全方位に配慮した誰も不幸にならない乙女ゲーム転生。
侯爵家跡取りであるレオナルド。
眉目秀麗、剣の才あり、学問も優秀な男だ。
レオナルドには親が決めた婚約者がいた。
子爵家の次女、ティータだ。
ティータは容姿こそ凡庸だけれど、学園トップの成績を誇る娘だ。嫁ぎ先が商家であるため、商売の勉強を怠らなかった。
二人が十八になる学園卒業後に結婚させようというのが、両家の当主の考えである。
互いに恋心はない。
愛してはいないけれど、貴族の勤めなので全うしようと思っていた。
結婚まで一年を切ったころ、二人の通う学び舎に編入生が現れた。
子爵家庶子のシアである。
シアは今年に入って父親が子爵だと判明した。先日正妻が病で亡くなったため、子爵家に引き取られたのだ。
シアはレオナルドと出会い、自分が前世日本人のゲームオタクだったことを思い出した。
ここはシアがプレイしていた乙女ゲームの世界で、シアは主人公。レオナルドが攻略キャラなのだ。
もちろん、レオナルドとティータが形だけの婚約者であることも知っている。
ゲームの全キャラスチルをコンプリートしたから、どう動けばレオナルドエンドを迎えるかも知っている。
最推しキャラがレオナルドだったシアは、ことあるごとにレオナルドに話しかけに行った。
あなたは愛する人と結ばれるべきですわ、と。
そしてティータと二人きりになるタイミングでは、ティータに忠告した。
頭がいいだけじゃレオナルド様の妻はやっていけないのよ! と。
そう。レオナルドは、真に愛する人と結ばれる必要があるのだ。
そして一年経った今日。
シアが暗躍した甲斐あって、レオナルドは無事愛する人と結ばれる。
式場にはシアの姿があった。
苦節一年、ようやく結婚式。
シアは嬉し泣きでハンカチ三枚を濡らした。
神父の前で永遠の愛を誓い合うのは、レオナルドと──ティータ。
互いを終生愛することを誓いますか、と問われて、レオナルドもティータも、心から答えた。
「永遠の愛を誓います」
誓いの口づけが終わり、ティータがブーケを持って、参列者の最前列にいたシアのもとにきた。
「ありがとうシア。シアが勉強だけするのでなく、もっとレオナルドを知りなさいと言ってくれたから、レオナルドとたくさん話して、いろんな面を知って、心から好きになったわ。レオナルドを生涯支えるのです」
レオナルドもまた、ティータの良さをシアからたくさん聞かされた。
「ティータがこんなにも可愛くて努力家だと、気づかせてくれてありがとう。心から愛する人と……ティータと結婚できる僕は世界一の幸せ者だ」
シアは嬉しくて、追加で三枚ハンカチを濡らした。
推しの幸せを眺めるのが好きなタイプのオタクだったので、シアはひたすらお互いの良いところを説き押しまくったのだ。
ゲームしかしてないガチオタが推し様の隣に立つなんて、おこがましい。恐れ多すぎて、話しかけるのすら毎回ガクブルだった。
二人の結婚式のあと。シアはというと、ティータの弟に惚れ込まれ、翌年結婚することになる。