アズモちゃん3
「コウジ」
「コウジ先生」
「コウジ」
「コウジお兄さん」
「コウジ」
「もうコウジで良いよ」
幼女と成人男性の二人暮らしはいくらなんでも不味いだろうという事でアズモちゃんのお宅に居候する事にした。
ちなみに、あの親父さんの提案を断るという選択肢は無かった。
たぶん断ったらその瞬間俺は死んでいた。
という訳でアズモちゃんの部屋に今はお邪魔している。
現在進行形で俺用の部屋を増設してくれているらしいから、それまではここで仲良くしてやってくれとの事だ。
「読め」
「はいはい」
アズモちゃんが本を持って来たので読む事にした。
あぐらをかいた俺の膝の上に座ったアズモちゃんは、全体重を俺に預け寛いでいる。
今更だけど、なんで俺はこの子にこんなに懐かれているのだろう。
「ん」
紫色でさらさらな髪の毛を撫で、アズモちゃんが差し出してきた本を預かる。
「……いやこれ漫画じゃねえか。絵本かと思ったらゴリゴリの少年漫画じゃねえか」
「絵本は子供が読む物だ」
「アズモちゃんは何歳なんだっけ」
「二歳」
「子供じゃねえか」
「子供じゃない」
絶対子供なんだよな。
しかも幼女なんだよな。
今の俺達の絵面も中々にやばいんだよな。
これで親戚とかだったらまだ良いが、他人と他人だぞ。
実は同じ血が通っているとかあったりしないか。
「アズモちゃんって何の種族なんだ? 実は人間だったりする?」
「竜だ」
「あー、やっぱ人間じゃないか。これじゃ俺と何の繋がりも無いや」
あの顔が厳つい親父さんもやっぱ人間じゃ無かったんだな。
だって人間がして良い顔をしていなかったもんな。
「早く読め」
「はいはい……。世はまさに大――」
―――――
「次巻だ」
「いや、待ってくれ。まだ読むのか? もう五巻は音読したぞ?」
「今良い所」
「それはそうかもしれんけどさ……」
もう喉がカラカラなんだよな。
ずっと黙って見ているアズモちゃんは良いかもしれないけど、ずっと喋っている俺はもう声がガラガラなんだ。
――コンコン。
「部屋の用意が出来た」
「あ、親父さん! じゃあそういう事だからね、アズモちゃん。仕方ないけど、今日はここで終わりだね」
「む……」
救世主が現れた。
部屋の掃除だけで何時間掛かるんだと思っていたが、ちょうど良いタイミングで来てくれた。
「ついてく……」
アズモちゃんがせめてもの抵抗として俺に抱き着いて来た。
この子が自分で歩いている所を俺は見た事が無い気がするのだが、この子は一人で歩けるのだろうか。
やはり竜でも、ハイハイとかするのだろうか。
とは言え落ちたら危ないので、アズモちゃんの背中に手を回した。
「ここだ」
「……で」
親父さんを先頭に歩く事数分、玄関を通ったあたりから怪しいなと思っていたが、俺の部屋は外に用意されていた。
というかこれは……。
「離れだ」
「でっか……」
どうして僅か数時間で離れを用意する事が出来るんだ……?
どうなっているんだこの親父は?
実は凄い人だったりするのか?
竜なのは確定なのだろうが……まあ良いか。
でもこれでやっと一人の時間を送れる。
今日はずっと誰かと一緒だったから地味に疲れが溜まっていた。
「貴様にはここでアズモと一緒に暮らしてもらう」
「む」
「ええ……?」
何言ってんだこいつ。