∫ 5-5.世界の真実 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
レイは部屋に戻ると、すぐに解析データを見た。
三分割されていたデータの後ろ二つをじっと眺めた。
レイは時折、ふと波多野のことを思いだした。波多野の声が聞こえる。
「レイ!大丈夫か?」
「レイ!無理すんなよ。」
「レイ!」
「レイ。」
様々な表情の波多野がレイには見えていた。
レイの目に涙が溢れてくる。
その時、波多野の母親の言葉を思い出した。
(頭の片隅にりょーちゃんのこと、浮かべてやってください。)
「りょーじ。。。」
レイは一言言って、涙を拭い、作業を続けた。
データ内の符号と思われる部位が5930bitずつで繰り返されていた。
レイは頭の中でそのデータの内容、そしてそれが持つ意味を悟った。
(ヒッグス軸座標291bit)
+(質量291bit+質量の符号2bit)
+{ (位置196bit+位置の符号2bit)×方向3軸
+(速度196bit+速度の符号2bit)×方向3軸
+(回転196bit+速度の符号2bit)×方向3軸 } × 正負虚3階層
= 5930bit
位置、質量、ヒッグス軸座標全てが離散的に整数で示され、そして、質量に使われているbit数、そして位置などに使われているbit数はまさに今のプロジェクトと全く同じであった。
レイは小さい声で言った。
「やっぱりだ。」
レイは確信を持った。
符号と思っていた箇所は質量の負、そして虚を示していることを。
負の世界の物質を示すデータ、虚の世界の物質を示すデータが書き込まれていたため、その符号が繰り返し現れていたのだと。
レイはまた波多野のことを思いだし、さらに涙が溢れてきた。
必死で拭いながらそのデータをまとめるプログラムを作り始めた。
「りょーじ、ぼく、やるよ。」
レイはひどく目を赤く腫らしながらも、朝から研究室に足を運んでいた。
研究室には学長や理事長がすでにいて、教授、准教授が亡くなった今、研究室をどうするか、協議していた。
糸魚川教授のプロジェクトは大学にとっても莫大な補助金を受け取ることのできる一大プロジェクトだっただけに、それをどうすれば続けられるかが焦点だった。
学長や理事長がレイを見つけ、レイに近づいてきた。
「やあ、柊くん。お呼び立てしてすまないね。」
ふとレイの目を見た学長が心配した。
「身体、大丈夫かね?無理はいかんよ。もしきついなら話はまたあとでも。」
そう言われたが、レイは淡々と答えた。
「大丈夫です。心配は要りません。ぼくは大丈夫です。」
学長と理事長はレイに少し鬼気迫る感覚を覚えた。
二人は少し目を見合わせたが、その後、すぐに学長が続けた。
「そうかね。。。じゃあ、ちょっとこっちで話をしたいんだが、大丈夫かね?」
「はい。」
そう言うと、学長と理事長はレイを教授室に招き入れた。
先に奥に入っていった理事長が振り向きつつ、話し始めた。
「今回は大変なことになってしまったね。
教授、准教授の件、君も肩を落としていることと思う。
だが、我々は立ち止まることなく進まなければならない。
君にもそれは分かってもらえると信じている。
ただ誰か教授を据えないことには進まないのも事実だ。
そこで、君には誰か適任なものがいれば、紹介してほしいんだがね。」
しばらく沈黙の時間が流れた。
「あっ、もちろんすぐとは言わんよ。候補の者がいないわけではないからね。
でも、今や君がやり易いのが一番だと思っている。
まあ、この一、二週間くらい考えてもらって、いれば、紹介してほしい。」
「分かりました。考えてみます。」
レイがそう答えると、理事長と学長は少し安心してレイを解放した。
「ありがとう。よろしく頼むよ。」
学長がそう言ってレイの肩をポンポンと叩き、レイを教授室の外に導いた。
レイは旧研究棟の情報端末室に向かった。
情報端末室に入った時にはすでに小林も浜辺もいた。そしてミライも。
入ってきたレイの目が充血しているのを見て、ミライははっとした。
「ちょっ、、、大丈夫?」
駆け寄るミライをしっかり見つめて、レイが答えた。
「うん。ぼくは大丈夫だよ。もう、大丈夫だよ。」
「そう?じゃあ、いいけど。」
あまりにじっと見つめられたので、ミライが少し照れた。
そのやりとりを小林も浜辺も見ていた。
「ミライさん、小林さん、浜辺さん、ちょっといいですか。」
そう言うと、レイは掌を自分に向けて、自分のBCDのデータを開いて、みんなにデータを共有した。
三人がレイのところに集まり、各々が自分の画面でそれを見た。
みんなが見たのを確認して話を続けた。
「これはぼくの父が受信した宇宙からの信号、データです。」
「えっ?レイ君、これって。。」
「うん。実はぼく、このデータを父さんの遺品から見つけて、解析をしてたんだ。」
それを聞いて、小林が聞いた。
「これって国家秘密、っていうか、国際的な機密情報じゃないんですか?」
「まあ、そうですね。」
浜辺がそのやり取りを聞いて驚いた。
「私が言うのも何ですが、しれっと恐ろしいことをしますね。さすが、柊先生。。。」
「私が言うのもって一応、自覚してんだ。」
浜辺の方を少し見て小林が言った。
レイは少し笑って続けた。
「これらのデータは三部に分かれていることが分かりました。
そして、一部は素粒子の物性についてだということは突き止めていたんですが、昨日の夜、いや、実際にはあの爆発事故の日、残りの二部のデータも何であるかが分かりました。」
ミライがその言葉を聞いて、思い出した。
「あっ、あの時、全部分かったって?」
「うん。一つはこの二部と三部がダークマター、ダークエネルギーの正体だったってこと。」
「えっ?これが??」
「このデータは二部目も三部目も、29個の数値を一つの単位として、それを羅列したものになってる。
そして、その29個の数値の1つ目のデータは符号なしデータ、2つ目のデータは二部目は必ず負の値、三部目は必ず虚数の値になっています。」
「負の値と虚数?」
小林は全く話が読めなかった。レイは続けた。
「そして、その最初のデータは整数291bit、2つ目のデータは整数291bitと符号2bitの組み合わせ、そしてその後のデータ27個は整数196bitと符号2bitになっているんです。」
それを聞いて、浜辺が反応した。
「それって。。。」
「そう。今ぼくたちが扱っているヒッグス軸、質量、位置、速度、回転のbit数と同じなんです。」
ミライが驚嘆の声をあげる。
「まさかそんなことって。」
「うん。ぼくも驚いた。でも、これこそが真理の証なのかもしれない。」
そこで、小林がまだ納得が行かず、質問する。
「でも、なんで整数なんです?実数ではなくて?」
「はい。実数という値は小数部分と10の指数の値を分けて処理しています。
ですが、この十進法に基づいた値というのは、そもそも我々がたぶん指が十本であることから来ていて、我々地球人が作ったルールです。
ですが、整数は宇宙全体で等しい数字であり、距離においてはプランク長を最小単位として、その長さで宇宙を示すことができるんです。
質量ではエレクトロンボルトのエネルギー、つまりその質量を最小単位にして示した値です。
質量は相対性理論からエネルギーと等価ですから。
だから整数で示すことができるんです。」
その話を聞きながら、浜辺が問いかける。
「じゃあ、この数値を入れたら正しい宇宙が完成するんですか?」
みんながレイの顔を見る。
レイはみんなの顔を見回して答えた。
「残念ながら、今の理論では難しいと思います。」
その言葉を聞き、ミライが半ば確信した様子で問いかける。
「そういえば、この前、宇宙項も見直す必要があるって。」
「うん。その通り。
この前、あの爆発の前、気がついたんだ。あの宇宙項が間違っていることを。
だから正しい式に創り替える必要がある。
負の世界、虚の世界を含めた完全な宇宙項を。」
レイの言葉に、次は小林が聞いた。
「じゃあ、その理論を作れば、宇宙が…」
「正しく動き出す。」
小林も浜辺も宇宙ができることだけに思いを馳せていたが、ミライは別の思いを言葉にした。
「それって、もしかして残りの6次元もすべて含めた本当の統一場理論ができるってこと?」
ミライが唾を飲み込んだ。
「うん。その通りだよ。それが頭に思い浮かんだんだ。
あの瞬間、全てが繋がったんだ。世界の全てが。」
青空のはるか上空ではその時も星々が輝いていた。
その時からレイとミライは二人で統一場理論の式を創り上げていた。
浜辺は散逸構造の速度改善を行っていた。
小林はコーヒーを淹れてみんなを応援していた。
<次回予告>
宇宙の真実を知った柊レイ。
波多野への想いを胸に、真理の式を完成させようとしていた。
その時、研究室には新しい教授が赴任してきた。
その新しい教授とは誰なのか?
そして、その教授の取る態度に柊レイは。。。
次話サブタイトル「美しい数式=シン統一場理論」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
とうとう全てを理解した柊レイ。そして、全てを含有した統一場理論が完成目前まで来ました。
さて、宇宙を示す統一場理論は本当に完成するのでしょうか。
次話サブタイトル、「美しい数式=シン統一場理論」。乞うご期待!!




