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輝石の楽園  作者: Butler
第2章~引き継がれる意思~
34/46

Ep.13 如雨露街に咲く花 -1-

 

 「凄い雨ですね……ここが如雨露街……?」

外を見ると、雨粒が窓を叩いていて、

ノイズの様に視界を妨げている。


「【色災】の影響地域に入った所ですね。

 街の入口はもう少し先ですが、準備をお願いします」

「分かりました」

ノースの言葉に私は防水装置を起動する。


(……何も変わってない……?)

だが、起動してみても何も変わった感覚が無い。


「ノース。この防水装置ですが……」

「? あぁ。外に手を出してみたら分かりますよ」

言われた通りに手を出してみると、

雨に当たる感覚はあるのに、冷たさや不快感を感じない。

(しっとりと濡れた感覚もありますが……一瞬で乾く……)


「不思議ですね……」

何とも言えない感覚に何度か手を出し入れしてると、

クスリと笑う声が聞こえる。


「あ、すみません……」

「大丈夫ですよ。僕もそうでしたから。凄い技術ですよね?」

「はい。でも……」

「どうして濡れる感覚をわざわざ残したのだろう。ですか?」

驚いた。私の心を見透かされてしまった……。


「もしかして、心を読める【色】ですか?」

「え? いや、ふふっ……違いますよ。

 博士以外の皆が思ってる事なんです」

どういう事だろうか? と聞く前に、彼は答えてくれる。


なんでも博士は「至らない所があった方が可愛いだろう?」

と、完璧な機械を作らないらしい。

だから、博士の作る物には一つや二つ惜しい所があるのだとか……。


「楽園の技術班は少し……いや、かなりクセが強いですが、

 皆良い人達なので、怒らないであげてください」

ノースが凄く申し訳なさそうに言うので、

少し笑ってしまう。

「ふふっ、大丈夫です」

それに、少し会ってみたい。

任務が終わったら会う機会はあるだろうか。


(でもその前に……)

「今は任務ですよね。っと、着きましたよ」

また私の考えを見透かされてしまった気もするが、

きっと気のせいだろう。

私は前方に見える大きな街に集中することにした。



 無事、如雨露街に到着した。

道中特に何も起こる事が無かったので、

予定よりもだいぶ早くついてしまった様だ。


入口の前で車を止めて外を見てみれば、

今は霧雨。視界は良好と言って良いだろう。

「着きました。確か入口にリンドウが居るはずですが……」

ノースが無線機を取り出しながら辺りを見渡すのと合わせて、

私も車の窓から街の方角を見てみたが……。

「誰も居ませんね?」

何処にも人の姿は無い。


「おかしいですね。連絡が行っているはずなんですが……

 それに、人の気配が無い……?」

ノースポールは備え付けの無線機を操作しながら連絡を取っている。


『我が主。何か嫌な気配を感じます』

「気配、ですか?」

突然、脳内で白炎が語り掛けて来る。

いつもの冗談を言わない事から、

何か必死さが感じられた。


「ノース。白炎が何か感じているみたいなので、

 少し先を見てきても良いでしょうか?」

「えっと……分かりました。

 彼と連絡がつかないので、

 僕は本部に状況を説明します。

 30分程しても見つからない場合は必ず戻って来てください」

了承し、タイマーを起動してから扉を開ける。

車から降りた瞬間、雨の独特な匂いが強くなった。

(それと土の匂いも……)

思えば外に出るのはいつぶりだろうか。

地面を一歩踏みしめれば、

砂利と石、ぬかるんだ感触。

久しぶりの感覚に少しだけ懐かしくなったが、

時間は少ない。


「さて……白炎。気配を追えますか?」

黒雷を銃に、白炎を小さな蝶に変えて私は如雨露街の中へと進む。

蝶を頼りに進んでいけば彼の感じる異変に辿り着けるだろう。


だが、雨が段々と激しくなっていくにつれて、

白炎の動きが鈍くなっていった。


そして……、

『申し訳ございません。見失ってしまいました』

ついに白炎は気配が感じ取れなくなってしまったらしい。


「この雨では仕方ありませんね……一度建物に避難しましょうか」

ひらひらとこちらに飛びながら謝罪する彼を宥めつつ、

とりあえず近くの建物の雨避けガラスに避難する事にした。


(酷い雨……先ほどの霧雨とは大違いですね)

防水装置のおかげで不快感はないものの、

視界が妨げられてしまうのは良くない。


一度帰ろうかと考えて端末を開くと、

違和感を覚える。


(二人とも、嫌な気配の他に外で何か感じませんでしたか?)

『何か……とは?』

(単刀直入に言えば、人の気配です)


思えば、ここまで全く人の気配が無い。

端末の時刻表示は正午を過ぎた所。

ここの住民は雨と共に暮らしていると聞いている。

出歩く人が居ないというのはあり得るのだろうか。


『ですが、それは豪雨だからでは……?

 流石にその日に出歩くのは危険かと』

(確かにそうですが……なら霧雨の時に居なかったのは何故でしょう?)

その理屈で言えば、霧雨は一番マシなタイミングではないだろうか。


『確かに……白が感じた気配の他に、

 私達とポーターを除いて”外に”人の気配はありませんでした』

『ですが……周辺の建物の中にはいるみたいですね。

 雨と壁の所為か希薄ですが……』


二人の言葉を聞いて、試しにとすぐ傍の家の扉をノックしてみた。

「どなたかいらっしゃいませんか?」

だが、反応が無い。


(誰も……居ない……?)

『いえ、人の気配はあります』

(白炎が感じた気配と関係がありますか?)

『まだ何とも……』

どうやら居留守をしているらしい。

とりあえず、もう一度ノックと声かけをしてみる。

……やはり反応は返ってこない。


「仕方ない……一度戻りましょう」

リンドウさんと合流できない以上、

このまま進むのは危険かもしれない。

それに、ここの住民に対する違和感もある。


豪雨は続いているが、来た道をなぞるくらいなら問題ないだろう。

そう思って足を踏み出した瞬間……

「お姉ちゃん、街の外の人?」

と扉越しに若い男の子の声が聞こえた。



それから……事情を話して部屋に入れて貰い、

私は少年から色々と話を聞く。

「成程。じゃあカイ君はここに一人で住んでいるんですね」

「うん。でも友達も居るし、街の人達も良くしてくれるから平気」

暖かいスープを頂きながら暖炉の傍で彼の話を聞いていると、

先程の警戒心は何処へやら、饒舌に話してくれた。


この街は常に雨なので、

タオルを使うよりも火で乾かすのが定石だ、とか。


電気は水力で賄っている為に、お金がかからない、とか。


隣りの家のおばあちゃんが部屋で野菜を作っていて、

余り物をくれるんだ、とか。


街の外から人が来ることは稀だから、

住民は興味津々で、一度捕まると中々離れられない、とか。


彼の人となりと住民に対する話から、

如雨露街は排他的な街ではない事が分かる。

分かるからこそ、疑問が拭えない。


何故、あの時間に、人の往来が無かったのか。

何故、家の中で静かにしていたのか。


すると、彼はポツポツと疑問に答えてくれた。

「数日置きくらいかな……、

 丁度今くらいの時間……霧雨の後に豪雨が降るんだ」

「豪雨……確かに降りました。それも霧雨の後に」

如雨露街は常に雨が降る街だ。

でも、降水量は一定じゃない。

霧雨だったり豪雨だったり様々な雨がランダムで降るらしい。


だが、”正午過ぎ、霧雨の後に豪雨が降る”のは、

決まったタイミングで必ず起こる。

そう聞くと、確かにその時間は家に居よう。

となるかもしれない。


(確かに、豪雨は危険ですが……、

 全住民が全く出歩かないなんてあるのでしょうか……?)

「豪雨が降るから、皆家に居るのですか?」

「違うよ。その日は化物が出るんだ……!」

「化物……?」

「そうだよ! 噂だと信じてない人もいたけど、

 皆どっか行っちゃった……」

化物と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは【色】の存在。

そして、信じていない人はどこかへ行ってしまった。

(調査の理由はこれかもしれませんね……)


「だからその日は出歩かずに家に居るんだ」

つまり、今住んでいる人達は、

噂を信じているからこそ無事なのだろう。


「成程……分かりました」

「信じてくれるの?」

「勿論です。カイ君は優しいですね」

優しく微笑んで頭を撫でると、

彼は嬉しそうにスープのおかわりを取りに行ってしまった。


(……さて、どう思いますか?)

『十中八九、【色】の仕業かと』

『私が見つけた怪しい気配はその”化物”かもしれません』

黒雷も白炎も確信している。

となると……。


「さて……これからどうしましょうか……」

手がかりをノースに送ると、

『リンドウとの合流を優先しましょう。

 手がかりを追えば見つけられると思います。

 僕は入口で待機してますので、定期連絡さえ頂ければ

 調査を続行して構いません』

と返って来た。


確かに……重要なのは先んじて調査に来たリンドウさんを見つける事だ。

ただ……【色】の手がかりはあっても彼の手がかりは無い。


(いや……もしかすると……)

カイ少年がカップと共に戻って来たので、

それを受け取りながら、彼に尋ねてみた。

「カイ君はどうして私に声を掛けたのですか?」

「……っ」

すると、彼は目を開いて驚く。

やっぱりと思いつつ、話を続ける。

「”化物”が出てくる日に警戒しているのは当然です。

 だから、一度目のノックで反応が無かった」

住民が息をひそめてた理由は警戒。

もし、”化物”が言葉を話す存在だったら?

なるべく訪問されない様にしていたのだろう。


「でも、2度目のノックの後、カイ君は話しかけて来た。

 扉越しでしたが……」

2回目となれば、様子を伺いに来るだろう。

ただし、扉を開ける事はせずに覗き穴から私を見るはず。


恐らく、その時少年は話しかける事を決めた。

”化物”ではない事を確信したから。


「そして……この機械。見覚えあるのでは?」

少年は、私が雨に濡れていない事に疑問を抱いていなかった。

普通は驚いたりするはずだろう。


でもそれが無かった。

なぜなら私の様に、濡れていない人を見た事があるから。


如雨露街に調査に出る時防水装置を渡される。

リンドウさんも多分同じ。

胸に装着する防水装置を見て彼は気付いた。


「カイ君。教えてください。

 リンドウさんは、どこへ行きましたか?」

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