ラフティーちゃん1
「お、おい……今の子どっか行っちゃったぞ」
俺の胸にくっついて太々しくしているアズモに声を掛ける。
水色髪の女の子が「アズモのバカー!」と走って行ってしまった。
確かに、大人しいアズモとは違い、さっきの子は元気そうな子で馬が合うとは思えない。
しかし、我の強さはどちらも同じように中々だと思うのだがどうなのだろう。
「ラフティーと私は友達じゃない」
「だが、ラフティーちゃんはアズモの事を友達だと思っていたみたいだぞ」
「あいつが勝手にそう思っているだけだ」
「そうかあ……」
アズモは人見知りが激しいと聞いていた。
だから他の子とコミュニケーションを取るのが難しく、友達も全然居ないんだと思っていた。
だが、今のやり取りで分かった。
アズモは人見知りなのではなく、壁を作っているのではないか。
壁を作っているから他の子とあまり喋らない。
そしてその様子を見た先生方が、「アズモちゃんは人見知りが激しいのねえ」と誤解する。
これが答えな気がする。
俺みたいな壁を作らない例外にはありのままグイグイ来る……みたいな感じなんだろうな。
とは言え……。
「友達には優しくするんだぞ。アズモからそんな態度を取られても友達だと思ってくれるなんて良い子じゃないか」
「む。何度も言うがラフティーは友達では無い」
「そんな事言うんじゃない。あと、これから教員室で朝礼があるからいい加減俺から降りろ」
「やだ」
―――――
「お、来たみてえだなコウジ。んで、まあー相変わらず懐かれているんだな」
「フィドロクア先生おはようございます」
「おお、おはようさん」
教員室に入ると、昨日俺に色々と優しくしてくれた先輩先生、フィドロクア先生が居た。
フィドロクア先生は俺がアズモに引っ付かれているのが余程面白いのか、会う度に話しかけて来る。
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に面倒見が良く、兄貴性分な頼れる人だ。
何処かで見たような水色のサラサラ髪の毛を少し伸ばしており、口元にはよく不敵な笑みを浮かべている。
ちなみにアズモは引き剥がせなかったので、今現在も俺にくっついている。
「今日はギニスの奴を見てねえが、まさかコウジがアズモを保育園まで連れて来たのかあ?」
「ああ、そうなんですよ。なんかアズモの面倒を完璧に任せられちゃって……。あれよあれよと流されていたら、アズモと一緒に過ごす事になっちゃったんですよ」
「クッ…………ハハハハ! なんでそんな事になってんだよ、おい! やばいやばいと思っていたが、やっぱギニスの野郎ってやべえんだな!」
昨日の事を話すと、フィドロクア先生は楽しそうに笑った。
ギニスというのはアズモの親父の事だが、あんな厳つい顔をした人の事を良いように言えるなんてフィドロクア先生は恐れ知らずだ。
「どうやらギニスが勝手にあれこれやっちまったみてえだが、アズモはそれで良いのか?」
「……」
「クッ、ハハハ! 悪くはねえって思っているみてえだな!」
フィドロクア先生に話し掛けられたアズモは喋らずに顔を少しフィドロクア先生に向けただけだったが、それでも十分に伝わっていたらしい。
喋っていないのになんで伝わるのか少し疑問に思ったが、俺の国では目は口程に物を言うとも言うし、まあそういう事だろう。
その後朝礼を終え、二歳児のクラスに向かおうとしたらフィドロクア先生から「俺の子とも仲良くしてやってくれよお?」と言われたがどういう事なのだろうか。
聞こうと思ったが、手をヒラヒラ振って行ってしまった。
―――――
「やっと来たわ!」
二歳児クラスに着くなりそんな事を言われた。
朝、俺に絡んで来た女の子と同じ声、つまるところラフティーちゃんの声だったのだが……。
「竜……?」
姿がまるで違かった。
人型のアズモと同じ背丈の女の子だったはずなのに、今は水色の小さな竜になっている。
「アズモを賭けて勝負だわ!」