ベルと人形とリネア
読んでいただき、ありがとうございます。
本編完結後のお話です。
今後上がるかもしれないものは時系列などめちゃくちゃになるかもしれませんが、1話完結式と思って読んで頂ければと思います。
「――アイラさん!アイラさん!見て下さい!」
ベルが嬉しそうな声を出しながら、俺のところへやってくる。
「――なんだ?どうしたんだ?ベル?」
それは、アースガルドに帰ってきてから、何日か過ぎた、とある日のことだった。
「――ほら!見て下さい!リネアさんです!みなさんと協力して作ったんですよ!」
えへへーと嬉しそうに笑う。
そんなベルの胸には、人形が抱かれていた。
それをぐいっと両手で突き出してくる。
どうやら、手芸都市クロトにて教わったことを活用して作ったらしい。
なるほど、確かにリネアだ……。
よく特徴を捉えている。
ツインテールが印象的な……これは、人形と呼んでいいのだろうか?
あるいは、マスコットとでも呼べばいいのか?
大きさは、ベルが両腕で抱える程度の大きさで、手足は短く、二頭身というやつだ。
「――すごいじゃないか!」
「――はい!!それにこれ、実は……ポケットが付いてるんですよ!」
ベルは、リネア人形の背中に空いた穴を俺に見せる。
どうやら、背中がポケットになっているらしい。
「――おお!すごいじゃないか!」
何がすごいのかわからんが、嬉しそうなベルを見て思わず褒めてしまう。
「――リネアさんの宝石……よければ、大事にここに入れておいてあげて下さい。」
どうやらそのポケットは、宝石を無くさないようしまっておくために作ってくれたものらしい。
ベルなりの配慮なのだろう。
「ああ……ありがとう。」
俺のことを励ますために作ってくれたのだろうか。
ベルの言う通り、早速そのポケットにリネアの、トルマリンの宝石を入れることにした。
そしてその人形は、俺が腰かけていたベッドの横にある台の上に飾る。
「これで無くしたりしませんね。」
ベルはにこりと微笑む。
「ああ、そうだな。それにしても、本当によくできてるな。まるで、本当にリネアがここにいるみたいだよ。」
その人形はあまりにもリネアで、くすりと笑ってしまう。
「えへへ。ありがとうございます。」
ベルは嬉しそうに笑う。
――その時だった。
台の上から、ベルの作ってくれた人形がぴょこんと落ちてしまう。
「おっと、すまない。ベルに貰ったんだから大事にしないとな。」
飾り方が悪かったのかもしれない。
せっかく作ってくれたベルに申し訳なく思う。
「そうですよー!大事にしてください!」
ベルはイタズラっぽく怒る。
本当に怒っているわけではないのだろう。
拾うために腰を屈め、手を伸ばす。
――だが、床に落ちたはずの人形が、その短い足で……立ち上がった……。
「――ぶはっ!アイラさん。おはようございます。」
口から綿を吐き出し、どこかで聞いた覚えのある声で喋り出す。
「…………ベル、すごいな……これ……喋れるようになってるのか……。」
俺は驚き、感心する。
だが、ベルも驚いていた。
声も出ない様子だ。
「――アイラさん。これはベルさんの手によるものではありません。私のコアがこの人形に入れられたことによるものです。」
その説明をしてくれたのは、人形を作ったベルではなく、人形本体だった。
「――おい、ベル……これ、喋ってるぞ……すごいじゃないか。」
俺はもう一度似たようなことを言ってしまう。
ベルが喋れる人形を作るなんて本当にびっくりだ。
「――は……はい。」
ベルはようやく返事をする。
だが、そんなことはお構いなしに、その人形は飛び上がり、そのツインテールで俺の頬に柔らかな往復ビンタを叩きこむ。
――バシッ!バシッ!
「アイラさん。私を無視しないで下さい。」
どうやら人形は怒ったらしい。
――いや、人形が怒るってなんだ。
「……私?私って……誰?」
新手のわたしわたし詐欺かもしれない。
聞き返した方が良いだろう。
「――私は私です。リネアです。」
「「――――っ!!」」
俺もベルも、声が出なかった……。
「――り……リネア!?」
「――――リネアさん!?」
ようやく口を開くことのできた俺とベルは、同時に声を上げた。
「――はぁ……ところでベルさん。ズルしましたね?」
リネア人形の言葉に、ベルはギクリといった表情をする。
「――ナ、ナンノコトデスカ?」
ベルは明らかにとぼけている。
可愛い……。
「……全て手で縫わずに、エーテルを使ったのが分かります。」
リネアの言うエーテルとはつまり、魔力が感じられるということだろうか?
「――あ、それは……えーっと……。」
ベルは誤魔化そうとしている。
何か思い当たることがあるようだ。
「……まぁ、どうやらそのおかげで、こうして再びアイラさんたちとお話しできるようになったので良かったわけですが……次からは、ズルはいけませんよ?」
「……あう……分かりました……。」
ベルはしょんぼりしてしまう。
どうやらベルは、この人形を縫う際に、魔法を使ったらしい。
それが原因でこの人形は、リネアの入れ物として喋れるようになったというわけだ。
ただ気になるのは……アトランティスにいた時よりも、喋り方が柔らかくなっていないか?
見た目の柔らかさのせいなんだろうか……。
まぁ、見た目通りで、この方が違和感を感じないのでよしとしておこう。
ベルの提案で、早速他のみんなにも見せに行く。
ちょうどいいことに、今日はユンもミルもいる。
ミルは初対面となるが、まぁ、問題ないだろう。
「――ミオさん!ユンさん!見て下さい!!」
ベルは、リネア人形を抱えて、パタパタとミオたちの所へ走って行く。
声を掛けられ、ミオたちはベルの方を見る。
ベルは、皆さんと協力して、と言っていた。
ミオたちの心境としては、改まって人形を持ってきてどうしたのだろう?とでも言ったところだろう。
リネア人形は、抱かれていたベルの手を払い除け、床に着地する。
「ミオさん。ユンさん。おはようございます。」
その短い右手を上げ、挨拶をするようなそぶりを見せた後、無駄に両腕を動かしながら喋り出す。
「「「――――っ!?」」」
ミオとユン、そして近くにいたミルまでもが驚き、声も出ない様子だ。
まぁ、当然だろう。
主にベルが作ったのだろうが、自分たちが協力しながら作ったはずのただの人形が、立って、動いて、喋り出したのだから。
「――ど、ど……どどどど、どうしたんですか!ベルさん!これ!」
ようやく言葉を発したミオは、普段見ない驚きっぷりだ。
まぁ、気持ちは分かる。
俺も初めは目の前の現実が受け入れられなかった。
ユンに至っては言葉も発せず固まっていた。
ミルも、恐る恐る様子を窺っている。
「私はリネアです。なんだかんだあってこの体を使い、喋れるようになりました。どうぞよろしくお願いします。」
なんだかんだの部分が割と大事な気もするが……。
……これでいいのか……?
その言葉は、ミオとユンだけではなく、ミルにも向けられたものだ。
「あ、はい……よろしくお願いします……。」
こんな状況でもちゃんと挨拶を返せるミオはさすがだ。
偉いぞ。
いや、もはや目の前の出来事が衝撃的過ぎて逆に落ち着いてしまったのかもしれないが……。
ミオは天然だし……まぁ、問題ないだろう。
「よ、よろしくお願いいたします……。」
ミルもリネア人形に挨拶を返す。
正体不明のものにおっかなびっくりといった様子だが、初対面の自分に向けられた挨拶だ。
返事をしてもなんの問題もないだろう。
それにしても、リネアにしては雑な説明な気がする。
入れ物が変わると性格が変わるのだろうか?
少し興味が湧く。
「――よ、よろしく……お願い、します……?」
そんな二人を見て、ユンも少し遅れてリネア人形に挨拶を返す。
もはや、自分が挨拶をしているのが正しいかどうかも分かっていない様子だ。
俺はユンの気持ちもよく分かるぞ。
「はい。どうぞ、よろしくお願い致します。」
リネアは改めて丁寧な挨拶をする。
こうしてリネア人形……いや、リネアもまた改めて俺たちと一緒に暮らして行くことになった。