∫ 6-4.激動の進化とギャルのパンティー dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
数日が過ぎた頃、生命にとって、さらに残酷な出来事が待ち受けていた。
小林は生命体の近くでその動きを見ては、それらの生命体が持つプログラムを覗いていた。
もちろんプログラムの解析は浜辺にお願いしていたのだが。
レイは惑星を俯瞰で見ていた。
すると2〜3秒だけ星が真っ白になったのを見た。
正確には惑星が白くなったのではなかった。
この恒星系から近いところで恒星が頻繁に生成されていた。
そのスターバーストにより、強いガンマ線や紫外線がこの惑星に降り注ぎ、雲郭作用が発生し、惑星全域が雲で覆い尽くされたのであった。
こちらの世界では2〜3秒程度の時間であったため、何が起こっているのか理解できなかった。
しかし、その後の惑星内を見た瞬間、小林が声をあげた。
「えっ?何でこんなことが?」
みんながViewerで惑星を観察した。
生命はほぼ絶滅していた。
金属を取り込み、生命のエネルギーを作り出していたため、原始生命たちは色とりどりであったが、その色が一気に失われていた。
その状態からレイが気づいた。
「さっき、惑星を見ていたんですが、数秒真っ白になったんです。
もしかすると他の場所でたくさんの星が生まれたり、中性子星爆発などが発生することで、強いガンマ線や紫外線がこの惑星に降り注いだんではないかと思います。」
「?」
ミライは何のことか良く理解ができなかった。
それを察知したレイがミライに質問した。
「そのガンマ線や紫外線が空気中の細かい水分に当たると何ができると思う?」
ミライは少し考えて答えた。
「えーと、雲?」
「うん。それが星全体を千年くらい覆うと?」
「あー、氷河期!」
「そのとおり!」
浜辺もそのやりとりで理解した。
そのやりとりで小林は他の二人よりももう少し深い理解を示していた。
「それによって死滅したということは、生命はウランからのエネルギーではなく、恒星からのエネルギーを使っていたということです?」
「そうですね。そこまで進化が進んでいたようです。」
だが、その後、生命の強さを見ることとなる。
四人が会話をしている間に、失われた色が再び地面に現れたと思った瞬間からみるみる間に全体に拡がっていった。
全員がその瞬間的な変化に声を失っていた。
更にその生命はこの環境の劇的変化によって進化が促されていた。
生命体は物質を分解することでエネルギーを得る生命体と恒星からのエネルギーを使って電子やエネルギーを蓄える物質を作り出す複数の生命体が一つの膜内に共存する形で存在するようになっていた。
そして、それらの生命共同体は一つの生命として成り立つようにRNAがより複雑で安定なDNAを形成するようになっていた。
レイたちが見ていた生命体の色の中でも一際勢力を伸ばしていった色があった。
それを見ていた小林が驚嘆の声をあげた。
「これって、葉緑体じゃ。。。」
レイやミライ、浜辺も驚いた。ミライが言った。
「きいたことがある。もしかしてこれがシアノバクテリア?」
「うん。きっとそうだね。古細菌の誕生。ですよね?小林さん。」
「そうですね。まさに人類が想像していたDNA獲得のシナリオは正しかったということですね。」
話している数秒の間に緑色は勢力を拡大していった。
浅瀬にびっしりと緑色の固まりが広がり、その後、黒っぽい水の色が透明に変わっていった。
緑色の巨大なマリモのようなものの間に赤黒い土が堆積していくのが見えた。
「あー、あの赤いの、赤鉄鉱ですね。」
小林が言うと、浜辺が聞いた。
「何ですか、それ?鉄?」
「そう。さっきまで水に溶けていた鉄とか重金属がシアノバクテリアが出した酸素によって酸化されて析出、沈殿してるんです。
そのおかげで水が黒っぽい色から透明に変わっていったんです。
我々が使っている鉄はこうやって作られた赤鉄鉱から精製してるんですよ。
これで空気中の酸素濃度が急上昇して、嫌気性生物の大量絶滅と我々のように酸素から大量のエネルギーを作る生物の進化が促されます。
というか、本当に地球の歴史そのものじゃないです?これ。」
レイも同意した。
「そうですね。ぼくも知識通りのことが起こっていて、正直ここまでぴったりだと驚きです。」
ミライが話に乗ってきた。
「実はこれが地球だったりして。」
「いやー、それはないよ。だってまだ宇宙は三35億年くらいしかたってないんだよ。まさか。」
レイも反論しつつ、もう一度言った。
「まさか、ね。」
そして、さらに一週間が経った。宇宙年齢は42億年になった。
惑星では植物の大繁栄が発生し、さらに細菌群から動物が派生。
そして、カルシウムを利用した甲殻を持つ動物も生まれていた。
この一週間の間にレイ、ミライ、小林、浜辺全員が凄まじいスピードで進化する生命を目の当たりにした。
一秒が千年以上であるため、一気に海の浅瀬に植物が拡がったと思えば、それに合わせて、動物が行動範囲を広げていく。
とてつもないスピードで進むからこそ、それぞれが強い共生関係にある様子がはっきりと見て取れた。
夕方、四人が集まった時には時間の流れを現実世界と同じ速さにして、自分たちの宇宙を、惑星を堪能した。
ただ、このあまりにリアリティのある世界を見る上で、自分たちが自分の手の傾きなどで水平移動することに四人とも違和感を覚えていた。
そこで、小林がElectroEncephaloGraph(EEG=脳波計)デバイスを活用して動かすことを提案した。
既に脳波でのゲーム内キャラクターコントロール技術は確立されており、QuantamGate16にはライブラリーの実装がなされていたため、浜辺にとってその実装はいとも容易いことであった。
それを行うためには自分たちの身体が物理法則に則って動くようにする必要があった。その部分はレイが担当した。
この改良により、EEGデバイスを装着すれば、思ったように身体を動かせ、自由に物体に触ることができるようになった。
EEGデバイスには安全に扱えるようにするために触覚などの感覚を実際よりもかなり抑えて伝えられるようになっていた。
痛みによる死を防止するためであった。
「柊先生は今やプログラムにおいても世界のトップを狙える位置にいますね、きっと。」
今回レイが行った物理法則に則って動くプログラムの変更を見た浜辺が言った。
「いえ。浜辺さんには全然敵わないです。」
「まあ、それはそうかもですが。」
そう言うと小林が困ったなという顔をしながらレイの方を向いた。
それを見た浜辺が小林に言った。
「何ですか?いいじゃないですか。私はプログラムだけなんですからぁ!」
そう言って、小林に膨れっ面を向けていた。
さらに、浜辺は小林の依頼によって、VR内で両手の人差し指と親指で四角を作ることで、BCDの画面をVR内でも見ることができるようにした。
これより、物質の成分などを見ることが可能となった。
生命は陸に生息領域を広げていった。
植物がまず上陸を果たし、その後、動物が後を追いかけた。
一気に生命が惑星を覆い尽くすかと思われたが、再びスターバーストの影響によりガンマ線などが降り注ぎ、氷河期が訪れた。
拡大していた活動領域は再び海へと後退した。
しかし、絶滅の危機に曝される度、進化が促された。
氷河期が終わると動植物は我先にと上陸を果たした。
自分たちが観察している間であっても氷河期になると、あまり見るものがなく、時間の設定を少し早めにしていた。
しばらく全球凍結が続き、それが晴れた後、また動植物が上陸を果たした。
上陸後の様子を時間経過の速度をゆっくりにしてもらい、小林が俯瞰で見ていた。
小林の目にあるげっ歯類の動物が写った。
脊椎を持ち、人類の祖先とも言える動物の一種だと推測される動物であった。
だが、小林は人類の祖先という特徴ではなく、それ以外の特徴に目を見張っていた。
「あれ?」
そう言うと、小林は再び浜辺に時間の経過速度を少しだけ速めてもらった。
そして、さらに速くしてもらう。もっと速く。
そして再びゆっくりに。
小林はずっとその動物に注目していた。
そして、また同じように時間操作を依頼した。
レイもミライも浜辺もこの依頼で小林が何かを発見したのではないかと注目した。
小林はその時間操作でその種が他の種と明らかに異類であることを発見していた。
他の動物たちは数年から長いもので数十年の間に世代交代がなされていたが、どうやらその動物だけは極端に世代交代にかかる期間が長かったのだ。
約百年、個体によっては数百年の期間であった。
「なんだ?この種は。」
浜辺が外から話しかけた。
「どうしました?」
「いえね。何となくですが、あまりに活動期間が、つまり寿命が長い種がいるんです。他の種に比べて圧倒的に長い。不思議です。」
その言葉を聞いて、浜辺が言った。
「小林さん、その動物に触れるくらいに近づいてもらえますか。」
「動物が逃げない?」
「ダイジョブです。小林さんをステルス化します。」
浜辺が小林の設定を(Visible(可視))から(Invisible(不可視))に切り替えた。
「良いですよ。近づいて。」
その言葉で小林はその動物の方に移動した。
動物は何かの気配を察知するも周囲を確認するだけで動こうとはしなかった。
小林は動物を触れるほど近くまで移動した。
浜辺の見ているディスプレイには小林の近くにいる一億以上のエネルギー発生を促す微生物集合体のリストが表示されていた。
リストは小林に座標が近いものから順にソートして表示されていた。
小林が移動するにつれ、順位が上がってくる集合体があった。
小林がその動物の前まで来ると浜辺はその動物を特定した。
その様子をレイもミライも一緒にディスプレイで確認していた。
上がってくる順位をみて、ミライが言った。
「こいつね。」
浜辺がミライをちらっとみて言った。
「たぶんそうですね。」
そうすると、浜辺がその動物のプログラムを展開した。そして、小林に言った。
「その動物、特定できましたよ。」
「その動物内で生成される物質の表示、お願いできるかな?」
「身体の中の化合物ですね。」
「送ってくれる?」
浜辺がコマンドを打ち込むと無数とも言えるほどの化学式のリストが表示された。
そして、それを小林のBCDに送った。
「送りましたよ。」
すると、小林は両手の人差し指と親指で四角を作り、BCDのディスプレイを表示した。
目の前にいた動物はその表示に驚き、さっと跳びはね、姿をくらました。
小林はその様子を少しだけ見た後、その化合物リストを上からなめていった。
時折、化学式の一つをクリックしては示性式や構造式に変換して、再びリストを見た。
浜辺が小林の(Invisible)を(Visible)に設定し直した。
小林が原生林の中で姿を現した。
いろいろブツブツと言いながら、時には斜めに天井を見て(実際には小林は青い空を見ているわけであるが)数十分考えていた。
ミライが浜辺に小林に聞こえないように小さい声で聞いた。
「研究してる時っていっつもあんななの?」
浜辺は小林が声など聞こえてないことを知っていたので、普通のボリュームで話した。
「そうですね。何か見つけたっぽいです。こうなったら全然何言ってもダメです。」
ミライはふと、三日徹夜の浜辺を思い出して言った。
「似た者同士なんだね、あんたたちって。」
「どこがですか!?似てないですよ。全然。
というか、そういうお二人の方が似た者同士じゃないですぅ?ぐふふふ。」
「えー、何言ってんのよ。もう。ちょっと、レイ君も何か言ってよ。」
二人がレイを見た。
「えっ?あー、えーと、お二人も似てますよ。」
その言葉にミライと浜辺が顔を見合わせた。
そして、レイに向かって本気で否定した。
「どこが!?」
二人同時に反応した。その反応にレイが言った。
「ほら、反応が同じでしょ。」
そんな会話をしていると、突然小林が動いた。
納得の相槌を打った。
「分かった。そういうことか!」
両手で目を隠し、VRから出てきた。
「すごいかもしれない!これは!!」
そう言うと小林はBCDのリストをみんなに共有した。
「リストを見てみてください。」
そこには複雑な構造式がいろいろ表示されており、それを指差しながら小林が話し始めた。
「あの種は云わば、我々人類の大祖先とも言える存在なんです。
その証拠に我々と同じようなDNAの構造を持ち、同じアミノ酸を使っています。
このリストに含まれている二十種類程度のアミノ酸はまさに我々人類が使っているものと同じなんです。」
小林は物質のリストの中から何個かを指差しながら続けた。
「そして、驚くことにこの種は、たぶんですが、この物質とこの物質、もしかするとこの物質とこの物質も関係しているかもしれませんが、おそらくこれらが体内で分泌されることでテロメアの寿命を大きく伸ばすことに成功しています。」
「テロメア?」
ミライが質問を投げ掛けた。
小林はミライを見て、さらに続けた。
「はい。テロメアは細胞が分裂する毎に短くなり、その長さがあるところまで来ると細胞がそれ以上分裂しなくなる特性を持っています。
つまり細胞の寿命を司っているものなんです。
普通はその寿命が来ればその細胞は死んでしまう。
そして、そのような細胞が多くなればなるほど、その生命は死に近づくわけです。
ですが、これらの物質がその細胞分裂の回数限界を大きく引き伸ばしている。
その結果、この生物は数百年に渡って生き続けることができている。
それを今見つけたのかもしれません。
もしこれを人間に活用できたら。」
小林は身震いした後、レイの両手を掴んで言った。
「柊先生、これは本当に大、大、大発明ですよ。あなた、とんでもない天才だ。」
「はっ、はあ。」
レイは小林の興奮ぶりに少し押され気味であった。
小林は浜辺に言った。
「明日からこの前の環境で少しだけ、テストしたいんだけど、できるかな?
これらの物質がどう人体に影響するか見たいんだ。」
「はあ。まあ、別に可能ですけど。」
浜辺はレイに質問した。
「すみません。ちょっとだけ計算領域を借りますけど、いいですか?
宇宙の進行速度が半分、まではいかないか。。。ちょっとだけ落ちますけど、半日くらい。」
レイはもちろん了承した。
「もちろん、全然良いですよ。」
ミライが小林の話を解釈して小林に訪ねる。
「さっきの話だと、もしかして、これを人間に適用できたなら寿命が延びたりするってことでしょ?」
小林はよくぞという顔をしてミライの質問に答えた。
「夏目先生、ずっとその若さでいたいです?
もしかしたらそれが可能になるかもしれませんよ。
完璧に効けば不老不死だって夢じゃないです。」
浜辺がその言葉を聞いてハッとした。
「シェンロンにお願いしないとですね。」
三人は浜辺を見て、頭の上に?を付けた。
浜辺は自分を不思議そうに見る三人を見回して叫んだ。
「ギャルのパンティー、おっくれ〜〜!」
<次回予告>
宇宙の中でどんどん進化する生命。
生まれては絶滅し、また生まれては絶滅する。
宇宙は生命に対して厳しくもあり、そのおかげで生命は進化を促されていた。
そして、いつしか生命は知性に目覚める。
その行く先には何が待ち構えているのだろうか。
次話サブタイトル「ナメクジではなく、カタツムリ」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
テロメアの研究は実世界でも行われています。最近ではNMNなどが有名ですが、そういった間接的なものではなく、根本的に不老不死に近づく方法が開発されようとしています。
私の世代は不老不死と言われると10人中8、9人が、あのシーンを思い浮かべると思います。7つの球を集めて願いを叶えてもらうあのアニメ。豚のキャラクタが悪役が願いを叶えそうになる瞬間叫ぶんです。浜辺が最後に叫んだセリフを。
皆さんは不老不死と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。(笑)
さて、本編ですが、宇宙はどんどん時間が過ぎていきます。果たして何が起こるのでしょうか。
次話サブタイトル「ナメクジではなく、カタツムリ」。乞うご期待!!




