表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
39/66

∫ 6-2.奇跡の星 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 月日が流れ、道端にちらほら緑が芽吹いてきた頃、宇宙のそこかしこでブラックホールができ、そのブラックホールを中心に銀河が無数に形成されていた。


 さらに、その銀河の中には無数の恒星が生まれ、その恒星の周りには惑星が複数存在しているものがあった。


 その惑星の中には液体としての水、そして多数の鉱物を持つ、地球に似たものも無数に存在していた。


 Viewerでそれらを確認したレイはみんなに話した。


「そろそろ有機物が出来てくると思うんですけど、それらができると複雑化が進み、計算量が増えてくると思うんです。


 というか、そういう風に創っているので、そうなるのは必然なんですが、そうなると一気に時間の進行速度が落ちてしまいます。


 なので、一つの恒星系だけに計算を絞りたいと思います。


 それなら十分すぎるほど余裕があるはずですので。」


 浜辺がそれに答えた。


「柊先生のご要望でしたので、範囲限定での詳細計算も可能なように作ってますよ。」


「そっか、全部計算できるわけじゃないのね。


 ちょっと残念だけど、まあしようがないか。」


「で、それ、どこにするんです?」


「この惑星を含んだ恒星系はどうかと思ってるんです。」


 レイは自分のViewerを共有し、一つの惑星を表示した。


 液体としての水を有し、窒素、二酸化炭素、酸素を主成分とした大気を有し、鉄、リン、ナトリウム、カルシウム、シリコン、炭素、窒素、塩素などを持った惑星であった。


 惑星には衛星が一つあり、その潮汐力により、潮の満ち引きが生まれていた。


 ミライがその惑星を見て、言った。


「地球とは海の色が違うのね。」


「まだ水に重金属が多く含まれているからね。


 だけど、プレートテクトニクスが始まっているから、じき浄化されていくと思うよ。」


「あー、この大陸の移動と火山活動のことね。」


「うん。」


「どうして水が浄化されるの?」


「それは、この海の内で温度変化や大気圧変化によって若干の濃度差が生まれて、その差によって金属物が溶け込めきれず析出が発生するからなんだ。」


「ああ、金属が析出するんだ。まあ、何となく分かるけど、でもまた水に溶け出すんじゃないの?」


「まあ、溶け出すのもあるね。でも、その析出した金属の一部がこのプレートテクトニクスの動きによって、地中深くに閉じ込められたり、大陸の表層に持ち上げられるんだ。


 だから、徐々に徐々に浄化される。はずなんだよね。


 この動きがある。それがぼくがこの惑星を選んだ理由の一つなんだ。」


「なるほど。」


 そんな話をしている間にも、浜辺が端末機を使って、詳細計算の範囲選択を行っていた。


 浜辺はその惑星を中心として衛星を含めたサイズの球体をセットしていた。


「よいっと。」


 それを見て、ミライが指摘した。


「えっ?違う違う。この恒星系だから、恒星を中心に、この恒星が持っている惑星全部を取り囲まないと。」


「えっ?有機物の計算ってこの星だけじゃないんです?」


「うん。あたしたちの太陽系だって、すでに火星や木星衛星のエウロパ、ガニメデに微生物がいることは分かってるんだし、もしかすると可能性的にはその衛星内で知的生命が生まれるかもしれないじゃない?


 そう考えるとこの恒星系全体で計算しないと。」


「あー、なるほど。そういうことですね。」


 手をさっと敬礼するように持ち上げ、浜辺が答えた。


「了解でーあります!」


 その反応にミライは?を浮かべたが、恒星を中心にエリアを選択している浜辺の動作を見て、安心した。が、小林の中に一つ疑問が浮かんだ。


「この恒星を中心とした座標って言っても、宇宙全体やこの銀河内だけで言っても、ものすごい勢いで動いてんじゃないんです?それって大丈夫?」


「はい。大丈夫ですよ。この恒星を指定することで、この恒星の座標基準でカメラ位置や範囲がセットされるように作ってあります。


 なので、実はこのカメラ座標もすごい勢いで移動してるんですよ。」


「あー、なるほどね。」


「粒子の集合体を一個体として捉える機能を備えてありますから。


 それで恒星が選択できるんですよ。これが結構重要なんです。」


 浜辺が少し鼻高々に言った。


「まあ、その概念プログラムを作ったのは柊先生ですけどね。」


 浜辺は範囲設定を終えて、レイに尋ねた。


「範囲設定を有効にして良いですか?」


 レイは端末機に表示されている範囲設定を見て答えた。


「はい。やってください。」


「はい。ポチっとな。」


 宇宙はなにも変わってないように見えた。


 だが、全体での有機物計算のせいで遅くなってきていた時間の進行が元通りの速度に戻っていた。


「そう言えば、Viewerの機能を追加したんです。


 設定ボタンから最新バージョンをダウンロードしてもらえますか?」


 各自がBCDの画面から最新バージョンを落とした。


(SimUniverseViewer Ver2.00 Start.. .. .. ..)


 再起動が実施され、Viewerが開かれた。


「で、最新版では右下にVRボタンがあると思うんです。


 それを押してみてください。あっ、ちょっとまってくださいね。」


 そう言うと浜辺は時間の経過速度を自分たちの実世界と同等に落とした。


「では、どうぞ!」


 その合図で各自がVRボタンを押した。


 すると、目の前が暗転した後、目の前に一つの惑星が、そして身体は完全に宇宙空間に放り出された状態となった。


「うわーーーー!」


 あまりのリアリティに浜辺以外のみんなが驚きの声をあげた。


 だが、どこからともなく浜辺の声が聞こえた。


「そこは私たちの宇宙、つまり仮想空間内です。


 何があっても身は安全ですので、心配しないでください。」


 その空間にはレイ、ミライ、小林がいたが、浜辺の姿はなかった。


「あっ、そういうこと。あれ?でも、浜辺さん、どこ?」


 それぞれがお互いを確認しあった。


「私はまだVRをONにしてませんので、そちらには表示されてないんです。」


「なるほど。でも、みんな、アバターというより本物みたいなんですけど。」


「はい。健康診断の身体3Dスキャンデータを利用しています。


 身長、体重も検査時のものを使用しています。」


「そんなことが。」


「そういえば、夏目先生はあんなとこにホクロがあったんですね。」


「ちょっと、あんた、変なこと言わないでよ。」


「ふふふ。私たちだけの秘密ですね。」


 レイが顔を赤くしていた。


 浜辺が笑いながら、動作方法について説明し始めた。


「じゃあ、みなさん。目の前で両手をグーにして親指を上に向けてください。


 両方の親指を前に倒すと前方に進みます。」


 三人は思い思いに移動してみた。


「すごい。」


「あと、両手をパーにして、3秒以上目を塞いで、目を閉じてください。」


 手で視野を塞ぎ、目を閉じたため、目の前が真っ暗になり、カウントダウンの数字が表示された。


 3秒後、塞いだ手を取りはらうと元いた旧端末室に戻っていた。


 あまりの実体験感に小林は笑ってしまった。


「すごいね。これ。本当に宇宙に行ったような感覚。」


「じゃあ、ちょっと惑星内とかでどうなるかテストしたいので、みんなであの惑星に行ってみませんか。」


 浜辺の提案にみんな顔を見合わせた。


 お互いすごく興味をそそられている顔をしているのが良く分かった。


「いいですね。行きましょう。」


「じゃあ、まず通常のViewerで惑星内に入りましょう。」


 そう言うと、各自が座標を動かし、惑星内に入っていった。


 どんどん近づく惑星。


 惑星の曲率に薄い大気層が見えた。


 あっという間に大気圏を抜け、雲を突き抜け、黒い海、爆発する火山、荒い岩肌が見え、大地に到着した。


 その映像は、きれいではあったが、まさに最新ゲームの映像のようでどこか現実味のない絵であった。


 浜辺はそれぞれのViewerの座標を見て言った。


「ちょっとだけ動かしますよ。」


 そう言うと、座標を入力して、リターンを押した。


 全員が思い思いの場所から浜辺のいる場所に転送された。


「OKです。じゃあ、VRボタンを押してください。」


 みんながBCDで映し出されたViewerの横にあるVRボタンを押した。


 暗転した後、目の前に風景が映し出された。


 荒々しく打ち寄せる波、切り立った山、中腹からほとばしるマグマ、遠くに見える黒々しく猛々しい雲。


 まさに惑星が活きていることを感じさせる、そんな風景だった。


 全員がその映像に驚いた。


 宇宙シミュレーター、その言葉から想像していたものとはあまりにかけ離れた、まさに惑星太古の風景が目の前に広がっていた。


 レイはある程度のリアリティを持って想像していたが、それでもこの風景は途轍もないインパクトであった。


 レイ以外であれば、それはなおさらであった。


 ミライが感嘆の声をあげた。


「これが、あたしたちの宇宙。。。」


 レイも驚きを隠せない。


「絶え間なくあの数式によって計算され、物理的に、化学的に動いている。」


「すっっっごい!」


 思わず、浜辺も素で声をあげた。


 岩肌を流れる水を見て、小林が言った。


「このカオス的に流れる水の動きも全て計算されているんですよね?」


「その通りです。」


「複雑化してもやはりそれは計算された結果。ということですよね?」


「そうですね。」


 そう答えつつ、レイには次の質問が何であるか分かり、自分の中でも不思議な感覚が広がった。


「じゃあ、僕たちや世界中で動く全ての動作、意志決定をしているように見える行動も全て計算された結果?ということ。。。」


「そう、だと思います。


 このプロジェクトをやっていることですらも偶然ではないのかもしれません。」


 ミライもそれを感じ取っていた。


「今の今までそうかもなと思ってはいたんだけど、今日ほどそれを強烈に感じたことはなかったわ。


 やっぱり何かがいるのかな。ははは。」


 浜辺はあっけらかんと答えた。


「やっぱり宗教なんか信じるべきじゃないってことですね。」


 帰結するところがあまりに違っていて、小林がぷっと吹き出した。


「全くだよ。ははは。」


 みんなでひとしきり笑った。


 最後に浜辺が言った。


「詩人を連れてくるべきだった。ってか。」


 その言葉を聞いて小林が言った。


「いや、この神々しさを表すには『言葉』なんてものじゃ足りないんじゃないかな。」


 星の胎動はそう話している間も絶え間なく続いていた。





 レイとミライは大学の門から出ようとしていた。


 正門に続く道に沿って、咲く桜がきれいだった。


 その桜の先には月と星空が広がっていた。


 ミライがレイに聞いてみる。


「これもやっぱり計算されてるのかな。」


「今日のを見て、何か確信っぽい感覚を持ったよ。」


 同じように上を見つめるレイがそう言うと、ミライはそのレイを見て言った。


「あたしも今日のは衝撃的だったし、確信持ってしまったな、なんか。」


 そんな話をしているところに、門の外でスピーチしている実験設備反対活動の声が聞こえてきた。


「未だにあの爆発事故の原因は不明なのです。


 何故か。あれは科学に対する神罰なのですから。


 彼らは科学で全てを理解できると言う。


 だが、そうではないのです。


 神の声を聞いたものはただ一人。


 彼らの行動はおこがましいかぎりです。」


 レイとミライがその前を通りすぎようとしていた。


 その時にふとレイがスピーチをする人に目を向けてしまった。


 ちょうどスピーチをする人もレイの方を見て、目が合ってしまった。


「そう思いませんか、そこの学生!」


 レイはさっと目を伏せて、ミライと一緒に早歩きで通りすぎた。


 スピーチの人はじっとレイを目で追いかけた。


 レイとミライが通りの角を曲がり、見えなくなったところで再びスピーチの声が聞こえだした。


「レイ君、気を付けないと、さっきの人は知らなさそうだったけど、一応レイ君は有名人なんだからね。」


「うん。分かった。気を付けるよ。」


 そう言うと二人はまた歩きだした。


 レイは少し視線を落として言った。


「爆発事故の原因か。」


 ミライにはレイの顔から元気が失われたように見えた。


 ミライは雰囲気を変えるようと話題を変えた。


「そう言えばさ、最近面白い映画があるんだって。


 知ってる? 『量子対称性を破る彼女』って映画。」


 レイはミライを見て、ミライが自分を気遣って話題を変えたんだと気がついた。


 と同時に、レイはこういう時に波多野も話題を変えていたことを思い出し、その想いに答えなければと思った。


「あー、CM見たよ。大学の食堂で。


 10代から30代女子に一番人気なんだってね。」


「うん。10代、20代男子にもね。ちょっと面白そうじゃない?」


 レイはミライが何かを期待して聞いてきたのかもと思った。


(これって誘った方がいいのかな。。。)


「あっ、あの、、、」


「うん。」


「えっと、あの、、」


「、、、」


 ミライがレイを見ていた。レイは視線をキョロキョロさせていた。


「あの、えーと、その、映画、、、見に行かない?」


 ミライが嬉しさを少し顔ににじませながら答えた。


「うん。行きたい。」


「じゃあ、今週の日曜日にでもどお、かな?」


「うん。分かった。楽しみだね。」


 心なしかミライの笑顔がいつもよりレイの心を軽くした。


<次回予告>

有機物詳細計算が開始された惑星。

そこでは絶え間なく数えられないほどのTry&Errorが発生する。

それは我々生命の希少性を証明するものでもあった。

ひとまずの落ち着きを見せたプロジェクト。

映画を観に行くことになった柊レイと夏目ミライ。

二人の関係にも変化が訪れるのか?

次話サブタイトル「空集合からの第一歩」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

柊レイが選んだ惑星はプレートテクトニクスという現象が起こっている星でした。なぜこの現象がある星が奇跡の星かということを説明したいと思います。

これに関してあまり記述してないですが、この現象はプレートの移動において、プレートがプレートの下に潜り込む際に海の水を引き込むことで、水の層ができ、そのお陰でプレートがずれ続けられるというものです。

ずれ続けたプレートは、やがてプレートの下に溜まり、ある時溜まったプレートの塊は惑星のコアに沈みます。

プレートの沈み込みを受け、圧力が高まったコアは逆に内部の物質を地表に押し上げ、新しいプレートを作ります。

このように、磁性体の金属が溶けたコアが惑星内部、表面で循環することで惑星に磁場が生じます。この磁場は恒星からの磁気嵐を防御する壁となり、地球では生物を守る盾となってくれました。

潤沢な液体としての水があり、プレートが動き、コアに十分な磁性体が含まれている。この条件が整っている星。まさに奇跡の星ですね。

さて、本編ですが、この星で何が起こるのでしょうか。

また、柊レイと夏目ミライはデートに行くようです。こちらもどうなるのでしょうか。

次話サブタイトル「空集合からの第一歩」。乞うご期待!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ