Ep.11 【世界】
「パレット、ですか? それって絵を描くのに使う……」
私達が地面から状態だけ起こしてダリアの方を向くと、
彼女はいつの間にかスーツをビシッと来ていて、
眼鏡を掛けていた。
「え、何そのコッテコテの教師感……」
堪らずエリカが突っ込んでいるが、
彼女は眼鏡の位置を直しながら話を続けた。
「パレットのイメージはメリアが言った感じね。
【世界】は……現実を塗り替えるほどの強い力。
強力な【色】はこの世界を真っ白なキャンバスに見立てて、
自分の望む空間に塗り変えていく。だから【世界】」
「【世界】にはいくつかパターンが有るけど、
基本的なのは強力な一撃を放つものと、
一定の範囲に自分が有利な地形を生み出すものね。
正直、千差万別あるから詳しくは資料を見てくれる?
今まで楽園の家族達が戦った【色】の情報リストに色々と載ってるから」
私は端末を開き、教えてくれた資料のページを見る。
すると、リストがずらっと表示された。
が、正直どれから手を付けてよいか分からない。
「ざっくりしすぎじゃん!!
全部覚えなきゃいけないのこれ……?」
「そうねぇ……やりながら覚えるのが良いんじゃない?
事典みたいに使うのをおすすめするわ」
どうやら画像検索もできるらしい。
いざという時は対象を端末のカメラ機能に収めるだけで、
似たような【色】の情報が出てくるとか……。
一旦閉じて、ダリアに気になった事を質問してみる。
「【世界】は……【色災】と何が違うのでしょうか?
両方とも同じに聞こえます」
「良い質問ね。
簡単に言えば、【色災】は核が破壊されたら収束するけど、
壊すと宿主である【色】に致命的な負荷がかかるわ」
「諸刃の剣……ってこと?」
「ん~……まぁそうね。
後は……そもそも暴走によるものだから、
”制御が出来ない”のよね」
「逆に、【世界】は宿主や使い手が”制御しやすい”の。
まぁ自分の望む通りに作ってるのだから当然ね。
明晰夢の中で欲しいものを想像したらそれが出てくる感覚かしら?」
「じゃあ、いくら食べても太らないスイーツが大量に出てくる【世界】とかも出せる?」
エリカの乙女的発想にダリアは苦笑いする。
私も、お菓子の家とか出してみたい。
「……ロマン一直線ね? 可能か不可能かで言えば可能よ。
自分の【色】の特性、能力に準じたものだからお菓子の【色】とか居たら
作れるかもね?」
ちょっと……いや、大分ロマンがある。
自分の【世界】について想像を広げるのも楽しそうだ。
「で、話戻すけど、核を壊せば良いだけの【色災】と違って、
収束する方法は【世界】ごとに変わるのと、
一度出してしまえば収束しても負荷はあまりかからない事があげられるわ」
「負荷がかからない? 結構やべぇ力だと思うが……」
「言ってしまえば前払いよ。
ただ、能力によっては負債があったりするから一概に0とは言えないわね」
「負債……嫌な響きだな……」
「MPを割合消費する技みたいね?
足りない分は代わりにHPを消費したり……」
「無きにしも非ずよ。
消費する値は【色】との繋がり次第で軽減できるけど、
慣れてない内は反動がかなり大きいから。
仮に使えるようになったとしても、
ぶっつけ本番で使うのはおすすめしないわね」
「因みに使い方だけど……」とダリアが言ったので、
私達は唾を呑み込んで続きを待つ。
強力な力なら、覚えておくのに越したことは無い筈だ。
だが……。
「人それぞれ違うのよねぇ……残念だけど教えられることは無いわ。
一つ言えるのは、自分の【色】と仲良くなりなさい」
なんていう物だから、力が抜けてしまった。
(少し残念ですが、まずは成長が優先……)
だとすれば、強くなるためには知識が必要だ。
「対処法はあるんですか? 【世界】を使われた場合、
耐えるしかないのでしょうか?」
「そうね……そもそも【世界】を使えるレベルの敵対的な【色】に遭遇した時点で
貴女達は撤退案件だけど……」
と前置きした所で、いくつか例を挙げてくれた。
「耐え忍ぶ以外にも一応対抗策はあるわ。
現実的なのは弱点を探す事かしら?」
「それって収束条件の事か?」
「ええ。一撃型は避ければ良いけど、
範囲型は持続時間が違うからね。
条件を達成しない限り出られなかったり、
時間いっぱい効果が消えない物。
それらを無視して終わらせてしまう方法が
弱点を突く事」
「なら、どの【世界】にも弱点があるって事でしょうか?」
「”基本的には”ね。絶対とは言えない。
弱点が無ければ、突くのが難しいモノだってある。
現実的とは言ったけど、おまけ程度に考えておくのが良いわね……」
「二つ目の方法は……まだあなた達には出来ないけど、
こちらも【世界】を使って拮抗させる方法があるわ。
いわば綱引きね。土壌をこちらに引き込んでしまえば一転こっちが有利になる」
成程。こちらの利と相手の利の引き合い。
だが、残念ながら【世界】を使えない私達には不可能な方法だ。
「ただ、気を付けなきゃいけないのは相性と巻き込みね
相性が悪いほど拮抗するし、相性が良いほど同調する。
上手く利用すれば仲間同士で【世界】を展開して一つの技にしたりも出来るわ。
まぁ相当互いの事を理解していないと出来ないけど……。
コホンッ、とりあえず、拮抗と同調。
どちらも利点があるから状況に合わせて考えてね」
「考えてね……って言われても皮算用じゃない?
使えないんだから相性も何も……」
「知ってるのと知らないのじゃ全然違うでしょ?
覚えておくだけ覚えておいて、考えるだけ考えておけばいいのよ。
良い? 【色持ち】において、妄想は力!」
「んな名言みてぇに言われても……」
「実際至言だからね。暇がある時は考えてみなさいな。
己の【色】が出来る事を。どう描けば有利になるかを」
その後もいくつか例を挙げながらダリアが説明をしていき、
あとは……そうねぇ……。と呟いた彼女は、
何か思いついた様に私達に話す。
「【世界】は【色】1種類に付き1個あるとされるけど……
複数【世界】を使えた人は居ないわ」
「ん~……どういうこと?」
「2色以上の【色持ち】が、
それぞれの【色】の【世界】を創る事は出来ないって事だろ?」
「ごめん、専門用語多すぎてわかんない……」
「奥義は一人一つまで。
装備を変えても増やしても数は変わりません」
「成程ね! メリア分かりやすい!
でも、どうして一種類なの?」
「自分の望んだ光景を具現化するのだから、
相当強い意思じゃないと難しいの。
でも、それほどまでに強い意思は、
他の願いを吞み込んじゃうのよね。
だから混ざる」
「混ざる?」
「そ。同調と同じような感じね。
複数の【世界】が宿主の一番強い想いと共鳴して、
一つの技になっちゃう感じ?
……まぁ、それ以外にも、精神負荷が~とか、
キャパシティが~とか、懸念するべき点もあるし、
単身での【世界】複数発動は不可能って考えてくれて良いわ」
確かに、難しく考える必要もない。
出来ない物は出来ないのだ。
でも、目的は出来た。
【世界】を使えるようになる事は生存にも任務にも役立つだろう。
「ところで、ダリアさんの【世界】はどういう物なんですか?」
「あー、言われてみれば気になる!」
「教えてあげたいけど……私のやつはかなり危険なモノだから、
見せる事も説明も出来ないわ。ごめんね?」
少し残念だったが、それならば仕方ない。
私達は諦めて彼女の話を聞くことに専念した。
それから暫く。彼女の号令で座学は終了した。
「さて、そろそろ今日はおしまいね。みんな、お疲れ様」
「疲れたぁ……頭がパンクした」
「しそう、じゃねぇんだな……気持ちは分かるが……」
「ですね……情報量が多すぎて」
「今までの常識は通用しないからね……
新しい知識をいきなり詰め込まれたんだから無理も無いわ」
色、色持ち、作品、世界……馴染みのある言葉なのに、
全てが違う。
果たして私の脳は持つのだろうか。
戦闘とは違う要素で疲労困憊な私達に優しい言葉(?)がかけられた。
「ゆっくり噛み砕いてくれればいいのよ。
それに、今回は座学、訓練、座学って変な順番になっちゃったけど、
これからは訓練重視。きっと今日よりは頭は使わないと思うから」
「やった……とも言えないこの気持ち……、
ダリアと戦うの辛いんだけど……?」
「安心して? 他の先輩達とも戦えると……思うわ」
「……少し不安だな。で、何日くらいかかるんだ?」
「そうねぇ……とりあえずは数十日。あとは練度次第かしら」
……暫くは訓練が続くみたいだ。でもそれも当たり前。
今この状態で任務に行った所で足手纏いになってしまう。
だから、まずは地力を鍛える事が先決だ。
ダリアから詳しい予定を聞きながら、
私は手元の銃、【色】達を撫でながら、
これからの訓練に思いを巡らせるのだった。
ーおまけー
「そういえばメリアの【色】は喋れるのよね?
あまり話に入ってこないのは何で?」
「あぁ。言われてみりゃ商業区の初め以外ほぼ喋ってないよな?」
『あくまで、私達は従者ですので、
主様の気を逸らす事はなるべく控えているのです』
「それに、危険が迫っている時などは、
声よりも先に感覚で伝えてくれるので、会話の必要性があまり……」
「あー……それもそっか。ずっと私達の心に居るから……」
「以心伝心ってやつか……ま、悪い事でもねぇだろ」
「はい。でも一人の時とか、私一人では考えが纏まらない時は話しかけてます」
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