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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
35/66

∫ 5-4.大きすぎる代償 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

「じゃあな、レイ」


「待って、りょーじ。いっちゃダメだ!」


 歩いていく波多野を追いかけようとレイは必死で走る。


 なのに全然追い付けない。


「待って、りょーじ。待って!」


 次の瞬間、目の前が真っ白になり、波多野が飲み込まれてしまう。


 レイは必死に手を伸ばすが届くことはなかった。


 そして、目が覚めた。


「りょーじ!」


 レイは叫びながら手を上に挙げていた。


 レイの目は涙で一杯だった。


 天井がぼやけて見えたが、いつもの天井でないことは分かった。


「気がついた?」


「ここは?」


「あたしんち。」


「ぼく、なんで?」


「昨日のこと、覚えてる?爆発事故のこと。」


 少しの沈黙の後、レイが答えた。


「うん。」


「あの映像を見た後、あんた、気を失ったのよ。


 幸い呼吸はしてたから、小林さんと浜辺さんに手伝ってもらってうちまで運んだの。


 身体、大丈夫?」


「うん。それより、実験施設は?」


「衝突のグラウンドゼロから半径五百メートルが完全に消失してしまったみたい。


 アンドロイドが現地を調査中らしいけど、今のところ、生存者は見つかってない。


 あの実験の立ち会いに行った人はたぶん全員。。。」


「じゃあ、りょーじは。」


 ミライは答えられなかった。


「ぼくのせいだ。」


「なんであんたのせいなのよ。」


「だってぼくがりょーじに行ってもらったから。ぼくが行ってればりょーじは。」


「あんた、ばかぁ!?そんなこと言ったって始まんないじゃない。」


「分かってるよ。しようがないことくらい分かってる。でも、でも。。。」


 レイの目に再び涙が溢れ出す。


 それを見て、ミライの目にも涙が込み上げる。


「まあ、しばらくは何をゆっても考えちゃうだろうし。


 でも乗り越えるしかないのよ。


 あたしでよければ手助けするから少しは頼ってよ。」


「ごめん。ありがとう。」





 レイは寄宿舎の自分の部屋でベッドに横になっていた。


 鏡には精神不安定と脱水症状であるアラートが表示されていた。


 そこにミライから連絡が入る。すでに十数回メッセージが入っていたが、全て開いてもいなかった。


 他にも小林や浜辺からも入っていたが、それも未開封だった。


 しばらくした後、寄宿舎の門のところからの呼び出しが入った。


 ウォールディスプレイの隅にドアカメラの映像が写った。


 そこにはミライが写っていた。


 それでもレイは応じる気力が沸かなかった。


 画面には寄宿舎の保安アンドロイドの方に歩いていくミライの姿が写っていた。


 レイはそのミライを目では追っていたが意識して見ているわけではなかった。


 数分のちに次はドアのベルが鳴った。


 ウォールディスプレイにはミライと警備アンドロイドの姿が写し出されていた。


 警備アンドロイドは部屋にある機器の使用状況、レイのヘルスチェック結果からミライのレイを確認したいという問い合わせに応じていた。


 アンドロイドには人を生命の危機から助ける義務があるためである。


「レイ君、いるんでしょ?開けなさいよ。」


 警備アンドロイドが冷静な声で言った。


「柊レイ様、ドアを開けてください。


 一分以内に応答がない場合、あなたの生命の危機を回避するためにドアのロックを解除します。」


 レイはその気になればそのアンドロイドのアクセスを拒絶することも容易にできた。


 だが、その気力すら沸かなかった。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ。開けてよ。」


 そう言ってミライはドアをドンドンと叩いたが、それでも全く反応がなかった。


 アンドロイドがミライにドアの前から離れるように促した。


 アンドロイドがドアのまえに立つと、少し斜め上を見て、目の光がチカチカした。


 すると、ドアの取っ手がロックを示していた赤色から解除を示す緑色に変化した。


 それをミライが見て、アンドロイドがするより先に、ドアをスライドさせて開いた。そして、すぐに部屋に飛び込んだ。


 ベッドに横たわっているレイを見て、慌てて近づいた。


「ちょっと、レイ君!大丈夫?」


 レイはミライを見て、また涙が溢れてきた。


「ぼくがもう少し早く気づけば助けれたはずなのに。ぼくのせいだ。ぼくがりょーじを。」


「あんたのせいなんかじゃないって言ってるじゃない!」


「いや。ぼくのせいだ。ぼくがあんな提案を論文に出さなかったら、ぼくがあんな理論を思い付かなかったら、こんなことにはならなかった。」


 その言葉を聞いて、ミライはレイの胸に頭を押しつけて言った。


「そんなことない。あんたの理論のおかげで救われた人だっている。あたしがそう。


 あんたのやったことは素晴らしいことなのよ。それはあたしが断言できる。


 だからそんなこと言わないで。」


 そう言いながら、ミライはレイの顔を見た。


 ミライの目から涙が流れていた。


 レイはそれを見て、思い出した。両親の葬式のことを。


 ミライとその時に会った女性がオーバーラップして、ふっと心が少し落ち着いた。


 アンドロイドが水を持ってきていた。


「脱水症状が見られます。これを少しずつ飲んでください。」


 レイはアンドロイドを見て、水を受け取り、一口飲んだ。


「ありがとう。」


 その時、レイのBCDに波多野からのメッセージが届いた。


「りょーじからメッセージだ。」


「えっ?うそ?なんで?」


 レイはそれをとっさに開いた。


「波多野亮治の妹、波多野サクラといいます。明日、兄の葬儀を香川の家で行います。


 兄と仲の良かった方に来ていただけると兄もきっと喜ぶのではないかと思い、連絡をしました。住所は。。。。」


 その下には住所と日程が書かれていた。


 それを読んで、レイは内容をミライに伝えた。


「りょーじの妹さんから。明日、香川の実家で葬儀をやるから来てほしいって。」


「どうするの?」


「ぼく、行くよ。」


「あたしも行って良いかな。」


「もちろん良いと思うよ。」





 レイとミライは学生の時の制服を着て、香川の波多野の家に来ていた。


 周囲には田んぼが広がっていて、広い庭と周囲の壁で囲まれた家。


 いかにも田舎の一軒家だった。


 門には波多野と書かれた表札がかかっていた。


 門の前には(故 波多野亮治 葬儀)と書かれた立て看板も立っていた。


 レイはゆっくり門から中に入った。


 同じ地元の友達と思われる人や周囲の家の人たちもたくさん来ていた。


 門から玄関までの十数メートルの石畳に沿った列に並び、順番を待った。


 少しずつ玄関に近づいていく。


 玄関での受け付けに来ると、高校生くらいの女の子が対応していた。


 その女の子に香典を渡し、名前を書いた。


(柊レイ)


 その名前を見て、その女の子が反応した。


「柊レイさんですか。」


 ふっとレイは顔を上げて答えた。


「はい。もしかして。。。」


 女の子は頷いて答えた。


「はい。私が波多野サクラです。


 わざわざ来ていただいてありがとうございます。


 奥で父と母がいますので、是非声かけてください。」


「分かりました。」


 ミライも香典を渡し、名前を書き、家の中に入っていった。


 波多野の遺影の回りに花がたくさん飾られ、住職がお経を唱えていた。


 その横には力を落としたように座っている老夫婦がいた。


 葬儀に駆けつけた人たちは順番にお焼香を上げて、部屋を後にしていた。


 レイの順番が来て、お焼香を上げた。ミライも同じようにお焼香を上げた。


 お焼香をあげる時、レイの目から涙が溢れ出た。


 下唇を少し噛みしめ、何とか堪えようとしたが、そうしようとすればするほど、涙が溢れた。


 ミライもレイの様子を見て、同じように涙した。


 その姿を見て、座っていた老夫婦の女性が何かに気付いたようにレイの方に近づいてきた。


「もしかして柊レイさんですか。」


 レイはお母さんの顔を見るなり、さらに涙を流し言った。


「はい。お母さん。ぼくがりょーじを。」


 そう言うと、波多野のお母さんはレイの手を握りしめて、話した。


「りょーちゃんに本当に良くしてくれてありがとうね。


 ちょっと悪いんだけどもしばらく奥の部屋で待っといてくれないかい。」


 ミライと目を見合わせ、答えた。


「はい。分かりました。」


「良かった。じゃあ、こちらに。」


 そう言うと波多野の母親はレイとミライを居間の方に案内した。


「どうぞ、ソファーにでも座って、少し待っててくれますか。」


 レイとミライは案内されるまま、ソファーに座った。


 そして、波多野の母親はお茶を台所から持ってくると、立ったままで言った。


「じゃあ、少ししたら戻ってくるから。」


 そう言うと葬儀をやっている部屋に戻っていった。


 ミライがレイに話しかけた。


「ご両親、落ち込んでたね。」


「うん。」


「波多野ってやっぱり友達、いっぱいいたんだろうね。


 外、大学生みたいな年の人多かったね。」


「りょーじは本当に良い人だから誰からも好かれてたんだと思うよ。泣いてる人もいたし。。。」


 そういう話をしているとまたレイの目からは涙が流れた。


 ミライはそれを見て、レイの肩に手を置いた。


 しばらくすると、お経の声が聞こえなくなった。


 そのあと、ご両親と波多野の妹が居間に入ってきた。


「お待たせして、ごめんなさいね。」


 それを見て、レイもミライもさっと立ち上がった。


「あっ、大丈夫ですよ。どうぞ座ってください。」


「あっ、すみません。」


「遠くから大変だったでしょ?飛行機で来られたん?」


 母親が聞いた。それにレイが答えた。


「いえ、リニアで高松まで来て、そこからは在来線で。」


「あっ、そう。まあ、空港まで来られてもそこからは不便やしな。」


 その会話に妹が入ってきた。


「あの、お兄ちゃんからこの前の休みの時、レイさんの話をいろいろ聞かせてもらいました。」


「そうやな。あの子、ほんまにレイさんのこと、気に入ってたな。」


「どんなこと、話してたんですか。」


 ミライが聞いた。


「あの子な。あの大学行ってからずっと宇宙物理やりたい、やりたいって言うとったんやけど、希望の研究室入れるかどうか分からへんってようゆうとったんよ。


 でも、今回帰ってくるなり、『お母さん、聞いてや』って。『思ってた研究室に入れるようになった』って。


 ほんまに嬉しそうに話してくれた。」


 そう言うと、母親の目からじわりと涙が浮かんでいた。


「ほんでな。それは『柊レイっていう編入の特待生のおかげや』って。


『そいつに勉強教えてもらって、何とか研究室自由に選べる枠に入ることが出来てん』って。」


 母親が涙を拭く仕草をすると、父親がそっと母親の背中をさすった。


 母親が続けた。


「あの子、誰に似たんか、頭は良い方やったんよ。


 小学校の頃から高校卒業するまでほとんど一番で、でもあの大学はそんな子が集まったようなところやろ?


 やからか、たぶん思うようにいってなかったみたいやったんやけど、ほんまに嬉しそうな顔やった。」


 少し思い出しながらまた涙を浮かべていた。


 それを聞いていたレイも涙が流れていた。


「お兄ちゃん、私にも話してくれたんです。」


 妹も話し出した。


「『柊レイっていう天才がおってな、そいつ、めちゃくちゃ良いヤツで、勉強も出来るし、教えんのもめちゃうまいねん。


 でも話したらいろいろそのせいで辛い思いもしてきとるのが見えて。何かしてやれることないかなって。


 それなのに、おれ、しょっちゅう勉強教えてもらってて、ちょっとおれ、こいつのこと、利用してんのかって葛藤も持ってしまうけど、レイはそんなことないっていつも言ってくれてた。何かしてやれることとかないかな』って私にも相談してたんです。


 兄はレイさんを利用とかそういう。」


「分かっています。りょーじは本当に良い友達でした。」


 レイは泣きながら何かと答えた。


「ぼくに嫌なことが降りかかりそうな時、いつも助けてくれて、本当に良くしてくれて。。。」


「あと、レイさんのおかげでね。今回の衝突実験にも行くことが出来るようになったって。夢が叶うんだって。」


「その件は本当にすみません。ぼくが行ってればこんなことにはならなかったのに。」


 両親がその話を聞いて少しの間を置いて、父親が静かにゆっくり話し始めた。


「実は、私たちも最初はそう思いました。いや、今もやっぱりそう思っているところは正直あります。」


 波多野の父親がふーと息を吐いて続けた。


「でも、亮治のあの目を思い出すと、あの子は本当にあの試験に立ち会うことが出来るようになって心から喜んでいたと思ったんです。」


 父親が母親を見ながら話していた目をレイの方に向けた。


「だからあなたを恨んじゃいけないんだと。


 亮治がいたらきっと怒られてしまう。そう思うんです。」


「すみません。本当にすみません。」


 母親が再び涙を流して両手で顔を覆った。


 それを父親が慰めるように背中を擦りながら話した。


「いえ、いいんです。あなたは自分を責めないようにしてください。


 それはあの子も望んでないはずですから。」


 母親は子供を失くした辛さと行き場のない想いを誰かにぶつけられたらどんなに楽になるか、だが子供の嬉しそうな顔を思い出すとそれもできずにいた。


 少し深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。


 レイもミライもその様子を見て、実際の苦しさの十分の一、いや百分の一も分かってなかったかもしれないが、それでも十分に苦しくなった。


 レイはいつまでも涙を流しながら謝り続けた。





 タクシーを呼んでくれて、家を出る時に波多野の両親、妹も一緒に門のところまで送ってくれた。


 最後に両親と妹に向けて会釈をした時、母親が思い出したように話した。


「そう言えば、りょーちゃん、こんなことも言ってました。


 レイさんは自分のやりたいことをやっていて、挫折もあるみたいだけど、すごく頑張ってるって。


 今のプロジェクトが終わったら、出来ることなら一緒にレイさんのプロジェクトもやってみたい。


 それが更なるおれの夢だって。


 りょーちゃんにとってあなたは希望だったんだと思います。


 もしできることなら、あなたのプロジェクトをやるときに、頭の片隅にりょーちゃんのこと、浮かべてやってください。」


 レイの目にまた涙が浮かんでいた。


「はい。必ず。今日はありがとうございました。」


 深々とお辞儀をして、タクシーに乗り込んだ。


 いつまでも両親と妹はタクシーの方を見ていた。


 泣き崩れそうな母親の肩を父親がぐっと抱きしめ、支えていた。


 座席でレイは泣いていた。そのレイの背中をミライがそっと撫でていた。





 レイとミライは寄宿舎まで歩いていた。


「明日からまたあそこ、行くでしょ?」


「うん。ぼくはりょーじのためにも完成させないといけない。」


 ミライはレイの目に光が戻っているのを感じて、少しホッとした。


「そんなに背負いすぎないでいいのに。まあ、今あんたに、なに言っても変わんないんだろうけど。」


 レイは少し立ち止まって星空を見上げた。


 レイの眼にはこの星空が驚くほどクリアに見えた。


<次回予告>

波多野を失い、気力を失った柊レイ。

だが、その柊レイを救ったのは波多野だった。

悲しみを乗り越えるべく、柊レイはまた宇宙創成に取り組む。

波多野のことを想いながら。

次話サブタイトル「世界の真実」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

波多野のご両親を描く時、最初はレイにものすごく冷たく当たるように書いていました。私が親の立場なら分かっていてもそうしてしまうかなと思ったからです。

ですが、良く考えてみると、直前に実家に帰っていたこと、そして、爆心地は消失して何も残っていないこと、このことからご両親の中でも、まだ実感が湧かないのではないか、ひょっとしたら帰ってくるのではないかと思ってないかと考え、このような当たり方に変えました。

このシーンを読んだあとに、『親愛なる友へ』の手紙を読むと私は本当に泣けてきます。

さて、本編はどうなっていくのでしょうか。

次話サブタイトル「世界の真実」。乞うご期待!!


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