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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
34/66

∫ 5-3.11次元の謎と夢にまで見た実験 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。



波多野からメールを受け取った次の日の夕方。


再び全員が旧研究棟の情報端末室に集合していた。


ミライがレイに話しかける。


「そういえば、今日じゃないの?衝突実験。」


「うん。今日の正午だから、こっちの夜7時かな。」


「えっ?じゃあ、あと40分くらいじゃない?」


「うん。」


「波多野が行ってるんでしょ?あんたの替わりに。」


「替わりじゃないよ。りょーじが行くべきなんだ。」


「そうなんだ。まあ、あたしたちはあたしたちのプロジェクトを完遂させないとね。


今日が大きな節目になりそうだし。」


その言葉に小林も浜辺もレイの方を見た。


「そうだね。」


レイにもその感覚はあったが、言葉には出さなかった。


みんなの大きな期待と少しの不安で雰囲気が微妙な感じになった。


話題を変えるついでにレイが気になっていたことを浜辺に質問する。


「そう言えば、浜辺さん。ちょっと質問してもいいですか?」


「はい。何なりと。あっ、ステルス処理のことは企業秘密ですんで、それは…」


「いやっ、それじゃなくて。」


「それなら、なんでもどうぞ~。」


「浜辺さんのプログラムでは各粒子の位置計算に使うパラメータってどうなってますか。」


「前に柊先生が話してくれた通りですよ。


空間の歪みのヒッグス軸用質量1個と実際の質量1個、位置3個と速度3個、回転3個ですよ。


ヒッグス軸用質量と実際の質量はエネルギー換算で行っています。」


「ですね。で、それぞれは何bitで計算してますか。」


「なんかまずいんですか。」


「いや、ただ気になってるだけ。全然今の処理で良いと思いますよ。」


「位置、速度、回転はそれぞれ264bitです。


以前、柊先生が言ってたプランク長(※物理界の最小距離)で認識可能な宇宙の範囲196bitを元に、符号bitと少しステルス用ダミーbitを付与して264にしてます。


質量に関してはヒッグス軸用質量と実質量は、宇宙全体がeVエレクトロンボルト換算で291bitだって。


そこに同じように符号bitとステルス用ダミーbitを付与して392bitです。」


「そんなに大きくなってるんですね。。。」


「はい。」


「符号には正、負、虚数のため2bitですか。」


「いえ、三次元の位置特定なので、正、負だけなので、1bitです。」


「あっ、そうか。」


レイはそう返事しながらも、なぜ虚数の符号を考えているのか自分でも不思議に思った。


さらに浜辺は続けた。


「あとですね。」


「えっ?まだあるんですか。」


「はい。物理だけじゃなくて、化学側の処理も必要ですので、各粒子の状態を示すbitを用意してます。


これは処理量を落とすために必須なんです。」


「あっ、そうか!それって何bitですか?」


「176bitです。」


「176bit!」


「はい。なので、全部で392+392+264×9+176=3336 bitですね。」


「なるほど。」


レイはすっかり化学の体系化処理が入っていることを忘れていた。


もちろん宇宙創成の式には組み込まれている。


計算はしっかりされているはず。


だが、なぜかそれらのbit数が気になった。


(264、196、291、392、3336。。。)


レイの頭の中でふと昨日のデータが思い起こされる。


ある記号が繰り返されていた単位は。。。


そう考えていた時に、みんなのBCDに(ATTENTION !)の文字が浮かんだ。


「そろそろ結果が出そうですね。」


「僕はコーヒーでも準備しておこうかな。」


そういって小林はコーヒーを入れ始めた。


小林を除く、他のメンバーはみんなBCDを見始めた。


レイも一旦はBCDを見た。


だが、頭の片隅で昨日見た数字とも記号とも取れるものについて考えていた。


264、196、291、392、3336。。。


そして、超新星爆発が始まった。


青白い放射が世界を埋め尽くしていく。


いつ見ても美しい放射。


そして、しばらく経った後でもレイは考え事をしていた。


ミライはレイが緊張しているのかと思い、声をかけた。


「見ないの?元素分布?」


「あっ、そだね。確認しないとね。」


そういうと、いつもと同じようにレイは元素分布を確認した。


「そんなバカな。。。」


「何%なの?」


レイの異変を察知したミライは問いかけた。


誰もが100%に限りなく近い数字を予想していたが、レイが共有したウインドウに示された値は、それよりも遥かに低い数字だった。


(56.1%)


「そんな。。。」


ミライは言葉を失った。


「なにかプログラムが間違えてるんでしょうか。。。」


浜辺は先程のレイの質問がそれに関係するのかとふと思った。


「いや、今の法則自体が何か違うんだ、きっと。」


コーヒーを淹れたグラス容器を手にもって、小林が三人の方に歩いてきていた。


その時、珍しくレイが感情を爆発させた。


「くそーーーーー!」


レイは机を力一杯げんこつで叩いた。


部屋中に響き渡るくらい大きな音がした。


ミライも浜辺もレイの感情爆発に驚いて、言葉を失った。


コーヒーを運ぶ小林はウインドウを開いてなかったため、異常な数値が出たことに気がついてなかった。


そのため、レイの突然の行動に心底驚いた。


そして、小林は持っていたグラス容器を落としてしまった。


ガラス容器が床と衝突し、ガラスが粉々に砕ける音がした。


ガラス容器に入っていたコーヒーが床にこぼれた。


その音に逆にレイが驚き、正気を取り戻した。


床にこぼれたコーヒーは床の若干の傾斜に沿って流れ出した。


「あららら。。。すみません。掃除しないとですね。」


小林が割れた破片を取り上げていた。


その間もコーヒーは流れていき、部屋の奥にあった、何か重いものを落としたような窪みまで行くとそこに流れ込んでいた。


「あんなところまで流れていってますね。」


小林が見ていた先をレイも見た。


窪みに流れ込み、落ち込んでいくコーヒー。


それを見たレイがハッと何かに気がついた顔をした。


そして、突然走って部屋を出た。


「どうしたの?」


その慌てっぷりに驚いて、ミライも浜辺もレイを追いかけた。


「急にどうしたんです?」


その様子を見て、小林も後を追った。


レイは急いで階段で下の階に降り、ちょうど情報端末室の下にある部屋に入った。


天井からコーヒーが染みだし、ポタポタと床に落ちていた。


その時、レイの頭の中にビジョンが浮かぶ。



(プールで回りながら穴に落ちていくゴムボート)



(バッティングセンターで中央の窪みに入っていくボール)



(床の窪みに落ち込んでいくコーヒー)



そして、落ち込んだ先にまだ広がる世界。



さらに昨晩見た解析結果と先ほどの浜辺のパラメータの話、そして、ミライの言った言葉が思い浮かぶ。



(ダークマターに逃げられちゃったから、もう秘密が聞けないじゃない!)



最後に子供のころに見た父親の会見の言葉。



(これを送ってくれた星の文明に関する内容であるとか、もしくは宇宙を構成する理論であるとか、)



レイの中で一つの世界が組み上がっていった。


「あ、あっ、あっ」


 まるで自動的に組みあがっていくパズルを見ているようで、レイの口から思わず声が漏れ出ていた。


それは今までの理論を遥かに越える明確な世界だった。


この世界が正の質量、そして負の質量を持つ世界、そしてさらにその奥に虚の質量を持つ世界。


それらが全てヒッグス軸という次元で繋がっている。


それらは全て個別の3次元の空間を持つ。そして、時間。


それが11次元の正体だというイメージ。


それこそがこの世界!



挿絵(By みてみん)



負の物質がお互いを引き合わせ、過密状態、高いエネルギー密度となった時、正物質の世界に繋がり、そのエネルギーの波によって正の物質を生成する。


虚の物質も同じだ。虚が負を生み、負が正を生む。まさに数学と同じように。


そして、正の物質が過密状態となった時にも、負の世界と繋がるゲートが開く。


その時、負の物質が正の世界に入り込む。


すると対消滅を起こし、激しい爆発が伴う。


そのイメージが一瞬で頭の中に出来上がっていったのだった。


さらに、ずっとレイが解析を続けていたデータは現宇宙出発時の負の世界、虚の世界の物質パラメータであることも。


レイは頭の中で、その世界を構築するために尋常ではないエネルギーを使って、息をきらすほどになっていた。


「ははは。そういうことか。」


ミライと浜辺がレイに追い付いた。


天井を見上げて、少しニヤケているレイを見て、ミライが問いかけた。


「何がそういうことなの?」


「分かったんだよ。全てが。隠れていた6次元も含めて全部。」


「全部が?本当に?」


「うん。間違いない。あの宇宙項の部分とか、いろいろ修正しないといけない。」


「えっ?全部ってどんななの?」


その話をしているところに小林も到着した。


その時、レイの頭にとてつもない不安がよぎった。


「やばい!衝突実験、とめなきゃ。」


「えっ?どういうこと?全部分かったとか、衝突実験止めるとか。」


「ごめん、今細かい話は抜きで。後でするから。


どうすりゃいい?止めなきゃ、早く。」


レイの焦り方が尋常でないことを物語っていた。


小林が冷静に返した。


「教授に電話してはどうでしょう?」


「そっか、そうですね。」


そう言うと、レイはBCDの電話帳を開き、教授を選択した。


宙に浮いている(CALL)ボタンをすぐさま押した。


教授を呼び出す間に時計を見た。時刻は6時58分だった。


「あと、2分しかない。」


その時、教授が電話に出た。


「もしもし。糸魚川だが。」


「糸魚川教授、ぼくです。柊です。」


「ああ、柊くんか。どうしたのかね。今、まさに実験が行われようとしているところだよ。」


「すみません。教授、話を聞いてください。


即時、実験を停止してください。お願いします。」


「何を言ってるのかね?やめられるわけないだろ?


何だね。君も立ち会いたくてそんなことを言ってるのかね?残念だったね。」


「そうじゃないです。大変なことが起こる可能性があります。


爆発してしまうかもしれない。即時停止をお願いします。」


「今さら何を言ってるのかね。君のわがままにはもううんざりなんだよ。


ではね。せいぜい後悔するがいいよ。」


そう言うと教授は電話を切ってしまった。


「やばい。どうしよう。」


「衝突したらどうなるの?」


「爆発する。たぶんあの一帯が蒸発する。」


「えっ?じゃあ、波多野は?」


「やばい!」


「電話、電話。早く。」


「うん。」


そう言うと、レイはすぐに波多野に電話する。


呼び出しが開始されるやいなや波多野が電話に出た。


「おー、レイ。どした?」


レイは慌てて波多野に伝える。


「りょーじ、よく聞いて。すぐにそこから逃げて。今すぐ。」


「えっ?どういうことだよ。」


「そこが爆発する。早く。」


その時、電話の裏でカウントダウンの声が聞こえてきた。


「10、9、8、7、」


「早く逃げて!!」


電話越しにレイが叫んだ。


波多野の走る音がした。カウントダウンの音声も聞こえる。


「3、2、1、、、」


そして、次の瞬間、一瞬だけ何かが裂けるような音がした。


そして、通話が切れてしまった。


レイが叫ぶ。


「りょーじ、りょーじ!!」


何度かけ直しても電話が繋がらなかった。


浜辺が一つのニュースを見つけた。臨時ニュースだった。


アンドロイドが伝えている。


「ジュネーブの素粒子研究所で大爆発が発生しました。


今日は4つの陽子を光速に近いところまで加速させ衝突させる実験の真っ最中でした。


その実験で何かのトラブルが発生したと考えられます。


ただ投入されるエネルギーをもってしてもこの規模の爆発を引き起こすことは困難であり、テロの可能性も示唆されています。


本実験には以前から反対する団体なども多く、そういった犯行声明などがないか。現在調査中です。」


そう伝えていたところに、その瞬間の映像が入ったと伝えられ、映像が流される。


映像には加速用のリングの一部が映っており、カウントダウンがされていた。


加速用の磁場のためか、映像が時おり乱れていた。


そして、カウントダウンが終盤にさしかかる。


「3、2、1、」


次の瞬間、画面の少し左側から真っ白な光が画面一杯に広がり、画面を一瞬で覆い尽くした。


その後、カメラが別の角度になった状態で映像が戻ったが、一面焼け野原となり、衝突部だと思われるところは地面さえも丸くえぐられ、完全に消滅していた。


画面が真っ白になった後、十秒程度かかって爆音がしたため、そこは約4キロほど離れた場所であることが分かったが、そこですら全面焼け野原と化していた。


爆心地には大きなきのこ雲が発生していた。


レイは言葉を失い、へたっと座り込んでしまった。


<次回予告>

ついに宇宙の真理に到達した柊レイ。

だが、それと同時に、ジュネーブでの衝突実験で爆発が起こった。

実験に立ち会っていた波多野はどうなってしまったのか?

そして、柊レイに届く一通のメール。

その時、変わっていく柊レイの世界。

次話サブタイトル「大きすぎる代償」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

柊レイが全てを理解したのとほぼ同時に、ジュネーブの実験で大変なことが起こってしまいました。

果たして波多野はどうなってしまったのでしょうか。

次話サブタイトル「大きすぎる代償」。乞うご期待!!


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― 新着の感想 ―
この作品の一つのクライマックスですね。 未完成の理論でうっかり危ないことしてしまうという。 その道の人が集まっているところでの大惨事。 人的被害が大きすぎる……。 久々に読むこの作品。 引き続き読み…
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