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輝石の楽園  作者: Butler
第1章~輝石の楽園へようこそ~
3/46

Ep.3 家族の為に

 気が付いたら大きな広場にいた。

おかしい……大量の文字を見てからの記憶がない。


「えっと……おかえり、でいいのかしら?」

「す、すみません……」

「いや、別にいいのよ。仕方ないと思うし……

 でも凄いわね。上の空でもしっかり付いてきてたわよ」

褒められている、のだろうか。


「ところで、ここは?」

見渡す限りかなり広く、円状の広場。

壁側には石が階段状に敷き詰められている。

天井は吹き抜けになっていて、綺麗な青空が見えた。


「闘技場ね。まぁ訓練場とも言うわ。

 それ以外にも大会とかお祭りとかもここでやるわね」


「成程……確かにこの広さなら色々できそうですね」

「まぁそれ以外にもここならではの特徴があるんだけど……見て貰った方が早そうね」


ダリアさんが携帯端末を操作した瞬間、私達は闘技場の端。石の椅子に座っていた。

「……!?」

「ふふっ、驚いた? でもまだ早いわよ? ほら、あっち」


彼女の指さす方向は私達が居た闘技場の中央。

そこで、誰かが戦っているのが見える。


一人は学生服を来た高校生? 大きい金棒を振り回しながら俊敏に動いている。

もう一人は……修道服を来た女性で大きな鎌を器用に操り攻撃を捌いていた。


「あの子達は、鬼灯とスノードロップね。ああ、学生服の方が鬼灯で、シスターがスノー。

二人とも強いわよ~」


そう言いながら彼女がまた何かを操作すると、静かな闘技場に金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

「遮音ですか?」

「そうね。途中観戦する時は最初にこうするのがオススメよ。いきなり爆音を聞きたくはないでしょう?」

「成程……じゃ、なくてですね……色々と聞きたいことがあるのですが……」

「まぁまぁ。今は観戦しましょ。」


軽く流され、仕方なく闘技場に目を向ける。



ー鬼灯Sideー


「流石だねロップン、全然当たらないや!」

しっかり狙ったはずの金棒が、ロップンのすぐ横を通り轟音と共に地面を抉る。

それなのに、彼女は澄ました顔で土埃一つ付いていなかった。

代わりに迫って来た大鎌を、仰向けに倒れて避ける。


「お前は大振りすぎる。あとそのあだ名は好きではない」

「えぇ~可愛いの……にっ!!」

そのままバネの様に飛び上がり、今度は横に振って体を狙ってみるけどそれも避けられた。

ロップンって兎みたいで可愛いよね。可愛くないかな。

彼女の事を氷の死神なんていう人がいるけど、私は雪兎みたいだなって思ってる。

それに、冷たい様に見えて意外と優しい。

訓練に誘ったら溜息をつきながら、「……行くぞ」って言ってくれるくらいには。


「考え事とは随分余裕そうだな?」

「ロップン以外に可愛いあだ名が思いつかなくて」

迫りくる鎌を金棒で受け返しながらそういうと、彼女は苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「その可愛さは別のやつに分けてやればいい。私とは無縁だ」

「そんなことないよ。ロップン可愛い!」

つい言葉に出てしまったそのあだ名に彼女の眼光が鋭くなった。

やっば……怒らせちゃった……?


「成程。どうやら死にたいらしいな?」

ロップンが鎌を垂直に構えると、周囲の空気が冷たくなる。

うん、違うね。これは照れ隠しだな~。

「って、ちょい!? それは使わない約束じゃ!?」

「うるさい。どうせ膠着してるんだ。”観客”もいる事だしさっさと終わらせよう」

「え、観客?」


ちらりと観客席を見る。そこにはダーリンと……知らない子。

「ダーリンと……見ない子だね?」

「大方新人だろうな。あとそのあだ名は勘違いされるからやめておけ」

「えぇ……可愛いのに……」

つい抗議の溜息を吐くと、寒さの所為か白くなる。

真冬の様に冷え切った中、あたしは金棒を強く握った。

「そっちがその気なら、こっちだって本気、出しちゃうよ?」

「好きにしろ。【一色】の制限ならその方が身になる」

「本当は素の力を鍛えたかったんだけど……」

そう言いながらも私の心は、気分は高揚していく。

死が身近に迫る感覚。ひりつく殺気。彼女は本気だ。

「【火鬼:炎獄体現】」

あたしの体から炎が噴き出し、周囲の冷気を融かしていく。

「じゃあ、第2ラウンド。始めよっか!」


ーー


目の前でありえない事が起こり始めた。

スノーさんは氷の鎌を。鬼灯さんは炎を身に纏っている。

まるでファンタジーの世界に迷い込んだような不思議な感覚だ。


「あれが【色】、ですか?」

「正確には彼女達が生み出した【作品】かしらね」

私の目の前に突然半透明のパネルが現れ、彼女達のデータが表示される。

……この闘技場ハイテク過ぎない?


ん……? 右下に注釈がある。

ーー

作品(クラフト)

【色持ち】が所持する【色】の別称。


宿主が確定していない【色】と区別する為に

楽園創設者が定めた総称である。

故に、作品=色 と思ってくれて良い。


一般的に、

外で発見した宿主の居ない【色】には、【赤:鳥】や【青:獅子】等の色の名前と姿形を。

【色持ち】が自身の【作品】を紹介する時は、【色】本来の名前を使う事を推奨されている。


ここで言う【色】本来の名前とは、

具現化した際に刻み込まれる真名の様な物で、同調した際に宿主に共有される。

だが、刻み込まれるタイミングは不定であり、

生まれたばかりの【色】は名前を持っていない事が多い。


因みに、略したり、あだ名をつける事は忌避されていない為、

長くて呼び辛い場合は推奨される。


注意:真名と言っても行動を縛り付ける効果はない。


ーー

(意味が一緒なら、さっき訂正された理由は……?

 注釈の中に注意書きが入っているし……)

考えるのを放棄して、ダリアの説明を聞きながら戦闘を見る。


「【作品】には様々な能力があるわ。

スノーは【氷咲・死鎌】。

簡単に言えば斬ったモノを凍らせる力があるわね。

対する鬼灯は……【陰陽五行・火鬼】。炎を纏わせて対抗しているの」


先ほどまでの戦いとは異なり、互いに武器を打ち合う度に爆発音が聞こえる。

こっちにまで、熱気と冷気が伝わってきそうなくらいだ。


「あの二人……本気でやっているんですよね?

危なくないんですか?」


「そうね……あまり脅かしてもあれだから言っちゃうけど、

ここでの戦いは記録されないのよ。」

「記録、ですか? じゃああまり戦闘の意味がないんじゃ……」


「あぁ……記憶じゃなくて記録、ね。

例えば……林檎があるとするじゃない?」

そういうと彼女はどこからか真っ赤な林檎とナイフを取り出した。


「それをナイフで傷つける。

私が林檎をナイフで傷つけた」


林檎の表面に傷が付き、蜜が染み出る。

「でもここでは林檎を傷つけた記録は無くなっちゃうから……」

彼女が傷をなぞると、林檎はまた綺麗になってしまった。

「ほら、傷は残らない。

でも、林檎に傷を付けたと私と、見ていた貴女の記憶は残るの。ね?」


ダリアさんは私に林檎を手渡すとウインクした。

「……良く分からないのですが……?」


「あら!? えっと……ね。簡単に言うと戦った記憶を残したまま、

闘技場の状態とか体の傷とかは始まる前に戻るのよ」

「成程……凄い技術力ですね。VRとか夢にいる感じなのでしょうか?」

「んー……普通なら、そう思うわよね。……でも、ここは普通じゃない。そうでしょ?」

普通じゃない。そう言われるとしっくりくるような気もする。

思えば闘技場に来てから様々なことが起きた。


観客席に移動していたり、誰もいなかったはずなのに人が居た。

ここで戦ってたとえ死んだとしても、それは無かったことになる。記憶を残したまま。

また、彼女の言葉を受け取るなら、これはVRや夢では無く、現実である。

「つまり……この闘技場は【色】、ですか?」

「当たりよ。ここの名前は【忘却のコロセウム】。施設型の【色】ね。

 宿主は……いうなれば、輝石の楽園そのものかしら?」

なら、【作品】なのでは? という言葉が口から出かけたが、

一旦飲み込むことにする。


施設が【色】を持っている。

普通なら無機物に心が宿っているのか?

と言う所だが……資料に書いてあった。

「意思や心は人に限らず万物が持っている物……」

「賢い子は素敵よ? とはいえここまで大規模なものはそうそう見かけないけど」

闘技場を軽く見渡してみたが、普通の建築と何も変わらないように見える。

次に座っている石段を触ってみた。ザラっとした感触と、細かい砂利が手に付く。

材質、肌触り、見た目。自分の知っている物質と全く同じ。

もし何も知らずに迷い込んでいたら。ここが危険な場所だったら。

完璧な模倣とも呼べるこれをどう判別すれば良いのだろうか。


「……【色】と、それ以外の見分け方は、あるのでしょうか」

「そうね……もし人間と全く容姿の変わらない人型の【色】が街にいるとして、

 その場合、事が起きるまで、普通の人間に見分ける術は無いわ。

 勘が鋭い子ならある程度はわかるかもしれないけど……可能性は低いわねぇ……」

「つまり、対処する術は無いと?」

「”普通”という条件ならね。

 その【色】が人を襲う子だった場合、町は壊滅。ゴーストタウンの出来上がり」

「…………」

過去を思い出して、顔が歪むと、ダリアさんは悲しそうな顔をしながら、闘技場に目を向ける。

まだ、戦闘は続いているようだが、熱と冷気で生まれた霧の所為で彼女達の姿は見えない。


「そうならない為に、”私達”がいるの。

 【色持ち】は少なからず、それを感知できるからね。

 怪しげな噂や、事象、古い伝承。それらを見つける度に調査員を派遣するのも私達の仕事の一つよ」

「でも、私にはまだ……」

「フフッ、安心して。流石に新人に調査は任せないわ。

 最低条件として、戦えるレベルまで【色】を扱える様にならないとね。

 あの位、とまではいわないけど」


霧が晴れ、視界が開けると、血まみれで立っているスノードロップさんと、

地面に倒れ伏した鬼灯さんが見えた。

彼女は死んでしまったのだろう。ピクリとも動かない。


(……っ、大丈夫。ここはそういう場所。この死は違う……)

突然目に映る凄惨な光景に体が強張り、息が苦しくなる。

あの日の光景と重なって上手く考えがまとまらない。


「大丈夫、とは聞かないわ。この光景に慣れなさい。

 じゃないと、いざという時、後悔するから」

ダリアさんが私の頭に手を置き、優しく撫でてくれた。

目をつぶり、深呼吸する。

「落ち着いた?」

「はい。すみません……」

「気にする事無いわ。

『家族』の面倒を見るのもまた、私の役目だから」

「家族……」

「そう。『家族』。私達職員の総称。

 そして私達の戦う理由であり、力」

決意に満ちた表情で彼女は私と目を合わせる。


「私達にとって死は身近にある。

 家族が……仲間が傷つくことは当たり前に起こる事よ。

 動揺する事もあるでしょう。人間として当たり前の感情だから仕方ないわ。

 でも、決して止まってはいけないの。

 動きを、思考を鈍らせれば、大きな隙を生む。

 隙はより大きな被害をもたらし、仲間どころか、自分すら危険になっちゃう。

 だから恐れてはいけない。……じゃないと、助けられるものも助けられない」

何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。

私の意思はまだ弱い。力のない私にはその言葉は重すぎた。

すると彼女は私をいきなり抱き寄せる。


「わかってる。この言葉は貴女に重すぎるわよね。

だから……一つだけ覚えていて欲しいわ」


「どうか死なないで」

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