∫ 3-5.超新星爆発 + 原子構成分布 = 暗黒星雲? dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
ついに、考えうる全ての数式をプログラム実装した宇宙シミュレータが実行された。
全員がブラウザに釘付けになった。
現実世界における宇宙背景放射のエネルギーが、シミュレータ内ではほぼ一点に集中していた。
温度にして約1.42×10の32乗度という想像を絶する温度。
高エネルギーゆえのまばゆく蒼白い光を放つ点。
点はやがて面積を持ち、一瞬のうちに青白い空間がカメラの位置を覆い尽くした。
そして、鼓膜が破れんばかりに響くかん高い轟音。
「うわーーーーー!」
浜辺以外がその映像を見て身体を少しのけ反らした。
「もっと外側から見ないとですね。」
そう言うと、浜辺がみんなのカメラ位置を宇宙がまだ広がっていないところまで移動させた。
画面を覆い尽くしていた白色が一気に再び小さく丸い玉になった。
その玉がまた少し大きくなってきた。
さらに色が白から少しオレンジ色に変化しはじめた。
そこでレイが浜辺に聞いた。
「どのくらい時間経過しましたか。」
「散逸構造がまだ大きいので、あっという間に時間が経過してますね。
すでに絶対時間を私たちの時間単位換算すると1億年以上経過してますね。
粒子の存在範囲は、えっと、直径約4000万光年くらいですね。
粒子が存在する空間内の時間で言うと約30万年が経過したことになってます。」
相対性理論が組み込まれているため、重力が大きい、つまり空間が大きく歪んでいるところでは時間の経過が遅くなっていた。
宇宙の様子を見てレイが感嘆の息を漏らしながら言った。
「宇宙の晴れ上がりだ。すごい、これが。。。」
「これが宇宙の始まりなのね。」
さらに空間が広がり、オレンジ色から薄い黄色、そして赤色に変化していく。
みんな時を忘れて自分達の作った宇宙に見いっていた。
ふと、画面に(break into Chemical formula)の表示が現れた。
浜辺がその表示を見て反応した。
「とうとう原子が構成されてきたみたいですよ。」
さらに空間が広がっていく。
それにともない、空間の色が徐々に失われ、漆黒の闇に変わっていった。
「今の時間の流れる速度はどのくらいですか?」
「ちょっと待ってくださいね。」
浜辺が空間内の相対時間を調べてみた。
時間はプランク時間(宇宙を構成する最小単位時間)で示されていた。
それを秒に変換する。
時間の変数値を一度コピーする。
その後、現実世界の時間で十秒経過した後、再び時間の変数値をコピーした。
浜辺はその差分を算出した。
(101,467,295,747.375,752sec(約1015億秒))
「これが私たちの世界の十秒での経過時間です。」
ミライが共有された画面に写し出された時間を見て言った。
「3600、24、365。。。えーと、だいたい1秒で。。。えーと、321.8年、まあザックリ322年かな。」
「1秒でそのくらいということは、3億年くらいになるには。。。」
レイも頭の中で計算し始めた。が、ミライが即座に答えた。
「うーんと、、、931,677秒。3600の24だから、だいたい10.8日、まあ11日ね。」
「11日か。結構長いね。」
「何が11日なんです?」
小林が興味津々で聞いた。
「3億年くらいになると恒星が膨らんで超新星爆発を起こすはずなんです。
それによっていろんな元素ができるんですけど、それを見たいなと思いまして。」
「なるほど。僕たちだけの天体ショーだね。誰も見たことのない。それは楽しみだ。」
小林がふと浜辺の方を見た。
「それはそうと、今僕たちの回りのデバイスの中でこの計算がされてるんだよね?
本当に異常は起こってない?」
その言葉にレイとミライがブラウザやアプリを開いて、ニュースを見たが、特に何も起こってないようであった。
「大丈夫、、、そうですね。」
レイが胸を撫で下ろした。
「小林さん、まだ信じてないんですか?もうデータ消しますね。」
浜辺はわざと大きな動きでキーボードをさわろうとした。
「あー、ちょ、ちょっ、、ちょっと。一応の確認だよ。もちろん信じてるよ~。浜辺さんのこと。」
小林が浜辺の動作を制止するようなそぶりをした。
浜辺が腕を動きを止めたのを見て、小林が続けた。
「にしても、不思議だね。僕たちを取り巻くこのデバイスの中で宇宙が動いてるなんて。」
みんながその言葉につられて周囲を見回した。
レイとミライが寄宿舎までの道を歩いていた。
ミライが白い息をふーと吹き上げて、星を見上げて言った。
「あたしたちの宇宙にもこんな星ができるんだよね?」
レイはミライを見て、ミライと同じように星を見上げて答えた。
「うん。きっと、そうなると思う。」
ミライはレイに視線を戻して続けた。
「そう思ってさ、星見ると、なんか不思議な感覚。
もしかしてあたしたちもそういう世界で生きてるのかな?」
「そんな気もする。というか、今となってはそんな気しかしない。」
レイは少し笑って言った。
「そうそう。聞こうと思ってたんだ。どう?神様になった気分は?」
「神様?」
「だってそうじゃない?あんたの考えた式で動く世界なんだから。あんたが神様。」
「いや。ぼくはただこの世界の法則を式にしただけだよ。ぼくの考えたものじゃない。
それにそれは夏目さんや小林さん、浜辺さんがいたからこそできたことだよ。
創った人が神様って言うんなら夏目さんも神様だよ。」
その言葉を聞いてミライはきょとんとした。
「なんかそう言われるとむずかゆいわね。」
「どう?夏目様、ご気分は?」
レイがまた少し笑った。
そのレイを見てミライがわざと少し怒ったふりをして叩くつもりはないが、手を振り上げて、反応した。
「あー、あたしをからかってるでしょ!?」
「冗談だよ。」
レイはミライを止めるようなそぶりをした。
ミライはふふっと笑い、再び星を見上げた。
「でも本当、、どんな世界になるのか、楽しみね。」
宇宙誕生から実世界で10日経過した日、レイはこの日も授業を受けていた。
授業を受けながらもレイはアプリを通して宇宙を見ていた。
アプリは宇宙誕生から3日後に浜辺が送ってきたものだった。
空間内の密度が高いところを検索でき、その座標を見ることができるものだった。
そのアプリが送られてきてからというもの、レイはずっと宇宙を見続けていた。
そして、最も密度の高い恒星に、ある兆候が見え始めた。
レイは慌てて、みんなとのメッセンジャーのグループを開いてメッセージを送った。
(もうすぐ起こりそう。)
すると、すぐにミライから反応が返ってきた。
(見てる。一番密度高いとこでしょ。)
(そう。)
小林からも返ってきた。
(見てみます。)
浜辺からの返事はなかったが、それどころではなかった。
闇の中に巨大な恒星が産まれていた。
そして、その恒星は周囲にガス円盤を携えていた。
恒星は周囲のガスを取り込み成長しながらも、恒星内部で重力により圧縮された原子がひっきりなしに核融合を起こしていた。
その核融合によって様々な原子が生まれていた。
周囲のガスは恒星の中心に向かって加速しつつ回転しながら重力の井戸に引きずり込まれていた。
ガスは摩擦により高温化し、稲光を出したり、燃え始める部分もあった。
内核が自身の爆発と重力で微妙に振動していた。
そして、その時が来た。
内核が振動を止め、急速に収縮し始めた。
アプリが表示している密度値が急激に上がっていく。
何か、低い音と高い音が入り交じった不気味な音がしながら、恒星の中央一点に向かってどんどん収縮していく。
あんなに大きかった恒星が、ここまで小さくなれるものなのかと思うほど、小さくなり、次の瞬間。
エネルギーの暴力。
空間をねじ曲げるほどの青白い放射が瞬間にしてその空間を埋め尽くす。
それに続いて時間を切り裂くほどの爆音。
鳴り止むことのない爆音。
収縮した内核からとてつもない激しいエネルギーと原子たちが放出された。
星はその一生を終え、大爆発を起こしたのだ。
レイは授業そっちのけでBCDの画面いっぱい、つまり視野いっぱいに宇宙を表示させていた。
画面の奥から原子の波がまさに想像を絶するほどの速度で押し寄せてきた。
そして、あっという間に画面を覆い尽くした。
「うわはっ!」
レイは声を上げ、のけ反った。
横に座っていた波多野が驚いて咄嗟にレイを足で軽くノックした。
レイはその合図で我に返り、姿勢を戻した後、眉毛を触るしぐさをしながらアプリのウインドウを最小化した。
電子ボードに向かっていた先生は声に反応して、ゆっくり生徒たちの方を見た。
生徒を見回した後、一言注意した。
「授業に集中するように!」
そして、再び先生は電子ボードに向かって式を書き始めた。
レイは波多野に向かって目で (ありがとう) の合図をした。
波多野はレイを見ながらふふっと笑って少し頷くと再び電子ボードに方に向いた。
レイは少し反省し、そこからはアプリの画面を小さくして宇宙を見ていた。
様々な座標で同じような超新星爆発が発生していた。
そして、質量が非常に大きい恒星ではその中心にブラックホールが発生した。
また、その爆発のエネルギーから一部の領域では再電離による原子数減少が見られていた。
その様子を見て、レイは机の下で小さくガッツポーズをした。
BCDのメッセンジャーにミライからメッセージが入った。
(思わず声出ちゃった。爆発すごかったね。)
(ぼくもだよ。先生が向こう向いてて良かった。)
感動マークが送られてきた。
授業が終わり、レイが旧研究棟の秘密基地に入ってきた。
小林と浜辺はすでに端末の前に座り、端末のViewerで宇宙を眺めていた。
「こんにちは。柊先生。」
「こんにちは。」
「爆発すごかったですね。」
「あっ、見たんですね。ぼく、思わず声を出しちゃいました。授業中だったんですけど。」
「世紀の瞬間って感じでしたね、本当にすごかった。」
「うん。確かにすごかったですね。どかーん!ぼかーん!ずびどぶーん‼みたいな。」
浜辺が大きな身ぶり手振りで表現していた。
それを見て、レイと小林が笑っていた。
少し笑った後、レイは浜辺にお願いした。
「浜辺さん、ちょっとお願いなんですが、ブラックホールの事象の地平面外にある原子の構成分布を出してほしいんです。できますか。」
「あっ、もちろんです!ちょっちお待ちを~!!」
そう言うと、プログラムを作り出した。
その時、ミライも秘密基地に到着した。
「お疲れさま~。」
「あっ、こんにちは。夏目さん。」
レイと小林は同じように挨拶した。
「お疲れでやんす。」
浜辺はプログラムを作りながら挨拶した。
「それはそうと、爆発すごかったね!っていうか、今至るところで起こってるし。」
「そうだね。その影響で再電離も確認できたし、結構良い感じじゃないかな。」
ミライがちょっと首をかしげて聞いた。
「再電離って何?」
「あっ、再電離っていうのは超新星爆発によっていろんな元素が生まれる一方で初期宇宙では、その超新星爆発のエネルギーによって、原子が再び素粒子にまで分解されてしまう現象だよ。」
「あんた、そんなとこまで見てたの?すごっ。」
「質問ついでなんだけど、さっきの事象の地平面って何でしたっけ?聞いたことあるにはあるんですけど。」
小林も質問した。即座にレイが答える。
「事象の地平面というのはですね、ブラックホールの重力が強すぎて、光すらも出てこれなくなる領域のことです。
もうその中に入ってしまうと情報すらも取り出せないので、現状の宇宙の構成成分との比較をする上では除外する必要があるという訳です。」
「あー、それで事象の地平面外って言ってたんですね。」
その会話を聞いて、ミライはピンときた。
「あ、なるほど。それでこの子が一生懸命作ってるわけね。」
「できました!よっと。」
プログラムをビルドした。
瞬間的にビルドが終了した。
「実行します?」
浜辺は目線をレイに向けて尋ねた。
「はい。お願いします。」
「分かりやした。す、たーとぅ!ぽちっとな。」
ポチっとリターンキーを押した。すると、一枚のグラフが表示された。
グラフには元素毎の存在割合が示されていた。
圧倒的な水素、ヘリウムの量だった。
「すみません。片対数で、お願いしていいですか。」
「あっ、はい。かしこま!」
コマンドを一行だけ、すごい勢いで修正し、リビルドし、すぐさま実行した。
すると、さきほどは水素、ヘリウムしかほぼ示されてなかったグラフに他の元素も見える程度まで大きく表示された。
「やっぱり他の元素もあるんですね。」
小林がそのグラフを見て言った。
ところが、そのグラフを見て、うっすら浮かべていたレイの笑顔が消えた。
<次回予告>
創り出した宇宙。そこで起こる超新星爆発。
宇宙はすさまじい勢いで新しい原子を創りだしていた。
宇宙の姿を確認した柊レイ。
その時、彼の顔から笑顔が消えた。
彼は実世界と創り出した宇宙との違いを感じ取る。
彼は宇宙の真理にたどり着けるのか?
次話サブタイトル「魔の川、死の谷、ダーウィンの海」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
創造した宇宙の中で発生した超新星爆発。こんな光景を見られるなんて本当に素晴らしいですよね。私も見てみたい。(笑)
本編ですが、最後に柊レイが宇宙の元素組成グラフ(組成割合)を見て、なにか感じたようです。
どうなっていくのでしょうか。
次回、「魔の川、死の谷、ダーウィンの海」。乞うご期待!!




