∫ 4-6.帰郷前のあいさつ dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
レイは歩きながら、波多野とメッセージのやりとりをしていた。
手動入力から音声入力に変えていた。
(じゃあ、おれも学校行くわ。図書館でどう?)
「うん。いいよ。」
(じゃあ、図書館で。たぶん十分くらいで着くと思う。)
「分かったよ。待ってるね。」
オッケーのスタンプが送られてきた。
レイは図書館のロビーで待っていた。
波多野が図書館に入ってきた。
「ごめんな。突然呼び出してさ。」
「いや、いいよ。」
「休憩室行こうぜ。」
「うん。」
休憩室に着くなり、波多野が自動販売機でジュースを買った。
波多野のBCDに決済の表示が現れた。
「レイは何にする?おごるよ。」
「いいの?じゃあ、さっちゃんオレンジ氷結で。」
過冷却の飲料水がガゴッと落ちた。
そのショックで一部が凍り始めた。
波多野が取り出してレイに渡したときには少し容器が膨らみ始めていた。
「ありがと。」
「ううん。」
波多野もレイも缶を開けた。
シャーベット状のさっちゃんが少し出てくるのをレイがすすった。
その様子を波多野が見て少し笑った。
「それ、飲みにくくない?いっつも思うんだけど。」
「でも美味しいよ。このシャリシャリ感が最高だよ。」
「まあな。おれも好きだよ、それ。飲みにくいのだけ省いてな。」
二人で少し笑いあった。
波多野は話題を変えて、質問した。
「夏休みの間もレイのプロジェクトって、やってんのか。」
「うん。ずっとやってるよ。でも、全然うまくいかなくてさ。悩み中。」
「そっか、でも悩んでるって言っても、前ほど悪い状況でもない?のか?」
少し直球過ぎたと思いながら、レイが気分悪くしてないか見た。
「そうだね。まあ、ちょっとストレスにはなってるけど、前ほどじゃないかなって。」
「うん。そんなふうには見える。」
波多野は前ほど心を追い込んでいないレイの雰囲気を確認して、質問を変えた。
「あっ、そうそう。衝突実験の件だけど、やっぱりレイが行くのが良くないか?おれよりも。
だってこれってレイの論文から出発してるんだぜ。」
「うん。そうなんだけど。でもぼく、思うんだ。
こういうのって本当に興味のある人がやるべき、見るべきだって。
それに今ぼくは別のことで頭がいっぱいだし。」
「ああ。牧瀬さんからも聞いた。最近レイが心ここにあらずだって。
心配してたぜ。それにあの人、教授にうまく伝えられなかったせいでレイが行けなくなったって、責任感じてたみたいだったし。」
「そのこと、聞いてるんだね。」
「まあな。教授はある意味、レイに嫉妬してるのかもな。
それ聞いてさ、正直ちょっとガッカリした。
そりゃ、おれだってレイみたいに天才だったらなって思うけどさ。
それで、レイに冷たくするのってなんか違くないかってさ。」
「いや。でもまあ、俯瞰して考えると、最近少し分かるような気もするんだ。
ぼくみたいなポッと出がさ、今まで自分が築き上げてきたものを脅かす状況になったらって思うと、教授の反応って当たり前なんじゃないのかなって。
その場にいると、ここまで思えなくて、教授に腹立つというか、モヤモヤしたものが込み上げちゃうんだけどね。」
「すげーな。お前。達観してるというか、なんか悟りでも開きそうな勢いだな。」
「全然そんなことないよ。」
レイが顔の前で手を横に振りながら笑って答えた。
「分かってはいてもやっぱり教授にはめちゃくちゃ腹立ててるしね。」
「そっか。それでもさ、おれはやっぱりレイが行くべきだと思うんだ。
おれからも教授に話してみようかと思ってるんだけど。」
「いや。本当にいいんだよ。
ぼくね。教授からりょーじの名前が出た時、本気で心から嬉しかった。
だってりょーじ、これが一つの夢って言ってたから。
ぼくみたいに興味がない人間は行くべきじゃないし、見る資格もないと思うんだ。
本当に心からやりたいと思ってる人が行って見て感じて、そこから得られるものって興味がない人の何倍も違うと思うから。
だから、ぼくはりょーじに行ってもらいたいんだよ。」
そのキッパリした物言いに波多野は少し感動すら覚えた。
波多野はしばらくじっとレイを見た後、最後にもう一度だけ質問した。
「わかった。本当におれが行ってもいいんだな。レイ、本当に後悔しないか。」
「当たり前だよ。逆にここでぼくが行ったらそっちの方が後悔しそうだよ。
りょーじに行ってもらった方が良かったって。」
「本当に本当だな。」
「うん。本当だよ。」
答えるレイの目を見て波多野は決心した。
「はあ、つくづくレイってスゲーなって思うわ。
この世紀の大実験よりも興味が湧くことをやってるとか。
分かった。おれ、行ってくるよ。レイの分までしっかり見てくる。」
「うん。お願い。」
「それはそうと、この前、夏目さんに聞いたけど、結局答えてもらえなかったんだけどさ。」
「うん。」
少し決心をした表情で波多野が聞いた。
「そこまでレイを虜にするプロジェクトって一体どんなプロジェクトなのかなって。」
「あっ。」
レイは一瞬言葉に詰まった。
少しの沈黙の後、レイは波多野に話し始めた。
「実はね。これは誰にも言わないで欲しいんだけど。」
「うん。」
とうとう聞けると感じ、波多野は唾を飲み込んだ。
「実は仮想空間上に宇宙を作ろうとしてるんだ。
知りうる全ての法則を詰め込んだ宇宙を。」
波多野はそれを聞いて驚いた。
「宇宙?宇宙ってこの宇宙を?」
「うん。そうだよ。」
波多野はちょっと不思議そうな顔をした。
「はあ、宇宙か。天体とかの計算?
でもそれってそんな面白いものなのか。
なんかいろんな研究機関でやってるやつだろ?」
「ううん。計算は天体じゃないよ。全原子、全粒子だよ。」
それを聞いて波多野は目を見開いた。
「えっ?マジかよ。。。よくSFに出てくるやつを本気でやってるのか。
えっ?でも計算量が。。。」
少し声が大きくなってしまい、周囲を見回した。
先ほどレイに誰にも内緒と言われていたことを思い出した。
ただ、夏休みの期間であったので、そこまで人は多くなかった。
「はあー、想像を絶する。。。さすがレイだわ。
いろんな疑問が浮かぶけど、まあ、それもレイのことだ。何か策があってのことなんだろうな。」
波多野はそう話ながらふと思い出した。
「あー、あの飲み会のあの子の話。」
レイが飛び出した時のことを波多野が思い出して繋がった。
「ふふふ。なるほど。それで飛び出したんだな。
はー、スゲーわ。世界を創るか。ははは。」
波多野は小さい笑いから始まり、最後には声を出して笑ってしまった。
「分かった。マジで吹っ切れた。おれ、ジュネーブ行ってくるわ。
レイも、頑張れよ。」
「うん。頑張るよ。」
波多野は、はあと息をはいた後、さらに話題を変えた。
「そうだ。明日からさ、ジュネーブ行く前日までちょっと実家に帰ろうと思ってんだ。」
「あっ、そうなんだ。そう言えば聞いたことなかったけど、りょーじの実家ってどこ?」
「香川だよ。自然が豊かでさ。ここもまだ結構だけどここよりももっと。
四年になったら、なかなか帰れなさそうだし、研究室第一志望のところ入れたし、ちょっと親にも報告しないとって。
うちの母さん、心配症だしさ。」
はっと気づいて言葉を止めた。
「あ、すまん。」
レイは波多野が話すことを遠慮したのに気づいて答えた。
「いや、いいよ。全然気にしないで。
りょーじの実家、見てみたいな。香川って行ったことないし。」
「いつか泊まりにこいよ。うまいうどん屋も近くにあるしな。連れてってやるよ。」
「うん。絶対行く。」
「うん。絶対案内するわ。」
二人が図書館から出てきた。
「今日、話せて良かったわ。ホントあんがとな。来てくれて。」
「ううん。明日からの帰省、気をつけてね。」
「うん。さんきゅーな。あっ、それとさ。」
「うん?なに?」
「いや、なんでもない。レイ、頑張れよ。」
「うん。りょーじもね。」
そういって波多野はレイと別れた。
<次回予告>
レイと帰郷前のあいさつを交わした波多野。
彼は実家に帰った後、その足でジュネーブへと旅立つのだった。
そして、ついにあの警部補が浜辺の元を訪ねる。
「アンドロイドの憂鬱」の正体を暴くべく。
次回より5章「夢にまで見た実験と美しい数式」突入。
次話サブタイトル「とっつあんと名探偵」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
さっちゃんオレンジ氷結ですが、これはお酒ではありませんので、あしからず。柊レイは下戸なので、お酒飲んだらまた暴れます。(笑)
これは自動販売機内で過冷却水を作り、購入した時、ジュースの缶が落ちた衝撃で内容物が氷始める仕組みの飲み物です。
作中の2076年では(特に書いてはいませんが、)核融合技術が出来てはいますが、まだそれほど優れた効率ではなく、地球温暖化の影響が非常に強く残っています。8月ともなるとどこも40℃を超える温度となり、こういった飲み物が流行ったという背景を考えています。
本編ですが、とうとう波多野がジュネーブに行く決意をしました。
柊レイはいつ正しい宇宙を創ることができるのでしょうか。(実は創れないかもしれませんが。)
次回から5章「夢にまで見た実験と美しい数式」に突入します。
次話サブタイトル「とっつあんと名探偵」。乞うご期待!!




