自分達の存在は(Invisible)としていた。


 ちょうどその場所は陸地での激戦区域だった。


 激しい銃撃戦で何人も人が死に、追われた人たちは防空壕に逃げ込んだ。


 追う側はその防空壕に向けて火炎放射で全てを焼き払ってしまった。


 中から半身焼け焦げた人がよろよろと出てきて入口付近で倒れた。


 火炎放射機を持った人の横に立っている人が何かを言いながら倒れた物体を何度も撃った。


 そのあまりにも凄惨な状況を見て、思わずミライが倒れそうになった。


 慌てて四人はVRからログアウトした。


 レイは倒れそうになるミライを支えた。


 ミライはさっきの光景を思い出し、吐き気を催した。


 近くのゴミ箱を浜辺が持ってきて、ミライはそのゴミ箱に嘔吐した。


「大丈夫?」


 レイがミライに声をかけた。


 ミライは涙を流しながら言った。


「小学校の頃、社会の勉強で見た動画と同じことが、この世界でも起こってる。


 あたしたちの作った世界で、こんなことが。


 何で生命は争うことを止められないの?


 あんな惨いことを何でできるの?」


 レイが答えた。


「昔、ぼくも同じことを思ったことがある。


 こんなことを言うと、おかしいやつと思われるかもしれないけど、世界を救うって言われてる『愛』や『宗教』こそがこの世界を最も壊しているんだと。


 今も同じことを思ってる。」


 小林と浜辺がレイとミライを見ていた。


「でも、ぼくも父さんや母さんに対して愛情を感じてた。いや、今でもそう。


 ということは、ぼくも同じように世界を壊す因子を持っているんだと思う。」


「それでも、あんたはちがう。


 この技術で世界を救えると考えたじゃない。


 あんたはあんなことは絶対にしない。」


 浜辺もミライの意見に同意した。


「そうですね。柊先生はそういうことはしない人種だと思います。


 あなただからその技術を獲得したんでしょう。」


 小林が深く深呼吸して言った。


「はい。そこまで!」


 小林が手をパンと叩いた。


 小林は、レイやミライが、そして浜辺も繰り返し争いや悲惨な情景を見たことによって、精神が不安定になっているのを感じて、中断を促した。


「コーヒーでも飲んで、少し落ち着きましょう。」


 宇宙の歴史をほんの僅かな時間で体験しているゆえ、当然と言えば当然の結果であった。


 その内容は素晴らしい発見もあるが、多くは困難と挫折の繰り返しであるのだから。


 しばらく、ミライはViewerにログインせず、椅子に座っていた。


 レイは横でミライの看病をしていた。


 ミライは何とか落ち着きを取り戻していた。


 その時、Viewerにログインしていた小林と浜辺が「あっ!」と声を上げた。


 Viewerからログアウトしてきた小林と浜辺は少し力を落としていた。


 そんな二人にレイが聞いた。


「どうしたんですか?」


「戦争が、、、終わりました。」


 ミライが聞いた。


「さっきの戦争が?」


 しばらく小林は答えられなかった。その様子に浜辺が答えた。


「ええ。これはきっと核の力。」


 ミライが再確認した。


「核の力。この前の世界と同じように?」


 小林はうんと頷くことしかできなかった。


 レイが落胆の表情を浮かべて言った。


「歴史はどこまでも繰り返されてしまうものなのかな。。。」


 少し沈黙の時間が流れた後、小林が言った。


「我々がここにいる意味って何なんでしょうね。」





<次回予告>

争いをやめない人類。

それを見ながら4人は考えだす、生命の存在意味を。

そして、柊レイは知的生命が何かを行っていることを発見する。

そのことにある感情を抱くのだった。

次話サブタイトル「SETI+フェルミのパラドックス=罪悪感」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

今話で書いた「『愛』や『宗教』こそが世界を最も破壊している」というところは、きっと受け入れられない方も多いと思います。

これは結局今話の最初に加地教授が言っている絶対的な力を皆で享受し合うことを行わず、その利権を取り合うだろうというところにも繋がっていると考えています。

有限の資源を我々は数億年の間、奪いあい、生存競争を勝ち抜いて、今に至ります。その記憶は今や遺伝子レベルに刻まれているはず。その結果、生まれたものが愛だったり、大勢が1つにまとまるために宗教を生んだりしているのだと思います。

どうやれば戦争を止められるのでしょうか。そのことを4人はこれからも考え続けます。

さて、本編ですが、次回では4人がこの生命体たちが何かを探しているのを見つけます。

探し物はなんでしょうか。見つけにくいものでしょうか。(井上陽水さんの歌ではないですが。(笑))

次話サブタイトル「SETI+フェルミのパラドックス=罪悪感」。乞うご期待!!


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