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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
30/66

∫ 4-5.赤い彗星と深くなる憂い dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 宇宙創成のテストは相変わらず上手くいってなかった。


 ダークエネルギー、ダークマターの移動条件を変えても、うまく元素分布がこの世界と一致しなかった。


 少し変わった点はあった。


 なぜだか最近、計算速度が上がっていた。


 今まで10日ほどだった最初の超新星爆発までの日数が最近では3日ほどになっていた。


 情報端末室で突然、浜辺が声をあげた。


「あっちょん!」


 その声にレイが反応した。


「どうしました?」


「赤い彗星か!?」


「赤い彗星?」


 みんなにはさっぱりだったが、浜辺が答えた。


「あっ、いえね。最近何か計算速度がヤメッタ速いなと思って調べたら、3000チコ、つまり以前の三倍くらいの数値が出てるんです。」


 レイもそのことは気になっていた。


「確かに、やけに最近速いなとは思ってたんです。


 でも、内部の経過時間にはそれほど差はなかったので、何か浜辺さんが新しい処理方法でもやったのかなと思ってたんですが。」


 レイは浜辺が触っている端末の方に近づき、画面を見た。


「何かしたわけではないんですか?」


「いえ、何もやってないです。


 新しい散逸構造処理を作ってはいますが、まだ投入前で。


 なのに処理が早くなってるんです。その原因がさっぱり。。」


 次にミライが浜辺の横に来て聞いた。


「あんたが作ったんでしょ?」


「そうですけど、他の機器には余力を少し分けてもらうだけですし、その部分は何も変えてないんですよ。」


「もしかしてこれと何か関係があるんでしょうか。」


 そういうと小林が自分のBCDから一つの記事を摘まんで、地面に敷いている電子ペーパーに落とした。


(アンドロイドの憂鬱!?人間への反乱を企てているのか?)


「アンドロイドが考え事をしているようだという記事のようですが。」


「まさか、私が使っているところは余力部分でしかないんですよ。


 ましてフリーズするようなことは起こらないですよ。」


「まあ、関係ないならいいですけど。」


 そういって小林は記事に描かれている感慨に更けるアンドロイドの表情を眺めた。





 金形警部補はまたkinet-dyne社に来ていた。


 受付のアンドロイドが前と同じ会議室に金形を通した。


 金形警部補は会議室で待っている間にBCDに一つの記事を表示させ、それを眺めていた。


(アンドロイドの憂鬱!?人間への反乱を企てているのか?)


 そこに防疫技術開発部長が入ってきた。


 防疫の技術開発部長を見て、金形はBCDへの表示で気がついた。


 開発部長はアンドロイドだった。


 その気付きに開発部長も気がついた。


「あっ、すみません。突然の来訪だったもので。


 いつもアバター出社でして、自分は自宅にいるんです。」


「あっ、そうなんですね。さすがkinetさんですね。」


「申し遅れました。私は防疫の技術開発で部長をしている博志Hティーウォーターです。」


 そう言いながら、アンドロイドが握手のために手を出した。


 それに応じるように金形も手を差し出して、握手した。


 ティーウォーターとの名刺交換も終わり、金形はいきなり本題に入った。


「単刀直入に言います。本件、本当に何も問題ないんですか。」


 金形は先ほどBCDに表示した記事をテーブルに写し出した。


 写し出された記事を見て、ティーウォーターは話し出した。


「あー、やっぱりその事なんですね。


 天馬本部長からあなたがこの件で、何か我々を疑っているようだと聞いてますよ。」


「いえ、別に私はあなた方を疑っている訳では。」


「ふふっ、冗談ですよ。」


 アンドロイドが少し笑うとまた真顔で話し始めた。


「確かに最近こういった現象が見られるのは事実です。


 ですが、ウイルス等が検出されていないのもまた事実です。」


「では、何もないと?」


 ティーウォーターのアンドロイドは人間特有の言葉の抑揚を完全に抑えて話していた。


 そのため、人間相手に反応する警察用心身状態観察アプリがアンドロイドには当然無反応で、常に(NoSignal)と表示されていた。


 金形は話に集中した。


「現段階ではそう言わざるを得ません。


 それに今のところこれによる被害なども出てはおりませんし。


 仮にこれが悪意あるウイルスによるものなら、すでにいろいろと大変な事象が起きてしかるべきですが、本当に何も起きていないのです。」


 ティーウォーターの言葉に、金形がさらに突っ込んだ質問をした。


「もしかしてアンドロイドが自我を持ったということは、考えられたりするんでしょうか。」


「すでにアンドロイドは自我を持っていますよ。」


 ティーウォーターは笑いながら答えた。


 金形はその答えに少しぎょっとなった。


 ティーウォーターのアンドロイドが少し前傾姿勢になり、テーブルに両肘をつき、手を口の前で組んで話を続けた。


「自我って何なんでしょう。


 ウイルスのような単純な思考プログラムですら、遺伝子から自己と他者を区別、理解し、自分の生存本能に従い行動し、太古の昔から現在に至るまで生存し続けている。


 小さい虫も、我々人間も、複雑さは異なるにしろ、考え、生きています。


 これらは全て自我と呼べるのではないでしょうか。


 自ら考えて行動するというのはプログラムに過ぎないのです。


 どこにその違いがあるのでしょうか。


 仮に知能が未来を予測することを可能とし、来る死を恐れ、それに対抗すべく、神を考えるところまで来た段階が自我であるとしても、すでに人類の作ったAIは自我を持っていると言えます。」


「なるほど。」


 金形は一言だけ答えた。


 その金形の鋭い目をティーウォーターは見て、話をもとに戻した。


「あっ、すみません。話をすり替えるつもりはないのです。


 本題の回答ですが、我々のアンドロイドには記事のような現象を発生させる、何か特別な処理もありませんし、ウイルスに感染した形跡も認められていません。」


「そうですか。」


 金形は予想通りの回答ではあったが、嫌な予感だけが拭えず、少し落胆した様子であった。


 少しの間の後、ティーウォーターのアンドロイドは口を開いた。


「まあ、もし誰にも気づかれずにこんなことが出来るとしたなら。。。」


 その言葉に金形は身を乗り出した。


「思い当たる人物がいるんですか?」


「いえね、そんなことは出来ないと思いますが、もし出来るとするならですよ。」


「誰です?」


「浜辺小春という人物とグレイ・フィッツジェラルド・ロズウェルという人物です。


 二人とも私よりも若いんですが、彼らが出てきてからというもの、アルゴリズムオリンピックにおいて、私の勝利は完全になくなりました。


 特に浜辺小春という人物は圧倒的です。」


 金形は聞きなれた名前に反応した。


「あー、グレイ・ロズウェルと言えば、あのアメリカの超天才児ですよね。


 数学のフィールズ賞を取ったかと思ったら、物理の新理論まで打ち立てたっていう。」


「そうです。そのグレイです。


 彼は数学や物理だけじゃない。プログラムにも精通しています。


 それも圧倒的な力量で。


 全く嫌になりますよ。


 ああいった天才たちを目にすると我々の存在意味は何なのかと。」


 無機質なアンドロイドの言葉が余計に憂いを誘った。


 続いて金形が聞きなれない名前について質問した。


「あと、すみません。もう一人の方ですが、浜辺小春?ですか?


 誰です、その人物は?」


 金形のその言葉を聞き、アンドロイドが皮肉を言った。


「デジタル犯罪課ではそんなことも把握できてないんですか。


 それは不味いですね。」


 アンドロイドは少し笑みを浮かべて続けた。


「浜辺小春。彼女はネット世界ではソフトウェアのアルゴリズム神と呼ばれてます。


 その実力はグレイを遥かに上回るほどです。


 彼女を一度我々の会社にスカウトしたことがあるんですよ。


 しかし、キッパリ断られました。」


「何故です?」


「彼女に言わせると我々のプログラムはチープなんだと。


 自分に何も得られるものがないらしいです。


 どうやって我々のプログラムを見たのかも謎ですが。


 まあ、彼女にそう言われると何も言い返せませんでしたよ。」


「で、彼女はいまどこにいるんです?」


「私もその後のことは知りません。どこで何をしているのか。


 とりあえず、2069年のアルゴリズムオリンピックの結果を調べてみてください。


 もう一人のグレイの方はどうやら現在ペンタゴンに勤めているようです。


 才能を活かして、国際的なデジタル犯罪から国を守る仕事をしているようですね。」


「分かりました。貴重な情報をありがとうございました。」


「いえ。どういたしまして。お役にたてたなら光栄です。」





「ヴェクション!」


 浜辺がくしゃみをした。ディスプレイをすり抜けて唾が飛んだ。


 浜辺はあたふたしながらそれを拭き取った。


「風邪でもひいた?」


 小林が浜辺に訪ねた。


「いえ、全然健康体ですよ。きっと誰かが私の噂をしてるんですよ。」


「えー、噂をするとくしゃみが出るとか、デジタルまみれの浜辺さんらしくないこと言うね。」


 小林が突っ込む。


「以前から少しだけ思ってたんですけど、世界は全てどこかで繋がってるんじゃないかって。


 くしゃみもそれの一環なのかなって。


 で、このプロジェクトやり始めて、それが確信に至りました。


 物質の動きだけじゃなくて、意識も同じ関数を通る。


 これが繋がってるというやつですね。くしゃみも、噂も。。。」


「何かいつになく深いね。浜辺さん。」


 少し笑いながら二人はちらっとレイとミライの方を見た。


 レイとミライは宇宙項の式を眺めていた。


「きっとここに何かある。絶対何かが。」


 その時、レイのBCDに波多野のメッセージが入った。


(今から会えないか。)


 そのメッセージの前にはレイが波多野に送ったメッセージがあった。


(教授がおれをジュネーブの衝突実験に連れていくって聞いたけど、レイは行かないって本当か?)


(うん。)


(なんで?レイが行かなくて、おれが行くんだよ。おかしくないか。)


(いや。ぼくは行きたくないんだ。それにぼくよりもりょーじが行った方が良いと思うし。)


(え?なんで?)


(りょーじは前からの夢だったでしょ。)


(今から会えないか。)


 そのメッセージを見て、ミライに言った。


「ごめん。ちょっと席をはずすね。」


「うん?どうしたの?」


「ちょっとりょーじと話してくる。」


「あー、波多野ね。」


 ミライは理由を聞こうかと思ったが、止めておいた。


 そして、波多野のメッセージに答えた。


(いいよ。どこで会う?)


 それを送って、端末室を出ていった。


 浜辺と小林がミライに聞いた。


「柊先生、どうしたんです?」


「友達に会いに行ったみたい。」


 ミライはしばらくレイの出ていった端末室入り口を見ていた。


<次回予告>

金形警部補が浜辺のことを知ってしまった。

彼は浜辺のことを調べ始める。

その間に、柊レイたち4人は宇宙創成プロジェクトを少しずつ前に前にと進めていた。

その時、ジュネーブ行きを告げられた波多野が柊レイに連絡を入れる。

柊レイは波多野と会い、波多野は柊レイを説得するのだった。

柊レイが取る決断とは!?

次話サブタイトル「帰郷前のあいさつ」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

kinet-dyne社の博士たちの名前ですが、前回金形が面会した人が天馬博士、そして今回がティーウォーター博士でした。何を元にしているか、お気づきの方も多いと思います。

そうです。私の心の師匠、手塚治虫先生の超有名作品から来ています。

そのロボットを作った博士とそのロボットを育てた博士ですね。

本当に素晴らしい作品を残してくださっていて感謝しかないです。

さて、本編ですが、金形が浜辺のことを知りました。ここからどうなっていくのでしょうか。

次話サブタイトル「帰郷前のあいさつ」。乞うご期待!!


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