∫ 6-5.ナメクジではなく、カタツムリ dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
レイは毎日の日課で午前中だけ研究室に行っていた。
主な仕事は加治教授と新しく来た准教授が考えた理論が爆発事故の発生を証明できるかの検証であった。
レイは心苦しかった。
全てを理解しているが、それを公表できずにいたからだった。
加治教授はプロジェクトの技術最高責任者となっており、そのために原因追求をこの第2四半期までに決着させるように文部科学省から言われていた。
だが、それでもレイを無理に引き込むことをしなかった。
加治教授はレイがこのプロジェクトに参加したくないという意思を持っていることを知っていたからだった。
レイは研究室を出る時に見える教授室で頭を抱えて、重圧と戦っている加治教授を見るのが辛かった。
それから一週間の間に、その惑星では劇的な変化が起きていた。
地球の歴史と同じく恐竜が繁栄を極めたが、再び極寒期が訪れ、恐竜は鳥類へと姿を変え、姿を変えられなかった残りの種は絶滅してしまった。
極寒期が終わり、しばらくした後、時間の流れをゆっくりにして、生物がどのような進化を果たしたのか確認した。
それを見て、レイ、ミライ、浜辺が絶句した。
恐竜の次に繁栄したのは、人類代、ではなかった。
次の主役は腹足類、いわゆるカタツムリであった。
殻から一部突起を伸ばし、それを腕の役割として使っていた。
殻は脳細胞を守るように丸く変形し、軟体を活かしたウネウネした動きで素早く移動できるようになっており、カルシウムなどを主成分とした殻からできた手で器用に道具を使い、活動範囲をどんどん拡大させていった。
「なんだ?これ。。。」
レイが声を漏らした。同じように見ていた浜辺が落胆して言った。
「地球じゃなかったんですね。。。」
ただ、道具を使い、狩りを行うその様子は姿こそ違うものの人類代の進化、進歩にそっくりであった。
惑星内を観察する時はいつも時間の経過速度をこの世界と同じようにしていたが、Viewerを切り、レイは浜辺に再び再度速度を速くしてもらった。
そして、すぐにまたこの世界と同じに戻してもらった。
わずか五秒程度であったが、それでも時間は6000年ほど経過していた。
その生物は時間を速める前から火を使っていた。ただし、それは道具としての火であった。
だが、数千年の間にその生物は火を何かを崇めるものとして扱うようになっていた。
身体に飾りを付けたカタツムリが火の前に構え、他の者たちが何かを唱えながらその火の回りを回っていた。あるいは歌っていたのだろうか。
ミライがその様子を見て言った。
「レイ神を讃え崇めてるんじゃない?」
レイを見ながらミライがクスッと笑った。
「まさか。」
「いや。そうじゃないですかね。宗教が生まれていてもおかしくないですよ。
集落ができて、シャーマンのような者が私は神の使いだと。」
「そうそう。きっとね。レイ神の使いだってね。」
「だとしたら、ぼくたちみんなですよ。ミライさんも小林さんも浜辺さんも。」
「まあ、そうか。」
そんな話をしながらも、みんな、不思議な感覚に襲われていた。
小さい頃、何気なく祈っていた想いやお願い事をした記憶。
自分たちの世界もそうやって作られていて、誰かが見ているのか?
そんな思いがそれぞれの心に駆け巡っていた。
レイは特に父親と母親が亡くなった日、そして、波多野が爆発事故に巻き込まれた日を思い返していた。
神がいたのならなぜ助けてくれないのか。
瞬時に答えは出ていた。
全ては物理法則に則った結果なのだと。
分かっていながらも心の中で繰り返される、自問自答。
「レイ君、レイ君、どうしたの?」
「柊先生、柊先生。」
三人が呼ぶ声が聞こえて、ふと我に返った。
三人が心配そうにレイを見ていた。
「あー、すみません。」
そう言うと浜辺が質問した。
「時間の速度戻しますか?それともこのまま?」
「あっ、そうですね。じゃあ、一分百年くらいにしましょう。それで様子を。」
「かしこま!」
浜辺がその指示に合わせて、入力した。
「ゆっくりにする時、言ってくださいね。じゃあ、行きますよ。スタートゥ!」
リターンを押した瞬間から集落が急激に拡がりだし、瞬く間に都市となった。
都市の周辺には農地が拡がり、城ができ、どんどん近代化が進んでいった。
その途中からレイは再び父親と母親の亡くなった日、波多野の亡くなった日を思い返していた。
ミライがレイに時間の再設定を促した。
「そろそろいいんじゃない?」
レイを見たミライが、レイの心がまたどこかに飛んでいっていることに気がついた。
「レイ君、レイ君!」
すぐに我に返すため、ミライはレイの肩を手で揺すった。
はっと我に返ったレイは近代化が進んだ文明を見て、浜辺に言った。
「時間を!」
すぐに浜辺が時間の設定をレイたちの世界と同じ速度にした。
その世界では近代化を進めたカタツムリが栄華を誇っていた。
カタツムリは科学技術をどんどん発展させ、強大な二つの国家を作っていた。
そして、その二国家は衝突しているまっ最中であった。
レイが時間の設定を戻してもらった時が、二つの国家の衝突がピークに達していた、まさにその時であった。
たくさんの戦闘機と思われる飛行物体、戦艦や空母と思われる船もたくさん海に浮かんでいた。
まるで二十世紀の大戦を見ているようだった。
次の瞬間、お互いの領地から無数の発光体が打ち上げられた。
そして、その発光体は放物線を描き相手国に向けて翔んでいった。
その様子を見ていた四人にはそれが何であるかおおよそ想像がついた。
百発程度のその飛翔体は相手の領地に着弾すると大きなきのこ雲を作った。
数分の間に二ヶ国の主要な都市は全て壊滅した。
そして、その雲達は大地の大部分を覆い尽くしてしまった。
「なぜこんなことが。。。」
「、、、」
みんな言葉を失っていた。
文明のあまりのあっけなさに溜め息すら出なかった。
この知的生命が出来上がるまでに費やした時間に対して、文明と言えるものが出来、そして消えてしまうまでの時間のあまりに短いことか。
その儚さに寒気すら覚えた。
「時間を、、元に。」
レイがそう言うと浜辺が力なく答えた。
「はい。戻します。」
カタツムリは生き残りが多少いたものの、それも死に絶え、その種は絶滅してしまった。
他の種も飛翔体がもたらした影響によって多くが死に絶えた。
四人はこの結果にショックを隠し得なかったが、今はただ、再び生物が進化をしてくることを祈っていた。
その日の夜、レイは寄宿舎に戻り、ベッドの上で足を抱えて座っていた。
頭の中では、父親と母親が亡くなった日のこと、波多野が亡くなった日のことが、リピートされていた。
神様なんかいないと分かっていても祈るしかなかった。
助けてくれるわけはないことを知っていながら祈るしかなかった。
まだレイの中の暗闇は晴れてはいなかった。
葬儀のことが頭の中でリピートされていた。
その時、ふと新たな記憶が思い出された。
父と母の葬儀の時に、会いに来てくれた大人が、
「また必ず会える。君は一人じゃない。」
と言う前、
「事故を防げなかった。ごめん。」
と言ってくれてたことを。
事故の時に近くにいた大人だったのだろうか。そんな思いを浮かべた。
それでも、あの人たちの言葉がレイの心を少しだけ落ち着かせた。
また助けられた、と思った。
あの人たちの言葉がなかったら今まで生きてこられなかっただろう。
涙を流しながらレイは眠りに落ちた。
次の日には、生き残った生命によって、再び生態系が築き上げられていた。
レイは安堵と共に、若干ではあったが、不思議な感覚が芽生えていた。
何か不安や虚無感にも似た感覚。
その感覚は絶滅する生命を見る度、心の中でずっと繰り返し生まれていた。
(あの生物の存在意味はなんだったんだ!?)
ミライや小林、浜辺も安堵の面持ちだった。
小林が言った。
「良かった。この底力も宇宙の法則から来るものなんでしょうね。」
レイが答えた。
「そうですね。そうだと信じたいですね。」
<次回予告>
知的生命が生まれ、そして自らの手で滅亡する。
そこに虚無感にも似た何かを感じ取った柊レイ。
生命の意味とは何なのか?
そして、苦悩する加地教授を見て、柊レイは何かを決断するのだった。
次話サブタイトル「発表しましょう!」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
その昔、地球では恐竜が栄華を誇っていました。
ですが、隕石の衝突や地球寒冷化によって絶滅してしまいました。
私はそれを知った時、ふと考えてしまいました。恐竜はいったい何のために?と。
人間もそうですが、何か意味を持って生まれてきてはいないのか?私の抱える永遠のテーマですね。
さて、今話で登場した生命体はカタツムリですが、題名には「ナメクジではなく」と書いています。これは私の心の師である手塚治虫先生の火の鳥でこれと良く似た状況が描かれており、そこで絶滅する生命体はナメクジなのですが、今回、同じような内容を書く上で、オマージュとしてカタツムリで書かせていただいた次第です。
さて、本編ですが、とうとう知的生命体が誕生し、自らの手で滅亡の道を辿ってしまいました。この先、生まれてくる生命体はどのような結末を迎えるのでしょうか。
次話サブタイトル「発表しましょう!」。乞うご期待!!




