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完ぺきではない天使と人と、そして夫婦。

 次なる進化の段階――要約して、人という存在の形が変わる。

 ついでに心の在り様も変わる。

 更には、幸せの形も変わる。

 どう前向きに考えてもそれは、

「――どっちみち人類滅びろってことじゃねえかよ!?」

 世界の終わりに際して発する知的生命体の激情。

 世界の根源に対する滅びを齎すそれを回避するための手段。

 一つは“死”そのものを生き物として乗り越えること。生物としてというより命として、否、もはや存在としての進化、もしくは変容だが。

 キースは言った後やけくそに臍で青空を仰いでふて寝し始めた。生物としての形を変えるなんて、自然な交配上であればいつそれが起こるのか、または起こらないのかさえ未知数だ。遺伝子操作に至ってもデータ上これまで人として確認された種であれば既に全ての掛け合わせは終了している。

 これ以上の伸びしろを求めるには、人種の氾濫期のようにそれこそ人ではないそれを組み込む必要があるだろう。だがその場合、発展どころか退化の可能性とて存在し、数十億など既に越えている遺伝子の中からその当たりを引き当てるのは一体何時になるのか。

 いや、そもそも当たりが存在しているのか。人、というそれに限らず、生物ではなくなる必要があるのなら、遺伝子という素材マテリアルそれで合っているのかさえ分からない。むしろそこから逸脱する必要があるなら、宇宙に存在する星の数以上のそれ以外の素材に飛び込む必要すらあるのだ。

 そして、

「精神的に……世界の終わりを克服って……大々的に終活でもしろっていうの?」

 マリーが座り込んだそれから復帰するも、二日酔いより酷いなにかに苛まれている様子で頭を抱えている。

 ある意味で、死を超越しないことが前提となる対処。

 人の死生観によるその恐怖と激情への対抗。

 キースが想定したそれが肉体を基点に置く進化であるなら、こちらは心のそれだ。

 それも社会規模での精神性、その変容……それは概ね文明と技術の転換点と共に、文化の変容から始まる。石器、銅器、鉄器から始まる生活の変化から、社会形態、動力発明からの流通革命、以降の食文化の変化から家族の形、娯楽に至るまでそれは様々だが。

 しかし現在、現宇宙に確認されているどの文明と文化も、その延長上に劇的な可変容の能性があるかと問われれば無きに等しいといえる。銀河を飛び越えるほど航宙技術は発展し、超技術により服から家電製品に始まり兵器類の刷新もした。

 だがそれらが精神性の発展に繋がった文明――旧態然とした文化的な発想から超えたそれは、残念ながら確認されていない。

 食事、ファッション、性風俗、音楽、文学、芸術、スポーツなど、その多くが形を変えても本質としては変わらずにそこに存在している。つまるところ人の根源的な喜びの形――そして不幸の形は変わっていないということだ。

 それを変えるということは、人という種が掲げる精神的意義、理想の在り方、それらの定義を変えるということになるだろう。

 それが、人の形が変わる、生き物としても、心の在り様としても、今の幸せが失われるということだと、そこに居る全員が理解した。

 

 今の幸せを維持しようとする限り、人はそれら人の、生の形を変えようとはしない。

 そこで死、もしくは世界の終わりそのものに悲観しない精神性。もしくはそれに相当する力を得ること。それらを乗り越えられる、命を超えた何かとなること。

 アンジェが、否、神と天使を名乗る存在が提唱するそれらを成すということは、結果的にではあるが、人を滅ぼすことをこの場に居る全員が理解したそれを確認し、彼女は、


「それで、どうするおつもりですか?」

「……どうするとは?」

 ノーカはやはり、この場に居る人間の中で、比較的学術的素養に富み、ファンタジックな概念をある程度理解し且つ現場部隊の指揮官でもあるキースに目を向けるが、生憎、まだ青空に腹を見せている。

 その部下たちも正気、健全(Sanity)な何かが削られたようなダメージから回復しきれておらず、這う這うの体でそれらの意向を窺うことはできない。

 彼らに、とりあえず話を持ち帰って検討してきてくれ、と言いたいノーカだが、再びアンジェに目を向けると彼女はいつになく神妙に、

「……今の私には何の権限も御座いませんが、この宇宙の喫緊の問題は終わらない戦争です。が、それに限らず、知的生命として進化を遂げなければいずれ全宇宙にとっての厄災としてこの宇宙は最後の審判により滅亡を迎えるでしょう。……私は今確かに天使としての役目についておりませんが、私という個として、これらの事案の解決策に対し興味が無いわけではありません。

 ――これからこの事態をどう解決なさるおつもりですか? どうすれば戦争を止めさせられるのでしょうか? その後、どうやって精神性を向上させるおつもりなのでしょうか……。それとも戦争という手段を継続しながらに、これに関わる者達の負の感情を払しょくすることが可能なのでしょうか? それは殺戮によって正の感情を得るというある意味での狂気にならないのでしょうか? ……それで今あなた方が見たことを回避できるのでしょうか? ……知性ある者として、是非お聞かせ願えませんか?」

言われて、ノーカは、

「……知らん」


 きっぱりと言った。

 憮然としたその答えに、翼がしおれていくようなアンジェだが、続けてノーカは、

「……そもそもおまえ、休職中なんだろう? だったら仕事の事を考えるのは一先ずやめろ、今は今、先は先。……それから多分話が長すぎだ。……見ろ? お前の話を聞いた人間はほぼ脱落している」

 そういう問題じゃねえ、とキース達は空を仰ぎながら掠れるような声で言っているが無視して、

「なんにせよ……その冴えたな答えとやらを、これから考えるにしても、良い答え出せないにしても、死ぬときは死ぬ、死んだときは死んだときだ。後悔が残ろうと前向きに死のうと……それ以上のことは考えられん。……これ以上うまく言えなくて悪いが……気にするな」

「……気にするな、ですか?」

 死ぬことを、世界が週末を迎えることをだろうかと疑問したそれに、

「……おまえは、悩んでいたんじゃないのか?」

「……」

 少なくとも、今これを知った“人間”よりずっと、という言葉を伏せたそれに、アンジェは答えないが、彼女が先に口にしていた通り、そのことは明白だった。

 天使、という存在として悩み、それとして最良の答えが出せなかった結果、不具合、という都合でここに居るという。それをノーカなりに慮った上で、人より出来ることが多くても、天使にもできないことだってある……それだけだと思い、ただの確認以上に、既に言ったそれ以上のことは言わなかった。

 あくまで、アンジェの内情は彼女の物で、天使の心の内は、それを彼女の口が許さぬ限りは、たとえ想像でも、他人の口が形にしていいものではない気がした。

 それに、

「……気にせずに、いられるわけがありません……そうしていられたら、私はここいるわけがないのですから……」

 声はいつもの調子で、

「どうして、あなたはそうなのですか?」

 顔もいつもの調子で、

「どうしてあなたは、私以外の天使と同じよう、それを歯牙にも掛けず、命が消える瞬間、世界が壊れる瞬間、それを眼にし、感じても、何も気にせずいられるのですか?」

 眼だけが、涙に震えるよう揺れ、しかし――乾いたままで。

「……だからなのですか? だから私にあなたの事を観察せよと、死を超越した心理を、心の超越に至った真理を――再びこの手にせよとお達しになられたのですか?」

 ここには居ない誰か(・・)に、凍えるよう問い掛けられた独白の後、返答を待つようなそれに、何者も答えることは無く、

「……私には、分かりません……どうして、そう在れるのか……」

 それは、誰に向けて発せられたのか。ただ一人、その目と向き合っていたノーカは、だがしかし、やはりその表情を動かすことは無く。

 それを見ていたアンジェは、突き放されたかのように、眼球を窄めて、

「……申し訳ありません。不具合が、進行しそうなので……休ませていただきます……」

 言い、アンジェは静かに背を向け、家へと向かい、項垂れるようにぶら下がった翼、そのドアを開け中に入り、そっと鍵を閉めた。


何か、間違ったことはしていない筈だった。

だが、違えていた。

 多分、なにもしていなくとも、自分の存在自体がアンジェの事を追い詰めた。

 家の中へ彼女を追おうかと迷うが、それを理解し、ノーカはアンジェの背を追わず、マリーがそれを非難するようにまだ吐き気を堪える顔のまま苛立ち交じりに睨めつける中、

「……おい」

「……あぁ、なんだよ……」

どうにか起き上がったがまだ腰を地面に着けているキースに言う。

「とりあえずこの話を上に持ち帰れ……こんな畑のど真ん中で結論を出せる話じゃないだろう」

「……ああ。ああそうだな……。クソったれ、うえだって今いる連中じゃこんな話どうにもできねえよ……ところで……」

 既に自宅を見つめ、アンジェの姿を追うようなノーカに、

「なんだ」

「……なんか……大丈夫か? その――、……おまえの、奥さん? との仲……」

 気を遣ってか、一応、もう危険生物扱いはしていないらしき未婚者にすら言われ、あえて追わなかったそれも間違いであったかと検討するノーカだが、

「……これからどうにかする。……こういうことは初めてだが……偶にあるらしい……じゃあ、すまんが後は頼んだ」

「お、おぅ……」

 これが、いわゆる、夫婦のすれ違いという奴なのだろうかと。

 初めて訪れたらしき夫婦関係の危機に、ノーカはそれ以上何も言わないが、肩を窄ませ自宅へと向かった。

申し訳ありません、改稿の沼に落ちてドップリ嵌ってしまい、今回これだけです。

圧倒的、沼! から今もまだ抜け出せていません。


終盤に向けてこれまでの伏線やら描写の確認をしていたらア――っ! と、アア――!? と。

あ゛あ゛あ゛~~~~~~! な感じで、ドップドプのぬまぬまです。


次回の更新までとりあえず間は空きますが、今回他作品のようにエタることはないところまでは来ているので、そこはご安心ください。

それではまた。


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