じいちゃんのご利用は計画的に
俺のじいちゃんはヤバい。何がどうヤバいかと言うと、職業が特殊だ。あと、尋常じゃなく厳しくて怖い。あと、…あ、じいちゃんの職業?
ごめん言ってなかったね。
俺のじいちゃん、除霊師なんだ。すごく強いって有名なんだぜ。
じいちゃんの除霊のやり方は、普通の霊は御札とか呪文?とかで祓うんだけど、強い霊はじいちゃんの使い魔を以て祓うらしい。らしいってのは、俺には見えないから、何やってるかわかんねぇんだよね。
孫なのに能力を継いでないのか、って思った?
仕方ないでしょ、持って生まれなかった才能は俺にもどうにもできないよ。0能力だって言ってんのに、ちっちゃい頃からむちゃくちゃな修行させられてさ、本当に辛かった。
じいちゃん曰く、自分の修行と一緒に使い魔も修行するようなものだから、修行を積まなければ強い使い魔に育たないんだって。
そうは言っても、0能力なんだから使い魔もいないのに。
そんな0能力の俺が、じいちゃんへの恨みがある霊に襲われる事がある。俺関係ないじゃん!じいちゃんとこ行けよ!って、じいちゃんが怖くて挑めないから、俺んとこに来るんだろうけど。
「じいちゃん助けて!!!」
そう叫ぶと、じいちゃんの使い魔が颯爽と現れて倒してくれてる、らしい。らしいってのは、俺を襲った悪霊がドタバタ暴れて霧散するからだ。使い魔はやっぱり見えないんだな、これが。
そして、じいちゃんの使い魔が出動すると、決まってじいちゃんに怒られる。
「バカモン!!だから修行せぇと言っておるじゃろうが!」アイアンクローで俺のこめかみを鷲掴みすると、ぶん投げる。未成年の男子では手も足も出ない強さだ。俺が負けてないのは口だけで、生意気だと言われて追加で拳骨をくらうんだけどさ。
そんな最強じいちゃんが、あっさり他界した。
霊にやられた訳ではない、とだけ言っておく。
葬式も終わり、初七日の夜中。夢にじいちゃんが出てきた。
「これからは、お前自身が修行せぇよ。儂は見張っておるぞ」
口喧嘩の相手がいなくなって、寂しいなんて思った事を、後悔した。汗びっしょりで飛び起きた俺のこめかみは、ナニカに掴まれたように、ズキズキ痛んでいた。
その後、修行は再開したのか、って?
してないよ。だって、俺にそんな能力ないんだってば。
そんなある夕方。ガード下を歩いていたら、呻くような声が微かに聞こえてきた。最初は具合が悪い人でもいるのかと思ったけど、何と言ってるのか理解した瞬間、例えではなく背中をゾワッと登っていった怖気。
「嘉右衛門のぉ…孫だ…あやつのぉ…孫ぉ…喰ろうたらぁ…恨み晴らせるよのぅ…」
「嘉右衛門のぉ…孫の血肉ならばぁ…我に力もつこうものよなぁ……」
「嘉右衛門とてぇ…死してしまえばぁ…恐るるに足らずぅ…」
ガサガサとした微かな声は、あちこちから聞こえてくる。もしかしたら、反響しているだけかもしれないが、俺は足の力が抜けて、へたり込みそうだった。
嘉右衛門て、じいちゃんじゃん!
なんで、じいちゃんへの恨みを孫で晴らそうとすんの。
とばっちり、なんですけど!!
複数に聞こえた声ほ、目の前の女の霊から聞こえていたようだった。
眼窩が穴の様に真っ暗になっている霊が、ゆらりと揺れながら、俺に近づいてくる。恐怖に震える手で、手当たり次第に物を投げつけた。
でも、ペンケースも、ノートも、教科書も、全部霊をすり抜けた。もはや、霊と俺の距離は、手を伸ばせば届きそうだ。
「く、来るな…来るな…
助けてじいちゃん!!!」
そう叫んで、手に触れたモノを思いっ切り投げつけた。
ゴツッッ!!!
「「痛ッッッてぇ!!」」
霊は額を抑えて前屈。が投げたモノ(?)も、やはり額を抑えて前屈みになっていた。どうやら声を上げたのは、こいつらのようだった。
俺が投げたのは
じいちゃん(の霊)だった。
「か!?嘉右衛門んんん!!??」
頭突きされた額がよっぽど痛かったのか、じいちゃんが怖かったのか、さっきまで「恨みを晴らすぅ」とかイキってた霊は、悪霊っぽい喋り方のキャラも忘れて、静かに退散していった。
「じいちゃん!?何でいるの!?何で視えるの!?」
「知るか!お前が儂を呼んだんじゃろうが!?助けてじいちゃん、と言うただろう!」
「じいちゃんへの恨みで、襲われたんだけど!また来たら、どうするんだよ!?」
「じゃから、修行せぇと言うたじゃろうが!」
「いや、じいちゃんへの逆恨みじゃん!」
「何おぅ!!儂じゃって天女様と茶を飲むところだったのに、お前に呼ばれて引っ張られたのじゃぞ!天女様とお茶を飲む為に、何日並んだと思っとるんじゃ!!!」
何だ、天女様って。厳しかったじいちゃんは、天国の入口で羽を伸ばしていたせいか、ややキャラが変わったようだった。
結局、じいちゃんは俺の傍に居付く訳でもなく、帰って行った。じいちゃん曰く、俺の能力が弱すぎて、このままでは、生前のじいちゃんの能力の強さが発揮できないそうだ。
残された俺は、じいちゃんが昔から言い続けていた、使い魔と術者は繋がっていて、術者が修行をすれば使い魔も修行したとして、使い魔の能力があがる、これを実践する事にした。
また襲われるとは限らないが、万が一霊に襲われても、このままではこないだのように、じいちゃんを使った物理(?)攻撃しかできない。
何をしたらいいのか、よくわからないので、とりあえず身体を鍛えて毎日お経を唱えてみた。一ヶ月以上過ぎて、毎日のお経が3日に一度の頻度になった頃再び霊に襲われた。
「助けて、じいちゃん!」
じいちゃんは、ぬ〜ん、て感じで現れて、ロケット砲の様に攻撃して……行かなかった。
「じいちゃん!前!前だって!」
「分かっておる!見えとるわ!しかし、ここに浮かぶばかりで何もできんのじゃ!!」
はぁぁぁ!?そんな!
言い争っているうちに、生前のじいちゃんに御札を貼られて、左半身が溶けたようになっている霊は、すぐそこまで来ていた。
「じいちゃん、ごめん!!」
「「痛ッッッてぇ!!」」
俺がぶん投げたじいちゃんは真っ直ぐに飛んで、霊も、じいちゃんも、額を抑えて蹲っている。
「え!?嘉右衛門んんん!!??」
あ、デジャヴ…
じいちゃんに聞いた話しと、前回と自分なりに少し修行をしてみた今回を比べてみた結果、
修行は意味ねぇな
って事になった。
「儂、お前の使い魔じゃないからなぁ。お前に呼ばれた時に、引っ張られて来とるだけじゃから、普段は繋がっとらんし」
どうやら、俺とじいちゃんはオフラインだったようだ。じいちゃんへの逆恨みで、霊に襲われさえしなければ、俺がじいちゃんを呼びだす事もないし、まぁいいか。
外的作用(修行)が意味ないのなら、と考えた結果、プロテインを作って、仏壇に毎日供えている。あと、額あても供えた。忍者みたいな額あてがロフトに売ってなかったので、アイマスクだけど、無いよりましじゃないかな。
霊達のなかで、俺を襲うとじいちゃんが出てくるって噂が広まれば、そのうち襲われなくなるだろうと思っていた。それに、じいちゃんは生前と違って、霊能力は使えない、ただの素手(?)で戦う戦闘員だから、バレる前に霊の皆様には諦めてほしいんだよね。
俺とじいちゃんの願いも虚しく、また今も襲撃を受けている。
「じいちゃん助けて!!」
〜〜以外略〜〜
今日の霊は、首にロープを巻いたサラリーマンの霊だった。生前のじいちゃんの、使い魔に噛まれた時に千切られかけた、肩から下がブラブラしている。
今日はいつもと違い、供えているプロテインのおかげで、マッチョになりつつじいちゃんが、霊に逃げられる前に彼の首のロープを掴んで正座させている。
「おい、貴様どうして孫を襲った」
「いや…嘉右衛門が死んだなら、折角だから嘉右衛門の身内を襲ってやろう、と…」
「俺を襲うと、じいちゃんが現れるようになってからだいぶ経つけど、噂になってないんすか?」
「は!?そうなの!?そんな噂、ないですよ。あったら来てません。
あーわかった、わざとだ。自分が嘉右衛門にあって怖い思いしたからって、次に襲った奴が、自分と同じ恐怖を味わえばいいと思ってるんですよ。なんて、器の小さい!」
なにその被害者面。
「じゃあ、あんた戻ったら、俺を襲うとじいちゃんが現れるって噂広めてもらっていいですか」
「それは構いませんが…でもなぁ、死んだはずの嘉右衛門が現れて、自分がこんな怖いしたんだから、他の奴にも怖い思いしてほしいっていうか」
今までの霊がそういう根性で他人(他霊?)に言わなかったから、襲われ続けている訳で、今回は絶対に噂を広めてもらうからな!
マッチョ道進行中のじいちゃんが拳を握って見せると、サラリーマン霊は震えて小さくなった。
それから数ヶ月
ちゃんと噂を広めてくれたのか、襲撃は徐々に減って、ここしばらくは誰も来なかった。じいちゃんの仏壇に増えた、額あて(アイマスク)を含む戦闘グッズを片付けようと箱に入れていく。メリケンサック、バンテージ、鉄アレイ、鞭…
じいちゃん、天国で楽しく過ごしてくれよ。天女様の件、ばあちゃんには黙っててやるから、もしもの時にはまた助けてくれよな。
以降も霊に襲われる事は無かったが、万が一の為に、毎日湯呑にプロテインを作って仏壇に供える事は続けている。
霊、除霊などは実際のものがわかりませんので、この話の設定として流していただければ…
お読みくださり、ありがとうございました!