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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
29/66

∫ 4-4.衝突 dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 加地教授の助言、波多野の応援もあり、再び強い気持ちを持ったレイであったが、それでも現実はそう甘いものではなかった。


 八月になっても成功にはほど遠い結果しか得られていなかった。


 目に光はあるものの、苦しんでいるレイの姿をずっと見ているのがミライにはつらかった。


 レイが少しうつむいている時にふとミライが空中をにらんでいた。


 それを小林が見てミライに聞いた。


「何か見えるんですか?もしかして霊感少女?」


「違うわよ。ダークマターに対してにらんでるの!


 いい加減秘密を教えてよねって。


 あー、そう言ってる間に逃げちゃったじゃない!」


 レイが顔をあげて、真剣な顔でミライを見た。


 咄嗟のレイの行動に、浜辺はレイが怒ったのかと勘違いし、場をなごますために冗談を重ねた。


「夏目さんがにらむからですよー。」


「逃げられちゃったから、もう秘密が聞けないじゃない!」


 ミライが冗談を冗談で返した。


 その時、レイの頭に一つのビジョンが浮かんだ。


 広がるダークマターの絵が。


「あっ、だから上手くいかないのか。」


「えっ、なになに?」


「ミライさん、すごいよ。そんなことに気がつくなんて。」


「どういうことです?」


 ミライがキョトンとしていたので、代わりに小林が問いかけた。


「ダークマターやダークエネルギーの存在位置だって移動するに決まってるのに、何で普遍的な網目構造で計算してんだろ?


 これだって変わっていってしかるべきですよね?」


 その言葉にミライも反応した。


「あー、なるほど!確かにそうよね。


 今のとてつもない広さは今の姿であって、あたしたちの宇宙が広がる前はどんな姿だったのか、その条件さえ解れば。」


 レイとミライが目を合わせた。二人とも確信を持ったような目だった。


「なるほど。さすが柊先生!」


 小林はその発想に正解めいたものを感じた。


「で、我々の宇宙誕生時はどんな構造だったんでしょうか。」


 その時、レイが言葉に詰まった。


「その構造が次の問題ですね。。。


 現在の形は分かっているので、そこから逆算するしかないですね。


 例えば、ビッグバンと同じように中央により集まっているところからスタートさせて。。。」


 と言いながらすぐに矛盾に気がついた。


「いや、それだと空間が拡がらないか。。。」


 目線を上に向けて頭の中で宇宙をシミュレートしていた。


「少し広いところからスタートしないとですね。」


「じゃあ、私はダークマター分布も時間変数で位置が変化するようにしておきますね。」


「でも原初のダークマターやダークエネルギーの位置、どうやって決める?」


「とりあえず今の網目構造の十分の一の縮小で作ってみよう。


 その結果からどのくらいのサイズが適切なのか考えるようにしよう。」


 みんなが頷いた。





 その日の帰り、レイはミライと正門の方に歩いていた。


「ダークマターの位置がビッグバンの位置を中心に広がる保証はないと思うんだ。」


「でも、そうだとしたら答えを導きだすのがとんでもなく難しいじゃない。」


「うん。そうなんだ。でも、それを見つけ出さないと。」


 二人は歩きながら言葉に詰まった。たまらず静寂を切り裂いたのはレイだった。


「そう言えば、ミライさんってサーフィンも上手くて、運転も上手いなんてちょっと驚いたよ。


 正直羨ましい。いろいろ才能を持ってるみたいだから。」


「そんなことないよ。


 レイ君だって初めてでサーフィンあそこまで出来るのって、それこそ才能があると思うけど。」


「いや、そんなことないよ。」


 とりとめのない話をしているところに、少し離れたところを糸魚川教授が通りかかった。


 車を奥さんと息子が使うということで、その日は公共交通機関で大学に来ていた。


 そして、前を歩いているレイに気がついた。


(あれは柊君?横にいるのは数学の。。。)


 糸魚川教授は歩いているレイとミライをずっと遠くから見ていた。


 楽しそうに話している二人を見てあまり良い気分ではなかった。


(学会が終わって身体の調子が悪いと言うから休ませてやっているのに、何やら楽しそうじゃないか。)


 レイはそのことには全然気がついてなかった。


 そのまま正門から出て、二人はバイバイをしあった。


 糸魚川教授は駅に向かう途中でレイにメッセージを送った。


(明日、研究室に来るように。)


 レイは寄宿舎へ歩いている途中、教授のメッセージを受け取った。


 そのメッセージを見て、少し体温が上がった。


 だが、拒否するわけにもいかず、すぐにそのメッセージに返信を送った。


(分かりました。)





 朝、レイが研究室に入ると、牧瀬と研究員がシミュレーション実験の結果について、議論をしていた。


 入ってきたレイを見て、牧瀬が挨拶をした。


「あっ、柊君。おはよう。


 どうしたの?新学期までは休んでて大丈夫なはずだよ。」


「昨日、教授からメッセージが入って、今日、研究室に出るようにとのことでしたので。」


「そっか。あっでも、元気そうだね。何よりだよ。」


 そんな話をしているところに糸魚川教授が入ってきた。


「柊君、おはよう。」


 レイは研究室の入り口に立つ教授を見て、挨拶をした。


「あっ、おはようございます。」


「それはそうと、元気そうだね。体調が悪いからと聞いていたんだが。」


「あっ、おかげさまで少し良くなりました。」


 レイは少し頭を下げながら言った。


「そうか、それは良かった。」


 そう言いながら教授は研究室の電子ボードの前まで歩いて入ってきた。


「ということは、またいろいろお願いできるかな?」


 そう言うと、レイの答えを聞かずに続けた。


「前回の質問の回答を作ってもらうのと、この九月に行われる四粒子衝突実験の詳細なシミュレーション結果資料を作ってほしいのだがね。」


 その依頼に対して、レイが反論した。


「あの、、、お言葉ですが、前回の質問に対しては牧瀬准教授が回答をすでに送ったと聞いてます。


 それと、今回の衝突実験はあくまでEU側が主体で我々は招待を受ける側ですので、あまり口を挟まない方が…」


 そう話している途中で教授が声をあらげて言った。


「君はどうして私の話に反論ばかりするのかね。」


 そういうと糸魚川教授はレイの方にツカツカと歩いて、指をレイに向けて言った。


「君はね、私の研究室員なんだよ。


 私が必要だと思うから作るんだ。


 君は私の言うことを聞いていればいいんだ。」


「ですが…」


「ですがじゃないんだよ。


 体調が悪いなんていいながら、なぜあの数学科の特待生とは楽しそうに話ができるのかね?」


「えっ?」


「しらばっくれてもダメだよ。昨日見たんだよ。


 研究室には足を向けないくせにそういうことはしっかりしているんだな。


 君は私の研究室にいるから特待生でいられるんだよ。


 そこを勘違いしないでもらいたいな。」


「彼女は関係ありません。」


「関係ないわけないじゃないか。君の本業を邪魔するやからは排除せねばならんのだよ。」


「排除って…」


「当たり前だよ。


 君はもっと私の右腕として働いてもらわねばならんのに!だよ!!」


 レイの身体が以前のように拒絶を示し始めた。


 レイははっきりと感じ取った。


(この人はぼくを利用することしか考えていない。


 宇宙創成プロジェクトの人たちとは全く逆の存在だ。)と。


「ぼくは、ぼくの本業はあなたのための資料づくりではありません。


 シミュレーションだって、この前計算したじゃないですか。


 四粒子は50プランク時間だけ事象の地平面の向こう側に行くんです。


 その時に何が観測されるかはぼくにも分かりません。


 シミュレーションで分かるのはそれ以上でもそれ以下でもありません。


 それが分からないんですか。」


 糸魚川教授は歯をくいしばって言った。


「じゃあ、なにかね。君は私の言うことが聞けないということかね。」


「そういうことでなくて。」


「そういうことなんだよ。君の言っていることは!」


 糸魚川教授が怒りに任せて大声をあげた。


「良くわかった。もう君は九月の衝突実験に参加しなくてよろしい。」


 そう言うと牧瀬准教授の方に向かっていった。


「牧瀬君、彼はジュネーブには行きたくないみたいだ。


 それなら彼の欠員のところに別の人を入れなさい。


 そうだな。


 この前、研究室に来てた新しいメンバーはすごく興味持ってたな。


 録画係りとしていいんじゃないか。


 彼でいい。彼を連れていこう。」


 牧瀬は少し考えて名前を思い出した。


「あっ、えーと、波多野君ですかね。」


「えっ?りょーじ?」


 その名前にレイが反応した。


 レイの反応は教授にとってレイが焦りを感じたと誤って認識させた。


 教授は当て付けに同回生の人間を入れれば、レイが焦るのではないかと思ったからだった。


 教授は思惑通りレイが反応したと思い込み、嫌味たらしく続けた。


「そうそう。彼。誰かと違ってなかなか素直そうだし。」


 そういうと糸魚川教授はレイの方を向いて言った。


「世紀の大実験だというのに君はそれを間近でみるチャンスを自ら逃したんだよ。


 後で悔やんでも知らないからね。」


 そういうと、教授はきびすを返して、研究室を出ていった。


 レイが何か言ってくることを期待して少しゆっくり目に歩いていたが、レイの動く気配を微塵も感じられず、逆に教授が焦りを感じていた。


 だが、タンカを切った以上、向き直ることができず、そのまま出ていった。


 牧瀬は教授が出ていったことを確認し、レイに近づいて言った。


「ごめん。ちゃんと教授には説明したつもりだったんだけど。」


「いや、いいんです。本当に。」


 レイは逆に波多野があの実験につれていってもらえるようになったことを喜んでいた。


<次回予告>

柊レイの態度に怒りを露にした糸魚川教授。

そして、ジュネーブでの衝突実験には柊レイの替わりに波多野が選ばれた。

喜ぶ柊レイ。

また、宇宙創成プログラムを進めるにつれ、「アンドロイドの憂鬱」も深くなっていく。

その捜査のため、ある警部補は動き続けていたのだった。

次話サブタイトル「赤い彗星と深くなる憂い」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

糸魚川教授が柊レイの態度が気に入らず、ジュネーブで行われる粒子衝突実験に波多野を連れていくことにしました。

ジュネーブにあるCERNは実在する粒子加速器です。以前、未知の粒子を探すために、実際に陽子をほぼ光の速度まで加速して衝突させる実験を行っていました。

密度的にはブラックホールに近い状態ができるため、世界が飲み込まれるのではないかと心配する意見もありましたが、杞憂に終わりました。実は私も安全安全と聞いてはいたもののとても心配してましたが、何事もなく終わり、ホッとしました。

本編ですが、そろそろ宇宙が正しくできても良い頃!?でしょうか。

次話サブタイトル「赤い彗星と深くなる憂い」。乞うご期待!!


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