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ガロワのソラの下で  作者: 友枝 哲
14/66

∫ 2-4.本当の「友達じゃんか」 dt

まえがきは割愛させていただきます。

可能な限り、毎日0~1時の間に次話投稿します。


 

 波多野が勉強会を行ったカフェを出て、一人でどんどん歩いていく。


 その後ろを女子二人とレイがついていく。


「ねー、どこいくのってば。」


「すぐつくから。だまってついてきて。」


 店が立ち並ぶ大通りから一本細い裏道に入った。


 表通りの広告だらけの道とは違って動くものがなくなったため、少し寂しい感じすらする。


 二、三分歩くと、二階から上が網に囲まれた建物が見えてきた。


 その建物からカキーン、カキーンと音が聞こえていた。


 波多野がレイに尋ねる。


「レイ、バッティングセンターって行ったことある?」


「いや、行ったことないよ。」


「おお、じゃあ始めてか。ここはさ、普通のところと違って完全アナログなんだ。


 飛んでいく打球も自分が打った球だし、スゲー面白いからさ。行こうぜ!」


 女の子の方にも声をかける。


「いいだろ?面白いしさ。」


「確かに一度やってみたいと思ってたし、いいよ。」


 階段から二階に上がると透明な仕切り壁に仕切られた通路がその建物の端まで一直線に延びていた。


 その通路にはドアが何個もついていて、そのドアごとに野球場にあるようなホームベースとバッターボックスが並んでいた。


 さらにその向こう側ではアームロボットがボールを投げていた。


 そして、ところどころではすでにバットを持った人たちがボールの来るタイミングを見計らって力一杯バットを振っていた。


 アームロボットとバッターの間の床部分にもネットが張られていて、中央が凹んでいる。


 凹みのさらに中央には穴が開いており、ここに転がったボールは自動的に中央の穴に入り、回収される仕組みになっていた。


 レイは何だかその構造に意識を奪われた。


 じっと見続けるレイに女の子が声をかけた。


「柊くん、どうしたの?」


 レイはその言葉にはっと我を取り戻した。


「いえ、何でもないです。」


 レイは照れながら少し首を振って答えた。


 そして、前を歩く波多野の方に向かって歩いていった。


 ドアの上にはそれぞれ(80km/h)、(100km/h)、(120km/h)、(140km/h)といろんな速度が書いていた。


「ようし、おれがちょっとお手本を見せようかね。」


 波多野が自信満々で腕を回しながら、誰もいない(140 km/h)のドアを開けて、向こう側に入った。


 何本か置いているバットの一つを持ち、何度か持ち直しながら素振りをした。


 なかなかの鋭いスイングに女の子たちが 「おお~!」という声を出した。


 素振りをした後、小さいコンソール前に立ち、五百円の決済ボタンを押した。


 決済が完了するとスタートボタンが赤く光だした。


 すかさず波多野がスタートボタンを叩いた。


「プレイボール!」


 ロボットが動き出す。


 ロボットアームが勢い良く回転すると一球目が飛んできた。


 レイや女の子にはかなり速く感じる速度だった。


 波多野はその球が来るタイミングに合わせて、すばやくバットを振った。


 次の瞬間、鋭い金属音が鳴り響いた。


 ボールはロボットが投げる位置よりももっと奥に高く飛んでいき、バックネットに突き刺さった。


 もうあと三メートル右であればホームランと書いている板に当たるような打球だった。


「波多野くん、すごーい!」


 波多野はその後何度も良い当たりを連発した。


「ゲームセット」


 ロボットの声がして、向こう側のアームロボットが動かなくなった。


 波多野がバットをもとの場所に戻して、ドアから出てきた。


 波多野は少し高揚した様子で三人にハイタッチを求めて、みんなとハイタッチをした。


 波多野のポロシャツに描かれたボールのキャラクタはまだバットを振っていた。


「次誰やる?」


「私やりたい!でもこれは球がちょっと速いな。」


 周囲のドアを見て、(80 km/h)と書いているドアの前に行った。


「ここにしてみる。」


 女子がドアの向こうに入っていった。


 波多野がやったようにバットを何個か持ち変え、スイングしてみる。


 バットを振った経験がないことは誰が見ても分かる、ぎこちないスイングだった。


 何本か持ったバットの中から軽いものを選択し、決済を済ませ、スタートボタンを押した。


 少し山なりのボールが飛んで来た。


 女の子は体まで回転させながら一生懸命バットを振った。


 何球か空振りをした後、ついにバットにボールが当たった。


 ゴロだったが、鋭い打球は中央の穴に吸い込まれず、アームロボットの近くまで転がり、壁にぶつかり、跳ね返った。


 そして中央の穴に吸い込まれた。


「手、いたーい。でも、すっごく気持ちいい!!」


 女の子はゴロだったが、それでも単純に当たったことに喜んだ。


 手前で見ている方も「すげーよ!」、「その調子、その調子!」と声をかけていた。


 その後も時おり、良い当たりがあり、女の子は当たる度にピョンピョン跳ねて喜んでいた。


「ゲームセット」


 女子はバットをおいて、まんざらでもない顔をしてドアから出てきた。


 波多野と同じようにハイタッチをした。


 もう一人の女の子も同じようなバッティング内容だった。


「じゃあ、次はレイだな。」


「うん。やってみるよ。」


(80 km/h)のドアを開け、何個かあるバットを少し持ち上げて重さを確認した。


 中くらいの重さのバットを選択して、バットを振った。


 一応、体育などでやった経験はあり、放送でも何度か野球中継を見たことがあったので、それなりに様になっていた。


「おお、いけんじゃね。」


 波多野が期待して言う。


 女の子たちもその言葉に頷いた。


「じゃあ、始めるね。」


 レイが決済を行い、スタートボタンを押した。


「プレイボール!」


 ロボットが動き出す。


 一球目が飛んできた。


 レイは力一杯スイングしたが、ボールの下を振っていた。


「レイ!ボール良く見て!」


 アドバイスをくれた波多野の方をちらっと見て、うんと頷いた。


 二球目。


 バットがボールに少しかすり、ボールはそのまま後ろにいってしまった。


「おしい!あともうちょい上‼」


 三球目。


 レイの振ったバットは見事ボールを真芯で捉えた。


 心地よい金属音と共に、ボールはアームロボットの遥か上に飛んでいき、バックネットにあるホームランの的のわずか右に突き刺さった。


「おおー!すげえ!レイ、すげえよ!!」


 波多野も女子たちも少し興奮した。


 レイも嬉しくなって、波多野や女子たちの方に向かって満面の笑みを浮かべた。


 レイが波多野たちの方に向いていた時に、すでに四球目が飛んできていた。


「ああ、あぶない!」


 波多野たちが声を上げたが、レイは気がつかず、そのままレイの横をかすめて通過した。


「おお。危なかったね。」


 女子たちが胸を撫で下ろした。


 レイは身をすくめたが、再び元の姿勢に戻り、アームロボットの方を向いてバットを構え直した。


 その後、何球か良い当たりがあり、レイはもっと飛ばしたいと腕に力が入りだしていた。


 次の球が飛んできた。それに合わせてレイは力一杯バットを振った。


 バットがボールの下側に当たり、ボールが右斜め上に飛んでいく。


 渾身の一振りだったため、ボールの速度がかなり速かった。


 ボールはバッターボックスを仕切るポールに当たり、二物体の衝突により、速度ベクトルは反対向きに変化した。


 ベクトルが反対向きに変化したボールがまだスイングのフォロースルーをしているレイの方に飛んでくる。


 レイはボールが自分に向かって飛んできているのを認識した。


 ボールがゆっくり飛んでくるのが見える。


 なのに、身体は動かない。


 ボールがどんどん視界の面積を占有していく。


 視界占有率が大きくなるにつれて、時間はどんどんゆっくりに感じられた。


 10%、30%、50%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%、99.999%。。。


 高周波音がレイの頭に木霊した。





 はっと目を覚ました。レイはベッドに横になっていた。


 そこは見知らぬ天井だった。


「おっ、気がついたか?」


 波多野が横に座っていた。それを見て、レイはすぐに上半身を起こした。


「あれ?ここは?」


「ああ。ここ、おれんちだよ。


 それより、びっくりしたよ。


 頭痛いか?何かおかしいとことかない?おれが誰か分かる?」


「えっ?うん。もちろん、はた、、りょーじでしょ?」


 まだあだ名呼びに慣れてないレイを見て、波多野はレイが無事だと感じた。


「うん。正解。良かった。覚えてる?バッティングセンターのこと?」


「うん。バットを振ってて。。。


 そうだ。視界をボールがゆっくり覆い尽くしていくのが見えて、それから…」


「レイの頭にボールが直撃したんだよ。


 自分で打ったボールが柱に当たって跳ね返ってきてさ。


 それでレイが気絶して、ちょっとした騒ぎになったんだぜ。」


 波多野はボールが飛んでくる様子を手でジェスチャーしながら説明していた。


「息もしてたし、少し声も出してたから大事には至らないだろうと思ってさ。


 おれがここまでおぶってきたんだ。」


「そうだったんだ。ごめんね。迷惑かけて。ありがとう。」


「いや。良かったよ。大事に至らなくて、本当に。」


 波多野がレイに向かって続ける。


「本当に痛いところないか?


 何か変なことあるんならさ、今からでも病院行って、検査してもらっても良いし。」


 部屋のウォールディスプレイに時計が描かれていた。


 その時計の時刻は9時を回っていた。


「あっ、こんな遅い時間なんだね。


 いや本当に大丈夫だよ。ごめん。こんなに遅くまで。」


 波多野が首を振る。


「ううん。こっちこそ、申し訳ないよ。


 こんなことになるならバッティングセンター行かなきゃ良かったな。」


「いや、本当に楽しかったよ。また行きたいって思う。」


「ホント?そういってくれるとうれしいよ。


 でも次行く時はヘルメット持っていかなきゃな。」


「ふふ。そうだね。」


 二人は笑いあった。


「時間も遅いし、そろそろ帰るよ。」


 レイが遅くなった時間を気にして、ベッドから起き上がろうとした。


「ゆっくりな。」


 波多野がレイを少し支えながら立ち上がらせる。


 玄関まで二人で歩いていき、レイが靴をはく。


 波多野も靴をはこうとするが、レイがそれを止める。


「大丈夫だよ。アプリあるし、一人で平気だよ。」


「そんなわけ、いくかよ。途中まででもいいから、送らせてくれ。」


「いいの?」


「なに言ってんだよ。友達じゃんか。」


 レイは少し昼間の会話を思い出して、再びちょっとした感動を覚えていた。


 レイにとって、今まで何度も聞いた『友達じゃんか』が全く違って聞こえた。


 波多野が靴に足を入れると、自動でヒモが締まった。


「よし。行こうぜ。」


「うん。ありがと。」


<次回予告>

波多野の優しさに触れた柊レイ。

柊レイの中で今まで感じたことのなかった何かが芽生え始めていた。

それとは対称的に、教授との時間はより辛いものとなっていく。

彼の中の拭えない想いが膨らんでいくのだった。

次話サブタイトル「相対性理論」。

次回もサービス、サービスぅ!!



<あとがき>

波多野の人柄が表れている回かなと思います。

これがきっかけでレイと波多野の距離がグッと近づいたと言っても過言ではありません。

私の好きな回の1つでもあります。

さて、本編ですが、この柊レイ先生の授業がきっかけで、周囲に変化が生まれます。そして、レイと波多野の関係はこの先どうなっていくのでしょうか。

次回、「相対性理論」。乞うご期待!!


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