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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
27/66

∫ 4-2.隠れた真実を探して dt

まえがきは割愛させていただきます。

毎日0~1時の間に次話投稿いたします。


 

 旧研究棟の情報端末室で、ミライが式を見直していた。


 そして、浜辺は自分のプログラムに間違いがないかチェックしていた。


 そこに少し急ぎ足でレイが入ってきた。


「お疲れ様です。」


「あっ、お疲れ。あれ?今日まで学会の予定じゃなかったっけ?」


 ミライがレイを気遣った。


「うん。今日は移動だけだったから。もしかしたらみんないるかなと思って。」


「そうなんだ。今日くらいちょっとゆっくり休んでも良かったのに。」


「いや、そういうわけにはいかないよ。


 どうして上手くいかないのかちゃんと調べないとと思ってさ。」


 レイは床に敷いていた巨大な電子ペーパーにミライが書いていた式を見つけた。


 そして、この前レイがちょうど何か引っ掛かった宇宙項の部分を指差してミライに話しかけた。


「そう!ぼくもこの部分がなぜか気になったんだ。


 何となくだけど、何かこう足りないというか、うーん、気持ち悪い感じがしたんだ。


 夏目さんも、もしかして?」


「あっ、ごめん。あたしはただ基本の式から見直そうと思って列挙してただけで。」


「そっか。でも、きっとできるはず。ぼくももうちょっと考えてみるよ。」


「。。。うん。」


 うんとだけ答えたミライだったが、内心ではレイの変わりように驚いていた。


 ついこの前までは今にも心が壊れるんじゃないかと思わんばかりの落ち込みようであったが、今のレイには目の奥に光が灯っているのが見てとれた。


 そして、何より今までのレイは式について自分の中だけで考えを張り巡らせていて、その内容に関しては一切口に出すことがなかったからだ。


 だが、今日はミライに問いかけた。


 それ自体にミライは驚き、そして少し安心した。


「浜辺さん、この前の条件まででダークマター、ダークエネルギーの網の目空間のサイズを一度リストにしてもらえませんか。


 目に見える形にしたいんです。


 それとログに残っている範囲で良いので、恒星の発生した位置とか、サイズもお願いします。」


「最初の超新星爆発の位置と事象の地平面サイズはすぐにでも出せますよ。」


「じゃあ、それで良いです。お願いします。」


 そのやりとりで浜辺も小林もレイの変化に気がついた。


 小林が話に加わった。


「柊先生、僕も何かできることがあれば。」


 レイは小林の方に向いて言った。


「小林先生にはとても大事なお願いがあります。」


 小林が期待して言った。


「何なりと。」


 少し間を持たせた後、レイが言った。


「おいしいコーヒー、お願いします。」


 ミライと浜辺が小林の方をキョロっと向いて笑った。


「はい。とっておきのケニアブラックをお入れしますよ。」


 みんなで少し笑いあったあと、レイが言った。


「それとたぶん問題ないと思いますが、化学側の式も見直しておいてください。


 こちらを突破した後、すぐにそちら側の展開になりますので。」


 状況は変わってないが、それでもと思える力が全員を包み込んだ。


 ミライのレイを見る目に少しの安堵が、そしてより強い信頼が生まれていた。





 次の日、レイは授業に出るため、大学に向かって歩いていた。


 大学の正門の前で活動家が何かデモをしていた。


(何の役にもたたない物理実験は即刻中止せよ!)


 フィルムディスプレイに文言が大きく描かれていた。


 白髪のデモ主導者が何かを叫んでいる。


 周囲にはそれを支持する者たちが主張内容が書かれたフィルムのビラを配っていた。


 当然、アンドロイドの警察官がそばについていて、提出されたデモ内容以外のことはできないように取り締まられていた。


 白髪のデモの主導者はフィルムディスプレイに貧困者の生活の動画を流しながら、主張内容を叫んでいた。


 そのフィルムディスプレイ自体がスピーカーとなっており、そのフィルムから音が発せられていた。


「ご存じの通り、日本は今超高齢化社会となっています。


 政府が給付を七十八歳からとするという事実上の年金破綻宣言を行い、今や生活がまともに送れない高齢者が数百万人も発生しているのです!


 そして、高齢者の孤独死は今やニュースにもならない。


 そんな折りに、なんの役にもたたない物理実験に何兆円もかけるなんて税金の無駄遣いです。


 今すぐ取り止め、福祉政策にそのお金を回すべきなのです!


 計画取り止めの署名をお願いします!!」


 無視をする人、署名をする人、いろんな人がいた。


 レイは歩きながらも思わずそのデモを行っている主催者をじっと見てしまっていた。


 デモ主催者がふとレイの顔を見て、柊レイであることに気がつき、ずっとレイを見た。


 レイはその視線に気がつき、顔を伏せたが、デモ主催者はずっとレイを見続けた。


 レイは何かされるのではないかという恐怖を感じつつ、速歩きで通りすぎた。





 レイは通りからずっと速歩きでそのまま講義室に入っていった。


 すでに講義室で波多野がレイを待ち構えていた。


「おーす、レイ!」


 レイは波多野を見つけ、少し安堵した表情を浮かべて挨拶した。


「りょーじ、おはよう。」


 波多野に近づくレイに他の人も挨拶し、レイもそれに答えながら波多野のところに来た。


 レイが波多野にさっきの話をした。


「何か正門のところ、デモ、すごかったね。」


「あー、あれね。よくやってるよね。」


「ちょっと怖かったよ。」


「物理実験をやめろって言ってたもんな。


 レイが首謀者みたいなとこあるからな~。」


「やっぱり狙われるかな。」


 少し怖がっているレイを見て、波多野が心配をかけまいと話した。


「冗談だよ。大丈夫だって。


 あいつら、福祉関係にお金が回ってきて、それで仕事にありついてるやつらだし、それが狙いなんだろ。」


「じゃあ、大丈夫かな?」


「心配しなくて良いよ。


 レイに危害加えるような大層な主義掲げてるやつらじゃないって。」


 波多野は笑ってレイを安心させようとした。


「みんな、そんなだろ。


 外輪山の実験設備だってそれ作るために多くの建設業者がウハウハになってるし、地域住民は土地の価格が上がって、作ってくれって言う人もいれば、土地の価格は上がんないのにワケわからない施設ができるからって反対する輩もいるしな。」


 レイは失礼ながら波多野が世間のことを良く理解していることに驚いた。


 レイはそういうところには全く疎いタイプだったため、なおさらだった。


 波多野は少し得意になって続けた。


「大体さ、年金なんて先進国の人口減少が見られた瞬間から破綻することくらい中学校で習う数学でも証明できるのに、なんでやめるってしないのか不思議でならないよな。


 やっぱ選挙行かないとだよな。」


「ぼく、まだ選挙権ないんだ。。。」


「そっか!レイ、まだ選挙行けないんだな。


 行けるようになったら、一緒に行こうな!」


 そう話しながら、波多野は本題に入った。


「そうそう。全然話は変わんだけど、レイってさ、今週土曜か日曜時間ある?」


「あると思うけど、どうして?」


「じゃあさ、富士アドベンチャーフィールド行かない?」


「富士アドベンチャーフィールド?」


「ああ。去年さ、リニューアルされた遊園地だよ。すげー面白いってさ。」


 話してて、波多野はあることに気がついた。


 少しやせた感じはそのままだが、レイから以前感じていたようなひどい心の疲労感がそれほど感じられなくなっていた。


(まさかと思うけど、隠すのがうまくなった?)


 心でそう思いながら続けた。


「面白い乗り物がいっぱいあってさ。」


 そういいながらBCDで検索して表示させた。


 共有したディプレイにはとんでもない絶叫系マシンが映っていた。


 丸いボールに二人で乗り込み、そのボールがジェットコースターのようなレールの上を走ったかと思うと、途中でレールが切れていてジャンプし、またレールに着地する動きが流れていた。


 そういったかなり過激な絶叫系マシンや、まるで昔のゲーム『F-ZERO』のような宙に浮く乗り物に二人で乗り、時速百キロほどで疾走するゴーカートなどもあった。


「ぼく、こういうところ行ったことがないんだ。」


「じゃあ、ちょうどいいな!何事も体験しないとな。


 行こうぜ、今週末にさ。」


「えっ?今週末?」


「うん。こういうのは思い付いたら即実行だろ!?


 今週末だから即って感じでもないか。」


「あっ、えーと。。。」


 レイは少し迷ったが、波多野の勢いに押されて承諾した。


「。。。うん。分かったよ。じゃあ今週末に。」


「うん。決まりだ!あー、ここ、プールとかもあるからさ、水着忘れないようにな。」





 翌々日、学会前にセットしていた条件の結果が出た。


 結果は失敗。


「やっぱり元素分布が正しく出ないですね。


 次どうしますか?


 計画通り、分布番号6で行きますか。」


 浜辺が訊ねた。


「そうですね。それで行きましょう。」


 分かってはいたもののレイはその失敗にやはり苦しさを感じた。


 ミライもレイが感じているそれは感じ取っていた。


 でもレイの目に学会以前にはなかった力が宿っていることも感じ取っていた。


 レイの頭の中には加治教授の言葉が浮かんでいた。


(そこからだよ、勝負は。)


(諦めたらそこで試合終了ですよ。)


「そう、ここからなんだ。」


 小さい声でそう言い、レイは宇宙項の式を見つめた。


 何か宇宙項で抜けているところがないか、ミライとも浜辺、小林ともその話をした。


「絶対にここに何かが足りてないんだ。」


 何かが足りないのだとレイは確信めいたものを持っていた。


 そう断言するレイに小林が問いかける。


「何でそう思うんです?


 すごく強く断言されているので、ちょっと気になってるんですけど。」


「うーん、そう言われると確かに何でなのか、ぼくにも分からないんですけど。


 何かここだって言うんです。」


「科学者の勘ってやつね。」


 ミライがその言葉に反応した。


「うん。きっとそうなんだと思う。」


「分かるわ、それ。


 でも、あれって何なんだろうね。


 何で突然思い浮かぶんだろう。


 全く未知の概念とか浮かぶこともあるじゃない?


 思考がそこに到達するというのか、何かそこに繋がる感じ。


 未だにこれってAIでもできないじゃない?」


「あー、分かります。それ。僕もありましたよ。何かふとこれだって!」


 小林がそういうと浜辺が少し嫌みっぽく言った。


「小林さんの場合、良く外れてましたけどね。


 どんだけ私がいらない処理作ったと思ってるんですかぁ!?」


 レイとミライは目を合わせて笑いあった。


 レイは思った。


 ここには仲間がいるんだと。


 その思いが失敗の苦しさを耐えられるものにしていた。





 旧研究棟から出て、ミライと歩いて寄宿舎に向かった。


 学校内を歩いている時、ミライが気になっていたことをレイに聞いた。


「学会で何かあったの?」


「えっ?どして?」


「いやっ、あのさ、学会に行く前、あんた、ちょっと何て言うのかな。


 その、、、根を詰めすぎというか、背負いすぎというか。


 ほらっ、分かるでしょ?」


「あー、確かにね。


 今だからそう思えるって言うのもあるけど、そうだったと思う。」


「で、何があったの?もしかして先生、ぶっ飛ばした?」


「そんなことしないよ。」


 レイがミライを見て、ふふふと笑った。


「実はね、東北工科大の加治教授って人が話を聞いてくれて、アドバイスもくれてさ。


 すごく心が軽くなったというか、少し前向きに考えられるようになった。


 ような気がする。」


「うん。そんな感じがした。強くなった。」


 ミライはレイを素直に肯定している自分に少し照れてレイのまねをしてみた。


「ような気がする。


 加治先生か。いい先生そうだね。」


 学校の正門に近づくと外にフィルムディスプレイの横断幕がかかっていた。


(何の役にも立たない物理実験施設の計画は破棄すべき!)


(年金受給前の生活困難者に救済を!)


 人はもういなかったが、レイは朝の光景を思い出し、少しゾッとした。


「まあ、一理あるかもね。」


 横断幕を見てるミライに少し驚いた様子でレイは話した。


「えっ?夏目さんは衝突実験に反対なの?」


「いいや。賛成してるわよ。


 でも、あの実験で直接的に恩恵を受けない人たちにとっては無用の長物じゃない?


 そう思われても仕方がないのかもって思うこともあるかな。」


「そっか。」


 少し下を向くレイにミライが言った。


「って、あんた、真に受けないでよ。


 でも、あんただって別に興味ないって感じじゃなかったっけ?」


「いや、それはぼくになぜか興味が沸かないだけで。


 すごく面白いことだってのは十分理解できるし。その。。」


「ふふ。」


 ミライが鼻で笑った。


「分かってるわよ。ちょっとからかってみただけ。


 あたしもすごく有意義なテストなんだろうって思ってるし、もしかしたら、この世界をひっくり返すような大発見が得られるかもしれないしね。


 そうなってみんなが、多少なりとも恩恵を受けるんだとしたら、無用の長物なんて言えないと思うんだけどね。」


「それ、りょーじが言ってた。


 これによって恩恵を受ける人は賛成するし、何の恩恵も受けない人たちは反対するんだって。


 まあ、確かに誰かにとっては無用の長物なのかもしれない。」


 ミライはレイが以前と少し変わったことを再認識した。


「だからさ、あたしはそういうのに振り回されないようにしようって決めてるの、心に。


 他人は他人、自分は自分。


 あたしの身体に付いている目はこの二つだけだし、頭はこれ一個。


 その目や頭や身体で感じたことを信じて進むしかないでしょ。」


「夏目さんは強いんだね。」


「あたしからしたらあんたも結構強いように思うけど。最近は特にね。」


 分かれ道に差し掛かった。


「じゃあ、あたしこっちだから。バイバイ、またね。」


「うん、じゃあまた。」


 レイはふと明日富士アドベンチャーフィールドに行くことを伝えようかと思ったが、ミライがすでに振り向いて歩いていたので、そのまま言葉をかけずに、レイも自分の道の方に振り向いて歩きだした。


「自分が感じたことを信じるか。」


 ふと頭に宇宙項の式が浮かび上がった。


 やはりこの部分に何かあるような気がした。


<次回予告>

心に力が戻った柊レイ。

本当の意味で回りだしたチーム。

そして、波多野が遊園地へと誘った。

そこで何かが起こる。柊レイの目に飛び込んできたものとは?

次話サブタイトル「隠れていたものへの驚き」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

まだ宇宙の方程式は完成していませんが、それでも柊レイのやる気は充実しています。こういう時こそ、歩いている時やシャワーしている時などふと良いアイディアが浮かぶんですよね。柊レイもそうなってくれると嬉しいのですが。って、お前、この先のこと、知ってるやろ!?という突っ込みはなしでお願いします。(笑)

本編ですが、波多野が富士アドベンチャーフィールドというところに柊レイを誘い、次回行くようです。どうなることやら。

次話「隠れていたものへの驚き」。乞うご期待!!


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