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来訪する過去と、

 自宅周辺の上空、四方八方の空――否、宇宙、惑星外にも見える。

 真昼の白い小さな点の数は、星域一つ容易に制圧できるだろう数だ。その中には地表からハッキリと親指と人差し指で輪を作れる大きさの、表面の凹凸まで視認できる大母艦マザーシップすら多数視認できた。

 大国の一個艦隊か、小国の全軍規模のそれだろう。白い雲と空の青を押し退けるように圧が掛っているようだ。

 そんなものがどうしてここへとノーカは思考を走らせる中、特に近距離にあるそれら艦隊と艦船にノーカが見慣れた辞めた軍の紋章エンブレムを確認し、

「……まさか」

 マリーを鋭く目で刺した。しかし彼女は目を合わせず、窓から空に視線を逃がしながら、

「……マジで奇襲サプライズしに来たのかしら?」

「裏切ったのか?」

「いや、ええと、ぅん……多分この星域から証拠動画を送ったからその通信履歴でバレたんじゃないかしらね?」

 彼女はおどけて肩をすくめ溜息を吐くが、しかしマリー自身も予想外であるよう余人には分らないレベルで険しく何かを観察するよう目の奥が動いている。

 何か、想定外のことが起きているのか。そこは、悪気があったとも、嘘をついていた、ともとれないとノーカは捨て置くことにする。

 しかし、あの艦隊を率いて来たのはいったい誰なのか。とりあえずノーカの元同僚の誰か――出来るならば賭けに負けた誰か、もしくは全員であって欲しいと思う中、勘のざらつきが拭えない。

 マリーも同じなのだろう、だからこそ、いつも通りの粗野な調子で大仰に溜息を吐き、

「……あ~、アタシらの昔のお仲間が大勢で来たみたい、多分全員と相当長話をするから、レナ、貴女はもう帰ったほうがいいわよ?」

「ええ~。……まあしかたないかな?」

「悪いわね? その代わり向こうに帰ったら、アンタに似合うエロカッコいい服いくつか見繕って持ってきてあげるから」

「――本当? エグイのよろしくね?」

「ハイハイ。約束――」

「――約束!」

 レナはマリーとハイタッチして、うきうきとリビングを出て家の裏口から外へ、そして自宅裏に置いた彼女の浮遊二輪車両に跨り、地表を横に、急がずに。

 それをマリーに見送らせ、実際に送り届けせたいところだが、仕方がない。

 その間にノーカは、腕輪の端末で自前の艦船と機体群の動力に火を入れ、更には自宅周辺、畑に仕掛けた諸々の罠の状態を確認しておく。

 それらが既に無力化されている反応は無い。

 そしてマリーが戻ってきて、彼女からの頷きを得た。

 確かに、レナを自宅へと向かわせたようだ。


 ノーカは自宅から外に出る。

 アンジェを伴い、マリーも連れて。

 周囲の農地、それから私有地として認められている敷地、その周囲を申し訳程度の害獣避けで囲った、腰ほどまでの高さの柵――その途切れ目と途切れ目。

 田舎の公道、舗装されていない剥き出しの土であるそれとの境目である、衝立の無い門、

 その内側、手前の位置で、空に静止する最も近い艦船に、その視線を送った。

 と、その一隻――大規模揚陸艇から、重力エレベーターが任意の位置に放射される。その光のカーテンの中から、夥しい数の装甲歩兵がぞろぞろと降下し、ノーカの眼前、整然と着地しその場に隊列を展開していく。

 彼らは各種対抗弾アンチバレッドを装填しているであろう弾倉を抱えた大仰なライフルを構えながら、一糸乱れぬ隊列でノーカたちの前方を覆い尽くす。

 まだ、彼らが構えた銃口は正確にノーカ達には向けられてはいない。

 しかしすばやくその射線を最短で取るよう、常に斜め下前方の地面に置かれている。それは万が一、敵ではない対象への誤射を想定した体勢だ。だが指先は即座の発砲に備え引き金に近い位置で置かれている。これは戦地での行軍中、目の前に敵が居てもおかしくないことを想定したそれでもあった。

 つまり、自分達の事をそう見ているのだとノーカは的確に現在の状況を把握した。

 そしてどう見ても、自分の結婚を祝福しに来た様子には見えない。マリーはいったいどういう連絡を行ったのかとノーカは一歩下がった位置にいる彼女を再度責め立てるように見るが、猫が悪いことをしたときの顔で誤魔化された。

 ノーカはウンザリ小さく嘆息した。

 と、そこで更に――今度は細い重力エレベーターが展開された。


 大量の戦闘員を排出するそれとは別の――その中から、見覚えのある安っぽい金髪が、見慣れない新造の軍服と徽章きしょうを襟にし降りて来た。

 一体何をしに来たのかとノーカが警戒する中、その視線の先で更にその威厳を見せつけるよう彼は静止した隊列の前に着地し、威圧するよう、その後ろの隊員たちを見ずに、

「――気を付けぇっ!!」

 叫び、ほぼ同時に一糸乱れぬ彼ら踵の音が一斉に響き、彼らは整然とライフルを肩に掛けた。

「――敬礼!」

 顎で命令すると、彼らは装甲服のマスク部分を開け、それぞれ顔を見せた上で機敏な仕草で綺麗に手刀を額の右に斜めに当てていく。

「……休んでよし!」

 肩にライフルを掛けたまま、軽く両足を開き後ろ手に腰で腕を組ませる。するとノーカへ、挑発的で挑戦的で、そして好戦的な安っぽい笑みを浮かべて、

「……よう、結婚したんだってなあ?」

「……。ああ。その通りだが」

 言いながら、ノーカは身体の前で片手で手首を握って手を組む。

 キースは尖っていた髪もオールバックに纏めて、ただのチンピラ紛いの十年前とは大違いで、年相応の落ち着きを得ていたそれを眺め、ただ、彼もまた年を取ったのだとノーカは感じた。

 ただ……特に、その――その体の、ある一点を凝視し、

「……………………キース……か?」

「てめぇ、どこ見て言ってんだ」

 分っていても訊かざるを得なかった――ぷよぷよの、顎である。

 たぷんたぷんだ、生え際も後退が目立つし加えて軍服の下腹とてベルトの上、贅肉でブヨンと顔を出して、地味に嫌な中年化をしている。

 額の汗は、その豊富な脂肪分の所為か? それで戦場に出ているのか、訓練をちゃんとしているのかと訊きたくなるのをぐっと堪えた。部隊長ともなればデスクワークも増えているのだろう。

 その脂肪分はきっと彼の仕事量と比例しているに違いない、ストレスも相当なものの筈だ。

 おまけに鼻下に綺麗に切り揃えられたちょび髭まで追加され――これがまた、割とあっさり目な顔付きをしている彼には似合っていない。無駄な、無駄なおっさん感が漂っている。だがきっと本人は様になっていると思っているのだろう、それを笑えばいいのか気の毒に思えばいいのか――見なかった振りをして自然を装えばいいのか。

 と、ノーカは少し開き直って、少し気を遣い、

「……いや、すまない。……今の仕事はそんなに大変なのか?」

「このクソ畜生! テメエと違ってこっちはもう責任放り出すわけにはいかねえんだよ! テメエもいずれこうなるからな? 首洗って待ってやがれよ!?」

 その首で言うかとそれを見ながら、

「そうか、気を付ける様にしよう。まあそれはどうでもいい何の用だ? こんな田舎に大所帯で」

 そのマイペースさに本気の殺意が漲るが、キースはどうにか堪えて、そして嫌に真剣味の溢れる顔をし額に滲む汗を一筋垂らした。

 彼は大きく溜息を吐き、片手を上げ、その背後に展開された装甲歩兵たちに改めて指示を送る。

「……簡潔に言うぞ。お前の脇に居る危険生物を引き渡せ」


 構えろ――と。

 刹那、多機能ライフルの安全装置を外し、二秒も要らずに。

 その銃口が今度こそ正確にノーカ達へと照準される。

 装甲服を着こんだ歩兵のそれ――だけではない。

 キースの合図を皮切りに、空に浮かぶ数多の艦艇の砲口それも向けられていた。

 酷く仰々しい祝砲である。大気圏外に佇む複数の大母艦まで――その内部では地上の情報を観測しつつ、作戦の段階フェーズに合わせた上からの指示と下からの報告を発令所でオペレーターが待っていることをノーカは察した。

 現状、古巣の仲間に睨まれている。やはり自身の結婚をサプライズで祝福しに来たわけではなかったのだと。

 しかし緊張せず、ノーカは自身の両隣――アンジェとマリーにそれぞれ一度ずつ振り返る。種類の違う美人が二人。一人は神秘的な翼付きスレンダー美女で、一人は野性的で筋肉グラマーな四十路乙女。

 やや思案し、

「……どっちだ?」

「左のだ左の」

「こっちか?」

 向いた瞬間、その危険生物マリーが前を向いたまま目視せずの腰の入った平手打ちでノーカの顔面を元の向きに戻した。

 彼女が危険生物であることを物理的に否定された。

 正面を向いたままやや悲し気なノーカの視線に、

「……自業自得だ自業自得。こっちから向かって左、つまりお前の右だ。……分っててやってんじゃねえよ」

 いや、どちらが危険かに関して割と本気であったがと、ノーカは不服気に今度こそ右隣のアンジェを見る。

 記憶にある彼女の要素を並べ立る、彼女は料理が自分よりうまくてスタイルも秀逸で。嘘が吐けない体質で、勤勉で生真面目で、最近茶を趣味にした自分の女房だ――偽装だが。それでもやはり危険な生物としての要素を、やはり全く見出せず、

「……こっちは俺の嫁だが」

「――知ってるよ! お前の左隣に居る糞女からのアホみたいな動画で殺意覚えたわ!」

「ああ。それは悪かった」

 静止画では加工が容易で、更には二人でただ並んで映っているだけでは説得力が無いとのことで、夫婦らしいキスをと挨拶の軽いそれではなくセックスの前にする本格的な奴をと撮影者からの要求で実演した動画だろう、確か一時間くらいの長さを記録したとノーカは思い出す。

 しかし早送り編集で五分の長さに短縮したので無意味に迷惑でも長尺なそれでもないだろう――それで何故殺意レベルで怒り心頭なのか。

 ふと、もしかしたらとその理由を思い付き、

「……まだ女としたことがないのか?」

 部下の手前、顔面を崩壊させないようにしているがキースは腰の銃に手を置きそこで発砲を必死に堪えようとしている。その反応だけで、真実は明らかだった。

 マリーは腹を抱え前のめりに爆笑を堪えているが、ノーカは済まないと思った。他人のキスシーンで怒りを覚えるなどという心の余裕の無さ、まともに女性と付き合ったことがあるのならとの推論がまさか彼の心臓を抉るとは思わなかったのだ。

 きっと憧れていたのだろう、だがそれを肉体的商売で済ませることもVRサービスで疑似体験することも否定しているのだろう。この男はそれら欺瞞的行為を認めない、敬虔で貞潔で純潔的な価値観の持ち主なのだ。

 彼はキスというそれにとても真剣なのだ。何もおかしなことは無い。彼を嗤うそこにいる女の方が倫理的におかしいだろう――しかし彼のその目が殺戮マシーンのごとき無表情になっているのでフォローを入れようと思う。何分恋愛どころか女に興味も無かった自分が偽装とはいえ結婚出来たのだ。

 ならば、

「……きにするな。きっといつかできる」

 奇跡は起こるとして、マリーはついに膝を叩いて声を出さず爆笑した。

「……そうだった、こいつらバカだった、それも地雷踏んでも死なないと思ってるタイプのバカだった」

「いや、それは死ぬと思っているが。結果的に死ななければいいだけだ」


 そんな、自分達の上官に対する敬意ゼロの態度。

 多数の銃口どころか対艦兵器を向けられながらの緊張感、皆無――

 だが何より軍の作戦行動に対する妨害――それは自分達への侮辱と受け取った兵士、敵対行動と見て、装甲歩兵たちが警告として銃口を上げ引き金を絞ろうとした。

 その、一歩手前、

「――やめろ。こんなでもこいつは俺と同じお前らの前身――対軍人専門の特殊暗殺部隊『生きる屍(リビングデッド)』の元トップエースだ」 




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