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『  』

 空と宇宙に大量の艦船がまだ駐留する中。

 ノーカは具合が悪いらしく寝室で寝ているアンジェに会いに行く。

 既に夜、ノックをし、昼に続き返事が無いそれにやむを得ず、ドアを開け中に入る。

視線の先、日課となりつつあった午後のお茶もせず、夫婦用の大きなベッドに独り背を向け横たわる彼女に、ノーカは鏡台の椅子を引き寄せ、その外側に腰掛ける。

 そして、

「……何か……聞いて欲しくないことはあるか?」

「……」

「……これから話をしなければならない。……夫婦としてもそうだが……この宇宙に生きている……人間としても。……違うか?」

 いまいちその自覚は薄いが、ほんの微かなそれなら、ノーカにも、その当事者としての意識はあった。

 一度はぞんざいに打ち切ったそれに、アンジェは背を向けベッドに横たわったまま、

「……何を話そうというのですか」

「……まず、分からないことだらけだ……お前が……天使として実際に何をしていたのか、何を見て来たのか、そこで何を感じていたのか……外にはどんな世界があるのか、済まないがそちらの方が興味があるが。どうしてお前たちはその混沌の海――世界の根源だったか? それに触れて、その世界の根源とやらを壊さずにいられるのかとか……他にもいろいろだな……」

 アンジェの悩みが、気が晴れるまで、なんて言わない。

 虚飾は無い、しかし酷く迂遠な、ノーカなりにアンジェの事を心配してのそれに、彼女は逆に気を遣うよう体を起こす。そしてひどい寝癖の髪と皺の付いた服のまま、それを直そうともせずノーカに目を向ける。

単純な興味のように美枝て――しかし、ベッドの外、少しだけ距離を置いて、やはり今傍に寄っていいのかさえ気遣うようなノーカに、アンジェは、陰鬱に見える表情も、背中の翼もクタクタのまま、

「……そのまえに、ひとつ、謝らせてください」

「なんだ」

「……あなたは、何も感じていないわけではありません……少なくとも、あなたの昔の話を聞いたときには……」

「いい。気にしていない。……というかそっちか」

「――?」

「てっきり昼に見せられた世界が終わる瞬間のことだと……それに関してはお前の言う通りなんとも思っていない、それは所詮他人事だからだ。が……もし明日か明後日あたりにこの宇宙が滅びるのなら、近くにいる知人の顔くらい今なら確かめるかもしれないな……」

 彼らに、一言二言、別れの言葉をと、やはりレナ達近所の住民の顔を思い浮かべる。

 しかし、やはり正気を失うような恐怖、嘆きの感情とは無縁であろうと、冷静にそれを言いながら、アンジェの顔を他の誰よりも真正面から見つめる。

 アンジェの事を気遣うまでもなく、嘘など吐いていない。

 それを察しアンジェは許しを得て安堵したよう、しかし彼女の事情からまだまだ浮かない顔のまま、

「……ありがとう、ございます」

「……礼を言う事ではないだろう。……で、聞いてはいけないことは何だ?」

「……いえ、ご安心ください。もしそういうことがありましたら、ただ口を噤みます」

「わかった」


 それから、ノーカは一つ一つ話を聞いた。

 アンジェが天使として何をしていたか、それは大筋でこれまで聞いたことと相違なく、神――もしくは彼女の上位に居る天使からの指示で、条件を満たした危険な知性体、それが棲む宇宙を消去して回っていたとのこと。

 それ以外の時は、概ね、彼女達が棲む天使たちの世界――宇宙と宇宙の間にある、天界、と呼ぶそこで情報の更新や新たな指示を待つらしい。

 それから、この宇宙の外側には、他にどんな宇宙があるか。

 それは古い創作物にあるような、剣と魔法のそれや、絵本の中のようなデフォルメされた動物のそれもあれば、この宇宙とは異なる科学分野が発展したそれや、逆に、全く進化せず原始的なそれが継続している世界もあるらしい。

 そんな宇宙も一つ一つの大きさにも差異があり、砂粒やガラス玉のようなそれから、平均的なそれ十や二十を飲み込むほどの大きなそれもあり、形も一つではなく、メビウスの輪や、階層を持った円柱など、幾何学的な図形から、動物のようなそれ、宝石の結晶や、巨大な樹木のようなそれもあるという。 

 人――いや、知性を持つ存在、の形も様々で。

 火、水、光、音という、知性を持つ現象とも呼べるそれを始めとし、五体が無く、構成するのは物質ではない種や、言語を持たずイメージのみで高度な意思疎通をする種――

 それらを、消去して回った記憶、それを話してくれた。そして、

「私は、いつからか、迷っていました……これを本当に消していいのか、せめて、その宇宙の寿命が来るまで、手を触れず、そっとしておくべきではないのか……しかし……」

 ただ放っておいても、世界に破滅を引き起こす。それも、間引きせず放置すればよりタチの悪い相を持つことすらある。最悪、天使と呼ばれる彼女達でも手こずる世界を喰らい尽くす獣のようなそれが。

 それを鑑みると、どうしても放置することが出来ず、しかし、ただ手を下していることも出来ず、

「……見えてしまうのです、最後の瞬間、親しい者と身を寄せ合う姿が。聞こえてしまうのです、助けを求め、手を伸ばし、悲鳴を上げ、それでもやはり、絶望に呑み込まれていく声が……どんなに、救いの無い世界でも、一握り、ほんの一欠けらだけ存在する、良き心の姿が……それまで、本当に失わせなければならないのかと……思い至ってしまったら……」

 そこで、天使としての活動に支障をきたしたという。

 たった一人、たった一度、という数ではない。それこそ、億では聞かない数字の、命と、心ある存在を、それが生きていた何千、何万という世界を――

 自らの手で。摘み取り、刈り取り、葬ってきた。

 それ以上の数の、それ以外の可能性の為に。

 それを聞いたノーカは、その苦しみなど、やはり理解など出来ず、

「確かに……捨てられなかった結果、宇宙、世界、という規模での破滅が振り撒かれるのなら、理屈としてはその数字は切り捨て無視できた方がいいものだろう。

 が……」

 と、ノーカは淡々と感じた。そうとは思えない彼女は、確かに大局的倫理として、天使という存在が負う役割として用を成さないだろうと。

 だが通常、あるべき良心としては正常で、アンジェでなくともレナやバン、この田舎だけでなく宇宙に居る多くの人間が彼女の徹し切れない甘さを肯定するだろう。それを踏まえると、やはり異常なのは自身の方だとノーカは思う。

 すると、

「……いつから、なのですか……」

 アンジェは、その波打つことのない瞳に疑問した。

「なにがだ?」

「少なくとも……お墓が……大切な人が消えてなくなってしまった瞬間、そのときは感じていた筈です……体の、冷たい鼓動や、不快感、空虚さを……」

 ノーカが、それを失った、今の在り方にいつ至ったのかと。

 訊ねられ、自身のその境界線があいまいなノーカは、少しだけ長く逡巡した。

 それを感じていた時の方が例外的で、それ以外の時こそが恒常的、日常的、ノーカにとって平時であった。

 だが、あの星で、ただ自身が生きる為だけではない、他人の温もりを得たことは確かで。初めてそれを得て、そして失った。それを寂しい、悲しいと感じていたのかもしれないその後は……。

 やはり、特に感情面が希薄であったときのことは思い出せない。

 しかしその逆に――自身の明確な意思、感情、最後にそれを感じた……ある意味で、それ以前と以降とも呼べるその境目はと――思い返し、

「…………そうだな……多分、……軍に入って間もなく……。仇、というべきなんだろう……それを殺したときだな……」

「仇……?」

 何の、というそれに、

「……同じ軍に居たんだ。あの集落を襲った奴が」



 否、ノーカが所属していた軍自体が、あの星を壊したその下手人だった、というべきか。それに気付いたのは軍の採用試験、それを通過し配属先に着いてしばらくしてからだ。基地にある型落ちした戦闘艇や艦船、それがかつて集落を焼き星を破壊したものだと思い出した。そして、如何なる巡り合わせか、その最初に配属された基地に、たまたまそのとき集落を襲撃した犯人が居て、何食わぬ顔で自慢話をしていた。


 ――何人やった。

 ――止まった的を撃つより簡単だった。

 ――雑魚をヤルのはこれだからたまらねえ。

 ――これがやめられなくて軍人になった。


 目的はストレスの発散だった。

 戦場では、制宙権、制空権、その確保後、陸地における最低限の安全が確保されてからの最後の出番となる歩兵――それは戦略と戦術における手順と役割の違いだが、しかし安全が保証されてからというそれを先に死ぬであろう他の兵種より臆病で軟弱となじる者は多い。それは長く続く戦況の為だが、実際ただの歩兵は、他の兵種より特別な学識が必要とされず、身体機能を駆使した戦闘技能や、足で歩く必要がある戦地の知識を持つだけの――それが星一つ簡単に吹き飛ばす戦場の中で何の役に立つのかと、不安と不満のはけ口にされることが多かった。

 その腹いせだ。

 だが口ぶりを鑑みるに、そうでなくとも、悪徳に生きる喜びを見出す人種のようだった、合法的に人を殺せる――強盗や窃盗、詐欺や暴力、性犯罪――嬲り、嘲り、他者を組み敷く、ちゃちな犯罪ではない力が振える、それを尊ぶ人種だ。

 大人や社会やルールを出し抜く快感、非番だからと酒を煽りながらのその話を耳を素通りさせ聞いていれば、次第に身に覚えのある戦場の風景が聞こえて来た。

 山間の、廃墟を利用した拠点、留守の傭兵、老兵と負傷兵、散り散りに逃げる子供、極めつけはその後、その舞台となった惑星は、戦犯の証拠隠滅の為に丸ごと消し去ったこと。

 おかしなくらい一致する状況に、ノーカは彼らに近づき、それから、今はもう無い星の名前、その地域、その時期の状況を口に出して確認した。


 ――それはもしかして、『*#$%』の『&*@』のことか?

 ――知ってるのか?

 ――ああ、俺もそこに居た。


 すると、同じ悪さをした仲として破顔し、やたら馴れ馴れしく同じテーブルへと誘い、彼はその武勇伝を語り始めた。しかしその内に、ノーカの年恰好からそのとき軍に所属している筈もないことに気付き、そして彼らと同じ狩る側ではなく、ノーカが狩られる側として立っていたことを理解した。

 すると慌て恐れ戦き――しかし数秒後、悪びれず開き直ったその兵士は、恨んでいるのか、復讐する気かどうかを確かめてきた。それにノーカは、


 ――傭兵であれば昨日の敵が味方になることも、また敵になることも十分ある。それを怨むつもりはない、その代わり殺すことも躊躇いはしない。


 と、傭兵が戦場で生き残るために必要な理念を述べると、その兵士は冷や汗を浮かべながら苦笑いを浮かべ、ならいいんだ、と言った。

 それからというもの、顔を合わせる度に嘲りの表情を浮かべて『仲間を殺された気分はどうだ』『腰抜けか』『臆病者か』『お前の銃にはタマが入ってないんだな?』などと、顔を合わせる度にねっとり耳元で自分達にだけ聞こえるよう囁き掛けて来た。

 それは揶揄でありながら、ノーカが口にしたそれが嘘ではないかを確かめていたのだろう。言質を確認し、立場や精神性に於いて自分たちが格上であること、自らの発言と理念を違えないかと、揚げ足取りのようなことをして遊んでいた。

 だが、内心の怯え、それを隠す示威も目に見えていたそれに、


 ――これからも、いつでも試させてやるぞ?


 と、その行為の裏で、実際、本当にノーカに彼らを殺すつもりがあるかどうか確かめていた――それを指摘し、取り立てるような害意が無いことを証明した。

 つもりだった。だが後日。古い格納庫――抱き込まれた憲兵《MP》の警邏を外されたそこで、おおっぴらに殺害されそうになった。

 自分達の正体を知ったノーカが復讐の為ここに呼び出し殺害に及ぼうとした、その正当防衛でやむを得ず反撃しノーカを殺した。

 そういう筋書きだった。


 だが、この時点で既にクライウッドやケリーの手が入っていた。


 誘い出されたのは彼らの方だった。

 巧妙に状況を操作され、巡ってきた絶好の機会、そこででっち上げの証拠という罠を引っ提げ身の安全の為ノーカを殺害しようとしてきたそれに、ノーカは物理的な罠――この基地内で堂々と暗殺を行うとしたらとその構造を把握し、ヤマを張り前もって仕掛けておいたそれで逆に返り討ちにした。味方殺しは正当な理由があろうと同一部隊内で致命的な不信を招く為、一応ではあるが無力化に留めていた。

 そこでクライウッドとケリーがその現場を押さえた。

 唐突に横入りしたように見えた二人だが。当時、憲兵の指揮官として転属してきていたクライウッドらの本当の任務は、その兵士らを法廷に確固たる証拠と共に吊し上げることで、この基地で彼らの行った数々の軍規違反、並びに過去の戦争犯罪それらを上げ連ねた。

 それはノーカの体験したそれだけでなく、彼らはストレスの発散に戦地の一般人を理由なく殺戮して回っていただけでなく、そこで子供を攫い縁のある軍需企業の実験用動物モルモットとして売っていたというものまであった。それどころか基地近隣の一般人や内部の新兵、女性隊員に対し軍人の力と階級を悪用した犯罪行為まで行っていた。

 二人がその内偵をしていた所に丁度、ノーカという起爆剤が現れ派手な行動に出たその現場をお膳立てし、押さえることにしたのだ。

 そして最後に、彼らにこの場での拘束を受け入れるよう命令した。

 激しい抵抗をするか、無暗矢鱈と吠えると思われた彼らは、意外なほど素直に拘束を受けた、これで彼らの軍歴も将来も終わりというのに。

 すると、

『――軍事裁判に掛けられても、結局降格処分や謹慎程度で実質無傷で済む。そしたらまたどこかの部隊で同じことを繰り返すさ』

『――お陰で昇格して戦地を離れなくて済む』

『――また人を殺せる、大助かりだぜ』

 そう自信たっぷりに、捨て台詞でも強がりでもないらしきそれを羅列した。

 言動の調子、声色の自然な鷹揚さからそれが嘘では無いこと……おそらく実際にもう何度も繰り返してきたであろうそれが見て取れた。

 この茶番は本当に茶番になるのか。

 それをノーカが理解した瞬間、しかしクライウッドとケリーは音を消し、それまで浮かべていた人間的な表情も消し、速やかに彼らを射殺し始めた。

 件の掃除だ。最初からそのつもりだったのか、最後の機会を与えていたのか。

 賄賂で抱かれ彼らに協力していた憲兵を、その兵士の取り巻きも言い訳を聞かずに殺し、それから残った主犯格とノーカの事情を鑑みて、復讐の機会を与えようというのか銃を渡され、それ(・・)をどうするのか裁定を委ねられた。

 それを見たそいつは、

『――いいぜ、復讐だろ? やれよ!? 理由があれば人を殺していいんだろう!? ――それを証明しろよ! 殺しは気持ちいいぜぇ?!』

 薄汚れた唾を撒き散らし、呪うように言葉を吐き付けた。

 正義感や倫理観を刺激し、自らの死を否定させようとしたのか。

 自己の尊厳を守ろうとしたのか、それとも自身のそれを破壊しようとしたのか。感情の赴くままのそれを肯定し――させようとする。

『――これでお前も立派な殺人者様だ!』

 そうして、自己と同列にしようというのか。

『あーの時はたーの()しかった♪ たーの()しかった♪ たーの()しかったぁなぁ~~ああ~~~~♪』

 これからそうなる、と言わんばかりに。それは、その瞬間を事あるごとに思い出し、愉悦に浸る、それを自ら示すかのよう陽気に謳われた。


 その歌に、既に風化していた記憶が蘇る。

 あの時、彼女はどんな顔をしていたのか。

 あの時、彼女達はどのように自分を抱擁してくれたのか。

 老兵たちは、子供たちは、老婆たちは、手が無い体、足がないそれで、自分をどう扱ってくれたのか――


 皆、優しく笑っていた。


 真っ赤に燃える記憶が、思考をシンプルに染める。

 憲兵クライウッドから手渡された銃の感触を確かめる。

 許可はある。だが殺せば、これと同列になるのか。それとも彼女達の無念も浮かばれるのか。少なくともこれからの犠牲者は減るのか。

これ(・・)が生きている価値はあるのか。これ(・・)ではなく、他の人間の方が生きるべきだったのではないのか? 今殺したところで何が変わるのか。

 皆、笑っていた。残るべき笑みはどちらだったか。

 皆、嗤っていた。これは自分の頭の中の妄想か。

 殺したいのか。殺すべきか。生かすべきか。殺したくないのか。

 誰の為に、何の為に――

 どうするのか――銃を手の平に握ったまま、それを見つめて。

 突然、頭の中に答えが降りて来る。

 ノーカは。

それを真っ直ぐ眼の前に向け、そして――

 視線を合わせた。

 その兵士は、

『……なんなんだよ、てめぇは……』

 

 ――パン。


 その兵士は、ノーカを、まるで異物でも見るかのような眼で拒絶するように見つめ、こと切れた。

 死体を見る、だが、何の感慨も沸かない。

 しかし、それに言われるまでもない、自分は人を殺していると思っていた。

 だが……この殺しは少しだけ違った。

 理由なんて何もなかった。彼らを殺しても、殺さなくとも生きていけたし、彼らのように快楽やストレスの発散――もはや復讐でもなかった。

 だがこれは、これまでのように、生きる為でも身を守る為でもない――

 何のために殺したのか。

 しかし、これを殺すのに理由も正義も悪もないと思った。

 気付いたら指先が引き金を引き終わっていた。

 それは今までで一番軽い引き金だった。


 後になってクライウッド達から事の詳細を聞いた。

 彼らの報告では、あの集落の住民は、武装した一般人が一地域を占拠しその周辺で私掠を繰り返していたことになっていた。星間連盟に加盟した、政府の統治を否定するそれを殲滅するため、惑星環境にダメージを与えない為、更には一般人が虜囚となっている情報もあり、最小限の武装車両と歩兵のみで静粛に作戦を行ったと後付けの記録が残されていた。

 が、実体は既に知った通りで。承認された作戦ではなく、戦地における彼らの軍規破り――しかもそこで運悪く彼らにも数名の死者が出て、軍が事の詳細を把握する為、状況の調査に赴いた。そして重大な戦争犯罪を知った当時の上層部――その中に居た彼らの親族や、それとも繋がる彼らの取引先が証拠ごと事件を揉み消す為に惑星を消し去ったという。



 それから、彼らの仲間になった。

 この件はクライウッドらからの試験のような物で、本来自身を渦中に置くことなく彼らの身を闇に葬るつもりだったのだが、基地内での彼らとのやり取りから暗殺業に身を置く精神的資質を見出し、そして技量を計る為、ふるいに掛けたということだった。


 そして軍人としての任務や訓練を熟す傍ら、彼らと共に軍内部とそれに関連する企業の不正と腐敗の元凶となる者たちを殺していった。

 復讐心でも、大義でもなく、上官であるクライウッドやケリーらの命令だからでもなく、殺すべきだと答えが降りて来た人間達を殺し続けた。

 そこで罪だとか、悪だとか、それが誰に影響を与えるとか、細かいことは考えたことは無かった。

 そして、

「それくらいからか……それまで感じていた、自分の中に在った、熱のようなもの……人を殺す――いや、……生きることに対する欲……本能とか、闘争心ともいうようなものを……戦いが終わった後に感じる、実感を……感じなくなった」

 人の――いや“死”に対し、ひどく無感情になったのは。

 見ず知らずの誰かの為ではない。

 ただひたすら、純粋に生きる為に目の前の敵を屠ったのでもない。

何の感情も無く、摂理に似た何かが降りて来るような感覚

 その“確信”めいた感覚。アンジェのいうところの、真理。

 あれが、生きる為の糧を得る動物的なそれから、明確な“人殺し”に変じた瞬間だったと思う。

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